◇35話◇可愛い
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言ったそばから、私は高いところに上っていた。
なんとか木に引っかかっていた風船はとれたものの、これを塀の向こうで泣いている女の子にどう渡せばいいものか。
そもそも、私は降りることが出来るのか。
甚だ疑問である。
とにかく、簡単に今の状況を悦明するのであれば、私は今、兵舎の木の上に登り、比較的太めの枝の上に座って、途方に暮れているところだ。
「兵舎の木の上に風船持った変な女がいると、噂になってるぞ。」
木の枝の上に座って、これからどうしようか悩んでいると、リヴァイの声がした。
少し怖かったけれど、下を向くと、呆れた表情のリヴァイと目が合う。
心からホッとした。
ちょうどいいところに来てくれた。
「よかった~っ!これ、塀の向こうにいる女の子に渡してきてくれる?
木に引っかかってるのをとったのはいいものの、動けなくなっちゃって。」
「…そんなことだろうと思った。」
ため息交じりに言って、リヴァイはほとんど飛び上がるようにして、あっという間に木に登ってきた。
そして、私から風船を受け取ると、軽々と塀の上に飛び乗る。
それなりの高さのある塀からも、階段でも降りるように飛び降りてしまう。
リヴァイと風船というのはとても似合わなかったけれど、彼から風船を受け取った女の子は、漸く泣き止んでくれてホッと胸を撫でおろす。
本当にただ渡すだけしかしなかったリヴァイは、また飛び上がるように塀に上がった。
するとー。
「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう!」
女の子が嬉しそうに手を振って去っていく。
私にも礼を言ってもらえるとは思わなかったから、素直に嬉しくて手を振り返す。
女の子の笑顔を見送るリヴァイも幾分か表情が優しい気がした。
「キャァッ。」
リヴァイが木に飛び乗るから、そんなに太くない木の枝が揺れて大きくしなった。
思わず、その腰にしがみつけば、頭上からクスリと笑いが聞こえた。
恨めし気に見上げて、文句でも言ってやろうとー。
そう思ったはずだったのにー。
私の瞳には、ひどく愛おしそうに私を見下ろすリヴァイが映った。
「怖かったのか?可愛いやつだな。」
「…なッ!?」
驚きと照れ臭さで、思わずリヴァイから思いっきり離れようとすると、私の大きな動きに耐えられず、また木が大きくしなる。
そして、バランスを崩した私は、昨日の再現のように背中から後ろに落ちてー。
「キャァッ!」
「危ねぇ!」
リヴァイがすぐに私の腕を掴んだ。
自分の胸に抱き寄せるように引っ張ると、リヴァイは私を腕の中に抱きしめたまま、背中から落ちていく。
そして、痛そうな音を立てて、地面に叩きつけられた。
「リヴァイっ!大丈夫っ!?」
地面に両手をついて、身体を起こした。
リヴァイは私の下敷きになっていた。
ひどく狼狽えて焦る私を見上げるリヴァイは、少し驚いた顔をした後、可笑しそうにクスリと笑った。
それを見て、私はホッとする。
「何やってんだ、お前は。バカか。」
「…だって、リヴァイが変なこと言うから…、ビックリして。」
言い訳をするように口を尖らせるものの、どんどん尻しぼみになっていく。
まさか、リヴァイから『可愛い。』なんて言葉が出るなんて思ってなかった。
似合わな過ぎて、驚いたのだ。
あぁ、本当に驚いて、すごく恥ずかしい。
そして、私、すごく。
すごくー。
「思ったことを言っただけだ。」
「だって、そんなのー。」
リヴァイらしくないー。
そう言おうとしたのに、続かなかった。
ハッと気づいてしまったのだ。
私はリヴァイの何も知らないじゃないか。
調査兵団で兵士長という役職についていて、なまえという恋人がいて、彼女のことを心から愛している。
私が知っているのは、それくらいだ。
だから、私が知らないだけで、リヴァイは、恋人の前では、気持ちを素直に伝える男だったのかもしれないじゃないか。
なまえが何度も何度も飽きるほど言われた言葉を、なまえの代わりに聞いただけなのにー。
どうして、自分が言われた気になったのだろう。
あぁ、すごくー。
すごく、嬉しくない。
「もう、そういうこと、言わなくていいから。」
「どうしてだ。」
「どうしても。それより、身体大丈夫?」
リヴァイが起き上がれるように、私は彼の上に乗っていた身体を起こした。
そして、肘をつきながら身体を起こそうとしているリヴァイに背を向けながら、立ち上がろうとしたのにー。
