◇91話◇何処にいても、逃げられない
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何が起こったのか分からないまま、強い力で腕を掴まれた私は、抵抗の声と悲鳴も虚しく、暗闇の中を引きずられて、来た道を逆戻りさせられていた。
「放して…っ。やめて…っ。」
「うるせぇ!来い!!」
せっかく抜けたばかりのモンスターと化した公園の中まで連れて来られて、散歩道の横にある芝生の広場までくると、漸く、足が止まる。
突然、背後から声をかけて、そのまま公園内まで引きずり込んだ男が、振り返って私を見る。
髪を少しだけ立たせた若い男だった。
吊り上がった人の悪そうな目で、その男は私を睨みつける。
「悪かったとは思わねぇのかよ。」
「…え?」
責めるように言う知らない男に、私は意味も分からず、声も身体も震えていた。
掴まれた腕はそのままで、痛い。
放してくれるような様子もない。
「行方不明だって言うからすげぇ心配してたのに、
あの目つきの悪い男のとこに入り浸りやがって。」
尚も私を責めるように男は続ける。
高級タワーマンションでは中に入ることも出来なくて、私に会いに行くことも出来なかったのだと、ブツブツと低い声で言う男は、夜の公園よりも怖かった。
「俺がどれだけ探したと思ってんだよ。」
「…なんで…?なんで、あなたが私を探すの…?」
「はぁ?なまえが行方不明になってたからだろ。
やっと見つかったから会いに行ってやろうとしたら、お前は
目つきの悪い男とずっと一緒にいやがるし。」
呆れた様にため息を吐いた後、男は私を睨みつける。
たぶん、男が言っている『目つきの悪い男』とは、彼のことだと思う。
さっき、高級タワーマンションがどうのと言っていたしー。
ということは、少なくとも、彼のところにいるときから、この男は私のことを見ていたということだ。
私は、この男のことなんて、知らないのにー。
「記憶がねぇとか言ってるけど、嘘だろ。
俺は、なまえが何処に行ってたか知ってるんだからな。」
「え!?なんで…っ!?」
「ずっとなまえを探してたからだよ!さっきから言ってんだろ!!
行方不明とか言って、ずっとあの目つきの悪い男のとこに行たんだろ!!」
「…え?」
「世間も騙して、俺を弄んで、悪いことをしたとは思わねぇのかって言ってんだよ!!」
男が苛ついた様子で、私を叱りつけた。
パラレルワールドのことを知られてしまったのかと思ったけれど、男が勝手に勘違いをしていただけのようだった。
それを訂正しようと頭のどこかが言っているのだけれど、そもそも、どうして知らない男に言い訳のように訂正をしなければならないのか分からない。
それに、全く会話が成り立ちそうにない男を前にして、私は恐怖に震えるので精一杯だった。
まるで、モンスターを相手にしているみたいだ。
「とにかく、あのマンションがなまえの新しい家なんだろ。
何号室?鍵を寄越せよ。そしたら、許してやるから。」
男は、当然のように言ってのけて、右手の手のひらを私に見せた。
吊り目が私を見下ろす。
もう完全に、おかしい人だ。
怖いー。
「いや…っ。いや…っ。はなして…っ。」
必死に首を左右に振りながら、震える身体で必死に腕を振った。
でも、男の手は離れるどころか、力を強くするばかりだった。
むしろ、私は、男を怒らせてしまってー。
「いい加減にしろよ!!俺に許されたくねぇのか!!」
「…ひっ!…リヴァイ…っ!!助けて…っ!!」
「他の男の名前、呼んでんじゃねぇよ!!」
最初からつっていた目をさらに恐ろしいくらいにつり上げた男は、掴んでいた腕をドンッと押して手を放した。
急に手が離れた私は、男に腕を押された反動でそのまま背中から倒れた。
尻餅をついた後、背中と右肘を芝生に打ちつけた。
「…いッ。」
痛みに顔を歪めて、思わず目を瞑る。
ヒリヒリと痛い右肘を押さえながら、身体を起こす私を見下ろしながら、男はポケットから何かを取り出した。
男が取り出した何かを持った手を軽く振ると、闇の中でキラッと光った。
すぐに、それがナイフだと気づいて、私は声にならない悲鳴を上げる。
「お前、マジで許さねぇから。」
男は、死んだような目で私を見下ろして、ナイフを持った手を振り上げた。
