◇38話◇留守番
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昼前に私が起きたときには、リコはもう起きて、窓辺の椅子で本を読んでいた。
「あんた…、不憫になる程、ろくに眠れてなかったんだな。」
リコが部屋に持ってきてくれた遅い朝食を食べていると、本当に心から不憫そうな目を向けられた。
私は、ベッドの上で大の字になって、間抜けに口を開けて眠り続けていたらしい。
そろそろ調査兵団が出発する時間だが気にならないのか、と声をかけてくれたようだが、うんともすんとも言わなかったとため息を吐かれてしまった。
だって、久しぶりに自由に眠れたのだー!
両手両足を伸ばして眠れることがどれほど素晴らしいことなのか、リコは知らないのだろう。
寝返りさえうてない状態で寝るのがどんなにツラいか、リコは知らないのだ。
私も、この世界に来るまで知らなかった。
だからリコはやっぱりー。
自由に眠れることの素晴らしさを力説すれば、リコにため息をつかれた。
そして、呆れた様に言う。
「仮にも恋人が壁外に出たんだぞ。心配じゃないのか?」
「なんで?」
「なんでって…、壁外に出たんだ。心配するのが普通なんじゃないのか?」
「だって、壁外調査って、お散歩なんでしょう?」
「…それは、リヴァイが言ったのか?」
「うん、大きいのがたまに出てくるけど、
今回は、新兵が外に慣れるための散歩だから心配ないくていいって。違うの?」
「いや。調査兵団の兵士長がそう言うのなら、そうなんだろう。
駐屯兵は壁外に出ることはないから、知らないよ。」
「そっか。」
そんなものなのかと納得して、私はパンをかじる。
少し硬めのパンにも慣れてきた。
スープは美味しいと思う。具は凄く少ないけれどー。
この世界は、凄く貧しいのだろうか。
パンを持ったまま、そんなことを考えていると、リコが本を閉じた音がした。
「鏡のことは、残念だったな。」
「うん…。ほんと、どうしよう…。」
「私も色々考えてみたんだけどな。
なまえの部屋の鏡とあんたの部屋の鏡が繋がってるなら、
私の部屋の鏡とあっちの世界のリコの部屋の鏡も繋がってるんじゃないだろうか。」
自分で言っていても馬鹿らしいー。
そう言いながらも、リコは、試してみるのも悪くはないんじゃないかと、全身鏡の前に立った。
あの日、なまえの部屋と私の部屋が繋がった。
もしかして、この世界のリコの部屋と向こうの世界のリコの部屋も繋がるのならー。
もし繋がるのなら、本人同士である可能性が高い。
だから、リコが試してみてくれると言う。
「向こうの世界に繋がる前、何か特別なことはしたか?」
リコは鏡に触れながら訊ねる。
当然、鏡は今のリコの姿を正しく映している。その後ろに見えている風景もこの部屋だ。
もし、元の世界のリコと繋がったら、見覚えのあるリコの部屋が映るのだろうか。
額に手を乗せて顔を伏せる。
あのとき、何をしたのかを思い出す。
「まずは…、鏡に触ったり、裏側を見てみたりとか…
とにかく、鏡に何か仕掛けがないか探したの。」
「やってみる。」
リコはそう言って、私があの日したように鏡を隅々まで調べつくす。
やっぱり、あの日と同じように、何も変わらない。
全身鏡は、正しくこの世界を映し続けている。
「次は?」
「次は…、やっぱり、帰れないと思って、絶望して、そして…。
あ…。」
ふと、思い出した。
思わず、顔が上がる。
もしかしたら、とても大切なことだー。
「何だ?何をした?」
「リコに会いたい…、そう願ったの。私、リコに会いたいって思って…!
そしたら、鏡が光って、リコが鏡の向こうに…!」
「感情か…。
そのとき、向こうのリコは何をしてた?お前を探してたんじゃないのか?」
「…!そう!!私のことを探して、私の部屋にいたって!!」
「向こうとこの世界は、合わせ鏡なのだろうか…。
同じ気持ちになったら、繋がるのかもしれない。」
リコはまるで自分に言い聞かせるように言って、鏡に手を添えたまま目を閉じた。
向こうの世界のリコに会いたいー、そう願ってくれているのだろうか。
でも、いくら待っても、鏡から光が放たれることはなく、私が元の世界に帰れるためにらしくないことをしている現実的なリコの姿を映しているだけだった。
「…すまない。ダメだったな。」
リコは鏡から手を離すと、小さくため息を吐いた。
「ううん、いいの。」
ソファの隣に座ったリコに、私は礼を言う。
ハンジもモブリットも、壁外調査前の忙しいときに、パラレルワールドやトリップについての本を探してくれているようだった。
必死に頑張って、帰る道を探して、それで、帰れないのなら、それはそれで仕方がないとー。
「…さっきまですごく不安そうにしていたから、
元の世界に帰れなくなるのが怖いんだと思っていたんだが。
なぁ…、どうして、ダメだと分かった途端、安心した顔をするんだ。」
「え…?」
訝し気にリコが訊ねた。
言っている意味が、分からなかった。
そんなつもりはなかったからだ。
でも、どうして私は、痛いところを突かれたみたいに、心臓の鼓動を速くしているんだろう。
都合の悪いところを見られたみたいに、焦ってー。
「…そんなこと、ないよ…!」
シャツの胸元を握って、リコから目を反らした。
でも私は知ってる。
リコは、私の気持ちなんていつだってお見通しだってー。
それはきっと、こっちのリコも向こうのリコも、同じだと思うからー。
「あんた…、不憫になる程、ろくに眠れてなかったんだな。」
リコが部屋に持ってきてくれた遅い朝食を食べていると、本当に心から不憫そうな目を向けられた。
私は、ベッドの上で大の字になって、間抜けに口を開けて眠り続けていたらしい。
そろそろ調査兵団が出発する時間だが気にならないのか、と声をかけてくれたようだが、うんともすんとも言わなかったとため息を吐かれてしまった。
だって、久しぶりに自由に眠れたのだー!
