◇39話◇帰らなくちゃ
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時計を見ると、夕方までまだ少し時間があった。
今頃、リヴァイは何をしているのだろう。
散歩だと言っていたのを信じていないわけではない。
でも、本当はまだ少し、心配だった。
だって、壁の向こうにはー。
(早く、会いたいな…。)
会って、安心したい。
今、リヴァイはどこにいるんだろうー。
そう思ったときだった、リコの部屋を光が包んだ。
眩しいそれに、私もリコも驚いて、思わず目を瞑って、手で目を守った。
この光は身に覚えがあった。
あのときのように、次第に光が弱まっていくー。
目を開けた私とリコは、すぐに全身鏡の前に立った。
「嘘だろ…。」
呆然とした様子で、リコは呟く。
さっきまでは、この世界を忠実に再現していた全身鏡に、呆然と立ち尽くすリコは映っていなかった。
もちろん、その隣に立つ私の姿もない。
そこにあったのは、よくお泊りをして夜中までくだらない話をしていた見覚えのあるリコの寝室だ。
部屋の主はいないようだ。
でも、明かりはついているから、きっと家にはいるはずだ。
名前を呼んだら、来てくれるだろうかー。
「今、何を思った!何を考えた!リコに会いたいと思ったのか!」
「…思ってない。私が思ったのはー。」
「なまえ!?」
扉が開くような音がした後、走って来た様子のリコが、鏡の前にいきなり現れた。
そして、隣にいるリコを見て、驚愕する。
でも、すぐに状況を理解したようだった。
そして、長く息を吐いてから、続けた。
「よかった…。無事だったんだな。
隣にいるのが、そっちの世界のリコか。」
「あぁ、リコ・ブレツェンスカだ。よろしく。」
「よろしく。私もリコ・ブレツェンスカだ。」
「ぷ…っ。笑わせないで…っ。」
思わず吹き出してしまうと、2人のリコに同時に、笑っている場合ではないとツッコミを入れられる。
なんだこれ、すごく面白い。
ここになまえがいたら、この面白さを世界中の誰よりも分かち合えていたはずなのにー。
「それで、今はどういう状況なんだ?」
「ここは私の部屋だ。なまえの部屋の鏡は割られてしまったから、
私の部屋とそっちの世界のリコの部屋の鏡が繋がるか試してみたんだ。」
「それで繋がったのか。不思議だな。本当に、私だ。鏡を見てるみたいだ。」
「私もだ。それで、なまえ。あんたは繋がる前、何を考えた?」
「それは…。」
言えなかった。
早くリヴァイに会いたいと思ったなんて、言えない。
でも、口を噤んだ私を見て、察したのかもしれない。
それ以上、追及することはしなかった。
「とにかく、壁外調査から帰る前に元の世界に戻れ。
このままきっと鏡の中に入れる。」
リコが私をまっすぐに見て言う。
え、でもー。
「でも…!壁外調査が終わるまでは、ここにいてって…!」
「それは、壁外調査に行く前まではあんたにいてもらわないと困るからだろ。
もうアイツらは壁外へ出たんだ。帰ってきて、あんたがいようがいまいが構わないはずだ。
そこから先は、あの男が潰れようが、正直言ってこっちの問題だ。」
言われてみれば、そうだ。
壁外調査の前になまえが消えてしまったら、人類最強の兵士が潰れてしまうから、残っていてほしいとお願いされたのだ。
だからきっと、今日の早朝、なまえが生き返ったと信じているリヴァイは、人類最強の兵士として仲間を守りながら散歩が出来ているだろう。
私はもう、用なしだー。
帰っても、いいのだー。
「よく分からないが、帰ってこれるならよかったな。」
「え?あ…うん、そうだね。」
ホッと安心したようなリコに、帰りたくないなんて言えなかった。
それに、私は帰りたい。
本当は帰りたいのだ。
巨人はいるし、文明は遅れてていろいろ面倒くさいし、移動は馬か荷馬車でお尻は痛いしー。
リヴァイはいるしー。
いいことなんて、何も無い。
「何をボーッとしてるんだ。早くしないと調査兵団が帰ってくる。
アイツラが帰ってきたら、あんたはまた雁字搦めに腕の中に閉じ込められるぞ。
自由に寝ることも出来ないのは嫌なんだろう?たぶん、今が最後のチャンスだ。」
「…分かってる。」
「それなら、早くしろ。」
「待って。分かってるの。ちょっと待って…。」
鏡に手が触れる直前で、私は、待ってくれを繰り返す。
私は何を待ってほしいのだろう。
早くしないとー。
リヴァイ達が帰ってくる。
早くー。早くー。
あぁ、私は、何を待っているのだろう。
「調査兵団のみんなに、ありがとうって伝えておいてほしいの。」
「あぁ、約束する。」
「ありがとう、さようなら。」
私は大きく深呼吸をした後、元の世界を映す鏡に触れた。
触れた瞬間だけ、眩しい光を放った。
私の指は柔らかく鏡の向こうに沈んでいく。
同じ顔をした2人のリコが目を見開いたのが、視界の中に映った。
このまま、向こうへ行けば、私は元の世界に帰れる。
巨人なんて恐ろしい生き物はいないし、スマホだってあって快適な生活が待っている。
私を誰よりも信じてくれるリコだっている。
ただ、リヴァイがいないだけー。
帰ろう。元の世界へ、帰ろうー。
そう思ってるはずなのに、どうしてー。
リヴァイの声が、頭の奥で響いているのだ、さっきからずっとー。
『幸せだ。今も、お前がいてくれるだけで幸せだ。』
『お前がいなくなっちまうことに比べたら、どうってことねぇ。』
『好きだ。愛してる。』
『可愛いな。』
やめてー。
耳を塞ぎたい。でも、そうしたら聞こえなくなる。
あぁ、もう意味が分からないー。
お願い、黙ってー。
私は帰らなくちゃー。
『なまえを苦しめても俺は、そばにいてほしい…!』
リヴァイの悲痛な叫びが、胸にまで届いた。
手首まで入ったところで、動きを止めてしまう。
私が元の世界へ帰ってしまった後、リヴァイはどうなるのだろう。
なまえのいない世界で、苦しむのだろうか。
リヴァイの顔が浮かんで、どうしても身体が動かなかった。
そんな私に、元の世界のリコが訝し気に訊ねる。
「どうした?鏡の中に手を入れたら、身体が痛いのか?
