数日もすれば、背中の痛みはだいぶ引いていた。
立って歩けるようになったことで、私にはリヴァイから新たなミッションが言い渡されていた。

「今さら、文字の勉強をすることになるとは思ってなかったよ…。」

リヴァイの執務室。
広く大きなデスクで、私はこの世界の文字の勉強をしている。
先生は、リヴァイから指名されたモブリットだ。
隣に持ってきた椅子に座って教えてくれるのだけれど、逆さまのカタカナにしか見えなくて、頭が痛くなるばかりだ。
リヴァイは、兵士としての生活は二度と思い出さなくていいと言っている。
でも、それ以外は何が何でも思い出してほしいようだった。
だから、日常生活で当たり前に使っていた文字を覚えれば、それがきっかけで何かを思い出すんじゃないかと考えたらしい。

「休憩する？」
「…いい。リヴァイが帰ってきたらテストがあるから。」
「えっ！？そんなのがあるの！？」

酷く驚いているモブリットに、昨日のテスト用紙を見せてあげた。
テストのやり方は至極簡単だ。
リヴァイが言った言葉を、この世界の文字で書くのだ。
バツばかりのそれを見たモブリットは、私が休憩を断った理由を理解したらしい。

「どうしても、思い出してほしいんだね。」
「記憶なんて、私にはないのにね…。
　いつまでこんなこと続けるんだろう…。」
「ごめん…。」

モブリットが目を伏せて申し訳なさそうに謝る。
気にしなくていいよー、そう言ってあげたいところだけれど、その代わりにため息が漏れる。
私の心は疲れ切っていた。
パラレルワールドにトリップなんてわけのわからない状況に加えて、好きでもない男の恋人役を押しつけられて、大怪我してもおかしくない事故に巻き込まれる。
巨人だっているし、意味の分からない文字を勉強までさせられる。
もう、疲れたー。

「ハンジは、何か分かったのかな…？」
「ソニーとビーンの実験の合間に、俺も一緒にいろいろ調べてるんだけど、
　パラレルワールドの諸説はいろいろあるんだけど、有力な情報は何も…。
　そもそもなまえがしでかしたことだから、なまえに聞きたいくらいで…。」

私とモブリットから、同時にため息が漏れた。
まだ帰れそうにないようだ。
ということは、まだまだこの世界の文字の勉強をさせられるということだ。
元の世界に戻っても、何の役にも立たない逆さカタカナをー。
途方に暮れそうになって、私はまたため息を吐いた。