どれくらい時間が経ったのだろう。
流しつくした涙は枯れて、瞼が腫れて痛い。
私は、ゆっくりと身体を起こした。
いきなりベッドに投げ捨てるなんて酷いことをされたけれど、この世界の彼には、失礼な態度をとりすぎた。
帰る意思があるのかどうか、彼はちゃんと聞いてくれたし、無理やり私をこの世界に連れてきたのは、リヴァイに頼まれたからだ。
笑わせようとしたという冗談は最低だったし、どこに笑うツボがあったのかよく分からないけれど、彼なりの優しさだったのかもしれない。
そんなことを考えていると、扉の向こうが騒がしくなってきた。
話し声と言うよりも、騒いでいるような声がしてすぐに、爆発でも起きたみたいに勢いよく扉が開いた。
駆けこんできたのは、リコだった。その向こうに、イアンとミタビの姿も見えた。
私を見つけて、大きく目を見開いたリコは一瞬だけ足を止めて、そしてー。

「なまえ…！！！」

駆け寄って来たリコが、私に飛びついた。
そして、私の名前を何度も何度も呼んで、その度に何度も何度も抱き直すように腕に力を込める。
ここに本当に存在している私を確かめるみたいに、強く、強くー。

「よかった…っ！もう二度と…っ、会えないかと思ったじゃないか…っ！！」

リコの声は、震えていた。
いつだって凛々しくて強くて、シャンと背筋を伸ばしているリコしか見たことがない。
それなのに、今のリコはまるで、母親に捨てられた子供みたいに私に縋りついていた。
あぁ、私はー。

「ごめん…っ、ごめんね…っ、リコ…っ。」

リコを抱きしめ返した。
私の声も、涙交じりになっていた。
さっきまでリヴァイを想って泣いていたからではなくて、リコへの申し訳なさと会えた嬉しさとー。
それからあとはー。
この世界に戻って来れた安心感を抱いてしまったことが、すごく悲しくてー。

「ごめん…っ。ごめんなさい…っ。」
「いいんだ…！なまえが帰って来てくれたなら、それでいいんだ…っ！」

いつもなら私を叱るはずのリコが、私のすべてを許す。
それがひどく胸に痛くて、私は涙が止まらない。
イアンが、私を抱きしめるリコごと抱きしめる。
大きなミタビの手が、私の髪をクシャリと撫でた。
あぁ、帰って来た。私の世界に帰って来たのだ。
すごく、安心するー。
でも、心にポッカリと空いた穴だけは一生、埋まらないのだと思うー。