◇13話◇パラレルワールド
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私とモブリットの思い出話から派生して、調査兵団にいる愉快な仲間達の話が始まっていた。
穏やかな話し方のモブリットに心を許してしまったようで、いつの間にか隣に座っていて、彼の身振り手振りのおかしな話を笑いながら聞いていた。
そうしていると、最も愉快な調査兵がノックも無しに執務室の扉を開けた。
顔を見た瞬間に巨人の恐怖を思い出してクッションを抱きしめる私の隣で、モブリットはすぐに立ち上がると扉へ走った。
「やぁ、なまえ!昨日はごめんねっ!それで、早速で悪いんだけど話をー。」
「ハンジ分隊長!!リヴァイ兵長から絶対に顔を出すなと言われたのをもう忘れたんですか!?」
部屋に入って来ようとするハンジをモブリットが全身で食い止める。
それでも強引にハンジは歩みを進めようとしていた。
「さすがリヴァイだね。モブリットをなまえにつけるなんてさ。
今この場所には、君くらいしか私を止めようと出来る人はいないもんね。」
「分かってるなら、早くあなたはあなたの任務に戻ってくださいっ!」
「でも残念っ!私はモブリットに止められたことはないんだっ。
いつだって、強引な私の勝利なのだよっ!」
「威張らないでくださいっ!!」
ハンジが胸を張って宣言した通り、今回もまた、勝ちの数を増やした。
あれだけ近寄ってはいけないと言われていた私の隣にどかりと腰を降ろしたハンジは、いきなり頭を下げた。
そして、昨日、私を怖がらせたことを謝った。
きっと、悪い人では、ないのだろう。それは誠意のあるその姿で伝わってくる。
でも、どうしてもハンジを見ていると巨人を思い出してしまって、私は抱きしめたクッションに顔を埋めた。
「それでさ、今日来たのはー。」
「もういい加減にしてくださいよっ。リヴァイ兵長にバレたら大変ですよ!」
「今日来たのは、なまえがどこの誰なのかをハッキリさせるためなんだ。」
「…ハッキリ、出来るの?」
ハンジがあまりにも自信満々に言うから、私はおずおずとクッションから顔を上げてしまった。
目が合ったハンジはニンマリと笑っていて、やっぱり、とても自信がありそうだ。
私がハンジの言葉に反応したからなのか、モブリットは諦めた様子でハンジの隣に腰を降ろした。
「それじゃ、まずさ!この紙になまえの名前を書いて欲しいんだっ。」
ハンジは自分の胸ポケットから手帳を取り出すと、1枚切り取った。
そして、その切り取った紙とペンを私に渡す。
「でも、私、文字が分からない…。」
受け取った紙とペンを見下ろし、私は困ってしまう。
リヴァイが持ってきてくれた本は知らない文字だった。
でも、モブリットは普通に読めた。
それがどういうことなのかはよく分からない。
ただ分かるのは、私が知っている文字と彼らが知っている文字が、違うということだ。
「君が知っている文字で名前を書いて欲しいんだ。」
「…私が知っている文字で、いいの?」
「あぁ、いいよ。」
頷くハンジの横で、モブリットは訝しげな顔をしていた。
ハンジが何を考えているのかは分からない。
でも、少しでもこの意味の分からない状況をハッキリさせることが出来るのなら、私は何だってしたかった。
巨人に会ったり、人攫いに襲われたり、怖い思いをする以外なら、何だってー。
紙をローテーブルの上に置いて、ペンを握る。
ヨーロッパっぽい雰囲気の街に住んでいるハンジ達だから、ローマ字がいいだろうかとも思ったけれど、カタカナで書いた。
あの本の文字が、カタカナに似ていたからという単純な理由だ。
書いた紙を渡すと、思った通り、ハンジとモブリットは逆さまにして読もうとした。
「逆さまなの。こうやって読むの。」
紙を正しい向きに変えてから、見せた。
ハンジは面白いものを発見したような顔をして、モブリットはひどく驚いていた。
「この文字で、何が分かるの?」
「なまえが記憶喪失なんかじゃないってことだよ。」
