◇29話◇鏡の向こうの世界
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「リコ!!」
鏡の向こうにいたのは、リコだった。その後ろに見える風景は、私の部屋だ。
今、彼女は、私の部屋にいるということだろうか。
「リコ!!ねぇ、見えてるんだよね!?ねぇ!!」
≪待て待て待て…!落ち着け!!≫
驚き目を見開いたまま、リコは、自分の顔の前に両手を出して、落ち着けと繰り返す。
「あ、ごめん…。まさか、本当に鏡の向こうと繋がるとは思わなくてー。」
≪落ち着け、落ち着け私…。落ち着くんだ。
疲れてるんだ。私は今、とてつもなく疲れてるんだ。≫
リコは自分の胸に手を置いて、深呼吸を始めた。
見たことのあるリアクションに、私はむしろ感動していた。
やっぱり、この世界と元いた世界は繋がっていて、同一人物が全く違う世界で生きているーというパラレルワールド説は真実のようだ。
「大丈夫、リコは落ち着いてるよ。だから、私の話を聞いて。
聞こえてるよね?」
≪…幻覚や幻聴でないのなら、聞こえている。≫
リコが返事をしてくれて、ホッと胸を撫でおろす。
まだ半信半疑のようだけれど、それは慎重な彼女らしい。
それでも、私の言葉なら、彼女はどんな突拍子もないことだって信じてくれる。
私には、自信があった。
「パラレルワールドって知ってる?」
≪あぁ、同時に存在する別世界だろう?まさか、そこにいるなんて言わないよな。≫
「こっちの世界のなまえに飛ばされちゃったの。
それで、任務を全うしないと帰れなくって。」
≪任務?なんだそれは。何か危ないことでもさせられてるのか。≫
「危ないことじゃないけど、精神的につらいかな。あと、巨人がいる。」
≪巨人?何を言ってるのか、さっぱりわからないんだが。≫
「ところで、リコはどうして私の家にいるの?」
≪なまえを探してたんだろうが。≫
「あ、そっか…。ごめん。」
≪行方不明になってもうすぐ1か月だ。何か手がかりがないかと家に来てたんだ。≫
「何かあった?」
≪鏡の向こうに探し人を見つけたところだ。≫
「あぁ、そうだったね。よかったね。」
≪…まぁ、いい。言いたいことは山ほどあるが、
とりあえず、私はどうすればいい?≫
リコは本当に、話が早くて助かる。
そして、誰よりも私を信じてくれるから、安心して話を進められる。
よかった。
今、私の家に来てくれてるのが、リコでー。
「今はまだ帰れないけど、いつか帰るときのためにその鏡は大切に守っててほしい。」
≪分かった。約束する。これがあれば、戻ってこれるのか?≫
「たぶん。この鏡に手を入れられるか試してみたいんだけど…。」
≪それを試して、そっちにいられなくなったらマズいから出来ないんだな。≫
「うん、ごめん。」
≪まぁ、いい。他にこっちで何か用意しておくものとかはないか?≫
「あ!ひとつある!」
≪あぁ、なんだ。何でも言え。この世界に戻れるよう何でも協力する。≫
「あのドラマの結末ってどうなったの?」
≪…もしこれが本当に幻覚や幻聴じゃないなら、言うことはひとつだ。
ーバカなのか。≫
鏡の向こうのリコは、片手を頭に添えて、心底呆れた様にため息を吐いた。
でも、知りたかったのだ、ずっと。
あんなに楽しみにしていたのに、最終回目前でこの世界に飛ばされて、お預けのままなのだ。
本当は録画していたのを見たいけれど、それは出来ないので、ネタバレでもいいから、どうなったのか知りたい。
違う世界の男に恋をしてしまったヒロインが、どうなったのかが知りたいー。
必死に、教えてくれと頼めば、リコは本当に大きな大きなため息を吐いた。
≪私は見てないから分からないんだ。ちょっと待て。訊いてみる。≫
「訊く?訊くって誰に?」
≪なまえが行方不明になる前日に、企画調査部に新入社員が入っただろう?
彼らは元々探偵だから、あそこの部長がなまえを探すのを手伝うように
指示を出してくれたんだ。≫
「そうだったんだ。でも、探偵さんでもまさか鏡の中からは見つけられないよね。」
≪だろうな。とりあえず、訊いてみるからちょっと待ってろ。
ファーラン!ちょうどいいところに来た!
