◇32話◇サヨナラ
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月明かりだけが照らす薄暗い通りを、リヴァイはひたすら走り続けていた。
視線を左右へ動かして、必死に愛おしい人の姿を探す。
生きている、彼女を探すー。
なぜか生き返ったなまえの姿が、今度は突如として消えたことで、酒がまわっていた調査兵達も一気に酔いが覚めた。
既に潰れて寝ていた数名を残して、ほとんど全員がトロスト区の街をなまえを探して疾走している。
「なまえ!!どこにいるのー!?一緒に巨人の話をしよう!!」
「こんな真夜中に出歩いたら危ないから!!出てきてくれ!!」
「クソッ!どこ行ったんだよ!!出て来いよ、なまえ!!」
「ミケっ、なまえの匂いはしないの!?」
「今必死に探してるんだが、あちこちが酒臭くてわからない。」
ハンジ達も大声で名前を呼んで探しているし、ニファ達も通りがかる人達に聞いているようだが、一向に見つかる気配がない。
完全に酔っぱらっていたゲルガーさえも、必死に探しているのは、彼もなまえと仲が良かったからだ。
ペトラやオルオは、なまえのことを姉のように慕っていたし、エルドやグンタは歳も近くて友達のようだった。
リヴァイの友人達に、なまえは慕われていたのだ。
明るくて、いつも元気で、素直でー。
そんな彼女が、最近、夜も眠れていなかった。
無理して笑っているのも知っていた。
会議が終わってからは、なぜかそれは顕著になって、ひどく塞ぎ込んでいるのを隠しきれていなかった。
でもー。
目を離した自分の責任だ。
久しぶりの酒の席で、気心の知れた仲間達に囲まれて、気が緩んでいたのは確かだ。
古城にいる間も、任務中になまえが消えることはなかったから、安心していた。
そもそものなまえの存在が不安定な今、絶対に消えないなんて保証はどこにもないのにー。
絶対に手放さないと決めていたのにー。
なにがなんでも、この手を放さないとー。
どこを探しても見つからず、なまえがいたこと自体が幻だったのではないかと調査兵達が思い始めた頃、リヴァイはふと夜空を見上げた。
それは、偶々だった。
ただ今夜は、なまえの好きな満月の夜だとハンジが言っていたからー。
「いた…。」
声が漏れるように、リヴァイは小さく呟く。
なまえは、5階建ての建物の屋根の上にいた。
あの頃もそうしていたように、綺麗な夜空を見上げながら屋根の上を歩いている。
道理で、地上だけを探していた自分達が見つけられなかったわけだ。
そうだ、彼女はよくそうやって、屋根の上を散歩していたじゃないか。
「なんだよ。やっぱり、怖くなんかねぇーんじゃねぇか。
あの頃のままだ。何も、変わってなんかねぇ。」
リヴァイの声は幾分か嬉しそうだった。
なまえを見つけられてホッとしたのか、あの頃のなまえの面影を見つけて嬉しかったのか。
リヴァイは立ち尽くしたまま、屋根の上を歩くなまえの姿を眺めていた。
そうしていると、屋根の縁までたどり着いたなまえは、一度立ち止まると、身体を回転させた。
来た方向へと戻るのかと思ったが、彼女は屋根の縁に立ったままで夜空を見上げだした。
そして、夜空に向かって縋るように両手を伸ばす。
星でも、捕まえようとしているのだろうかー。
月明かりが、そんななまえの姿を照らし出す。
それは、ひどく儚く見えて、ひどく幻想的な光景だった。
生まれて初めて見るほど美しくて、思わず、息を呑んだ。
「リヴァイ?何見てんの?」
ハンジが、立ち止まって、建物の屋根を見上げているリヴァイに気が付いて声をかけた。
そこに、モブリットやミケ、ナナバやゲルガーも集まってくる。
そしてやっぱり、リヴァイの視線の先を見て、息を呑むのだ。
