◇64話◇我儘に愛したから
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泣き止むまで待っていてくれたリヴァイにお願いして、私も、この場所で強く生きた兵士達に手を合わさせてもらった。
瞼を閉じた向こうに、私の知っている人は1人もいない。
それでも、私は、勇敢な兵士達に、恐怖も悲しみもない世界で、ゆっくり休んでほしいと願った。
そして、なまえにー。
心からの謝罪と、そして、リヴァイに出逢わせてくれた感謝をー。
ゆっくりと瞼を押し上げれば、柔らかい風が吹いて、壁に立てかけられた花束を揺らした。
ふわりと花の甘い香りに包まれる。
彼らが今いる世界が、どうか、優しく温かい場所でありますようにー。
そう願って、私は夜空を見上げれば、幾千の星が輝いていた。
「終わったか。」
後ろからリヴァイに声をかけられて、肯定の返事と共に私は立ち上がった。
そして、手を合わさせてくれたことに、もう一度、礼を言う。
すると、リヴァイは小さく首を横に振った後に、口を開いた。
「お前は何も気にしなくていい。俺は怒ってねぇし、お前を恨んでもいねぇ。」
「でも…、私はリヴァイに最低な嘘を吐いた。
亡くなった人のフリをして、リヴァイの気持ちを踏みにじって…
どう謝ったって許されないことをしたのは、分かってる。」
私は謝罪の言葉と共に、もう一度、頭を下げる。
兵舎では返事をなにもくれなかったリヴァイは、今度はすぐに頭を上げろと答えた。
恐る恐る、ゆっくりと顔を上げた私に、リヴァイの方が申し訳なさそうな顔をしていた。
「謝らねぇといけねぇのは、俺の方だ。」
「…リヴァイが?」
「お前が俺に最低な嘘を吐いたなら、俺もお前に最低な嘘を吐いてた。」
「…リヴァイが私に嘘を?」
「あぁ。そして、お前の優しさを踏みにじった。」
リヴァイが何を言っているのか、分からなかった。
私は、嘘を吐かれた覚えはない。
それに、リヴァイが私に吐かなければならない嘘なんて、見当もつかなかった。
首を傾げる私に、彼が教えてくれたそれは、想像すらしていなかったことだった。
きっと、ハンジもモブリットも気づいていなかったと思うー。
「お前が、なまえじゃないことは、本当はすぐに気づいてた。」
「…え?」
何を言われたか分からずパニックだった。
すぐに気づいていたと言ったのか。すぐとはいつだろう。
そんな、まさかー。
「最初はほんの小さな違和感だった。でも、それも記憶がないからだと思った。
いや…違ぇな。そう、信じたかったんだ。」
ポツリ、ポツリとリヴァイは、私がなまえではないと気づき始めたときのことや心情を話し出した。
ほんの違和感から始まったそれは、いつからか私となまえの違いになり始めた。
だから、リヴァイは必死に私の中になまえを探し出そうとして、なまえと同じところを見つければ安心していた。
でも、ズレはどんどん大きくなっていく。
私は、なまえのように強くはないし、いつも弱くて、兵舎の中で調査兵達に守られて生きていた。
堂々と強く生きる彼女を愛したリヴァイには、違う女性に見えて当然だったのかもしれないー。
それも、リヴァイは、記憶が戻ればどうにかなると必死に思い込もうとしていた。
でもー。
「俺の心臓は一度、止まっただろう?」
「え?うん…。医療兵が必死に心臓マッサージをしたんだけどダメで…。
本当に、死んじゃうかと思った…。」
あのときのことを思い出した私の身体が小さく震え出す。
本当に怖かった。
リヴァイの存在しない世界が始まるかもしれないー、そう思った途端に怖くて、怖くて、生きた心地がしなかった。
「あのとき、俺はなまえに会ったんだ。」
「…え?」
「それが本当にアイツだったのか、夢だったのかは今も分からねぇ。
