◇18話◇兵士の記憶(後編)
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誰かが謝っている声が、ずっと聞こえていた。
あのエレンという青年だろうか。彼はまだ、謝っているのだろうか。
亡くなった命はもう戻ってこない。
それなら彼は、永遠に謝り続けるのだろうか。
そんなの、つらすぎる。悲しすぎるー。
「すまない…。」
何度目かの謝りの声を聞きながら、私はゆっくり目を開けた。
私の手を痛いくらいに握りしめていたのは、リヴァイだったようだ。
椅子に腰かけたリヴァイは、ベッドに両肘をついて、まるでお祈りでもするみたいに、両手で握りしめた私の手を額に当てて目を伏せていた。
あぁ、エレンだけじゃない。
この人も、謝りたいんだ。ずっと、ずっとー。
意識が遠のいた後も、ずっと調査兵達の声が聞こえていた。
この世界にいたなまえがどうして死ななければならなかったのか。
そして、今のリヴァイの任務というのが何なのかも知ってしまった。
だから、どうして、エレンが苦しんでいるのかも、なんとなく分かった。
「また生き返りますようにってお祈りしてるの?」
「…!」
リヴァイが勢いよく顔を上げた。
目が合うと、強く抱きしめられてー。
胸のあたりにヒドイ痛みが走った。
「痛…っ。」
「あ、すまねぇ。」
リヴァイは謝ったけれど、離れる気はないようだった。
ただ、腕の力が緩んだおかげで痛みはなくなった。
でもきっと、また動くと痛いのだろうと思う。
骨でも折れたのだろうか。
「起こしてくれる?」
「痛ぇだろ。寝とけ。」
「だって、抱きしめづらいでしょう?」
「…痛かったら言えよ。」
リヴァイの手が背中にまわる。
そして、まるでガラス細工でも扱うみたいにそっと、そっと、身体を起こされた。
そのおかげで、身体を起こされているときはあまり痛みを感じなかったのだが、座る態勢になった途端に、ヒドイ痛みが胸のあたりに走った。
「大丈夫か?!」
痛みに顔を歪めた私に、リヴァイが狼狽える。
私は、彼女ではないけれど、今のリヴァイの気持ちならよくわかる。
怖いのだ、きっと。
また、恋人を失うんじゃないかって、怖いのだろう。
「ねぇ、リヴァイ。」
「なんだ、なんでも言え。俺がなんでもしてやー。」
リヴァイの両頬をつねった。
心配そうにしている顔すら仏頂面の男の頬が横に伸びる。
それでもやっぱり、仏頂面は変わらなくて、笑える。
吹き出したら、また胸のあたりにヒドイ痛みが走った。
「…なにひゃってんだ、おまへは。」
「ちゃんと喋れてないよ、リヴァイ。」
「だれのへいだとおもってんだ。」
「お願い、胸が痛いの。笑わせないで…っ。」
「…。」
リヴァイの両頬をつねったまま、私は必死に笑いを堪える。
笑ったらきっと、私は死んでしまう。
痛みで死んでしまうと思うのだ。
胸のあたりがなぜ痛いのかは分からないけれどー。
深呼吸をして落ち着きたかったけれど、それすら痛そうだったから、浅く息をして気持ちを落ち着ける。
漸く落ち着いたところで、私はリヴァイを見て、両頬をつねった理由を教えてやることにした。
「頬、痛い?」
「…いはくねぇ。」
「これは?」
両頬をつねる手に少し力を入れてみた。
それでも、リヴァイは痛くないと言う。
それなら、もっともっととつねる手に力を入れてみるのだけれど、リヴァイは頑なに、ちゃんと喋れない口で、痛くないと繰り返す。
それなら仕方がない。
「じゃあ、これはどうだっ。」
私は思いっきり、両頬をグイッとまわすように捻ってー。
「い…ッ、てぇなッ!てめぇは!何がしてぇんだ!?」
