◇23話◇星の鳴き声が胸をかきむしる
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リヴァイが私を連れてきたのは、旧調査兵団本部の古城の屋根の上だった。
突然、私を横抱きにしたかと思ったら、いきなり空を飛びだすから、こんな真夜中に尋常ではない悲鳴を上げてしまった。
調査兵達が、怖い夢でも見ていなければいい。
「放さないでっ!絶対に放さないでよっ!!」
リヴァイは腕から降りろと言っていたけれど、私は必死にその首にしがみついていた。
だって、高所恐怖症の私が、どうして古城の一番高い屋根の上に乗らないといけないのだ。
一体、何の罰ゲームだ。
あれか、記憶を取り戻せなかった私への嫌がらせか。
「まさか、高いところが怖いのか。」
「怖いよ!」
「この前、俺の部屋の窓から逃げたじゃねぇーか。」
「あれは、高いところどころか巨人が怖過ぎて麻痺してたのっ。
私が高所恐怖症だって、恋人だったなら知ってるでしょ!」
「…いや、お前は高いところが好きだった。
よく屋根の上を散歩してただろ。」
「・・・・・・へ、へぇ~。覚えてないな~…。」
なまえとの違いがあったらしい。
どうしよう、とてもマズい。
でも、怖いものは怖いので、リヴァイにしがみつく手を離す勇気はない。
仕方ないと思ったのか、リヴァイは私を抱きかかえたまま、屋根の上に腰を降ろした。
いくらか視線が下がってー。
それでも、高すぎて怖さは変わらなかった。
でも、腕が離れて落とされてしまうんじゃないかという恐怖からは幾らか解放されてホッとする。
会ったばかりの男の膝の上に、横抱きのままの状態で座って、首に両手をまわして抱き着いているなんて、信じられない。
でも、離れられない。
恋的なアレではなくて、恐怖的なアレで。
「…私が高いところが好きなだから、連れてきたの?」
「それもある。久しぶりに散歩でもしようかと思ってた。
でも、見せたかったのは、上だ。」
リヴァイが顔を上げて、空を指さした。
その指の先を追いかけるように、私も顔を上げた。
そこにあったのは、幾千の星空だった。
夜空を星が埋め尽くしているー、そんな表現がぴったりだと思う。
プラネタリウムだって作りだせないくらいにロマンチックで、美しい夜空がそこにあった。
本当に、すごくー。
「キレー…。」
「気に入ったか。」
「うん、すごい。今、すごく、感動してる。
本当に、綺麗…。」
首が痛くなるくらいに、私は満天の星空を見上げた。
この世界に来て、最悪なことばかりだった。
身に覚えのない恋人はいるし、巨人はいるし、巨人化する人間までいるしー。
でも、今、初めて、この世界に来てよかったと思った。
だって、こんな綺麗な星空、私のいた世界にはないー。
「こんな素敵な星空を見られるなんて、思ってなかった…。
私、すごく幸せだよ。本当にありがとう。」
リヴァイの方を見て、感謝の気持ちを伝えた。
すると、リヴァイが嬉しそうにー。
本当に嬉しそうに、笑ってー。
「ならよかった。」
頬を緩めて幸せそうに笑ったリヴァイは、私を後ろから抱きしめる。
あぁ、嬉しいとき、リヴァイはそんな顔をするんだー。
まるで子供みたいに無邪気な笑みで、嬉しそうに目を細めて、声色まですごく柔らかくなってー。
「文字の勉強を頑張ってくれて、ありがとう。」
「え?」
「モブリットから、なまえが必死に文字を勉強してると聞いていた。
テストに合格したら何か褒美をやりたかったんだが、俺はここから離れられねぇし、
これくらいしか思いつかなかったんだ。喜んで貰えたなら、よかった。」
「うん。嬉しい。」
私をギュゥッと抱きしめて、肩に顔を埋めながらリヴァイは柔らかい声色のままで言う。
胸の前にまわったリヴァイの腕を私の手がギュゥッと握りしめた。
頬が緩んでいるのが、自分でも分かった。
本当に、嬉しかった。
生まれて初めて見る感動するほどに美しい星空が、文字の勉強を頑張った私へのご褒美ー。
またなまえのことを想って、星空を見上げたくなったのかと思っていた。
そうか、今日のこれは、私のためなんだ。
なまえじゃなくて、勉強を頑張った私のためにー。
「また見たくなったら言えよ。いつでも見せてやる。」
リヴァイは私の顔を覗き込んだ。
「本当!?嬉しいっ。約束だよ!」
「あぁ、約束だ。」
リヴァイが優しく私の髪を撫でる。
さっきの子供みたいな無邪気な笑みではなくて、切れ長の瞳を細めた柔らかいその表情はとても素敵な大人の男性でー。
キュンー。
胸が鳴った音がした。
(キュン…?)