でも、俺は、あれはアイツだったんだと思ってる。」
リヴァイはそう言うと、夜空を見上げた。
私もその視線の先を追いかけて、顔を上げる。
死んだ人は星になる、と聞いたことがある。
それなら、頭上に輝く幾千の星のどこかに、なまえがいるのだろうか。
リヴァイは、夜空を見上げたままで、なまえと再会したときのことを教えてくれた。
彼女と交わした会話や、この世界に戻ってきたときに聞こえた声のことー。
あぁ、やっぱりー。
私が、彼女のいる世界からリヴァイを無理やりこの地獄にー。
「そして、目が覚めたらお前がいて、記憶が戻ったと言った。
自分はなまえだと。ありえねぇと思った。本物のなまえに会ったすぐ後だったから余計に
お前はアイツとは違うとハッキリ分かった。それでも俺は、信じたフリをしたんだ。」
「…どうして?偽物だって罵ってくれてよかったのに…っ。」
パニックと、知らないところで彼を傷つけながらなまえのフリをして笑っていた自分の惨めさが交互に私を襲っていた。
リヴァイのことを救えるのは私だけだなんて、おごったことを考えていた自分が、ひどくまぬけでー。
「俺が、お前を必要としたからだ。」
「…それは、私がなまえがじゃないと分かっていても
なまえとして、そばにいてほしかったから…?」
それなら、私はそれでも構わない。
もし、彼が今もそう思っているのなら、この世界に残ってなまえとして生きてもいい。
でも、リヴァイは首を横に振る。
ズキリと胸が痛む。
愚かな私は、しなくてもいい期待をしてしまったせいで、自分で胸にナイフを突き刺した。
本当に、馬鹿だー。
なまえじゃない私なんて、リヴァイは欲しくなんかないのにー。
でもー。
「もし、アイツのそばにいてぇなら、お前の声が聞こえても戻ったりしねぇ。
戻るつもりなんか、本当はなかったんだ…。」
リヴァイは、視線を足元に落とした。
そこは、なまえが最期の空を見上げた場所だ。
そこで、彼女は何を思って、何を見たのだろう。
最期の瞬間、彼女の心にあったのは、リヴァイだったのだと思う。
だから、パラレルワールドから自分と同一人物を連れて来ようなんて無謀な奇跡を起こせてしまったのだー。
「でも、泣いてるお前の声を聞いたら、放っておけなかった。
俺は、お前のそばにいることを選んだんだ。」
「私のそばに?」
「あぁ。でも、なまえだと信じたフリでもしてねぇとお前のそばにいられねぇだろ。」
「…やっぱり、なまえとしてそばにいてほしかったってこと?」
「…お前、馬鹿だな。」
呆れた様にリヴァイにため息を吐かれる。
そういえば、この世界に飛ばされた日も会社の食堂でリコ達に馬鹿だと言われたんだっけ。
あぁ、リコに会いたい。
私が間違ったことをすれば、叱ってくれる大切な人だ。
イアンにも、ミタビにも、会いたい。
一緒に笑って、くだらない時間を過ごすのが大好きだった。
彼らに会えなくなってもいいと思ったわけではないのだ。
でも、私は、大切な人達だけではなくて、私の人生をすべて捨ててもいいほどにリヴァイをー。
「お前に惚れてると言ったんだ。」
私は、リヴァイを愛してるからー。
リヴァイが、なまえのことしか見ていなくても、それでもー。
「…へ?」
たぶん、ひどく間抜けな顔をしている私を、リヴァイはまっすぐに見つめていた。
ボーッとしていたわけではないけれど、聞き逃してしまったかもしれない。
だって、私は幻聴を聞いてしまったからー。
それなのに、リヴァイはー。
「俺が愛すのは生涯、なまえだけだと信じてた。
だから、どうしてもお前に惹かれてることを認めたくなかった。
我儘に、お前をアイツにしてしまおうとして、お前の心も身体も傷つけた。」
リヴァイから、すまなかったという謝罪の言葉がこぼれる。
目の前で、彼は頭を下げていた。
