◇64話◇我儘に愛したから
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リヴァイが私の腕を引っ張って向かったのは、兵舎の外だった。
見張りをしていた調査兵達が驚いていたのがチラリと見えたけれど、彼は気にする様子もなく兵門をくぐり、トロスト区の街をまっすぐに歩いていく。
どこか目的の場所があるのは間違いないようだ。
通り沿いに並ぶほとんどの店は、店仕舞いの準備を始めていた。
既に明かりを消した店も幾つかあるおかげで、通りは薄暗く、寂しさが漂いだしていた。
しばらく歩いたあと、リヴァイが足を止めたのは、花屋の前だった。
いつの間にか、頭上には星が輝き、薄暗いだけだったそこは夜空になっている。
「待ってろ。」
リヴァイはそう言うと、漸く私の腕から手を放した。
そして、花屋の中に入って行く。
彼と花の組み合わせは意外だった。
どこへ行くのだろうとは思っていたけれど、花を買いに来たのだろうか。
それほど待たずに、リヴァイは花束を持って店を出て来た。
黄色や赤、ピンクにオレンジ、色とりどりの綺麗な花束だった。
何のために買ったのだろうー。
リヴァイの部屋に花が飾られているのを見たことはないし、花に興味があるようなことを言っているのを聞いたことはない。
「来い。」
不思議に思っている私に、リヴァイはそれだけ言ってまた歩き出す。
どうやら、目的地は別にあるらしい。
どこへ向かうのかは分からないまま、私は彼の後ろを追いかける。
少しだけ距離を開けて、斜め後ろを歩いた。
でも、今度はすぐに目的地に辿り着いた。
この世界のリコに出逢ったときに見た大きな岩のすぐそばだった。
見上げるのも首が痛いくらいの大きな岩を壁沿いに歩いてすぐのところに、花束や飲み物の入ったコップが幾つか置いてある。
それは、手向けの花とお供え物のようだった。
ここで誰かが亡くなったのだろうか。
そこだけ、時間が止まっているみたいだと思った。
誰かに向けた優しい愛と悲しみが、留まり続けている。
ここに花と飲み物を持ってきた人はきっと、その誰かの生きている未来を望んでいたに違いない。
これからもずっと、一緒に生きていこうとー。
胸がギュッと苦しくなった。
花とお供え物の前に立ったリヴァイは、その隣に買って来たばかりの花をそっと置いて、壁に立てかけた。
そのまま膝を折り曲げて屈み、両手を合わせる。
瞼を下ろした向こうで、生前の誰かと再会しているのだろうか。
長めに目を閉じていた後、ゆっくりと瞼を押し上げた彼は、とても優しい瞳をしていた。
その瞳には、見覚えがあったー。
(あ…。)
気づいてしまった。
ここで亡くなったのは、なまえなのか。
エレンを守るために戦って命を落としたと聞いている。
そうか、それがここでー。
だからあの日、リコはこの場所にいたのかもしれない。
リヴァイは、聞き覚えのある優しい声でなまえに語り掛ける。
「ずっと会いに来てやれなくて、ごめんな。
お前はよくやった。お前が仲間と共に命を賭けて残した希望を、俺は必ず未来に繋げると誓う。
俺はもう大丈夫だ。心配しなくていい。だからもう、ゆっくり、眠ってくれ。」
ひどく優しい慈愛に満ちた声と瞳に、私は胸が引き裂かれそうになる。
それは、嫉妬や妬みではなくて、愛し合う2人が引き裂かれてしまった悲劇へのやり切れなさだった。
どうして、この世界は、リヴァイから愛する人を奪ったのだろう。
命を亡くして、その身体を失っても尚、リヴァイの心を守ろうとするほどに彼を愛していたなまえが、どうしてー。
ゆっくりと立ち上がったリヴァイは、私の方に向き直ると驚いた顔をした。
「どうして、お前が泣いてるんだ。」
驚いた顔で言われて、私は漸く自分が泣いていることに気が付いた。
ハッとして両手で頬を押さえて、慌てて涙を拭う。
「ごめんなさ…っ。」
「怒ったわけじゃねぇ。なぜ泣いてるか聞いただけだ。」