あの美しさは、この世のものとは、誰も、思えなくてー。
触れてはいけないー。そんな気がしてー。
あの頃、リヴァイにはなまえの考えていることが手に取るように分かっていた。
だって、彼女はとても素直で、考えていることが顔に出るような女だったからだ。
でも、あの日、綺麗な夜空からリヴァイの願いを叶える流れ星のように降って来たなまえは、心を見せてはくれない。
決して、見せてくれないから、何を考えているのかいつも分からない。
だから今も、彼女が何を思って、夜空に両手を伸ばしたのか、分からなかった。
いや、分かりたくないのだと、分かっている。
なまえは、幾千の星に、何を願って、どんな救いを求めて、手を伸ばしているのだろうー。
知りたい。知りたくないー。
不意に、なまえは夜空に伸ばしていた手を降ろし、視線を下げた。
伏せた横顔は、何かを諦めたように悲しそうでー。
そして、偶々だろうけれど、リヴァイ達のいる方を見た。
たぶん、目が合った。
なまえは、リヴァイに気づいたのだと思う。
だって、なまえは、何かを告げようとしたから。
この距離では、叫ばなければ声が聞こえないと思ったのか、口だけを動かした。
離れていてもちゃんと届くように、ハッキリと動かしてー。
≪サヨナラ。≫
視力には自信がある。
なまえが伝えたい言葉なら、一言も漏らすことなく聞き取って来た自信もある。
だから、しっかりと届いた。
寂しそうに微笑んだ顔の前で小さく手を振って、なまえは確かにそう告げた。
「…は?」
自分のものだとは思えないくらいに、気の抜けた声が漏れた。
その次の瞬間に、なまえは背中から身を投げた。
その残酷過ぎる光景に、嘘かと思うくらいに心臓が冷える。
華奢な身体が、ロングスカートが、夜風に舞って落ちていくー。
それはスローモーションのように見えるのに、瞬時に状況を頭が理解して、気持ちが悪かった。
「なまえ…!!」
これまでないというくらいに、悲鳴のように、なまえの名前を叫んでいた。
視線を左右へ動かして、必死に愛おしい人の姿を探す。
生きている、彼女を探すー。
なぜか生き返ったなまえの姿が、今度は突如として消えたことで、酒がまわっていた調査兵達も一気に酔いが覚めた。
既に潰れて寝ていた数名を残して、ほとんど全員がトロスト区の街をなまえを探して疾走している。
「なまえ!!どこにいるのー!?一緒に巨人の話をしよう!!」
「こんな真夜中に出歩いたら危ないから!!出てきてくれ!!」
「クソッ!どこ行ったんだよ!!出て来いよ、なまえ!!」
「ミケっ、なまえの匂いはしないの!?」
「今必死に探してるんだが、あちこちが酒臭くてわからない。」
ハンジ達も大声で名前を呼んで探しているし、ニファ達も通りがかる人達に聞いているようだが、一向に見つかる気配がない。
完全に酔っぱらっていたゲルガーさえも、必死に探しているのは、彼もなまえと仲が良かったからだ。
ペトラやオルオは、なまえのことを姉のように慕っていたし、エルドやグンタは歳も近くて友達のようだった。
リヴァイの友人達に、なまえは慕われていたのだ。
明るくて、いつも元気で、素直でー。
そんな彼女が、最近、夜も眠れていなかった。
無理して笑っているのも知っていた。
会議が終わってからは、なぜかそれは顕著になって、ひどく塞ぎ込んでいるのを隠しきれていなかった。
でもー。
目を離した自分の責任だ。
久しぶりの酒の席で、気心の知れた仲間達に囲まれて、気が緩んでいたのは確かだ。
古城にいる間も、任務中になまえが消えることはなかったから、安心していた。
そもそものなまえの存在が不安定な今、絶対に消えないなんて保証はどこにもないのにー。
絶対に手放さないと決めていたのにー。
なにがなんでも、この手を放さないとー。
