この世界の彼の部屋は、白と黒を基調にしていてシックでお洒落だった。
文明の発達が遅れて、壁の中にしか居住できない世界にいた彼の部屋とは全然違うー。
だから私は、リヴァイの姿を探して、鏡と向き合う格好で座り込んでいた。
でも、そこに映るのはただひたすらこの世界だけだ。
もう、向こうの世界は見えない。

「いつまで泣いてんだ。」

後ろから、リヴァイの呆れた声がした。
鏡には、ベッドの縁に腰かけてこちらを向くリヴァイの姿が映っている。
でもそれは、私の愛してる人じゃないー。
もしかしたら、同じ会社に入社してきたことで出逢って、恋に落ちるかもしれなかった人だ。
でも、もう遅いー。
私はー。

「リヴァイ…っ。」

鏡の向こうの愛する人の名前を呼んだ。
届くわけがないことは、分かっているのにー。
リヴァイは、向こうの世界の鏡を割ってしまった。
だからもう二度と、永遠に、私はリヴァイに会えないのだ。
分かっている。
元々、住む世界の違う人だったのだということは、分かっていた。
それでもー。
顔を伏せると、床についていた手にポタポタと涙がとめどなく降ってくる。
あぁ、涙が止まらないー。

「チッ、うるせぇな。」

苛立ったような彼の声が頭上から聞こえた。
気づいたら、腕を掴まれて強引に立ち上がらされていた。
そして、そのまま投げ捨てるようにベッドに背中から放り込まれる。
驚いたときにはもう、私はベッドの上にいて、怖い顔で見下ろす彼に馬乗りにされていた。

「そんなに“リヴァイ”がいいなら、俺が代わりになってやる。
　同じ顔なんだ、ちょうどいいだろ。」
「何言ってー。」
「だから、泣き止め。」

強引にキスをしてこようとしているのに気づいて、私は近くにあった枕で彼の頭を殴った。
ひどく不機嫌な顔をして、彼の動きが止まる。

「冗談じゃねぇか。」
「…！冗談でも、代わりとか…っ、そんなこと言わないで…！」
「怖ぇ顔すんじゃねぇ。せっかく、笑わせようとしてやったのに。」
「…襲われそうになってるのにどうやって笑えばいいの。」
「知るか。」

ため息交じりに言って、彼が起き上がる。
そして、掛布団を雑に手繰り寄せると、私の上に投げるようにしてかけた。

「しばらく1人で頭冷やしとけ。」

ベッドから降りた彼は、背を向けたままそう言って部屋を出て行った。
パタン、と静かに扉が閉まる。
見覚えのない部屋の柔らかいベッドの上で、私は顔を両手で覆って泣いた。
あの後、リヴァイは無事に逃げられたのだろうか。
ジーク達は、巨人化したのだろうか。
あぁ、すごく心配だ。
あぁ、すごくー。
会いたいー。
あぁ、どうかー。
無事でありますようにー。
私にはもう、途方もない距離に絶望しながら、愛する人の幸せを願うことしか、出来ないなんてー。