もし、私が幻か何かを見ているわけではないのであれば、耳に届いた言葉も幻聴ではないのだろう。
でもー。
まさか、そんなのー。
「リヴァイに嘘を吐かれてたこと、驚いたし、ちょっとまだ信じられないけど、
でも、私…、後悔してないし、リヴァイは何も悪くないと思う。
だからお願い…、頭を、上げてよ…。」
躊躇いがちに言えば、しばらくしてゆっくりとリヴァイが顔を上げた。
目が合って、急に恥ずかしくなる。
だって、リヴァイの瞳は、なまえを見ていたときのものとそっくりだったからー。
「アイツが俺に言ったんだ。」
「…なまえが?何、て?」
「俺ならちゃんと分かってるはずだ。本当はすべて知ってるはずだと。
それは、お前がなまえじゃねぇってことかと思ってたが、間違いだ。
アイツは知ってたんだな。俺が、お前に惹かれてること。」
「…そんな、だって、そんなはずー。」
「だから、お前の元に戻れと言ったんだ。
あぁ…。満足そうに、天に昇って行ったのはそのせいか。」
リヴァイは、納得したように呟く。
もう、そう確信しきっているようだった。
でも、私はまだ信じられなくて、頭がぼんやりしていた。
会話をしているはずなのに、ひとりきりで取り残されているような気分だ。
だって、リヴァイは、まるでなまえと2人で話しているみたいでー。
「アイツも馬鹿だな。独りよがりでどうすりゃいいんだ。
クソみてぇな世界に惚れてる女を閉じ込めることしか思いつかねぇ。」
リヴァイは自嘲気味に何かを呟いた。
その声はとても小さくて、静かな夜空の下でも聞き取ることが出来なかった。
「どうかし…ー!?」
訊ねようとした私を、リヴァイはいきなり抱きしめた。
背中にまわる二つの腕が、痛いくらいに私を抱き寄せる。
耳元からリヴァイの息遣いが聞こえてくるくらいに近いー。
驚きと戸惑いで固まる私に、リヴァイが言う。
「ハンジから聞いた。お前が生まれた世界は、平和で安全なんだってな。」
「…うん。」
「だが、お願いだ。帰らないでほしい…!」
耳元から、懇願するようなリヴァイの声が響く。
「俺が守る。傷ひとつだってつけねぇと誓う。
俺のそばにいてくれ。それだけで、いい…!」
リヴァイが、ギュゥッと私を抱きしめる。
誰に、言っているのか分からなかった。
私は誰として、答えればいいのだろう。
喜んでいいのか、苦しめばいいのかも分からず、私はただリヴァイの腕の中で身動きが出来なかった。
そんな私に、リヴァイが続ける。
「いつか必ず、俺は巨人を駆逐して、お前が生まれた世界よりも平和で安全にする。必ず!
それまでは、お前のことは俺が守る。だから、俺のそばにいろ。」
「…私に、言ってるの?」
「お前以外に誰に言うんだ。俺が惚れてんのは、今、抱きしめてる女だ。
他の誰でもねぇ。」
「だって…、そんな…っ。私はなまえじゃないよ…っ。
見た目は同じかもしれないけど、彼女みたいに強くないし、リヴァイのことも何も知らない…!
思い出だって本当は何も持ってなくて、それにー。」
「なまえにならなくていい。俺は、お前に惚れてるんだ。
弱くていい、強くなくていい。高ぇところが怖くても、筋肉もなくてもいい。
お前はお前のままでいい。そのままが、いい。俺は、そのままのお前を、愛してるから。」
「…っ。」
リヴァイの腕の中で、私は驚きを隠せずに肩を揺らした。
信じられないと見開く私の瞳に、涙が溢れていく。
おずおずと、リヴァイの背中に手をまわした。
あまり強く抱きしめると、私は本当に彼から離れられなくなりそうで、ほんの少し触れるだけしか出来なかった。
そんな私を、リヴァイが強く抱きしめる。
強く、強くー。
彼が抱きしめているのは、なまえじゃない。
私だって、彼はそう言ってくれてー。
「愛してる…!
お前を苦しめると分かってても、離してやれねぇくらい、愛してるんだ…!