聞き間違えだと思って、私は自分の胸元を見下ろす。
いや、まさか、ありえない。
リヴァイにキュンはない。
絶対に、ない。
綺麗な星の音が、キュン、なのだ。きっと。
星は、キュン、と鳴くのだ、きっと。
世紀の大発見だ。星の鳴き声をー。
「なまえは昔から星を見るのが好きだから、
今日、ハンジから今夜は星が綺麗だと聞いた時から、見せてやりてぇと思ってたんだ。
喜んでもらえて、本当によかった。」
リヴァイが嬉しそうに言って、夜空を見上げた。
さっき、執務室の窓から夜空を見上げていたリヴァイの綺麗な横顔が蘇る。
物憂げな切れ長の目がー。
あぁ、そうかー。
あのとき、リヴァイはやっぱり、在りし日のなまえを見つめていたんだ。
そうか。
これは、私へのご褒美なんかじゃない。
リヴァイは、彼女を喜ばせたかったんだ。
純粋にただ、愛おしいなまえに大好きな星を見せたかっただけだー。
そうかー。
どうしてだろう。
さっきまで、私はすごく嬉しかったはずなのにー。
なぜか急に氷が心に落ちて来たみたいに気持ちが冷めてしまって、星空を見上げるのが、嫌になった。
首は痛いし、よく考えるとそんなに綺麗じゃないし、街角のクリスマスイルミネーションとかの方が絶対綺麗だし、それに、別に星とか好きじゃないしー。
夜空の闇は、幾千の綺麗な星が輝いているおかげでひどく明るいのに、私の心は闇で真っ暗になりそうで、かきむしるようにシャツの胸元を握りしめる。
それから、リヴァイが部屋に戻ろうと言うまで、私はずっと、夜空を見上げるフリをして、遠く遠くにある見えもしない壁を見ていた。
突然、私を横抱きにしたかと思ったら、いきなり空を飛びだすから、こんな真夜中に尋常ではない悲鳴を上げてしまった。
調査兵達が、怖い夢でも見ていなければいい。
「放さないでっ!絶対に放さないでよっ!!」
リヴァイは腕から降りろと言っていたけれど、私は必死にその首にしがみついていた。
だって、高所恐怖症の私が、どうして古城の一番高い屋根の上に乗らないといけないのだ。
一体、何の罰ゲームだ。
あれか、記憶を取り戻せなかった私への嫌がらせか。
「まさか、高いところが怖いのか。」
「怖いよ!」
「この前、俺の部屋の窓から逃げたじゃねぇーか。」
「あれは、高いところどころか巨人が怖過ぎて麻痺してたのっ。
私が高所恐怖症だって、恋人だったなら知ってるでしょ!」
「…いや、お前は高いところが好きだった。
よく屋根の上を散歩してただろ。」
「・・・・・・へ、へぇ~。覚えてないな~…。」
なまえとの違いがあったらしい。
どうしよう、とてもマズい。
でも、怖いものは怖いので、リヴァイにしがみつく手を離す勇気はない。
仕方ないと思ったのか、リヴァイは私を抱きかかえたまま、屋根の上に腰を降ろした。
いくらか視線が下がってー。
それでも、高すぎて怖さは変わらなかった。
でも、腕が離れて落とされてしまうんじゃないかという恐怖からは幾らか解放されてホッとする。
会ったばかりの男の膝の上に、横抱きのままの状態で座って、首に両手をまわして抱き着いているなんて、信じられない。
でも、離れられない。
恋的なアレではなくて、恐怖的なアレで。
「…私が高いところが好きなだから、連れてきたの?」
「それもある。久しぶりに散歩でもしようかと思ってた。
でも、見せたかったのは、上だ。」
リヴァイが顔を上げて、空を指さした。
その指の先を追いかけるように、私も顔を上げた。
そこにあったのは、幾千の星空だった。
夜空を星が埋め尽くしているー、そんな表現がぴったりだと思う。
プラネタリウムだって作りだせないくらいにロマンチックで、美しい夜空がそこにあった。
本当に、すごくー。
「キレー…。」
「気に入ったか。」
