◇24話◇昼間の天使
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まだ完治したわけじゃない。
さっきみたいに背中を痛めて、完治まで伸びても良くないと、なまえには今日は雨を降らせるのは終わりにさせた。
なまえが背中を痛めたその瞬間を見ていた調査兵達もそれには賛成で、彼女は今、休憩所のベンチに腰を降ろしていた。
訓練を始めた調査兵達になまえが楽しそうに声援を送るから、今日はいつもよりも兵士達の士気が上がっている気がする。
彼女の隣に座っていたモブリットは、膝の上の自分の手を見下ろす。
さっき、彼女の身体を支えたとき、思わず両手で抱きしめてしまった。
本当は、片手でだって軽く持ち上げられそうなくらいに彼女の身体は軽かった。
なまえもそうだったのだろうか。あんなに軽かったのだろうか。
いやきっと、筋肉量の差だ。
訓練兵団からずっと鍛錬を積んでいたなまえの身体は、華奢に見えてしっかりと筋肉がついていた。
だから、軽々と立体起動装置を装着して空を飛べたのだ。
でも、今、隣で調査兵達に笑顔の声援を送っている彼女は違う。
立体起動装置を装着すれば、1秒だって立っていられない。
この世界の成り立ちすら知らず、巨人を前にすれば、逃げることも出来ずに気絶してしまう。
そう、彼女はこの世界では1人では生きられない。
強く生きていたなまえとは違う。
人類最強の兵士の隣に堂々と立っていた凛々しいなまえとは、違うー。
誰かが、守ってやらないとー。
「ねぇ、モブリット。」
「ぅわッ!?」
考え事をしている最中だったモブリットは、急に話しかけられて、上ずった声を出してしまった。
そして、呆気にとられた彼女に、驚かせたことを謝られて、どうしようもない気持ちになる。
「いや、大丈夫。どうした?」
「昨日、リヴァイがね、なまえがー。」
彼女の口から、とても自然にリヴァイの名前が出た。
リヴァイを呼び捨てに出来る人間なんて限られているから余計に、まるで、本当に恋人同士みたいに感じた。
それはきっと、なまえがしっかりと交換条件をのんで約束を守っている証拠だ。
それなのに、どうしてだろう。
凄く嫌な気分だ。
だって、最初はあんなに、リヴァイのことを嫌っていたのにー。
「モブリット、どうしたの?息が苦しいの?」
「っ!?」
様子がおかしいと気づいてしまったのか、なまえが、顔を覗き込んだ。
さっきほどではないものの、至近距離に、自分のことを心配そうに見つめるなまえの瞳があって、あからさまに動揺してしまう。
「いや…!ちょっと…!アレだよ!ハンジ分隊長の実験に付き合わされてっ!疲れてて!!」
「そっか。大変なんだね。
リヴァイが、ハンジの部下はモブリットしか務まらないって褒めてたよ。」
「そ…、そうか。リヴァイ兵長に褒められるなんて光栄だな。」
照れ臭いフリをして、頭を掻く。
嬉しい気持ちは嘘じゃない。でも、どうしてだろう。
心の中でグルグルしているのは、そういう感情じゃなくてー。
これ以上、その答えを探す行為は自殺行為だ。
すぐにそれに気づけた自分を、むしろ褒めたいくらいだった。
「それで、リヴァイ兵長がどうしたんだい?」
「あぁ…!昨日、リヴァイが、なまえは高いところが好きだったって言ってたんだけど、本当?」
「高いところ?どうだったかなぁ…。あぁ、そういえば、訓練兵時代は高所恐怖症で
立体起動装置で空を飛ぶ度に悲鳴上げてたかな。段々、慣れていったみたいだけど。」
「やっぱり!そうだよねっ!あぁ、よかった~。
高所恐怖症は私だけかと思ったよ。やっぱり、同じだよね。」
なまえがホッとしたように言って、少し困ったように笑う。
そうか、リヴァイは既に兵士になっていたなまえしか知らない。
だから、実はモブリットの方が知っているなまえもいたのだ。
そんなことに、今さら気づいた。
それなら今、彼女のことをよく知っているのは、自分だろうか。それとも、リヴァイだろうか。
きっとそれは、自分に違いないー。
だって、リヴァイは、彼女のことをなまえだと信じ切っているから。
彼女のことなんて、何も知らないのだー。
「ふぁ~…。ねむ。」
彼女が細い手で小さな口を隠し、欠伸をこぼす。
よく見れば、眠たそうな目をしている。
「昨日、眠れなかったのかい?」
「うん。寝てる間に私が逃げないように
リヴァイの腕が雁字搦めに閉じ込めるから。」
「それは…、身体が痛くなりそうだね。」
「そうなの。リヴァイも痛くないのかな?
