引っ越して数日が経ち、少しずつ平穏な日々を取り戻そうとしている。
だから、気が抜けていたのかもしれない。
いや、もしかしたら、私は寂しかったのだ。
このまま、パラレルワールドの世界でリヴァイと過ごした日々が、まるで本当に嘘や夢、幻だったみたいに消えていくのがー。
気づいたら、私は彼の住む高級タワーマンションの近くまで歩いてきていた。
リヴァイの顔が見たかったのだと思う。
それは、リヴァイじゃないと、私は知っているのにー。
今日は残業も少なく済んで、比較的早めに会社を出たのだけれど、夏とは違い冬のこの時間はもう真っ暗だ。
切れかけの街灯がチカチカと裏通りを明るくしたり、暗くしたりする。
だから、リヴァイが他の女の腰を抱き寄せて深いキスを送るその光景は、壊れかけのテレビが映しているみたいだった。
彼らは、少し離れた場所で立ち尽くす私に気づきもしないで、お互いを求め合うのに夢中になっている。
すぐそこに彼の住む高級タワーマンションがあるのに、待ちきれないとばかりに、女の服を乱れさせて、彼は唇に噛みついていた。
私が引っ越して最初の週末が明日から始まる。
本当はずっと、彼は家に連れて帰りたい女性がいたのかもしれない。
そんな風には、見えなかったけれどー。

(どうして…っ。)

見たくないのに、目を瞑ることすら出来なかった。
息まで止まってしまいそうなのに、彼らの姿を見つけてしまった瞬間にドクンと大きな音を立てた心臓が、不規則鳴り響いていて苦しい。

『なまえ…っ、俺に抱き着け…っ。』

酔っぱらっていたとは言え、断片的に覚えているあの夜の過ちの記憶が蘇る。
彼は熱のこもった目で私を見つめて、強く抱きしめた。
それなのにー。
嫌だー。
他の女に触れないで、触れられないでー。
こんな場所で淫らに抱くような人じゃないはずだ。
本当に大切な人なら尚更、リヴァイはそんなことするような人じゃない。
もし、本当にその女を愛してるわけじゃないのなら、誰でもいいなら、私をー。
自分が何を考えてしまったのかー、ハッとして息を呑む。
その拍子に僅かに動いてしまった足が、木の枝を踏んでしまったのか静かな路地裏にパキッと小さな音が響いた。
彼が、煩わしそうに邪魔者に視線を移す。
そして、それが私だと気づいた彼は、驚いた顔で目を見開いた。
数秒、沈黙が流れた。
最初に動いたのは、私だった。
手に持っていたバッグを強く握り直して、地面を蹴って彼らに背を向ける。

「なまえ！！待て！！」

後ろで、彼が焦ったように私の名前を叫んだ。