飛び降り騒ぎで酒盛りは中止になり、兵舎に戻ってきていた。
念のため、と医務室に連れて行かれて、怪我もないことを確認した後、リヴァイの執務室兼自室へと来ている。
リヴァイは、私をベッドに入れて座らせると、一応エルヴィンに報告をしに行くと部屋を出て行く。
扉が閉まった途端、ハンジが私の頬を思いっきり叩いた。
あまり、驚かなかった。
リヴァイの腕の中にいるときからずっと、ハンジがとても怖い顔をしているのを知っていた。
いつもなら、ハンジを止めるモブリットも、今は何も言わなかった。

「どうして、あんなバカなことしたんだッ！」

ハンジが怒鳴った。
いつも明るくて、陽気なハンジが怒っていた。
すごく、怒っていて、それは仕方のないことだと私は理解していた。
私は、最低なことをしたー。

「必ず、帰れるように道を探すと、私とモブリットが言っただろう！？
　君が諦めたら、帰れる世界にも帰れない！！私達を信じてくれよ！！」

私の両腕を痛いくらいに掴んだハンジは、とても悔しそうだった。
その斜め後ろで、モブリットも拳を握りしめている。
それを振り上げて殴りつけたいのを、必死に堪えているような様子だ。
悪いのは、私なのにー。
2人とも、自分を責めているみたいだった。

「1人になりたかっただけなの。死のうと思ったわけじゃない。
　でも…。」

そこまで言って、言葉が途切れた。
でも、ハンジとモブリットは、続きを促す。
なぜ、あんな馬鹿な真似をしたのかー。
どうして、自分達はそんな真似をさせてしまったのかー。
ちゃんと理解しようとしているようだった。

「リヴァイを見たら、思ってしまったの…。
　目の前で私が死ねば、なまえはもう死んだんだって、受け入れてくれるかなって…。」
「そんな…！そのために、君が死ぬのはおかしいだろ！！」
「だって、もし、このまま帰れなかったら…！
　私はずっと、リヴァイになまえとして愛されていくの…！？
　もう嫌だった…っ。なまえを通して、私を見られるのはもう、嫌だ…っ。」

ブランケットを引き寄せて、顔を隠す。
帰れないかもしれないー、そう思ったとき、私は強く願ったのだ。
早く、リヴァイになまえが死んだことを受け入れてほしかった。
忘れろとは言わない。ただ、もう彼女はいないのだと早く認めてほしかった。
リヴァイに、なまえとして見られるのはもう、堪えられなかった。
あのとき、私は死にたかったわけじゃない。
ただ単純に、なまえの死を見せつけたくてー。

「ごめんなさい…っ、リヴァイ…っ、きっと、すごく怖かった…っ。
　ごめんなさい…っ。ごめんなさい…っ。」

あぁ、本当に最低なことをした。
愛する人が目の前で、自ら命を絶とうとするなんてー。
どれほどの恐怖だっただろうー。
私は、なんてことをー。

「さっきもまさかと思ったけど…。
君…、もしかして…。」

ハンジが呟くような声がした。
でも、その先は続かなかった。
そう、それでいい。
誰も、その先のそれを言葉にしてはいけない。
だって、リヴァイは、この世界のなまえの心から大切な人だからー。
死んだ後も、心配でたまらないくらいに、深く愛する人だからー。
リヴァイが愛してやまないのは、彼女だからー。