俺から離れるな…!」
「…リヴァイ…っ。」
気づいたら、私の両手は彼の背中にしがみついていた。
私はきっともう、この手を離せない。
元の世界には、帰れない。
家族にも、リコにも、友人達にも、もう会えない。
あぁ、それでも、私はー。
「どこにも行かない…っ。ずっと、そばにいたい…っ。」
リヴァイのそばにいたい。この命が尽きるまで、ずっとー。
瞼を閉じた向こうに、私の知っている人は1人もいない。
それでも、私は、勇敢な兵士達に、恐怖も悲しみもない世界で、ゆっくり休んでほしいと願った。
そして、なまえにー。
心からの謝罪と、そして、リヴァイに出逢わせてくれた感謝をー。
ゆっくりと瞼を押し上げれば、柔らかい風が吹いて、壁に立てかけられた花束を揺らした。
ふわりと花の甘い香りに包まれる。
彼らが今いる世界が、どうか、優しく温かい場所でありますようにー。
そう願って、私は夜空を見上げれば、幾千の星が輝いていた。
「終わったか。」
後ろからリヴァイに声をかけられて、肯定の返事と共に私は立ち上がった。
そして、手を合わさせてくれたことに、もう一度、礼を言う。
すると、リヴァイは小さく首を横に振った後に、口を開いた。
「お前は何も気にしなくていい。俺は怒ってねぇし、お前を恨んでもいねぇ。」
「でも…、私はリヴァイに最低な嘘を吐いた。
亡くなった人のフリをして、リヴァイの気持ちを踏みにじって…
どう謝ったって許されないことをしたのは、分かってる。」
私は謝罪の言葉と共に、もう一度、頭を下げる。
兵舎では返事をなにもくれなかったリヴァイは、今度はすぐに頭を上げろと答えた。
恐る恐る、ゆっくりと顔を上げた私に、リヴァイの方が申し訳なさそうな顔をしていた。
「謝らねぇといけねぇのは、俺の方だ。」
「…リヴァイが?」
「お前が俺に最低な嘘を吐いたなら、俺もお前に最低な嘘を吐いてた。」
「…リヴァイが私に嘘を?」
「あぁ。そして、お前の優しさを踏みにじった。」
リヴァイが何を言っているのか、分からなかった。
私は、嘘を吐かれた覚えはない。
それに、リヴァイが私に吐かなければならない嘘なんて、見当もつかなかった。
首を傾げる私に、彼が教えてくれたそれは、想像すらしていなかったことだった。
きっと、ハンジもモブリットも気づいていなかったと思うー。
「お前が、なまえじゃないことは、本当はすぐに気づいてた。」
「…え?」
何を言われたか分からずパニックだった。
すぐに気づいていたと言ったのか。すぐとはいつだろう。
そんな、まさかー。
「最初はほんの小さな違和感だった。でも、それも記憶がないからだと思った。
いや…違ぇな。そう、信じたかったんだ。」
ポツリ、ポツリとリヴァイは、私がなまえではないと気づき始めたときのことや心情を話し出した。
ほんの違和感から始まったそれは、いつからか私となまえの違いになり始めた。
だから、リヴァイは必死に私の中になまえを探し出そうとして、なまえと同じところを見つければ安心していた。
でも、ズレはどんどん大きくなっていく。
私は、なまえのように強くはないし、いつも弱くて、兵舎の中で調査兵達に守られて生きていた。
堂々と強く生きる彼女を愛したリヴァイには、違う女性に見えて当然だったのかもしれないー。
それも、リヴァイは、記憶が戻ればどうにかなると必死に思い込もうとしていた。
でもー。
「俺の心臓は一度、止まっただろう?」
「え?うん…。医療兵が必死に心臓マッサージをしたんだけどダメで…。
本当に、死んじゃうかと思った…。」
あのときのことを思い出した私の身体が小さく震え出す。
本当に怖かった。
リヴァイの存在しない世界が始まるかもしれないー、そう思った途端に怖くて、怖くて、生きた心地がしなかった。
「あのとき、俺はなまえに会ったんだ。」
「…え?」
「それが本当にアイツだったのか、夢だったのかは今も分からねぇ。
でも、俺は、あれはアイツだったんだと思ってる。」
