◇81話◇新しい生活と変わらない気持ち~平和な世界side~
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エレベーターの向こうになまえが消えるとき、鏡の向こうに吸い込まれていったんじゃないかといつも思う。
だから、リヴァイはいつも、自分のフロアに戻っていくなまえの背中から目が離せない。
こうしていつも見送っていることを、いつまで経っても名前ですら呼んでくれない彼女は知りもしないのだろう。
リヴァイが、無意識に握った拳が震える。
ふと、肩に重さが乗って、リヴァイは視線を斜め後ろに向けた。
「リヴァイが女に執着してるのなんて、初めて見たぜ。」
リヴァイの肩に手を乗せたファーランが、なまえの背中がエレベーターの向こうに消えた廊下を見ながら言う。
からかう口調というより、本当に意外だと言っているようなそれが余計に気に入らなかった。
「執着した覚えはねぇ。」
ファーランの手を軽く振り払って、リヴァイは自分のデスクへと戻る。
その後ろをファーランは早足で追いかけて来た。
面倒くさいとは思ったが、そもそも彼は隣のデスクだ。
「ゲルガー達に聞いたぞ。
まだマスコミはなまえの周りをウロウロしてるって。」
「あぁ、らしいな。」
「らしいな、って。
さっき、わざわざ其奴らを蹴散らしてきたのは何処のどいつだよ。」
「さぁな。」
「ったく。面倒ごと起こすなってエルヴィンに言われてるの忘れるなよ。」
「わかってる。」
「まぁ、ミステリアスな事件に巻き込まれて記憶喪失の美女って
マスコミが喜んで飛びつきそうなネタだし、仕方ねぇとは思うけどさ。」
「仕方なくねぇだろ。四六時中つき纏いやがって、豚野郎共。」
リヴァイは不機嫌に言って、乱暴に自分の椅子に座る。
「怒んなって。俺だって仕方ねぇとは思ってないけど、
世間の目はそうだってことだよ。」
首をすくめ、ファーランも隣の自分の席に腰を降ろした。
リヴァイは、打ち合わせで使った資料を開きながら、チッと舌打ちをする。
ファーランもなまえの身に起きた奇怪な出来事については把握している。この世界に戻って来てからもマスコミのせいでひどい目にあっていることも知っている。
彼の性格上、感情の赴くままというよりは俯瞰して周りを見るようなところがある。
それに、女性に対しては基本的に優しい。リヴァイよりもなまえに対して優しい言葉をかけているくらいだ。
だから、彼が本当に仕方ないと思っているなんて思っていない。
イラついたのは、マスコミに対してだ。
リヴァイは、イライラしたままで打ち合わせしたばかりの書類を開く。
なまえとの打ち合わせで修正が入った部分の確認とファーラン達への説明も必要だ。
「今日もなまえはお前ん家?」
「あぁ、仕事が終わったら連絡するように言ってある。」
リヴァイは、打ち合わせ内容をパソコンに入力し始める。
調べておかないといけないことも増えた。
今夜も遅くなりそうだー。
「マスコミが群がって家に帰れねぇなまえを
リヴァイが自分の家に匿ってやるなんてなぁ。」
「お前が、俺のとこに行けばいいとか勝手なこと言い出したせいでな。」
「リヴァイのとこならセキュリティも万全だし、
まさか普通の女が高級タワーマンションの最上階に
住んでるなんて誰も思わねぇからそうするのがいいってなったんだろ。」
「お前のとこだって似たようなもんじゃねぇーか。」
「俺のとこ、1LDKで部屋余ってねぇから無理だって。
同じベッドで寝てくれるなら、俺は全然構わねぇけど。」
「訊いてみろよ。」
リヴァイは適当に返す。
お喋りをしている暇はない。
抜けているところの多いなまえだけれど、意外と仕事は出来る。
時間がかかりそうだと言いながら、いつも予定よりも早く仕事を仕上げてくる。
今日も彼女から想定より早めに、仕事が終わったという連絡があるはずだ。
まぁ、もし、自分の方が仕事が終わるのが遅くたって、なまえを待たせればいいのだ。
彼女は居候で、自分は部屋を提供してやっているのだから、それくらいさせてもいい。
そんなことを考えながら、キーボードを叩くリヴァイの手はスピードが上がっていく。
「まさか、リヴァイがなまえを居候させるなんてなぁ。」
「まだ言ってんのか。仕事しろ。今日のノルマを送っておいた。」
「了解。」
ファーランに調べておいてもらいたい情報をメールで送った。
イザベルはまだ外出先から戻ってきていないようなので、このまま直接出向いて確認しておいてもらいたいところがあるから、それをお願いしよう。
「だってさぁ~。」
ファーランは、メールを確認しながら、マウスをカチカチと鳴らしていた。
視線はメールの文面と資料を追いかけながら、口を開き続ける。
「女を自分の家に上げるのすら嫌がってた潔癖のリヴァイが、
なまえをもう2か月以上も居候させてるってのが意外でさ。
俺が提案したときも、普通に了承するから驚いたんだよなぁ~。」