「いやぁ…っ、リヴァイ…!!!」
悲鳴を上げて、私はリヴァイの名前を呼ぶ。
私の声なんて、届くわけがないのにー。
助けになんて、来てくれないのにー。
こんなところで、意味も分からず、知らない男に殺されて私は死ぬのかー。
恐怖と絶望で、私は目を瞑った。
風を切るような音と共に、紅茶と石鹸の香りが届いたのはそれとほぼ同時だった。
目を開ければ、ナイフを振り上げていたはずの男は芝生の上に倒れて腰のあたりを痛そうに押さえていた。
そして、すぐ目の前で、私を守るように立っているのは、彼だった。
ジャケットの左腕の辺りが切り裂かれていて、赤く滲んでいて、そこから血が落ちて芝生に赤い水たまりを作ろうとしているみたいだったー。
「俺の女に指一本触れるんじゃねぇ。クソ野郎が。」
彼は、男を睨みつけて、憎しみを込めて言い放つ。
これは、デジャヴだろうかー。
いや、違う。
私はこの光景を前にも、本当に見たことがあるのだ。
あのときの、リヴァイと同じだ。
あぁ、どうしてー。
どうして、彼は、リヴァイと同じなのだろう。
潔癖なところも、仲間想いのところも。冷たいのに、優しいところも。意地悪なところも、匂いも。いつだって私を守ってくれるところも。
私に触れる優しい手、優しい目、優しい声ー。
もう嫌だー。
どうしてー。
鋭利なナイフよりも尖った彼の声に、男が震えあがったのが分かった。
男は、情けない悲鳴のようなものを上げると、よろけながら立ち上がって、逃げ出すー。
「クソが!待ちやがれ!!」
「やだっ、行かないで…っ。」
逃げて行く男を追いかけようと、彼が地面を蹴った。
私は必死に手を伸ばした。
行かないで。
そばにいてー。
「リヴァイ…!!」
走り出してすぐに、彼が立ち止まる。
そして、焦ったように振り返る。
涙を流しながら手を伸ばす私を見た彼の方が、なぜか泣きそうな顔をした。
そして、まるですくいあげるみたいに、私を抱きすくめた。
「すまない…っ。」
彼が、何を謝ったのか分からなかった。
怖がる私を置いて、あの男を追いかけようとしたことだろうか。
でも、彼が謝ることなんて何もない。
謝らなければならないのは、むしろー。
「リヴァイ…っ。リヴァイ…っ。」
私は泣きながら彼の名前を呼んで、背中にしがみついた。
リヴァイからは逃げられないのだと悟った、あの日の私みたいにー。
「放して…っ。やめて…っ。」
「うるせぇ!来い!!」
せっかく抜けたばかりのモンスターと化した公園の中まで連れて来られて、散歩道の横にある芝生の広場までくると、漸く、足が止まる。
突然、背後から声をかけて、そのまま公園内まで引きずり込んだ男が、振り返って私を見る。
髪を少しだけ立たせた若い男だった。
吊り上がった人の悪そうな目で、その男は私を睨みつける。
「悪かったとは思わねぇのかよ。」
「…え?」
責めるように言う知らない男に、私は意味も分からず、声も身体も震えていた。
掴まれた腕はそのままで、痛い。
放してくれるような様子もない。
「行方不明だって言うからすげぇ心配してたのに、
あの目つきの悪い男のとこに入り浸りやがって。」
尚も私を責めるように男は続ける。
高級タワーマンションでは中に入ることも出来なくて、私に会いに行くことも出来なかったのだと、ブツブツと低い声で言う男は、夜の公園よりも怖かった。
「俺がどれだけ探したと思ってんだよ。」
「…なんで…?なんで、あなたが私を探すの…?」
「はぁ?なまえが行方不明になってたからだろ。
やっと見つかったから会いに行ってやろうとしたら、お前は
目つきの悪い男とずっと一緒にいやがるし。」
呆れた様にため息を吐いた後、男は私を睨みつける。
たぶん、男が言っている『目つきの悪い男』とは、彼のことだと思う。
さっき、高級タワーマンションがどうのと言っていたしー。
ということは、少なくとも、彼のところにいるときから、この男は私のことを見ていたということだ。
私は、この男のことなんて、知らないのにー。
「記憶がねぇとか言ってるけど、嘘だろ。
俺は、なまえが何処に行ってたか知ってるんだからな。」
「え!?なんで…っ!?」
「ずっとなまえを探してたからだよ!さっきから言ってんだろ!!