リヴァイはそう言うと、夜空を見上げた。
私もその視線の先を追いかけて、顔を上げる。
死んだ人は星になる、と聞いたことがある。
それなら、頭上に輝く幾千の星のどこかに、なまえがいるのだろうか。
リヴァイは、夜空を見上げたままで、なまえと再会したときのことを教えてくれた。
彼女と交わした会話や、この世界に戻ってきたときに聞こえた声のことー。
あぁ、やっぱりー。
私が、彼女のいる世界からリヴァイを無理やりこの地獄にー。
「そして、目が覚めたらお前がいて、記憶が戻ったと言った。
自分はなまえだと。ありえねぇと思った。本物のなまえに会ったすぐ後だったから余計に
お前はアイツとは違うとハッキリ分かった。それでも俺は、信じたフリをしたんだ。」
「…どうして?偽物だって罵ってくれてよかったのに…っ。」
パニックと、知らないところで彼を傷つけながらなまえのフリをして笑っていた自分の惨めさが交互に私を襲っていた。
リヴァイのことを救えるのは私だけだなんて、おごったことを考えていた自分が、ひどくまぬけでー。
「俺が、お前を必要としたからだ。」
「…それは、私がなまえがじゃないと分かっていても
なまえとして、そばにいてほしかったから…?」
それなら、私はそれでも構わない。
もし、彼が今もそう思っているのなら、この世界に残ってなまえとして生きてもいい。
でも、リヴァイは首を横に振る。
ズキリと胸が痛む。
愚かな私は、しなくてもいい期待をしてしまったせいで、自分で胸にナイフを突き刺した。
本当に、馬鹿だー。
なまえじゃない私なんて、リヴァイは欲しくなんかないのにー。
でもー。
「もし、アイツのそばにいてぇなら、お前の声が聞こえても戻ったりしねぇ。
戻るつもりなんか、本当はなかったんだ…。」
リヴァイは、視線を足元に落とした。
そこは、なまえが最期の空を見上げた場所だ。
そこで、彼女は何を思って、何を見たのだろう。
最期の瞬間、彼女の心にあったのは、リヴァイだったのだと思う。
だから、パラレルワールドから自分と同一人物を連れて来ようなんて無謀な奇跡を起こせてしまったのだー。
「でも、泣いてるお前の声を聞いたら、放っておけなかった。
俺は、お前のそばにいることを選んだんだ。」
「私のそばに?」
「あぁ。でも、なまえだと信じたフリでもしてねぇとお前のそばにいられねぇだろ。」
「…やっぱり、なまえとしてそばにいてほしかったってこと?」
「…お前、馬鹿だな。」
呆れた様にリヴァイにため息を吐かれる。
そういえば、この世界に飛ばされた日も会社の食堂でリコ達に馬鹿だと言われたんだっけ。
あぁ、リコに会いたい。
私が間違ったことをすれば、叱ってくれる大切な人だ。
イアンにも、ミタビにも、会いたい。
一緒に笑って、くだらない時間を過ごすのが大好きだった。
彼らに会えなくなってもいいと思ったわけではないのだ。
でも、私は、大切な人達だけではなくて、私の人生をすべて捨ててもいいほどにリヴァイをー。
「お前に惚れてると言ったんだ。」
私は、リヴァイを愛してるからー。
リヴァイが、なまえのことしか見ていなくても、それでもー。
「…へ?」
たぶん、ひどく間抜けな顔をしている私を、リヴァイはまっすぐに見つめていた。
ボーッとしていたわけではないけれど、聞き逃してしまったかもしれない。
だって、私は幻聴を聞いてしまったからー。
それなのに、リヴァイはー。
「俺が愛すのは生涯、なまえだけだと信じてた。
だから、どうしてもお前に惹かれてることを認めたくなかった。
我儘に、お前をアイツにしてしまおうとして、お前の心も身体も傷つけた。」
リヴァイから、すまなかったという謝罪の言葉がこぼれる。
目の前で、彼は頭を下げていた。
もし、私が幻か何かを見ているわけではないのであれば、耳に届いた言葉も幻聴ではないのだろう。
でもー。
まさか、そんなのー。
「リヴァイに嘘を吐かれてたこと、驚いたし、ちょっとまだ信じられないけど、