「何を拗ねてんのか知らねぇが、拗ねた顔も可愛いから意味ねぇぞ。」
リヴァイは私の腕を掴むと、後ろ向きのままで抱きしめた。
耳元から、柔らかいリヴァイの声がする。
また、どうして、そんな恥ずかしいことをー。
なまえと全く同じ顔なのだから、彼にとっては可愛い恋人だろう。
きっと、世界一可愛く見えるのだ。なまえと同じ私の顔が、彼にとってはー。
そんなこと、言われなくたって分かってる。
だから、嬉しくなんか、ないー。
それなのに、私の心臓は痛いくらい速く鼓動して、顔が熱い。
きっと今、私は誰が見ても心が読めてしまうくらいに、頬を赤く染めているのだろう。
後ろから抱きしめて、そんなこと言うなんて、ズルい。
あぁ、ズルい。
本当に、ズルい。
「リヴァイ、変だよ。どうしたの。」
「何か知らんが、お前が勝手に不安になってるからだろ。」
「え?」
「言わねぇと伝わらねぇみてぇだから、思ったことを言うようにしただけだ。
こんなこと…、お前の為じゃねぇとぜってぇしねぇんだからな。感謝しろ。」
視界に入るリヴァイの耳も赤くなっていることに、ふと気が付いた。
もしかして、本当に今、リヴァイは、彼らしくないことをしているのだろうか。
私が昨日、我儘で勝手なお願いを言ったからー。
ほんの一瞬だっていいから、なまえじゃなくて私を、好きだって、愛おしいって、想って欲しいと願ってしまったからー。
リヴァイは今、私のために、照れ臭さを隠して、似合わないことを言ってくれたのだろうか。
私のためにー。
「高いところを怖がる私、可愛かった…?」
「あぁ、可愛かった。」
「ビックリして落ちちゃったけど?」
「それは焦った。
でも、照れて驚いたなまえも可愛かった。また見てぇ。」
「もう…っ、やめてよ、そんなこと言うの。」
顔を真っ赤に染めて、私は口を尖らせる。
でも、頬は緩んでいて、きっとだらしない顔をしてると思う。
リヴァイが似合わないことを言うから、恥ずかしい。
あぁ、どうしよう、すごく恥ずかしい。
すごくー。
あぁ、どうしよう。
すごくー。
「でも、ありがとう…。すごく、嬉しい。」
「ならよかった。心臓が破裂しそうになりながら、頑張った甲斐があった。」
「そんな風には見えなかったよ!」
吹き出してケラケラと笑った。
こんなに笑ったのは、久しぶりだった。
少なくとも、この世界に来て初めてだった。
なんとか木に引っかかっていた風船はとれたものの、これを塀の向こうで泣いている女の子にどう渡せばいいものか。
そもそも、私は降りることが出来るのか。
甚だ疑問である。
とにかく、簡単に今の状況を悦明するのであれば、私は今、兵舎の木の上に登り、比較的太めの枝の上に座って、途方に暮れているところだ。
「兵舎の木の上に風船持った変な女がいると、噂になってるぞ。」
木の枝の上に座って、これからどうしようか悩んでいると、リヴァイの声がした。
少し怖かったけれど、下を向くと、呆れた表情のリヴァイと目が合う。
心からホッとした。
ちょうどいいところに来てくれた。
「よかった~っ!これ、塀の向こうにいる女の子に渡してきてくれる?
木に引っかかってるのをとったのはいいものの、動けなくなっちゃって。」
「…そんなことだろうと思った。」
ため息交じりに言って、リヴァイはほとんど飛び上がるようにして、あっという間に木に登ってきた。
そして、私から風船を受け取ると、軽々と塀の上に飛び乗る。
それなりの高さのある塀からも、階段でも降りるように飛び降りてしまう。
リヴァイと風船というのはとても似合わなかったけれど、彼から風船を受け取った女の子は、漸く泣き止んでくれてホッと胸を撫でおろす。
本当にただ渡すだけしかしなかったリヴァイは、また飛び上がるように塀に上がった。
するとー。
「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとう!」
女の子が嬉しそうに手を振って去っていく。
私にも礼を言ってもらえるとは思わなかったから、素直に嬉しくて手を振り返す。
女の子の笑顔を見送るリヴァイも幾分か表情が優しい気がした。
「キャァッ。」
リヴァイが木に飛び乗るから、そんなに太くない木の枝が揺れて大きくしなった。
思わず、その腰にしがみつけば、頭上からクスリと笑いが聞こえた。
恨めし気に見上げて、文句でも言ってやろうとー。
そう思ったはずだったのにー。
私の瞳には、ひどく愛おしそうに私を見下ろすリヴァイが映った。
「怖かったのか?可愛いやつだな。」
「…なッ!?」