両手両足を伸ばして眠れることがどれほど素晴らしいことなのか、リコは知らないのだろう。
寝返りさえうてない状態で寝るのがどんなにツラいか、リコは知らないのだ。
私も、この世界に来るまで知らなかった。
だからリコはやっぱりー。
自由に眠れることの素晴らしさを力説すれば、リコにため息をつかれた。
そして、呆れた様に言う。
「仮にも恋人が壁外に出たんだぞ。心配じゃないのか?」
「なんで?」
「なんでって…、壁外に出たんだ。心配するのが普通なんじゃないのか?」
「だって、壁外調査って、お散歩なんでしょう?」
「…それは、リヴァイが言ったのか?」
「うん、大きいのがたまに出てくるけど、
今回は、新兵が外に慣れるための散歩だから心配ないくていいって。違うの?」
「いや。調査兵団の兵士長がそう言うのなら、そうなんだろう。
駐屯兵は壁外に出ることはないから、知らないよ。」
「そっか。」
そんなものなのかと納得して、私はパンをかじる。
少し硬めのパンにも慣れてきた。
スープは美味しいと思う。具は凄く少ないけれどー。
この世界は、凄く貧しいのだろうか。
パンを持ったまま、そんなことを考えていると、リコが本を閉じた音がした。
「鏡のことは、残念だったな。」
「うん…。ほんと、どうしよう…。」
「私も色々考えてみたんだけどな。
なまえの部屋の鏡とあんたの部屋の鏡が繋がってるなら、
私の部屋の鏡とあっちの世界のリコの部屋の鏡も繋がってるんじゃないだろうか。」
自分で言っていても馬鹿らしいー。
そう言いながらも、リコは、試してみるのも悪くはないんじゃないかと、全身鏡の前に立った。
あの日、なまえの部屋と私の部屋が繋がった。
もしかして、この世界のリコの部屋と向こうの世界のリコの部屋も繋がるのならー。
もし繋がるのなら、本人同士である可能性が高い。
だから、リコが試してみてくれると言う。
「向こうの世界に繋がる前、何か特別なことはしたか?」
リコは鏡に触れながら訊ねる。
当然、鏡は今のリコの姿を正しく映している。その後ろに見えている風景もこの部屋だ。
もし、元の世界のリコと繋がったら、見覚えのあるリコの部屋が映るのだろうか。
額に手を乗せて顔を伏せる。
あのとき、何をしたのかを思い出す。
「まずは…、鏡に触ったり、裏側を見てみたりとか…
とにかく、鏡に何か仕掛けがないか探したの。」
「やってみる。」
リコはそう言って、私があの日したように鏡を隅々まで調べつくす。
やっぱり、あの日と同じように、何も変わらない。
全身鏡は、正しくこの世界を映し続けている。
「次は?」
「次は…、やっぱり、帰れないと思って、絶望して、そして…。
あ…。」
ふと、思い出した。
思わず、顔が上がる。
もしかしたら、とても大切なことだー。
「何だ?何をした?」
「リコに会いたい…、そう願ったの。私、リコに会いたいって思って…!
そしたら、鏡が光って、リコが鏡の向こうに…!」
「感情か…。
そのとき、向こうのリコは何をしてた?お前を探してたんじゃないのか?」
「…!そう!!私のことを探して、私の部屋にいたって!!」
「向こうとこの世界は、合わせ鏡なのだろうか…。
同じ気持ちになったら、繋がるのかもしれない。」
リコはまるで自分に言い聞かせるように言って、鏡に手を添えたまま目を閉じた。
向こうの世界のリコに会いたいー、そう願ってくれているのだろうか。
でも、いくら待っても、鏡から光が放たれることはなく、私が元の世界に帰れるためにらしくないことをしている現実的なリコの姿を映しているだけだった。
「…すまない。ダメだったな。」
リコは鏡から手を離すと、小さくため息を吐いた。
「ううん、いいの。」
ソファの隣に座ったリコに、私は礼を言う。
ハンジもモブリットも、壁外調査前の忙しいときに、パラレルワールドやトリップについての本を探してくれているようだった。
必死に頑張って、帰る道を探して、それで、帰れないのなら、それはそれで仕方がないとー。
「…さっきまですごく不安そうにしていたから、
元の世界に帰れなくなるのが怖いんだと思っていたんだが。
なぁ…、どうして、ダメだと分かった途端、安心した顔をするんだ。」
「え…?」
訝し気にリコが訊ねた。
言っている意味が、分からなかった。
そんなつもりはなかったからだ。
でも、どうして私は、痛いところを突かれたみたいに、心臓の鼓動を速くしているんだろう。
都合の悪いところを見られたみたいに、焦ってー。
「…そんなこと、ないよ…!」
シャツの胸元を握って、リコから目を反らした。
でも私は知ってる。
リコは、私の気持ちなんていつだってお見通しだってー。
それはきっと、こっちのリコも向こうのリコも、同じだと思うからー。