「…最初から言ってる。私は記憶喪失じゃないし、あなた達のことは知らないの。
あの人も、私の恋人じゃない。」
「他に恋人がいたの?」
「…いないけど。」
「ならよかった。」
ハンジがホッとしたように言う。
だが、全く良くない。私だって恋人は欲しいのだ。
出来れば、あの爽やかイケメン俳優のような恋人がー。
そういえば、あのドラマはどんな結末を迎えたのだろう。
別世界にトリップしてしまったヒロインは、違う世界に暮らす彼と結ばれたのだろうか。
それとも、元の世界に戻って、離れ離れになってしまったのだろうか。
「パラレルワールドって知ってる?」
不意に、ハンジが不思議なことを聞いてきた。
そのワードを聞いたことはあるが、それが何なのかはよく知らない。
だから、そう言えば、ハンジはパラレルワールドというものについて教えてくれた。
「私も、昔、巨人の発生について調べてるときに知ったんだ。
この世界と並行して存在する世界があって、そこにはもう1人の自分がいるらしいんだよ。」
ハンジの説明を聞いて、そういえばそんなものだった気がすると思い出す。
そのパラレルワールドの話が、どう自分と繋がるのか分からずに首を傾げた。
でも、モブリットはハンジが何を言いたいのかが分かったようだった。
「もしかして、ハンジさん。
なまえはそのパラレルワールドからやって来たなんて言わないですよね。」
「どう考えてもなまえは記憶喪失じゃない。
彼女にはちゃんと記憶があることは、そこに書いてある文字が教えてくれてるじゃないか。」
「それは…、でも、そんな夢みたいな話、本当にあるんですか。
信じられない…。」
「そもそも人が光に包まれて空から降りてくる時点であり得ない話なんだ。
それを説明しようとしたらあり得ない話になったって、不思議ではないだろう?」
すごく驚いたし、話が飛躍しすぎな気もした。
でも、ハンジの理屈はよくわかった。
だから、モブリットも難しい顔で黙り込んでいる。
だって、彼は、私が生き返って戻ってきてくれたと信じていて、それをよかったと思っていたのだ。
きっと、私が彼女じゃないという事実は、出来れば認めたくはないだろう。
でも、私は違うー。
「もし、私が本当にパラレルワールドに来てしまったなら
元の世界にはどうしたら戻れるの?」
「…それは、分からない。何かきっかけがあって来てしまったのか、
それとも偶然なのかも分からないし…。」
ハンジは申し訳なさそうに言う。
私は絶望と希望を一度に見たような気分だった。
頭では、あり得ないと切り捨てようとしているのに、心のほとんどが、ハンジの話を信じている。
まさか、あのドラマみたいなことが自分に起こったなんて信じられない。
でも、そうでも考えないと、巨人がいたり、兵士だらけだったり、知らない恋人がいたりーというこの状況を説明できないのは私だって同じだった。
「ねぇ、なまえは覚えてないの?
この世界で目を覚ます前に何をしていたのか。そこにヒントがあるかもしれないよ。」
ハンジに言われて、私は必死に記憶を辿る。
あまりにも意味の分からない状況に放り込まれ過ぎて、これからどうなるのかばかリ考えていて、その直前にあったことを敢えて思い出すことはなかった。
そこに、本当にヒントがあるのなら、何が何でも思い出さなければならないー。
「…ドラマを見ようと思ってて…。」
「ドラマ?」
「そう、大好きなイケメン俳優のドラマが見たくてテレビをつけたあと、
会社帰りに買った白いワンピースを着て鏡の前に立って…それで…。痛…っ。」
そこまで思い出して、頭に痛みが走った。
痛みに顔を歪めて頭を抱えると、慌ててモブリットが私の隣に座った。
背中をさすりながら、大丈夫かと声をかけてくれるモブリットの声を聞きながら、痛みの激しい頭を抱える。
痛い、痛いー。
強く目を瞑って、痛みに耐えていると、頭の奥から何か声が聞こえてきた。
悲しいくらいに私に懇願するそれは、聞いたことがある声だ。
『私の代わりに、あの人を助けてあげて。そして、伝えてー。