「うん、すごい。今、すごく、感動してる。
本当に、綺麗…。」
首が痛くなるくらいに、私は満天の星空を見上げた。
この世界に来て、最悪なことばかりだった。
身に覚えのない恋人はいるし、巨人はいるし、巨人化する人間までいるしー。
でも、今、初めて、この世界に来てよかったと思った。
だって、こんな綺麗な星空、私のいた世界にはないー。
「こんな素敵な星空を見られるなんて、思ってなかった…。
私、すごく幸せだよ。本当にありがとう。」
リヴァイの方を見て、感謝の気持ちを伝えた。
すると、リヴァイが嬉しそうにー。
本当に嬉しそうに、笑ってー。
「ならよかった。」
頬を緩めて幸せそうに笑ったリヴァイは、私を後ろから抱きしめる。
あぁ、嬉しいとき、リヴァイはそんな顔をするんだー。
まるで子供みたいに無邪気な笑みで、嬉しそうに目を細めて、声色まですごく柔らかくなってー。
「文字の勉強を頑張ってくれて、ありがとう。」
「え?」
「モブリットから、なまえが必死に文字を勉強してると聞いていた。
テストに合格したら何か褒美をやりたかったんだが、俺はここから離れられねぇし、
これくらいしか思いつかなかったんだ。喜んで貰えたなら、よかった。」
「うん。嬉しい。」
私をギュゥッと抱きしめて、肩に顔を埋めながらリヴァイは柔らかい声色のままで言う。
胸の前にまわったリヴァイの腕を私の手がギュゥッと握りしめた。
頬が緩んでいるのが、自分でも分かった。
本当に、嬉しかった。
生まれて初めて見る感動するほどに美しい星空が、文字の勉強を頑張った私へのご褒美ー。
またなまえのことを想って、星空を見上げたくなったのかと思っていた。
そうか、今日のこれは、私のためなんだ。
なまえじゃなくて、勉強を頑張った私のためにー。
「また見たくなったら言えよ。いつでも見せてやる。」
リヴァイは私の顔を覗き込んだ。
「本当!?嬉しいっ。約束だよ!」
「あぁ、約束だ。」
リヴァイが優しく私の髪を撫でる。
さっきの子供みたいな無邪気な笑みではなくて、切れ長の瞳を細めた柔らかいその表情はとても素敵な大人の男性でー。
キュンー。
胸が鳴った音がした。
(キュン…?)
聞き間違えだと思って、私は自分の胸元を見下ろす。
いや、まさか、ありえない。
リヴァイにキュンはない。
絶対に、ない。
綺麗な星の音が、キュン、なのだ。きっと。
星は、キュン、と鳴くのだ、きっと。
世紀の大発見だ。星の鳴き声をー。
「なまえは昔から星を見るのが好きだから、
今日、ハンジから今夜は星が綺麗だと聞いた時から、見せてやりてぇと思ってたんだ。
喜んでもらえて、本当によかった。」
リヴァイが嬉しそうに言って、夜空を見上げた。
さっき、執務室の窓から夜空を見上げていたリヴァイの綺麗な横顔が蘇る。
物憂げな切れ長の目がー。
あぁ、そうかー。
あのとき、リヴァイはやっぱり、在りし日のなまえを見つめていたんだ。
そうか。
これは、私へのご褒美なんかじゃない。
リヴァイは、彼女を喜ばせたかったんだ。
純粋にただ、愛おしいなまえに大好きな星を見せたかっただけだー。
そうかー。
どうしてだろう。
さっきまで、私はすごく嬉しかったはずなのにー。
なぜか急に氷が心に落ちて来たみたいに気持ちが冷めてしまって、星空を見上げるのが、嫌になった。
首は痛いし、よく考えるとそんなに綺麗じゃないし、街角のクリスマスイルミネーションとかの方が絶対綺麗だし、それに、別に星とか好きじゃないしー。
夜空の闇は、幾千の綺麗な星が輝いているおかげでひどく明るいのに、私の心は闇で真っ暗になりそうで、かきむしるようにシャツの胸元を握りしめる。
それから、リヴァイが部屋に戻ろうと言うまで、私はずっと、夜空を見上げるフリをして、遠く遠くにある見えもしない壁を見ていた。