行方不明とか言って、ずっとあの目つきの悪い男のとこに行たんだろ!!」
「…え?」
「世間も騙して、俺を弄んで、悪いことをしたとは思わねぇのかって言ってんだよ!!」
男が苛ついた様子で、私を叱りつけた。
パラレルワールドのことを知られてしまったのかと思ったけれど、男が勝手に勘違いをしていただけのようだった。
それを訂正しようと頭のどこかが言っているのだけれど、そもそも、どうして知らない男に言い訳のように訂正をしなければならないのか分からない。
それに、全く会話が成り立ちそうにない男を前にして、私は恐怖に震えるので精一杯だった。
まるで、モンスターを相手にしているみたいだ。
「とにかく、あのマンションがなまえの新しい家なんだろ。
何号室?鍵を寄越せよ。そしたら、許してやるから。」
男は、当然のように言ってのけて、右手の手のひらを私に見せた。
吊り目が私を見下ろす。
もう完全に、おかしい人だ。
怖いー。
「いや…っ。いや…っ。はなして…っ。」
必死に首を左右に振りながら、震える身体で必死に腕を振った。
でも、男の手は離れるどころか、力を強くするばかりだった。
むしろ、私は、男を怒らせてしまってー。
「いい加減にしろよ!!俺に許されたくねぇのか!!」
「…ひっ!…リヴァイ…っ!!助けて…っ!!」
「他の男の名前、呼んでんじゃねぇよ!!」
最初からつっていた目をさらに恐ろしいくらいにつり上げた男は、掴んでいた腕をドンッと押して手を放した。
急に手が離れた私は、男に腕を押された反動でそのまま背中から倒れた。
尻餅をついた後、背中と右肘を芝生に打ちつけた。
「…いッ。」
痛みに顔を歪めて、思わず目を瞑る。
ヒリヒリと痛い右肘を押さえながら、身体を起こす私を見下ろしながら、男はポケットから何かを取り出した。
男が取り出した何かを持った手を軽く振ると、闇の中でキラッと光った。
すぐに、それがナイフだと気づいて、私は声にならない悲鳴を上げる。
「お前、マジで許さねぇから。」
男は、死んだような目で私を見下ろして、ナイフを持った手を振り上げた。
「いやぁ…っ、リヴァイ…!!!」
悲鳴を上げて、私はリヴァイの名前を呼ぶ。
私の声なんて、届くわけがないのにー。
助けになんて、来てくれないのにー。
こんなところで、意味も分からず、知らない男に殺されて私は死ぬのかー。
恐怖と絶望で、私は目を瞑った。
風を切るような音と共に、紅茶と石鹸の香りが届いたのはそれとほぼ同時だった。
目を開ければ、ナイフを振り上げていたはずの男は芝生の上に倒れて腰のあたりを痛そうに押さえていた。
そして、すぐ目の前で、私を守るように立っているのは、彼だった。
ジャケットの左腕の辺りが切り裂かれていて、赤く滲んでいて、そこから血が落ちて芝生に赤い水たまりを作ろうとしているみたいだったー。
「俺の女に指一本触れるんじゃねぇ。クソ野郎が。」
彼は、男を睨みつけて、憎しみを込めて言い放つ。
これは、デジャヴだろうかー。
いや、違う。
私はこの光景を前にも、本当に見たことがあるのだ。
あのときの、リヴァイと同じだ。
あぁ、どうしてー。
どうして、彼は、リヴァイと同じなのだろう。
潔癖なところも、仲間想いのところも。冷たいのに、優しいところも。意地悪なところも、匂いも。いつだって私を守ってくれるところも。
私に触れる優しい手、優しい目、優しい声ー。
もう嫌だー。
どうしてー。
鋭利なナイフよりも尖った彼の声に、男が震えあがったのが分かった。
男は、情けない悲鳴のようなものを上げると、よろけながら立ち上がって、逃げ出すー。
「クソが!待ちやがれ!!」
「やだっ、行かないで…っ。」
逃げて行く男を追いかけようと、彼が地面を蹴った。
私は必死に手を伸ばした。
行かないで。
そばにいてー。
「リヴァイ…!!」
走り出してすぐに、彼が立ち止まる。
そして、焦ったように振り返る。
涙を流しながら手を伸ばす私を見た彼の方が、なぜか泣きそうな顔をした。
そして、まるですくいあげるみたいに、私を抱きすくめた。
「すまない…っ。」
彼が、何を謝ったのか分からなかった。
怖がる私を置いて、あの男を追いかけようとしたことだろうか。
でも、彼が謝ることなんて何もない。
謝らなければならないのは、むしろー。
「リヴァイ…っ。リヴァイ…っ。」
私は泣きながら彼の名前を呼んで、背中にしがみついた。
リヴァイからは逃げられないのだと悟った、あの日の私みたいにー。