私はもう死んだんだってー。それからー。』
ハッキリと声が聞こえた途端、痛みから解放された。
そして、一気に記憶が蘇ったー。
穏やかな話し方のモブリットに心を許してしまったようで、いつの間にか隣に座っていて、彼の身振り手振りのおかしな話を笑いながら聞いていた。
そうしていると、最も愉快な調査兵がノックも無しに執務室の扉を開けた。
顔を見た瞬間に巨人の恐怖を思い出してクッションを抱きしめる私の隣で、モブリットはすぐに立ち上がると扉へ走った。
「やぁ、なまえ!昨日はごめんねっ!それで、早速で悪いんだけど話をー。」
「ハンジ分隊長!!リヴァイ兵長から絶対に顔を出すなと言われたのをもう忘れたんですか!?」
部屋に入って来ようとするハンジをモブリットが全身で食い止める。
それでも強引にハンジは歩みを進めようとしていた。
「さすがリヴァイだね。モブリットをなまえにつけるなんてさ。
今この場所には、君くらいしか私を止めようと出来る人はいないもんね。」
「分かってるなら、早くあなたはあなたの任務に戻ってくださいっ!」
「でも残念っ!私はモブリットに止められたことはないんだっ。
いつだって、強引な私の勝利なのだよっ!」
「威張らないでくださいっ!!」
ハンジが胸を張って宣言した通り、今回もまた、勝ちの数を増やした。
あれだけ近寄ってはいけないと言われていた私の隣にどかりと腰を降ろしたハンジは、いきなり頭を下げた。
そして、昨日、私を怖がらせたことを謝った。
きっと、悪い人では、ないのだろう。それは誠意のあるその姿で伝わってくる。
でも、どうしてもハンジを見ていると巨人を思い出してしまって、私は抱きしめたクッションに顔を埋めた。
「それでさ、今日来たのはー。」
「もういい加減にしてくださいよっ。リヴァイ兵長にバレたら大変ですよ!」
「今日来たのは、なまえがどこの誰なのかをハッキリさせるためなんだ。」
「…ハッキリ、出来るの?」
ハンジがあまりにも自信満々に言うから、私はおずおずとクッションから顔を上げてしまった。
目が合ったハンジはニンマリと笑っていて、やっぱり、とても自信がありそうだ。
私がハンジの言葉に反応したからなのか、モブリットは諦めた様子でハンジの隣に腰を降ろした。
「それじゃ、まずさ!この紙になまえの名前を書いて欲しいんだっ。」
ハンジは自分の胸ポケットから手帳を取り出すと、1枚切り取った。
そして、その切り取った紙とペンを私に渡す。
「でも、私、文字が分からない…。」
受け取った紙とペンを見下ろし、私は困ってしまう。
リヴァイが持ってきてくれた本は知らない文字だった。
でも、モブリットは普通に読めた。
それがどういうことなのかはよく分からない。
ただ分かるのは、私が知っている文字と彼らが知っている文字が、違うということだ。
「君が知っている文字で名前を書いて欲しいんだ。」
「…私が知っている文字で、いいの?」
「あぁ、いいよ。」
頷くハンジの横で、モブリットは訝しげな顔をしていた。
ハンジが何を考えているのかは分からない。
でも、少しでもこの意味の分からない状況をハッキリさせることが出来るのなら、私は何だってしたかった。
巨人に会ったり、人攫いに襲われたり、怖い思いをする以外なら、何だってー。
紙をローテーブルの上に置いて、ペンを握る。
ヨーロッパっぽい雰囲気の街に住んでいるハンジ達だから、ローマ字がいいだろうかとも思ったけれど、カタカナで書いた。
あの本の文字が、カタカナに似ていたからという単純な理由だ。
書いた紙を渡すと、思った通り、ハンジとモブリットは逆さまにして読もうとした。
「逆さまなの。こうやって読むの。」
紙を正しい向きに変えてから、見せた。
ハンジは面白いものを発見したような顔をして、モブリットはひどく驚いていた。
「この文字で、何が分かるの?」
「なまえが記憶喪失なんかじゃないってことだよ。」
「…最初から言ってる。私は記憶喪失じゃないし、あなた達のことは知らないの。
あの人も、私の恋人じゃない。」
「他に恋人がいたの?」