ついにリヴァイがキレた。
怖い顔で怒りながら、それでも私の両手を振りほどかないのは、彼が優しさを残せる余裕のある程度しか痛くなかったということなのだろう。
「よかった。じゃあ、夢じゃないね。」
「…は?」
「私が生きてるのは、夢じゃないよ、リヴァイ。
大丈夫。心配しないで。」
「…クソが。そんなことは確かめなくても、知ってんだよ。バカやろう。」
意図に気づいたリヴァイは、僅かに目を伏せて、苦し気に言う。
そして、自分の両頬をつまむ私の両手を捕まえた。
痛いくらいに私の両手を握りしめるその姿は、相変わらず痛々しい。
だから、この世界のなまえは、彼を必死に助けたいと願ったのだろう。
そのせいで、私はこんなに恐ろしい世界に飛ばされてしまったのだけれどー。
彼らの深い愛には、正直、羨ましいと思う。
パラレルワールド説が事実なら、別世界で生きる同一人物のはずなのに、私はそんな愛を見つけられなかったし、見つけてももらえなかったからー。
「ねぇ、胸のあたりが痛いのはなんで?」
「あぁ…、後で詳しく調べるが、壁に背中をぶつけたときに肺をやられたんだろう。
背中にも打撲が出来てる。今は包帯で固定してある。
あまり動くな、だそうだ。」
「包帯?」
私は自分の胸元を見下ろした
そして、サーッと血の気が引く。
今朝、無理やり着せられた兵団服じゃない。
真っ白い病衣に着替えさせられている。
ブラも外されて、胸の上から直接包帯を巻かれているようだった。
「心配するな。俺は何も見てねぇ。」
私が何を考えているか、リヴァイは分かったらしい。
恐る恐る顔を上げる。
目が合ったリヴァイは、嘘を吐いているようには見えなかった。
だってー。
「俺に見られるのは嫌なんだろ。」
とても傷ついた顔で、リヴァイは、否定できないことを言う。
平気だと言ったら、それ以上を望まれそうで怖い。
確かに、ハンジに協力するとは約束した。
そのために、私は今日、それなりに頑張ったと思う。
でも、好きでもない男と恋人らしいことをすることは、出来ないー。
何も言えずにいると、リヴァイが続けた。
「着替えも、包帯を巻くのも、ニファにやらせた。」
「ニファ?」
「ハンジの班の女兵士だ。お前とも仲が良かった。」
「そっか…。ありがとう。」
「あぁ。」
気まずい空気が流れる。
本当の恋人同士なら、無事を喜んで、楽しく話していたのだろうか。
どうしてなまえは死んでしまったのだろう。
あぁ、そうか。エレンを守ってー。
「もう一回、ほっぺつねってもいい?」
「クソが。」
「ケチ。」
口を尖らせれば、リヴァイが呆れた様にため息をついた。
でも、表情がいくらか柔らかくなったような気がして、少し安心する。
友達に紹介された男の人とデートくらいならしていたけれど、もうしばらくちゃんとした恋人なんていなかった。
だから、恋人のフリをしてくれと頼まれても、正直どうすればいいのかよく分からないー。
なまえは5年以上続く恋人がいて、結婚の予定まであったのにー。
ずっと恋人のいなかった私が、彼女の代わりに恋人のフリをすることになるなんてー。
なんだか、自分の人生が虚しくなってきた。
「やっぱり、ほっぺつねらせろ!」
「…!?」
驚くリヴァイの両頬を思いっきりつねってやった。
何するんだ、と怒っているけれど、一体誰のせいでこんなことになったと思っているのだ。
怪我をする羽目になったのは、誰のせいでもない。
お前の恋人のせいだー。
「食らえっ!」
「…へんひほうでよはっは。」
「笑わせないでって、言ってるでしょ…っ!」
仏頂面で頬を伸ばすリヴァイに、仕返しにあった。
肋骨が、痛いー!
