「なまえ、着いたぞ。」

肩を揺すられて、私は目を開けた。
いつの間にか、荷馬車の上で眠っていたようだ。
私を起こしたのはリヴァイだった。
それなら、私の肩にかかっているのは、リヴァイの兵団ジャケットなのだろう。

「ん、…これ、ありがとう。」

目をこすりながら身体を起こして、リヴァイに兵団ジャケットを返した。
何も言わずに受け取ったリヴァイは、兵団ジャケットを羽織りながら、ペトラ達に指示を出し始める。
なんとなくその光景を見ながら、デジャヴのようなものを感じていた。
あぁ、そうだ。初めて、トロスト区に来たときも同じようなことがあったのだ。
あのときは、目が覚めてすぐそこにいたリヴァイに怯えていたのにー。
ゆっくりと立ち上がって、荷馬車から飛び降りたリヴァイに続こうとして、縁で動きが止まる。
この前は、思い切って飛び降りてバランスを崩したー。
リヴァイが振り返って、まだ荷馬車に乗ったままの私を見上げる。

「降りねぇのか？」
「この前、バランス崩しちゃったから、少し怖くて。」
「待ってろ。」

リヴァイが荷馬車に飛び乗る。
そして、軽々と私を抱え上げると、そのまま荷馬車を飛び降りた。

「本当に高ぇところが怖くなっちまったんだな。
　昔は、荷馬車どころか客車の屋根からだって飛び降りてたくせにな。」

私を地面に降ろしたリヴァイは、私をじっと見て、その向こうになまえを探す。
なぜ、客車の屋根の上から飛び降りる状況になったのか、全く想像もつかない私は、やっぱりなまえとは全然違う。

「…ごめん。」
「謝ることじゃねぇだろ。」

リヴァイがクシャッと私の髪を撫でる。
ただ、高いところが怖くなっただけなら、私がなまえなら、謝るようなことじゃなかったのかもしれない。
私は今、騙していることを、謝ったのだ。
もう、騙し続けるのは、嫌だ。
早く帰りたいー。

「それじゃ、モブリット。なまえのこと、よろしく頼むよ。
　なまえの家で待ってるんだよね？」
「はい、もう一度、なまえの家に行って、記憶を取り戻せないか試してみます。」
「そうだね。良い報告を楽しみに待ってるよ。」

彼らの芝居は、とても自然だったと思う。
モブリットに家の鍵を渡しているリヴァイも、記憶を取り戻すためなら大歓迎の様子だ。
これで、私は久しぶりにリヴァイから離れられる。
それだけでも、心が軽くなったようだった。
あとは、モブリットと2人で家に行って、全身鏡を調べてー。
そんなことを考えていると、ペトラがリヴァイに話しかけた。

「リヴァイ兵長、いくら記憶を取り戻すためだとしても、
　男女がひとつ屋根の下で2人きりというのは、あまり良くないと思います。」
「そんな…！俺は何もー。」
「兵長も心配ですよね？　
　私がモブリットさん達と一緒についていきますよ。」
「いやいや、ペトラ、心配しすぎだよ～。
　モブリットだよ？人畜無害の彼に限って、そんな間違いなんて起こるわけないよ～。」

ハンジがアハハと笑う。
冷や汗まで見えそうなくらいに、下手くそな笑いだ。
それに同意して頷いているモブリットも、嘘くさい。
基本的に、嘘のつけない良い人の彼らは、誤魔化すのが壊滅的に下手らしい。
リヴァイは、彼らを見た後に、私に視線を向けた。

「大丈夫だよ。モブリットと2人で待ってるよ。
　私のこと、信じてるでしょう？」

ニコリと微笑んでみた。
それを見て、リヴァイはペトラに答えを伝える。

「お前も行け。しっかり見張っとけ。」

私のことは、信じてないらしい。

「了解しました！」

ペトラが敬礼で応えた。
とても困ったことに、なったー。