パソコン画面から目を反らさないファーランのそれは、殆ど独り言のようだった。
返事を求める様子はない。
リヴァイも、ファーランのようにパソコン画面に視線を向けたままで口を開かなかった。
マスコミから逃げたなまえは、最初は親友のリコの家に居候していた。
でも、リコの家までマスコミがやって来るようになってしまい、リコは婚約者のイアンの家に少し早めに引っ越すことになった。
自分の家に帰るかホテルに泊まると言っていたなまえに、リヴァイの家に行けばいいと言い出したのは、確かにファーランだ。
でも、文句も言わずに受け入れたのは、誰でもなく自分だという自覚がリヴァイにはある。
長い付き合いのファーランが、それに違和感を覚えるのもよく分かる。
自分だって、今自分がしている行動が信じられない。
ただー。
『平和な世界で、幸せになれよ。』
最後に、向こうの世界のリヴァイがなまえに願ったそれを、守らなければと思ったのも理由のひとつだ。
でも、一番はー。
自分と同じ顔で、同じ声なのに、知らない誰かだったあの男が羨ましかったからだと思う。
なまえを見つめる瞳も表情も、見たことがない誰かだった。
あんな優しく慈愛に満ちた顔を、自分も出来るのだろうか。
彼女のそばにいたら、自分もー。
ファーランから、なまえを匿ってやればいいと言われたとき、ふと、そんなことを思ってしまったのだ。
でも、今では、後悔している。
早く、彼女には出て行って欲しいー。
「あ、そうだ、リヴァイ。」
何かを思い出したように、ファーランがこちらを向いた。
仕事のことで気になることでもあるのかー。
リヴァイもパソコン画面を睨みつけていた顔を上げて、ファーランの方を向く。
「何かあったか。」
「ミケが、なまえから嫌な臭いがしたって。」
「…風呂なら毎日入ってるぞ。」
「気色悪い男がなまえの周りをうろついてるんじゃねぇかって
心配してたんだよ。」
「ストーカーってことか?」
リヴァイの眉間に皴が寄る。
行方不明のなまえを捜索しているとき、彼女は以前ストーカーに襲われたことがあるとリコから聞いている。
その男はイアンとミタビが捕まえて、今は刑務所に入っているはずだがー。
「なまえの顔はテレビでよく流れてたから、変なファンみてぇのが湧いたのかもしれない。
一応、リヴァイがそばにいるから問題はないとは思うけど、気をつけといてやれよ。」
「…チッ、面倒くせぇな。」
リヴァイは苛立ったように言って、仕事を再開させた。
キーボードの上に乗せた指を忙しなく動かしながら、今日はなまえにも早く仕事を終わらせるように言っておこうと決めた。
だから、リヴァイはいつも、自分のフロアに戻っていくなまえの背中から目が離せない。
こうしていつも見送っていることを、いつまで経っても名前ですら呼んでくれない彼女は知りもしないのだろう。
リヴァイが、無意識に握った拳が震える。
ふと、肩に重さが乗って、リヴァイは視線を斜め後ろに向けた。
「リヴァイが女に執着してるのなんて、初めて見たぜ。」
リヴァイの肩に手を乗せたファーランが、なまえの背中がエレベーターの向こうに消えた廊下を見ながら言う。
からかう口調というより、本当に意外だと言っているようなそれが余計に気に入らなかった。
「執着した覚えはねぇ。」
ファーランの手を軽く振り払って、リヴァイは自分のデスクへと戻る。
その後ろをファーランは早足で追いかけて来た。
面倒くさいとは思ったが、そもそも彼は隣のデスクだ。
「ゲルガー達に聞いたぞ。
まだマスコミはなまえの周りをウロウロしてるって。」
「あぁ、らしいな。」
「らしいな、って。
さっき、わざわざ其奴らを蹴散らしてきたのは何処のどいつだよ。」
「さぁな。」
「ったく。面倒ごと起こすなってエルヴィンに言われてるの忘れるなよ。」
「わかってる。」
「まぁ、ミステリアスな事件に巻き込まれて記憶喪失の美女って
マスコミが喜んで飛びつきそうなネタだし、仕方ねぇとは思うけどさ。」
「仕方なくねぇだろ。四六時中つき纏いやがって、豚野郎共。」
リヴァイは不機嫌に言って、乱暴に自分の椅子に座る。
「怒んなって。俺だって仕方ねぇとは思ってないけど、
世間の目はそうだってことだよ。」
首をすくめ、ファーランも隣の自分の席に腰を降ろした。
リヴァイは、打ち合わせで使った資料を開きながら、チッと舌打ちをする。
ファーランもなまえの身に起きた奇怪な出来事については把握している。この世界に戻って来てからもマスコミのせいでひどい目にあっていることも知っている。
彼の性格上、感情の赴くままというよりは俯瞰して周りを見るようなところがある。
それに、女性に対しては基本的に優しい。リヴァイよりもなまえに対して優しい言葉をかけているくらいだ。
だから、彼が本当に仕方ないと思っているなんて思っていない。
イラついたのは、マスコミに対してだ。
リヴァイは、イライラしたままで打ち合わせしたばかりの書類を開く。