あのエレンという青年だろうか。彼はまだ、謝っているのだろうか。
亡くなった命はもう戻ってこない。
それなら彼は、永遠に謝り続けるのだろうか。
そんなの、つらすぎる。悲しすぎるー。
「すまない…。」
何度目かの謝りの声を聞きながら、私はゆっくり目を開けた。
私の手を痛いくらいに握りしめていたのは、リヴァイだったようだ。
椅子に腰かけたリヴァイは、ベッドに両肘をついて、まるでお祈りでもするみたいに、両手で握りしめた私の手を額に当てて目を伏せていた。
あぁ、エレンだけじゃない。
この人も、謝りたいんだ。ずっと、ずっとー。
意識が遠のいた後も、ずっと調査兵達の声が聞こえていた。
この世界にいたなまえがどうして死ななければならなかったのか。
そして、今のリヴァイの任務というのが何なのかも知ってしまった。
だから、どうして、エレンが苦しんでいるのかも、なんとなく分かった。
「また生き返りますようにってお祈りしてるの?」
「…!」
リヴァイが勢いよく顔を上げた。
目が合うと、強く抱きしめられてー。
胸のあたりにヒドイ痛みが走った。
「痛…っ。」
「あ、すまねぇ。」
リヴァイは謝ったけれど、離れる気はないようだった。
ただ、腕の力が緩んだおかげで痛みはなくなった。
でもきっと、また動くと痛いのだろうと思う。
骨でも折れたのだろうか。
「起こしてくれる?」
「痛ぇだろ。寝とけ。」
「だって、抱きしめづらいでしょう?」
「…痛かったら言えよ。」
リヴァイの手が背中にまわる。
そして、まるでガラス細工でも扱うみたいにそっと、そっと、身体を起こされた。
そのおかげで、身体を起こされているときはあまり痛みを感じなかったのだが、座る態勢になった途端に、ヒドイ痛みが胸のあたりに走った。
「大丈夫か?!」
痛みに顔を歪めた私に、リヴァイが狼狽える。
私は、彼女ではないけれど、今のリヴァイの気持ちならよくわかる。
怖いのだ、きっと。
また、恋人を失うんじゃないかって、怖いのだろう。
「ねぇ、リヴァイ。」
「なんだ、なんでも言え。俺がなんでもしてやー。」
リヴァイの両頬をつねった。
心配そうにしている顔すら仏頂面の男の頬が横に伸びる。
それでもやっぱり、仏頂面は変わらなくて、笑える。
吹き出したら、また胸のあたりにヒドイ痛みが走った。
「…なにひゃってんだ、おまへは。」
「ちゃんと喋れてないよ、リヴァイ。」
「だれのへいだとおもってんだ。」
「お願い、胸が痛いの。笑わせないで…っ。」
「…。」
リヴァイの両頬をつねったまま、私は必死に笑いを堪える。
笑ったらきっと、私は死んでしまう。
痛みで死んでしまうと思うのだ。
胸のあたりがなぜ痛いのかは分からないけれどー。
深呼吸をして落ち着きたかったけれど、それすら痛そうだったから、浅く息をして気持ちを落ち着ける。
漸く落ち着いたところで、私はリヴァイを見て、両頬をつねった理由を教えてやることにした。
「頬、痛い?」
「…いはくねぇ。」
「これは?」
両頬をつねる手に少し力を入れてみた。
それでも、リヴァイは痛くないと言う。
それなら、もっともっととつねる手に力を入れてみるのだけれど、リヴァイは頑なに、ちゃんと喋れない口で、痛くないと繰り返す。
それなら仕方がない。
「じゃあ、これはどうだっ。」
私は思いっきり、両頬をグイッとまわすように捻ってー。
「い…ッ、てぇなッ!てめぇは!何がしてぇんだ!?」
ついにリヴァイがキレた。
