準備してくるー。
そう言って、2階に上がったっきり、なまえはなかなか降りてこない。
リビングのソファに座ったリヴァイは、時々、ガタゴトと音のする2階を見上げる。
この後の予定が詰まっているわけでもないし、急がせる必要もない。
女の支度は、不思議なくらいに時間がかかることも、知らないわけじゃない。
でも、24時間しかないのだと思うと、出来るだけ長くなまえのそばにいたい。顔を見ていたかった。

「ごめんねーーっ、お待たせ～！！」

しばらくして、漸く階段を駆け下りてくる音と共になまえの声が聞こえた。　
そして、リビングにやってきたなまえを見たリヴァイは、息を呑んだ。
化粧をして、髪も軽く巻いたなまえは、2年を経て大人っぽくなっていた彼女をさらに綺麗にしていた。
上品な花柄のシャツも可愛らしいし、細い脚が綺麗ななまえは、薄い水色のヒラヒラとしたスカートもとても似合っていた。

「私もデートだから、お洒落しちゃった。どう？可愛い？」

なまえはとても楽しそうに言うと、ヒラヒラしたスカートを両手で摘まんで、くるりとまわった。
ダメだ。そんなことをしたらー。
下着が見えそうだー。

「却下。着替えてこい。」
「えーーーっ！なんで！？変！？」

ひどくショックを受けたなまえが、泣きそうな顔をする。
そんな悲しそうにされたらー。

「可愛い…。でもー。」
「じゃあ、いいよねっ。」
「ダメだ。短すぎる。」
「えー、リヴァイだって、ミニスカート、好きって言ったから
　このスカートにしたのにぃ…。」

拗ねて頬を膨らませたなまえが口を尖らせる。
大人っぽくなったと思ったのに、そういう反応も表情も変わらない。
とても可愛らしい。
でも、だからと言って、そのミニスカートは許してやれない。
何よりー。

「…クソが。」

ミニスカートが好きだと愚かなことを言ったこの世界のリヴァイに腹が立つ。
確かに、とても可愛いし、似合っている。
けれど、こんなに短いスカートを履いて他の男に綺麗な脚を見せるなんて、絶対にダメだ。

「とにかく、もう二度とそんなスカート履くんじゃねぇ。
　今すぐ着替えてー。」
「もう時間ないから、今日は諦めてねっ。」

言葉を遮ったなまえは、リヴァイと腕を絡め玄関へとスキップで向かう。
最初から着替える気なんて、全くなかったようだ。
また着替えに時間がかかって、一緒にいる時間が減るのも本意ではない。
それに、好きな洋服を着て楽しそうにしているなまえの気持ちを尊重したい気持ちもないわけではない。

「今日だけだからな。」
「やった！」

ため息交じりに言ったリヴァイに、なまえはとても嬉しそうに声を跳ねさせた。
あぁ、相変わらず自分は、なまえにとことん甘いらしい。
玄関を出てリヴァイが鍵を締め終わると、なまえにキーケースを奪われた。
訝し気にするリヴァイに、なまえが言う。

「リヴァイの運転、怖いから、今日は私がするね。」
「…それも今日だけな。」
「それは、どうかな～。」

楽しそうに笑いながら駐車場に向かうなまえの後を追いかける。
車の運転ならしたことがある。
だから、たぶん、この世界の車の運転も出来ないわけではないけれど、この世界の交通ルールも知らないし、会社までの道も分からない。
ドライブデートに連れて行ってやりたい、とは思っていたけれど、仕方ない。
助手席に乗り込んで、運転席に座ってエンジンをかけるなまえを見る。
慣れた手つきでバックミラーの角度を変えて、ハンドルを握る。
その姿が様になっていて、彼女は本当に、この世界の人間なのだと思い知る。
視線に気づいたのか、なまえがリヴァイを見た。

「…あんまり見ないでよ。恥ずかしい。」
「可愛くて、つい。」
「…！もう…っ、恥ずかしいから、いつもやめてって言ってるでしょっ。」

顔を真っ赤に染めて、なまえが恥ずかしそうにしながら怒る。
あの頃のままの素直な反応が、可愛い。
あぁ、でもー。
これは自分に対してではないのか。
あの頃、なまえがどんな気持ちで隣にいたのか、漸く分かった。
どれだけ酷なことをさせていたのかもー。
それでも、逃げないで、諦めないでいてくれたのか。
自分がどれほど愛されていたのか、今さら知ることになるなんてー。

「さぁ、行こうか。」

すっかりこの世界の住人のなまえが、あの頃と変わらない柔らかい笑みを見せた。