「プハ～～～っ！生き返ったぁぁああ！！」

アイスコーヒーを豪快に飲み干したハンジが、テーブルに紙コップを強めに置いた。
リヴァイが普段働いているという部署は、なまえがいたフロアと変わらなかった。
働いているのは、調査兵団の兵舎内で見たことのある顔ばかりだ。
頬を叩いただけですぐに生き返ったハンジに、パラレルワールドから来た方だということを教えてやれば、話をしようとフロア内のカフェテリアに連れて来られた。
すぐに話を聞きつけてやってきたファーランとイザベルが、食い入るように顔を見てくる。

「へ～、それにしても一緒だな。」
「一緒だ！アニキだ！！」

感心したように頷くファーランの隣で、イザベルはとても興奮している。
知っている2人の反応だ。
でも、やっぱり、リヴァイの記憶にある2人よりも大人びた印象に変わっていた。
いつまでも記憶の中で歳をとることの出来ないファーランとイザベルとは違う。
ハンジとイザベルが、パラレルワールドに繋がる扉は成功だったと喜びを分かち合い盛り上がり出すと、ファーランが隣の席に腰をおろした。

「それ、この間買ったばっかりのシャツだな。
　アイツに着ろって言われた？」
「あぁ、デートはこれにしろと指定された。
　そのくせ、アイツは半袖をいつも着てねぇらしいじゃねぇか。
　人にばっかり注文つけやがって。」
「まぁまぁ、そういうやつだって、おたくが一番知ってるだろ？」
「チッ。」

言い返す言葉もなく、リヴァイは不機嫌に舌打ちをする。
それをファーランが可笑しそうにクスリと笑う。
こんなやりとりも、すごく懐かしく感じるのは、ファーランの声や話し方、反応も、リヴァイの知っているファーランとまったく同じだったからだ。

「それで？なまえは気づいてくれそうか？」

ファーランは、デスクに右肘を乗せて頬杖をつくと、意地悪く口元を歪めた。
パラレルワールドから来たリヴァイしかいない理由を話してやったのが間違っていたかもしれない。

「気づいてねぇから、職場にまで俺を連れて来たんだろ。　
　分かってるくせに聞くんじゃねぇよ。」
「さぁ、それは分からねぇだろ。」

ファーランは、含みを持たせるような笑みを浮かべる。
どこに期待をすればいいのかも分からない。

「お前らが言うように、見た目も全く一緒なんだ。分からねぇよ。」
「でも、気づいてもらえなかったらなまえを諦めなきゃいけなくなるんだろ？
　わざと分かるように、この世界のこと分からねぇフリすればいいじゃねぇか。」
「フェアじゃねぇ。」
「あぁ、フェアじゃねぇな。最初から勝ち負けの決まった賭けだ。
騙されて可哀想に。」
「最初から分かってる、騙された覚えはねぇよ。」
「お前ら、ほんとに性格まで一緒なんだな。」

ファーランの視線が、ガラス張りのカフェテラスの向こうへと動く。
その視線の先を追いかければ、仕事が終わったらしいなまえがこちらを向いて嬉しそうに手を振った。
その笑顔もあの男のものー。
そう分かっていながら、リヴァイはなまえに手を振り返して椅子から立ち上がる。

「俺、お前に会えてよかったよ。」

ファーランが立ち上がり、言う。
なまえの元へ向こうとしていたリヴァイの身体が、後ろを振り向く。

「あぁ、俺もだ。」
「向こうの世界の俺は、死んでるんだよな。」
「…あぁ。」
「なら、ソイツの代わりに言っとくよ。
　ーリヴァイ、お前が生きててよかった。幸せになれよ。」

記憶にあるよりも大人びたファーランが、真っすぐに自分を見ている。
まるで、時空を越えて再会したような、そんな感覚が脳と心に走る。
ファーランには、言いたいことがたくさんあった。
あれから自分に起こったいろんなこと、辛かったことも、嬉しかったことも全て話したい。
どれほどファーランやイザベルに出逢えてよかったと思っているかも伝えたかった。
言いたいことがたくさんありすぎて、言葉にならない。
ゆっくりと口は開くけど、それは声にならないまま、カフェテラスの扉が開いたー。

「リヴァイ、おまたせ～っ。」
「…っ。」
「お前らの大事ななまえが来たぜ。今日までの魔法なんだろ。
　出来るだけ一緒にいてやれよ。」
「…素直じゃないお前の親友の代わりに、俺から言っておく。
　お前にはいつも感謝してる。こんな俺とずっと友人でいてくれてありがとう。」

リヴァイが感謝を告げると、ファーランは驚いた顔をした後、少し照れ臭そうに頭を掻いた。
言った本人も照れ臭くて、リヴァイはすぐにファーランに背を向けた。
言いたいことなんてたくさんある。
でもそれは、いつか死んだ後にでもファーランに話せばいいだけだ。
伝えたいことはたったひとつ、出逢えたことの感謝だけなのだからー。

「何の話してたの？」

リヴァイの元へやって来たなまえが首を傾げる。

「別に。」

相変わらず子供っぽい可愛らしい仕草をクスリと笑い、リヴァイはなまえの髪をクシャリと撫でた。

「男同士の秘密の話とか？」

一緒にカフェテラスを出ながら、なまえが興味津々に聞いてくる。

「まぁ、そんなもんだな。」
「そっか。楽しかった？」
「あぁ。」
「ならよかった。」

なまえが嬉しそうに言う。
カフェテラスを出てすぐに、ゲルガーとナナバに声をかけられたなまえは、また仕事の話を始める。
今日は休みのはずなのに、本当に忙しいようだ。
この世界で、なまえが充実した生活を送っているという証拠なのだろう。
忙しい仕事のようだが、同僚は変人ばかりだけれど、気の良い奴らばかりだと知っているから、安心だ。