驚きと照れ臭さで、思わずリヴァイから思いっきり離れようとすると、私の大きな動きに耐えられず、また木が大きくしなる。
そして、バランスを崩した私は、昨日の再現のように背中から後ろに落ちてー。
「キャァッ!」
「危ねぇ!」
リヴァイがすぐに私の腕を掴んだ。
自分の胸に抱き寄せるように引っ張ると、リヴァイは私を腕の中に抱きしめたまま、背中から落ちていく。
そして、痛そうな音を立てて、地面に叩きつけられた。
「リヴァイっ!大丈夫っ!?」
地面に両手をついて、身体を起こした。
リヴァイは私の下敷きになっていた。
ひどく狼狽えて焦る私を見上げるリヴァイは、少し驚いた顔をした後、可笑しそうにクスリと笑った。
それを見て、私はホッとする。
「何やってんだ、お前は。バカか。」
「…だって、リヴァイが変なこと言うから…、ビックリして。」
言い訳をするように口を尖らせるものの、どんどん尻しぼみになっていく。
まさか、リヴァイから『可愛い。』なんて言葉が出るなんて思ってなかった。
似合わな過ぎて、驚いたのだ。
あぁ、本当に驚いて、すごく恥ずかしい。
そして、私、すごく。
すごくー。
「思ったことを言っただけだ。」
「だって、そんなのー。」
リヴァイらしくないー。
そう言おうとしたのに、続かなかった。
ハッと気づいてしまったのだ。
私はリヴァイの何も知らないじゃないか。
調査兵団で兵士長という役職についていて、なまえという恋人がいて、彼女のことを心から愛している。
私が知っているのは、それくらいだ。
だから、私が知らないだけで、リヴァイは、恋人の前では、気持ちを素直に伝える男だったのかもしれないじゃないか。
なまえが何度も何度も飽きるほど言われた言葉を、なまえの代わりに聞いただけなのにー。
どうして、自分が言われた気になったのだろう。
あぁ、すごくー。
すごく、嬉しくない。
「もう、そういうこと、言わなくていいから。」
「どうしてだ。」
「どうしても。それより、身体大丈夫?」
リヴァイが起き上がれるように、私は彼の上に乗っていた身体を起こした。
そして、肘をつきながら身体を起こそうとしているリヴァイに背を向けながら、立ち上がろうとしたのにー。
「何を拗ねてんのか知らねぇが、拗ねた顔も可愛いから意味ねぇぞ。」
リヴァイは私の腕を掴むと、後ろ向きのままで抱きしめた。
耳元から、柔らかいリヴァイの声がする。
また、どうして、そんな恥ずかしいことをー。
なまえと全く同じ顔なのだから、彼にとっては可愛い恋人だろう。
きっと、世界一可愛く見えるのだ。なまえと同じ私の顔が、彼にとってはー。
そんなこと、言われなくたって分かってる。
だから、嬉しくなんか、ないー。
それなのに、私の心臓は痛いくらい速く鼓動して、顔が熱い。
きっと今、私は誰が見ても心が読めてしまうくらいに、頬を赤く染めているのだろう。
後ろから抱きしめて、そんなこと言うなんて、ズルい。
あぁ、ズルい。
本当に、ズルい。
「リヴァイ、変だよ。どうしたの。」
「何か知らんが、お前が勝手に不安になってるからだろ。」
「え?」
「言わねぇと伝わらねぇみてぇだから、思ったことを言うようにしただけだ。
こんなこと…、お前の為じゃねぇとぜってぇしねぇんだからな。感謝しろ。」
視界に入るリヴァイの耳も赤くなっていることに、ふと気が付いた。
もしかして、本当に今、リヴァイは、彼らしくないことをしているのだろうか。
私が昨日、我儘で勝手なお願いを言ったからー。
ほんの一瞬だっていいから、なまえじゃなくて私を、好きだって、愛おしいって、想って欲しいと願ってしまったからー。
リヴァイは今、私のために、照れ臭さを隠して、似合わないことを言ってくれたのだろうか。
私のためにー。
「高いところを怖がる私、可愛かった…?」
「あぁ、可愛かった。」
「ビックリして落ちちゃったけど?」
「それは焦った。
でも、照れて驚いたなまえも可愛かった。また見てぇ。」
「もう…っ、やめてよ、そんなこと言うの。」
顔を真っ赤に染めて、私は口を尖らせる。
でも、頬は緩んでいて、きっとだらしない顔をしてると思う。
リヴァイが似合わないことを言うから、恥ずかしい。
あぁ、どうしよう、すごく恥ずかしい。
すごくー。
あぁ、どうしよう。
すごくー。
「でも、ありがとう…。すごく、嬉しい。」
「ならよかった。心臓が破裂しそうになりながら、頑張った甲斐があった。」
「そんな風には見えなかったよ!」
吹き出してケラケラと笑った。
こんなに笑ったのは、久しぶりだった。
少なくとも、この世界に来て初めてだった。