あのトリップがどうのというドラマの結末はどうなったか知ってるか?≫
リコはキッチンの方を向いて誰かに声をかけた。
遠くから、聞き覚えのない男の人の声がしたと思ったら、リコの隣に知らない長身の男が立った。
知らない男は、リコの方を向いていて、鏡に私が映っていることには気づいていないようだ。
チラリと私に視線を送ったリコが、目で『あっちへ行け』と言う。
隠れておけということらしいので、鏡に映らないところへ移動した。
≪1人で鏡に向かってブツブツ言ってるから、
疲れてるんだと思ってそっとしてたんだけど、大丈夫か?≫
≪いいから、ドラマの結末を教えろ。どうせ観てたんだろ。
そういう人気のあるものは、とりあえずチェックしそうな顔をしてる。≫
≪横暴な推理だな。えーっと、結末な。確か、ヒロインが元の世界に戻るんだ。
結局、違う世界で生きてる者同士、一緒に生きていくことは出来ませんでしたって終わりだったな。≫
「そんな…!」
ショックだった。
だから、思わず、鏡の前に飛び出してしまった。
私と目が合った男が、お化けでも見たような真っ青な表情になったことで、自分の失態に気づくがもう遅い。
リコが、頭を抱えて、大きなため息を漏らした。
≪あぁ、きっと、俺は疲れてんだな。≫
≪…せっかくだ。
一応、ファーランにも訊こう。そこになまえが見えるか?≫
≪もしかして、リコも見えてんのか?≫
≪そうか。やっぱり、私の頭がおかしくなったわけじゃないんだな。≫
≪は?探してた女は鏡の向こうにいたってことか?≫
リコにファーランと呼ばれた彼は、鏡の中の私をジーッと見る。
驚いて大騒ぎしたりしないで、目の前の事実を淡々と受け入れようとするところが、頭のいい人の特徴なのだろうか。
さっきのリコと同じように、彼もまた、目の前の現実がどれだけありえなくても、分かるように咀嚼しようとしているようだった。
≪鏡の中にねぇ~…。どういうことか、リコは分かってんのか?≫
≪まぁ、一応、なまえから簡単には聞いた。≫
≪とりあえず、アイツらにも見えるか確認しよう。
俺はまだ信じられねぇ。≫
ファーランが、鏡には映っていない方を向いて手をあげた。
ほとんど、その時だった。
≪おーい!リヴァー。≫
≪なまえ!!後ろ!!≫
リコが焦ったように叫んだ。
私もすぐに後ろを振り返る。
そこに見えたのは、振り上げられた花瓶だった。
鏡の向こうにいたのは、リコだった。その後ろに見える風景は、私の部屋だ。
今、彼女は、私の部屋にいるということだろうか。
「リコ!!ねぇ、見えてるんだよね!?ねぇ!!」
≪待て待て待て…!落ち着け!!≫
驚き目を見開いたまま、リコは、自分の顔の前に両手を出して、落ち着けと繰り返す。
「あ、ごめん…。まさか、本当に鏡の向こうと繋がるとは思わなくてー。」
≪落ち着け、落ち着け私…。落ち着くんだ。
疲れてるんだ。私は今、とてつもなく疲れてるんだ。≫
リコは自分の胸に手を置いて、深呼吸を始めた。
見たことのあるリアクションに、私はむしろ感動していた。
やっぱり、この世界と元いた世界は繋がっていて、同一人物が全く違う世界で生きているーというパラレルワールド説は真実のようだ。
「大丈夫、リコは落ち着いてるよ。だから、私の話を聞いて。
聞こえてるよね?」
≪…幻覚や幻聴でないのなら、聞こえている。≫
リコが返事をしてくれて、ホッと胸を撫でおろす。
まだ半信半疑のようだけれど、それは慎重な彼女らしい。
それでも、私の言葉なら、彼女はどんな突拍子もないことだって信じてくれる。
私には、自信があった。
「パラレルワールドって知ってる?」
≪あぁ、同時に存在する別世界だろう?まさか、そこにいるなんて言わないよな。≫
「こっちの世界のなまえに飛ばされちゃったの。
それで、任務を全うしないと帰れなくって。」
≪任務?なんだそれは。何か危ないことでもさせられてるのか。≫
「危ないことじゃないけど、精神的につらいかな。あと、巨人がいる。」
≪巨人?何を言ってるのか、さっぱりわからないんだが。≫
「ところで、リコはどうして私の家にいるの?」
≪なまえを探してたんだろうが。≫
「あ、そっか…。ごめん。」
≪行方不明になってもうすぐ1か月だ。何か手がかりがないかと家に来てたんだ。≫
「何かあった?」
≪鏡の向こうに探し人を見つけたところだ。≫
「あぁ、そうだったね。よかったね。」