なまえとの打ち合わせで修正が入った部分の確認とファーラン達への説明も必要だ。
「今日もなまえはお前ん家?」
「あぁ、仕事が終わったら連絡するように言ってある。」
リヴァイは、打ち合わせ内容をパソコンに入力し始める。
調べておかないといけないことも増えた。
今夜も遅くなりそうだー。
「マスコミが群がって家に帰れねぇなまえを
リヴァイが自分の家に匿ってやるなんてなぁ。」
「お前が、俺のとこに行けばいいとか勝手なこと言い出したせいでな。」
「リヴァイのとこならセキュリティも万全だし、
まさか普通の女が高級タワーマンションの最上階に
住んでるなんて誰も思わねぇからそうするのがいいってなったんだろ。」
「お前のとこだって似たようなもんじゃねぇーか。」
「俺のとこ、1LDKで部屋余ってねぇから無理だって。
同じベッドで寝てくれるなら、俺は全然構わねぇけど。」
「訊いてみろよ。」
リヴァイは適当に返す。
お喋りをしている暇はない。
抜けているところの多いなまえだけれど、意外と仕事は出来る。
時間がかかりそうだと言いながら、いつも予定よりも早く仕事を仕上げてくる。
今日も彼女から想定より早めに、仕事が終わったという連絡があるはずだ。
まぁ、もし、自分の方が仕事が終わるのが遅くたって、なまえを待たせればいいのだ。
彼女は居候で、自分は部屋を提供してやっているのだから、それくらいさせてもいい。
そんなことを考えながら、キーボードを叩くリヴァイの手はスピードが上がっていく。
「まさか、リヴァイがなまえを居候させるなんてなぁ。」
「まだ言ってんのか。仕事しろ。今日のノルマを送っておいた。」
「了解。」
ファーランに調べておいてもらいたい情報をメールで送った。
イザベルはまだ外出先から戻ってきていないようなので、このまま直接出向いて確認しておいてもらいたいところがあるから、それをお願いしよう。
「だってさぁ~。」
ファーランは、メールを確認しながら、マウスをカチカチと鳴らしていた。
視線はメールの文面と資料を追いかけながら、口を開き続ける。
「女を自分の家に上げるのすら嫌がってた潔癖のリヴァイが、
なまえをもう2か月以上も居候させてるってのが意外でさ。
俺が提案したときも、普通に了承するから驚いたんだよなぁ~。」
パソコン画面から目を反らさないファーランのそれは、殆ど独り言のようだった。
返事を求める様子はない。
リヴァイも、ファーランのようにパソコン画面に視線を向けたままで口を開かなかった。
マスコミから逃げたなまえは、最初は親友のリコの家に居候していた。
でも、リコの家までマスコミがやって来るようになってしまい、リコは婚約者のイアンの家に少し早めに引っ越すことになった。
自分の家に帰るかホテルに泊まると言っていたなまえに、リヴァイの家に行けばいいと言い出したのは、確かにファーランだ。
でも、文句も言わずに受け入れたのは、誰でもなく自分だという自覚がリヴァイにはある。
長い付き合いのファーランが、それに違和感を覚えるのもよく分かる。
自分だって、今自分がしている行動が信じられない。
ただー。
『平和な世界で、幸せになれよ。』
最後に、向こうの世界のリヴァイがなまえに願ったそれを、守らなければと思ったのも理由のひとつだ。
でも、一番はー。
自分と同じ顔で、同じ声なのに、知らない誰かだったあの男が羨ましかったからだと思う。
なまえを見つめる瞳も表情も、見たことがない誰かだった。
あんな優しく慈愛に満ちた顔を、自分も出来るのだろうか。
彼女のそばにいたら、自分もー。
ファーランから、なまえを匿ってやればいいと言われたとき、ふと、そんなことを思ってしまったのだ。
でも、今では、後悔している。
早く、彼女には出て行って欲しいー。
「あ、そうだ、リヴァイ。」
何かを思い出したように、ファーランがこちらを向いた。
仕事のことで気になることでもあるのかー。
リヴァイもパソコン画面を睨みつけていた顔を上げて、ファーランの方を向く。
「何かあったか。」
「ミケが、なまえから嫌な臭いがしたって。」
「…風呂なら毎日入ってるぞ。」
「気色悪い男がなまえの周りをうろついてるんじゃねぇかって
心配してたんだよ。」
「ストーカーってことか?」
リヴァイの眉間に皴が寄る。
行方不明のなまえを捜索しているとき、彼女は以前ストーカーに襲われたことがあるとリコから聞いている。
その男はイアンとミタビが捕まえて、今は刑務所に入っているはずだがー。
「なまえの顔はテレビでよく流れてたから、変なファンみてぇのが湧いたのかもしれない。
一応、リヴァイがそばにいるから問題はないとは思うけど、気をつけといてやれよ。」
「…チッ、面倒くせぇな。」
リヴァイは苛立ったように言って、仕事を再開させた。
キーボードの上に乗せた指を忙しなく動かしながら、今日はなまえにも早く仕事を終わらせるように言っておこうと決めた。