苦しそうだが…。」
「…っ、ううん、大丈夫。そっちに私の手が見えたら、強引に引っ張ってほしいの。
もし、私が…。」
「私が、なんだ?」
「…もし、私が、嫌だって抵抗しても。」
「よくわからんが、分かった。お前の手が見えれば、こっちに引っ張ればいいんだな?」
よろしく頼むとお願いして、私はまたゆっくりと鏡の中へ自分の手を沈めていった。
腕の関節まで行ったときだ。
元の世界のリコが反応した。
私の腕が見えたと驚いた声があってすぐ、誰かに手を掴まれた感覚が伝わる。
そして、リコがー。
「なまえ!!大変だ!!リヴァイ兵長が大怪我して帰ってきた!!!」
勢いよく開いた扉に驚いて、私の手を引っ張ろうとしたリコの動きが止まった。
私も驚いて、後ろを振り向いた。その勢いて、向こうの世界に半分埋まっていた私の腕はこっちの世界に戻ってくる。
「リヴァイ…ッ!」
気づいたら、私は部屋から飛び出していた。
後ろから、私の名前を呼ぶリコの焦った声がした。
それが、この世界のリコのものなのか、向こうの世界のリコのものなのかは分からない。
だって、私の頭の中は、リヴァイのことでいっぱいだったからー。
今頃、リヴァイは何をしているのだろう。
散歩だと言っていたのを信じていないわけではない。
でも、本当はまだ少し、心配だった。
だって、壁の向こうにはー。
(早く、会いたいな…。)
会って、安心したい。
今、リヴァイはどこにいるんだろうー。
そう思ったときだった、リコの部屋を光が包んだ。
眩しいそれに、私もリコも驚いて、思わず目を瞑って、手で目を守った。
この光は身に覚えがあった。
あのときのように、次第に光が弱まっていくー。
目を開けた私とリコは、すぐに全身鏡の前に立った。
「嘘だろ…。」
呆然とした様子で、リコは呟く。
さっきまでは、この世界を忠実に再現していた全身鏡に、呆然と立ち尽くすリコは映っていなかった。
もちろん、その隣に立つ私の姿もない。
そこにあったのは、よくお泊りをして夜中までくだらない話をしていた見覚えのあるリコの寝室だ。
部屋の主はいないようだ。
でも、明かりはついているから、きっと家にはいるはずだ。
名前を呼んだら、来てくれるだろうかー。
「今、何を思った!何を考えた!リコに会いたいと思ったのか!」
「…思ってない。私が思ったのはー。」
「なまえ!?」
扉が開くような音がした後、走って来た様子のリコが、鏡の前にいきなり現れた。
そして、隣にいるリコを見て、驚愕する。
でも、すぐに状況を理解したようだった。
そして、長く息を吐いてから、続けた。
「よかった…。無事だったんだな。
隣にいるのが、そっちの世界のリコか。」
「あぁ、リコ・ブレツェンスカだ。よろしく。」
「よろしく。私もリコ・ブレツェンスカだ。」
「ぷ…っ。笑わせないで…っ。」
思わず吹き出してしまうと、2人のリコに同時に、笑っている場合ではないとツッコミを入れられる。
なんだこれ、すごく面白い。
ここになまえがいたら、この面白さを世界中の誰よりも分かち合えていたはずなのにー。
「それで、今はどういう状況なんだ?」
「ここは私の部屋だ。なまえの部屋の鏡は割られてしまったから、
私の部屋とそっちの世界のリコの部屋の鏡が繋がるか試してみたんだ。」
「それで繋がったのか。不思議だな。本当に、私だ。鏡を見てるみたいだ。」
「私もだ。それで、なまえ。あんたは繋がる前、何を考えた?」
「それは…。」
言えなかった。
早くリヴァイに会いたいと思ったなんて、言えない。
でも、口を噤んだ私を見て、察したのかもしれない。
それ以上、追及することはしなかった。
「とにかく、壁外調査から帰る前に元の世界に戻れ。
このままきっと鏡の中に入れる。」
リコが私をまっすぐに見て言う。
え、でもー。
「でも…!壁外調査が終わるまでは、ここにいてって…!」
「それは、壁外調査に行く前まではあんたにいてもらわないと困るからだろ。
もうアイツらは壁外へ出たんだ。帰ってきて、あんたがいようがいまいが構わないはずだ。
そこから先は、あの男が潰れようが、正直言ってこっちの問題だ。」