でも、私…、後悔してないし、リヴァイは何も悪くないと思う。
だからお願い…、頭を、上げてよ…。」
躊躇いがちに言えば、しばらくしてゆっくりとリヴァイが顔を上げた。
目が合って、急に恥ずかしくなる。
だって、リヴァイの瞳は、なまえを見ていたときのものとそっくりだったからー。
「アイツが俺に言ったんだ。」
「…なまえが?何、て?」
「俺ならちゃんと分かってるはずだ。本当はすべて知ってるはずだと。
それは、お前がなまえじゃねぇってことかと思ってたが、間違いだ。
アイツは知ってたんだな。俺が、お前に惹かれてること。」
「…そんな、だって、そんなはずー。」
「だから、お前の元に戻れと言ったんだ。
あぁ…。満足そうに、天に昇って行ったのはそのせいか。」
リヴァイは、納得したように呟く。
もう、そう確信しきっているようだった。
でも、私はまだ信じられなくて、頭がぼんやりしていた。
会話をしているはずなのに、ひとりきりで取り残されているような気分だ。
だって、リヴァイは、まるでなまえと2人で話しているみたいでー。
「アイツも馬鹿だな。独りよがりでどうすりゃいいんだ。
クソみてぇな世界に惚れてる女を閉じ込めることしか思いつかねぇ。」
リヴァイは自嘲気味に何かを呟いた。
その声はとても小さくて、静かな夜空の下でも聞き取ることが出来なかった。
「どうかし…ー!?」
訊ねようとした私を、リヴァイはいきなり抱きしめた。
背中にまわる二つの腕が、痛いくらいに私を抱き寄せる。
耳元からリヴァイの息遣いが聞こえてくるくらいに近いー。
驚きと戸惑いで固まる私に、リヴァイが言う。
「ハンジから聞いた。お前が生まれた世界は、平和で安全なんだってな。」
「…うん。」
「だが、お願いだ。帰らないでほしい…!」
耳元から、懇願するようなリヴァイの声が響く。
「俺が守る。傷ひとつだってつけねぇと誓う。
俺のそばにいてくれ。それだけで、いい…!」
リヴァイが、ギュゥッと私を抱きしめる。
誰に、言っているのか分からなかった。
私は誰として、答えればいいのだろう。
喜んでいいのか、苦しめばいいのかも分からず、私はただリヴァイの腕の中で身動きが出来なかった。
そんな私に、リヴァイが続ける。
「いつか必ず、俺は巨人を駆逐して、お前が生まれた世界よりも平和で安全にする。必ず!
それまでは、お前のことは俺が守る。だから、俺のそばにいろ。」
「…私に、言ってるの?」
「お前以外に誰に言うんだ。俺が惚れてんのは、今、抱きしめてる女だ。
他の誰でもねぇ。」
「だって…、そんな…っ。私はなまえじゃないよ…っ。
見た目は同じかもしれないけど、彼女みたいに強くないし、リヴァイのことも何も知らない…!
思い出だって本当は何も持ってなくて、それにー。」
「なまえにならなくていい。俺は、お前に惚れてるんだ。
弱くていい、強くなくていい。高ぇところが怖くても、筋肉もなくてもいい。
お前はお前のままでいい。そのままが、いい。俺は、そのままのお前を、愛してるから。」
「…っ。」
リヴァイの腕の中で、私は驚きを隠せずに肩を揺らした。
信じられないと見開く私の瞳に、涙が溢れていく。
おずおずと、リヴァイの背中に手をまわした。
あまり強く抱きしめると、私は本当に彼から離れられなくなりそうで、ほんの少し触れるだけしか出来なかった。
そんな私を、リヴァイが強く抱きしめる。
強く、強くー。
彼が抱きしめているのは、なまえじゃない。
私だって、彼はそう言ってくれてー。
「愛してる…!
お前を苦しめると分かってても、離してやれねぇくらい、愛してるんだ…!
俺から離れるな…!」
「…リヴァイ…っ。」
気づいたら、私の両手は彼の背中にしがみついていた。
私はきっともう、この手を離せない。
元の世界には、帰れない。
家族にも、リコにも、友人達にも、もう会えない。
あぁ、それでも、私はー。
「どこにも行かない…っ。ずっと、そばにいたい…っ。」
リヴァイのそばにいたい。この命が尽きるまで、ずっとー。