怖い顔で怒りながら、それでも私の両手を振りほどかないのは、彼が優しさを残せる余裕のある程度しか痛くなかったということなのだろう。
「よかった。じゃあ、夢じゃないね。」
「…は?」
「私が生きてるのは、夢じゃないよ、リヴァイ。
大丈夫。心配しないで。」
「…クソが。そんなことは確かめなくても、知ってんだよ。バカやろう。」
意図に気づいたリヴァイは、僅かに目を伏せて、苦し気に言う。
そして、自分の両頬をつまむ私の両手を捕まえた。
痛いくらいに私の両手を握りしめるその姿は、相変わらず痛々しい。
だから、この世界のなまえは、彼を必死に助けたいと願ったのだろう。
そのせいで、私はこんなに恐ろしい世界に飛ばされてしまったのだけれどー。
彼らの深い愛には、正直、羨ましいと思う。
パラレルワールド説が事実なら、別世界で生きる同一人物のはずなのに、私はそんな愛を見つけられなかったし、見つけてももらえなかったからー。
「ねぇ、胸のあたりが痛いのはなんで?」
「あぁ…、後で詳しく調べるが、壁に背中をぶつけたときに肺をやられたんだろう。
背中にも打撲が出来てる。今は包帯で固定してある。
あまり動くな、だそうだ。」
「包帯?」
私は自分の胸元を見下ろした
そして、サーッと血の気が引く。
今朝、無理やり着せられた兵団服じゃない。
真っ白い病衣に着替えさせられている。
ブラも外されて、胸の上から直接包帯を巻かれているようだった。
「心配するな。俺は何も見てねぇ。」
私が何を考えているか、リヴァイは分かったらしい。
恐る恐る顔を上げる。
目が合ったリヴァイは、嘘を吐いているようには見えなかった。
だってー。
「俺に見られるのは嫌なんだろ。」
とても傷ついた顔で、リヴァイは、否定できないことを言う。
平気だと言ったら、それ以上を望まれそうで怖い。
確かに、ハンジに協力するとは約束した。
そのために、私は今日、それなりに頑張ったと思う。
でも、好きでもない男と恋人らしいことをすることは、出来ないー。
何も言えずにいると、リヴァイが続けた。
「着替えも、包帯を巻くのも、ニファにやらせた。」
「ニファ?」
「ハンジの班の女兵士だ。お前とも仲が良かった。」
「そっか…。ありがとう。」
「あぁ。」
気まずい空気が流れる。
本当の恋人同士なら、無事を喜んで、楽しく話していたのだろうか。
どうしてなまえは死んでしまったのだろう。
あぁ、そうか。エレンを守ってー。
「もう一回、ほっぺつねってもいい?」
「クソが。」
「ケチ。」
口を尖らせれば、リヴァイが呆れた様にため息をついた。
でも、表情がいくらか柔らかくなったような気がして、少し安心する。
友達に紹介された男の人とデートくらいならしていたけれど、もうしばらくちゃんとした恋人なんていなかった。
だから、恋人のフリをしてくれと頼まれても、正直どうすればいいのかよく分からないー。
なまえは5年以上続く恋人がいて、結婚の予定まであったのにー。
ずっと恋人のいなかった私が、彼女の代わりに恋人のフリをすることになるなんてー。
なんだか、自分の人生が虚しくなってきた。
「やっぱり、ほっぺつねらせろ!」
「…!?」
驚くリヴァイの両頬を思いっきりつねってやった。
何するんだ、と怒っているけれど、一体誰のせいでこんなことになったと思っているのだ。
怪我をする羽目になったのは、誰のせいでもない。
お前の恋人のせいだー。
「食らえっ!」
「…へんひほうでよはっは。」
「笑わせないでって、言ってるでしょ…っ!」
仏頂面で頬を伸ばすリヴァイに、仕返しにあった。
肋骨が、痛いー!