「…いないけど。」
「ならよかった。」
ハンジがホッとしたように言う。
だが、全く良くない。私だって恋人は欲しいのだ。
出来れば、あの爽やかイケメン俳優のような恋人がー。
そういえば、あのドラマはどんな結末を迎えたのだろう。
別世界にトリップしてしまったヒロインは、違う世界に暮らす彼と結ばれたのだろうか。
それとも、元の世界に戻って、離れ離れになってしまったのだろうか。
「パラレルワールドって知ってる?」
不意に、ハンジが不思議なことを聞いてきた。
そのワードを聞いたことはあるが、それが何なのかはよく知らない。
だから、そう言えば、ハンジはパラレルワールドというものについて教えてくれた。
「私も、昔、巨人の発生について調べてるときに知ったんだ。
この世界と並行して存在する世界があって、そこにはもう1人の自分がいるらしいんだよ。」
ハンジの説明を聞いて、そういえばそんなものだった気がすると思い出す。
そのパラレルワールドの話が、どう自分と繋がるのか分からずに首を傾げた。
でも、モブリットはハンジが何を言いたいのかが分かったようだった。
「もしかして、ハンジさん。
なまえはそのパラレルワールドからやって来たなんて言わないですよね。」
「どう考えてもなまえは記憶喪失じゃない。
彼女にはちゃんと記憶があることは、そこに書いてある文字が教えてくれてるじゃないか。」
「それは…、でも、そんな夢みたいな話、本当にあるんですか。
信じられない…。」
「そもそも人が光に包まれて空から降りてくる時点であり得ない話なんだ。
それを説明しようとしたらあり得ない話になったって、不思議ではないだろう?」
すごく驚いたし、話が飛躍しすぎな気もした。
でも、ハンジの理屈はよくわかった。
だから、モブリットも難しい顔で黙り込んでいる。
だって、彼は、私が生き返って戻ってきてくれたと信じていて、それをよかったと思っていたのだ。
きっと、私が彼女じゃないという事実は、出来れば認めたくはないだろう。
でも、私は違うー。
「もし、私が本当にパラレルワールドに来てしまったなら
元の世界にはどうしたら戻れるの?」
「…それは、分からない。何かきっかけがあって来てしまったのか、
それとも偶然なのかも分からないし…。」
ハンジは申し訳なさそうに言う。
私は絶望と希望を一度に見たような気分だった。
頭では、あり得ないと切り捨てようとしているのに、心のほとんどが、ハンジの話を信じている。
まさか、あのドラマみたいなことが自分に起こったなんて信じられない。
でも、そうでも考えないと、巨人がいたり、兵士だらけだったり、知らない恋人がいたりーというこの状況を説明できないのは私だって同じだった。
「ねぇ、なまえは覚えてないの?
この世界で目を覚ます前に何をしていたのか。そこにヒントがあるかもしれないよ。」
ハンジに言われて、私は必死に記憶を辿る。
あまりにも意味の分からない状況に放り込まれ過ぎて、これからどうなるのかばかリ考えていて、その直前にあったことを敢えて思い出すことはなかった。
そこに、本当にヒントがあるのなら、何が何でも思い出さなければならないー。
「…ドラマを見ようと思ってて…。」
「ドラマ?」
「そう、大好きなイケメン俳優のドラマが見たくてテレビをつけたあと、
会社帰りに買った白いワンピースを着て鏡の前に立って…それで…。痛…っ。」
そこまで思い出して、頭に痛みが走った。
痛みに顔を歪めて頭を抱えると、慌ててモブリットが私の隣に座った。
背中をさすりながら、大丈夫かと声をかけてくれるモブリットの声を聞きながら、痛みの激しい頭を抱える。
痛い、痛いー。
強く目を瞑って、痛みに耐えていると、頭の奥から何か声が聞こえてきた。
悲しいくらいに私に懇願するそれは、聞いたことがある声だ。
『私の代わりに、あの人を助けてあげて。そして、伝えてー。
私はもう死んだんだってー。それからー。』
ハッキリと声が聞こえた途端、痛みから解放された。
そして、一気に記憶が蘇ったー。