どこを探しても見つからず、なまえがいたこと自体が幻だったのではないかと調査兵達が思い始めた頃、リヴァイはふと夜空を見上げた。
それは、偶々だった。
ただ今夜は、なまえの好きな満月の夜だとハンジが言っていたからー。
「いた…。」
声が漏れるように、リヴァイは小さく呟く。
なまえは、5階建ての建物の屋根の上にいた。
あの頃もそうしていたように、綺麗な夜空を見上げながら屋根の上を歩いている。
道理で、地上だけを探していた自分達が見つけられなかったわけだ。
そうだ、彼女はよくそうやって、屋根の上を散歩していたじゃないか。
「なんだよ。やっぱり、怖くなんかねぇーんじゃねぇか。
あの頃のままだ。何も、変わってなんかねぇ。」
リヴァイの声は幾分か嬉しそうだった。
なまえを見つけられてホッとしたのか、あの頃のなまえの面影を見つけて嬉しかったのか。
リヴァイは立ち尽くしたまま、屋根の上を歩くなまえの姿を眺めていた。
そうしていると、屋根の縁までたどり着いたなまえは、一度立ち止まると、身体を回転させた。
来た方向へと戻るのかと思ったが、彼女は屋根の縁に立ったままで夜空を見上げだした。
そして、夜空に向かって縋るように両手を伸ばす。
星でも、捕まえようとしているのだろうかー。
月明かりが、そんななまえの姿を照らし出す。
それは、ひどく儚く見えて、ひどく幻想的な光景だった。
生まれて初めて見るほど美しくて、思わず、息を呑んだ。
「リヴァイ?何見てんの?」
ハンジが、立ち止まって、建物の屋根を見上げているリヴァイに気が付いて声をかけた。
そこに、モブリットやミケ、ナナバやゲルガーも集まってくる。
そしてやっぱり、リヴァイの視線の先を見て、息を呑むのだ。
あの美しさは、この世のものとは、誰も、思えなくてー。
触れてはいけないー。そんな気がしてー。
あの頃、リヴァイにはなまえの考えていることが手に取るように分かっていた。
だって、彼女はとても素直で、考えていることが顔に出るような女だったからだ。
でも、あの日、綺麗な夜空からリヴァイの願いを叶える流れ星のように降って来たなまえは、心を見せてはくれない。
決して、見せてくれないから、何を考えているのかいつも分からない。
だから今も、彼女が何を思って、夜空に両手を伸ばしたのか、分からなかった。
いや、分かりたくないのだと、分かっている。
なまえは、幾千の星に、何を願って、どんな救いを求めて、手を伸ばしているのだろうー。
知りたい。知りたくないー。
不意に、なまえは夜空に伸ばしていた手を降ろし、視線を下げた。
伏せた横顔は、何かを諦めたように悲しそうでー。
そして、偶々だろうけれど、リヴァイ達のいる方を見た。
たぶん、目が合った。
なまえは、リヴァイに気づいたのだと思う。
だって、なまえは、何かを告げようとしたから。
この距離では、叫ばなければ声が聞こえないと思ったのか、口だけを動かした。
離れていてもちゃんと届くように、ハッキリと動かしてー。
≪サヨナラ。≫
視力には自信がある。
なまえが伝えたい言葉なら、一言も漏らすことなく聞き取って来た自信もある。
だから、しっかりと届いた。
寂しそうに微笑んだ顔の前で小さく手を振って、なまえは確かにそう告げた。
「…は?」
自分のものだとは思えないくらいに、気の抜けた声が漏れた。
その次の瞬間に、なまえは背中から身を投げた。
その残酷過ぎる光景に、嘘かと思うくらいに心臓が冷える。
華奢な身体が、ロングスカートが、夜風に舞って落ちていくー。
それはスローモーションのように見えるのに、瞬時に状況を頭が理解して、気持ちが悪かった。
「なまえ…!!」
これまでないというくらいに、悲鳴のように、なまえの名前を叫んでいた。