まぁ、いつもはそれでも眠れるんだけどね。昨日は一睡もできなくって。」
ため息交じりに言って、彼女はまた小さく欠伸を漏らした。
一緒に眠っているのだろうとは思っていたけれど、毎晩抱きしめられているのか。
さっき、ほんの一瞬だけ抱きしめた細い身体を、リヴァイは毎晩ー。
「俺が肩貸してあげるから、少し寝たらどうだい?」
「え、いいの?」
「きっと、外の風に当たりながら眠ったら気持ちがいいよ。
今日は天気がいいし、お昼寝日和だ。」
「そうだね…。モブリットがいいなら、甘えちゃおうかな。」
「どうぞ。」
上目遣いのなまえが愛らしくて、モブリットはクスリと笑う。
それからすぐ、躊躇いがちに、そっと、なまえの頭が肩に乗った。
ふわりと届く甘い香りは、なまえと同じだった。
これが、ミケが言っていた同じ匂いというのだろうか。
だから、リヴァイも彼女をなまえだと信じて疑わないのだろう。
「どうして、昨日は一睡もできなかったの?何かあった?」
「んー…、緊張と…、胸の、痛み…ー。」
最初からふわふわとしていた答えは、途中から小さく消えていった。
それと同時に、肩に乗る頭の重さが増す。
あっという間に眠ってしまったようで、モブリットも驚きを隠せない。
一睡もしていない、というのは言葉のあやでもなんでもなく、事実だったのだろう。
いきなり目の前に現れた男に、自分は恋人だと言われて、その友人達には、恋人のフリを強要されてー。
彼女の心には、どれだけの負担がかかっているのだろう。
親しくもない男に抱きしめられながら夜を明かすなんて、きっと彼女は簡単にできるような女じゃない。
だからきっと、夜も眠れないくらいに苦しんでー。
「俺が、守ってあげるよ。」
せめて、彼女が元の世界に戻るまでは、守ってあげよう。
なまえが生き返ったと信じているリヴァイには、無理だ。むしろ、傷つけて、苦しめるだけだ。
彼女がなまえではないと知っている自分にしか、出来ないことだからー。
元の世界に戻る前に彼女が潰れてしまったら、恋人のフリどころではなくなる。
それは、最善ではない。
だからこれは、間違いじゃない、はずー。
柔らかい風が吹く。
モブリットの肩に寄り掛かったなまえは、それからしばらく、安心しきったように小さな寝息を立て、眠っていた。
どんな夢を見ているのだろう。
そこは、パラレルワールドの向こうの世界なのだろうかー。
いつか必ず、彼女は、決して触れることの出来ないその世界に帰るのだー。
さっきみたいに背中を痛めて、完治まで伸びても良くないと、なまえには今日は雨を降らせるのは終わりにさせた。
なまえが背中を痛めたその瞬間を見ていた調査兵達もそれには賛成で、彼女は今、休憩所のベンチに腰を降ろしていた。
訓練を始めた調査兵達になまえが楽しそうに声援を送るから、今日はいつもよりも兵士達の士気が上がっている気がする。
彼女の隣に座っていたモブリットは、膝の上の自分の手を見下ろす。
さっき、彼女の身体を支えたとき、思わず両手で抱きしめてしまった。
本当は、片手でだって軽く持ち上げられそうなくらいに彼女の身体は軽かった。
なまえもそうだったのだろうか。あんなに軽かったのだろうか。
いやきっと、筋肉量の差だ。
訓練兵団からずっと鍛錬を積んでいたなまえの身体は、華奢に見えてしっかりと筋肉がついていた。
だから、軽々と立体起動装置を装着して空を飛べたのだ。
でも、今、隣で調査兵達に笑顔の声援を送っている彼女は違う。
立体起動装置を装着すれば、1秒だって立っていられない。
この世界の成り立ちすら知らず、巨人を前にすれば、逃げることも出来ずに気絶してしまう。
そう、彼女はこの世界では1人では生きられない。
強く生きていたなまえとは違う。
人類最強の兵士の隣に堂々と立っていた凛々しいなまえとは、違うー。
誰かが、守ってやらないとー。
「ねぇ、モブリット。」
「ぅわッ!?」
考え事をしている最中だったモブリットは、急に話しかけられて、上ずった声を出してしまった。
そして、呆気にとられた彼女に、驚かせたことを謝られて、どうしようもない気持ちになる。
「いや、大丈夫。どうした?」
「昨日、リヴァイがね、なまえがー。」
彼女の口から、とても自然にリヴァイの名前が出た。
リヴァイを呼び捨てに出来る人間なんて限られているから余計に、まるで、本当に恋人同士みたいに感じた。
それはきっと、なまえがしっかりと交換条件をのんで約束を守っている証拠だ。
それなのに、どうしてだろう。
凄く嫌な気分だ。
だって、最初はあんなに、リヴァイのことを嫌っていたのにー。
「モブリット、どうしたの?息が苦しいの?」