言われてみれば、そうだ。
壁外調査の前になまえが消えてしまったら、人類最強の兵士が潰れてしまうから、残っていてほしいとお願いされたのだ。
だからきっと、今日の早朝、なまえが生き返ったと信じているリヴァイは、人類最強の兵士として仲間を守りながら散歩が出来ているだろう。
私はもう、用なしだー。
帰っても、いいのだー。
「よく分からないが、帰ってこれるならよかったな。」
「え?あ…うん、そうだね。」
ホッと安心したようなリコに、帰りたくないなんて言えなかった。
それに、私は帰りたい。
本当は帰りたいのだ。
巨人はいるし、文明は遅れてていろいろ面倒くさいし、移動は馬か荷馬車でお尻は痛いしー。
リヴァイはいるしー。
いいことなんて、何も無い。
「何をボーッとしてるんだ。早くしないと調査兵団が帰ってくる。
アイツラが帰ってきたら、あんたはまた雁字搦めに腕の中に閉じ込められるぞ。
自由に寝ることも出来ないのは嫌なんだろう?たぶん、今が最後のチャンスだ。」
「…分かってる。」
「それなら、早くしろ。」
「待って。分かってるの。ちょっと待って…。」
鏡に手が触れる直前で、私は、待ってくれを繰り返す。
私は何を待ってほしいのだろう。
早くしないとー。
リヴァイ達が帰ってくる。
早くー。早くー。
あぁ、私は、何を待っているのだろう。
「調査兵団のみんなに、ありがとうって伝えておいてほしいの。」
「あぁ、約束する。」
「ありがとう、さようなら。」
私は大きく深呼吸をした後、元の世界を映す鏡に触れた。
触れた瞬間だけ、眩しい光を放った。
私の指は柔らかく鏡の向こうに沈んでいく。
同じ顔をした2人のリコが目を見開いたのが、視界の中に映った。
このまま、向こうへ行けば、私は元の世界に帰れる。
巨人なんて恐ろしい生き物はいないし、スマホだってあって快適な生活が待っている。
私を誰よりも信じてくれるリコだっている。
ただ、リヴァイがいないだけー。
帰ろう。元の世界へ、帰ろうー。
そう思ってるはずなのに、どうしてー。
リヴァイの声が、頭の奥で響いているのだ、さっきからずっとー。
『幸せだ。今も、お前がいてくれるだけで幸せだ。』
『お前がいなくなっちまうことに比べたら、どうってことねぇ。』
『好きだ。愛してる。』
『可愛いな。』
やめてー。
耳を塞ぎたい。でも、そうしたら聞こえなくなる。
あぁ、もう意味が分からないー。
お願い、黙ってー。
私は帰らなくちゃー。
『なまえを苦しめても俺は、そばにいてほしい…!』
リヴァイの悲痛な叫びが、胸にまで届いた。
手首まで入ったところで、動きを止めてしまう。
私が元の世界へ帰ってしまった後、リヴァイはどうなるのだろう。
なまえのいない世界で、苦しむのだろうか。
リヴァイの顔が浮かんで、どうしても身体が動かなかった。
そんな私に、元の世界のリコが訝し気に訊ねる。
「どうした?鏡の中に手を入れたら、身体が痛いのか?
苦しそうだが…。」
「…っ、ううん、大丈夫。そっちに私の手が見えたら、強引に引っ張ってほしいの。
もし、私が…。」
「私が、なんだ?」
「…もし、私が、嫌だって抵抗しても。」
「よくわからんが、分かった。お前の手が見えれば、こっちに引っ張ればいいんだな?」
よろしく頼むとお願いして、私はまたゆっくりと鏡の中へ自分の手を沈めていった。
腕の関節まで行ったときだ。
元の世界のリコが反応した。
私の腕が見えたと驚いた声があってすぐ、誰かに手を掴まれた感覚が伝わる。
そして、リコがー。
「なまえ!!大変だ!!リヴァイ兵長が大怪我して帰ってきた!!!」
勢いよく開いた扉に驚いて、私の手を引っ張ろうとしたリコの動きが止まった。
私も驚いて、後ろを振り向いた。その勢いて、向こうの世界に半分埋まっていた私の腕はこっちの世界に戻ってくる。
「リヴァイ…ッ!」
気づいたら、私は部屋から飛び出していた。
後ろから、私の名前を呼ぶリコの焦った声がした。
それが、この世界のリコのものなのか、向こうの世界のリコのものなのかは分からない。
だって、私の頭の中は、リヴァイのことでいっぱいだったからー。