≪…まぁ、いい。言いたいことは山ほどあるが、
とりあえず、私はどうすればいい?≫
リコは本当に、話が早くて助かる。
そして、誰よりも私を信じてくれるから、安心して話を進められる。
よかった。
今、私の家に来てくれてるのが、リコでー。
「今はまだ帰れないけど、いつか帰るときのためにその鏡は大切に守っててほしい。」
≪分かった。約束する。これがあれば、戻ってこれるのか?≫
「たぶん。この鏡に手を入れられるか試してみたいんだけど…。」
≪それを試して、そっちにいられなくなったらマズいから出来ないんだな。≫
「うん、ごめん。」
≪まぁ、いい。他にこっちで何か用意しておくものとかはないか?≫
「あ!ひとつある!」
≪あぁ、なんだ。何でも言え。この世界に戻れるよう何でも協力する。≫
「あのドラマの結末ってどうなったの?」
≪…もしこれが本当に幻覚や幻聴じゃないなら、言うことはひとつだ。
ーバカなのか。≫
鏡の向こうのリコは、片手を頭に添えて、心底呆れた様にため息を吐いた。
でも、知りたかったのだ、ずっと。
あんなに楽しみにしていたのに、最終回目前でこの世界に飛ばされて、お預けのままなのだ。
本当は録画していたのを見たいけれど、それは出来ないので、ネタバレでもいいから、どうなったのか知りたい。
違う世界の男に恋をしてしまったヒロインが、どうなったのかが知りたいー。
必死に、教えてくれと頼めば、リコは本当に大きな大きなため息を吐いた。
≪私は見てないから分からないんだ。ちょっと待て。訊いてみる。≫
「訊く?訊くって誰に?」
≪なまえが行方不明になる前日に、企画調査部に新入社員が入っただろう?
彼らは元々探偵だから、あそこの部長がなまえを探すのを手伝うように
指示を出してくれたんだ。≫
「そうだったんだ。でも、探偵さんでもまさか鏡の中からは見つけられないよね。」
≪だろうな。とりあえず、訊いてみるからちょっと待ってろ。
ファーラン!ちょうどいいところに来た!
あのトリップがどうのというドラマの結末はどうなったか知ってるか?≫
リコはキッチンの方を向いて誰かに声をかけた。
遠くから、聞き覚えのない男の人の声がしたと思ったら、リコの隣に知らない長身の男が立った。
知らない男は、リコの方を向いていて、鏡に私が映っていることには気づいていないようだ。
チラリと私に視線を送ったリコが、目で『あっちへ行け』と言う。
隠れておけということらしいので、鏡に映らないところへ移動した。
≪1人で鏡に向かってブツブツ言ってるから、
疲れてるんだと思ってそっとしてたんだけど、大丈夫か?≫
≪いいから、ドラマの結末を教えろ。どうせ観てたんだろ。
そういう人気のあるものは、とりあえずチェックしそうな顔をしてる。≫
≪横暴な推理だな。えーっと、結末な。確か、ヒロインが元の世界に戻るんだ。
結局、違う世界で生きてる者同士、一緒に生きていくことは出来ませんでしたって終わりだったな。≫
「そんな…!」
ショックだった。
だから、思わず、鏡の前に飛び出してしまった。
私と目が合った男が、お化けでも見たような真っ青な表情になったことで、自分の失態に気づくがもう遅い。
リコが、頭を抱えて、大きなため息を漏らした。
≪あぁ、きっと、俺は疲れてんだな。≫
≪…せっかくだ。
一応、ファーランにも訊こう。そこになまえが見えるか?≫
≪もしかして、リコも見えてんのか?≫
≪そうか。やっぱり、私の頭がおかしくなったわけじゃないんだな。≫
≪は?探してた女は鏡の向こうにいたってことか?≫
リコにファーランと呼ばれた彼は、鏡の中の私をジーッと見る。
驚いて大騒ぎしたりしないで、目の前の事実を淡々と受け入れようとするところが、頭のいい人の特徴なのだろうか。
さっきのリコと同じように、彼もまた、目の前の現実がどれだけありえなくても、分かるように咀嚼しようとしているようだった。
≪鏡の中にねぇ~…。どういうことか、リコは分かってんのか?≫
≪まぁ、一応、なまえから簡単には聞いた。≫
≪とりあえず、アイツらにも見えるか確認しよう。
俺はまだ信じられねぇ。≫
ファーランが、鏡には映っていない方を向いて手をあげた。
ほとんど、その時だった。
≪おーい!リヴァー。≫
≪なまえ!!後ろ!!≫
リコが焦ったように叫んだ。
私もすぐに後ろを振り返る。
そこに見えたのは、振り上げられた花瓶だった。