「っ!?」
様子がおかしいと気づいてしまったのか、なまえが、顔を覗き込んだ。
さっきほどではないものの、至近距離に、自分のことを心配そうに見つめるなまえの瞳があって、あからさまに動揺してしまう。
「いや…!ちょっと…!アレだよ!ハンジ分隊長の実験に付き合わされてっ!疲れてて!!」
「そっか。大変なんだね。
リヴァイが、ハンジの部下はモブリットしか務まらないって褒めてたよ。」
「そ…、そうか。リヴァイ兵長に褒められるなんて光栄だな。」
照れ臭いフリをして、頭を掻く。
嬉しい気持ちは嘘じゃない。でも、どうしてだろう。
心の中でグルグルしているのは、そういう感情じゃなくてー。
これ以上、その答えを探す行為は自殺行為だ。
すぐにそれに気づけた自分を、むしろ褒めたいくらいだった。
「それで、リヴァイ兵長がどうしたんだい?」
「あぁ…!昨日、リヴァイが、なまえは高いところが好きだったって言ってたんだけど、本当?」
「高いところ?どうだったかなぁ…。あぁ、そういえば、訓練兵時代は高所恐怖症で
立体起動装置で空を飛ぶ度に悲鳴上げてたかな。段々、慣れていったみたいだけど。」
「やっぱり!そうだよねっ!あぁ、よかった~。
高所恐怖症は私だけかと思ったよ。やっぱり、同じだよね。」
なまえがホッとしたように言って、少し困ったように笑う。
そうか、リヴァイは既に兵士になっていたなまえしか知らない。
だから、実はモブリットの方が知っているなまえもいたのだ。
そんなことに、今さら気づいた。
それなら今、彼女のことをよく知っているのは、自分だろうか。それとも、リヴァイだろうか。
きっとそれは、自分に違いないー。
だって、リヴァイは、彼女のことをなまえだと信じ切っているから。
彼女のことなんて、何も知らないのだー。
「ふぁ~…。ねむ。」
彼女が細い手で小さな口を隠し、欠伸をこぼす。
よく見れば、眠たそうな目をしている。
「昨日、眠れなかったのかい?」
「うん。寝てる間に私が逃げないように
リヴァイの腕が雁字搦めに閉じ込めるから。」
「それは…、身体が痛くなりそうだね。」
「そうなの。リヴァイも痛くないのかな?
まぁ、いつもはそれでも眠れるんだけどね。昨日は一睡もできなくって。」
ため息交じりに言って、彼女はまた小さく欠伸を漏らした。
一緒に眠っているのだろうとは思っていたけれど、毎晩抱きしめられているのか。
さっき、ほんの一瞬だけ抱きしめた細い身体を、リヴァイは毎晩ー。
「俺が肩貸してあげるから、少し寝たらどうだい?」
「え、いいの?」
「きっと、外の風に当たりながら眠ったら気持ちがいいよ。
今日は天気がいいし、お昼寝日和だ。」
「そうだね…。モブリットがいいなら、甘えちゃおうかな。」
「どうぞ。」
上目遣いのなまえが愛らしくて、モブリットはクスリと笑う。
それからすぐ、躊躇いがちに、そっと、なまえの頭が肩に乗った。
ふわりと届く甘い香りは、なまえと同じだった。
これが、ミケが言っていた同じ匂いというのだろうか。
だから、リヴァイも彼女をなまえだと信じて疑わないのだろう。
「どうして、昨日は一睡もできなかったの?何かあった?」
「んー…、緊張と…、胸の、痛み…ー。」
最初からふわふわとしていた答えは、途中から小さく消えていった。
それと同時に、肩に乗る頭の重さが増す。
あっという間に眠ってしまったようで、モブリットも驚きを隠せない。
一睡もしていない、というのは言葉のあやでもなんでもなく、事実だったのだろう。
いきなり目の前に現れた男に、自分は恋人だと言われて、その友人達には、恋人のフリを強要されてー。
彼女の心には、どれだけの負担がかかっているのだろう。
親しくもない男に抱きしめられながら夜を明かすなんて、きっと彼女は簡単にできるような女じゃない。
だからきっと、夜も眠れないくらいに苦しんでー。
「俺が、守ってあげるよ。」
せめて、彼女が元の世界に戻るまでは、守ってあげよう。
なまえが生き返ったと信じているリヴァイには、無理だ。むしろ、傷つけて、苦しめるだけだ。
彼女がなまえではないと知っている自分にしか、出来ないことだからー。
元の世界に戻る前に彼女が潰れてしまったら、恋人のフリどころではなくなる。
それは、最善ではない。
だからこれは、間違いじゃない、はずー。
柔らかい風が吹く。
モブリットの肩に寄り掛かったなまえは、それからしばらく、安心しきったように小さな寝息を立て、眠っていた。
どんな夢を見ているのだろう。
そこは、パラレルワールドの向こうの世界なのだろうかー。
いつか必ず、彼女は、決して触れることの出来ないその世界に帰るのだー。