「…っ。どうして…っ、2人は引き裂かれちゃったのかなって、思って…っ。
彼女に、生きてて、欲しかった…っ。」
「あぁ…、そうだな。俺もそう思う。」
リヴァイは呟くように言って、自分の足元に視線を落とした。
その横顔はとても悲し気で、そして、ひどく傷ついている。
儚いその姿に、せりあがってくる悲しみと涙を堪えたくて、私は瞳だけを動かして夜空を見上げた。
「アイツの最期は、ハンジから聞いた。
巨人に喰い散らかされた身体は、この辺りに散らばってたそうだ。」
リヴァイは、足元を見下ろしたまま、なまえの最期の話をし始めた。
それは聞くに堪えない惨いもので、平和に浸りきって生きていた私には想像すら出来なかった。
そもそも巨人に人間が食べられてしまうなんて、観たくもない映画の残酷なワンシーンだ。
でもー。
彼らにとってそれは、耳を塞ぐどころか、目を背けることすら許してもらえない現実なのだ。
「リコが言うには、アイツが死んですぐ、俺が壁外調査から戻って来たらしい。」
リヴァイはそう言うと、大きな岩のすぐ前を指さした。
「俺はそこで、エレンに群がる巨人を何体も討伐した。それは覚えてる。
でも、アイツ等のそばに駐屯兵達の死体が転がってたかどうかは覚えてねぇんだ。」
悲しみと絶望を宿した瞳は今、なまえが命を落としたあの日を映しているようだった。
そこに、兵士として強く戦った愛する人の姿を探しているのだろうか。
だから、どこにも見つからなくて、彼は泣きそうな顔をしているのかもしれない。
「あの中になまえを食ったヤツが何体もいたそうだ。
俺は知らねぇうちに、仇を殺してたんだ。
他の巨人と同じように、何の感情もねぇまま…!」
リヴァイは憎々し気に言うと、指さしていた手で拳を作った。
そして、怒りに震えるその拳を、悔しそうに睨みつける。
もう少し早く、リヴァイが帰って来ていたら、なまえは死ななかったのだろうか。
リヴァイは、彼女を守ることが出来たのだろうか。
なんて残酷なんだろう。
この世界が彼にした仕打ちは、あまりにも惨すぎるー。
「また泣いてんのか。」
リヴァイの視線が、不意に私に向いた。
また気づかずに泣いていたらしく、私は慌てて涙を拭う。
「ごめんなさ…っ。」
「見た目はなまえと同じくせに、アイツとは全然違ぇんだな。
アイツは、あんまり泣く女じゃなかった。」
「…っ!ご、ごめんなさい…っ。すぐ、泣き止むから…っ。」
そう言ったのはいいものの、なまえと比べられたことがショックで、今度は違う理由の涙が溢れて止まらなくなってしまった。
それでも、必死に涙を拭っていれば、リヴァイは困ったように眉尻を下げて続ける。
「怒ってるわけじゃねぇ。泣きたきゃ、泣けばいい。我慢する必要はねぇ。
ただ…、なまえが泣いてるところなんて、数えるほどしか見たことがねぇから
アイツと同じ顔で泣かれると、変な気分になるだけだ。」
リヴァイはそう言うと、足元の花束へ目をやる。
そして、ふっと笑った。
不思議に思う私に、リヴァイが言う。
「アイツが死んだと聞かされてから、初めてこの場所に来た。」
「え…?」
「どうしても認めたくなかった。アイツがもうこの世に存在しねぇなんて
そんなクソみてぇな話、受け入れたくなかった…。
俺が弱ぇせいで、アイツにはずっと寂しい想いをさせちまってたのかもしれねぇな。」
リヴァイの方が寂しそうに言うと、少しだけハッとしたように目を見開いたあと、凄く優しい表情になった。
そしてー。
「あぁ、そうか…。
アイツはここで、強く戦ったんだな。仲間と未来の希望を守って、生きたんだ。」
リヴァイは、どこか安心したような顔で、呟くように言う。
自分に教えてあげているようだと思った。
それから、彼は私の方を見た。
「お前はさっき、自分は何の役にも立てなかったと言ったな。」
「…うん。本当にごめんなさい。私、ヒドイ嘘をついてー。」
「俺がここに来れたのは、お前がいたからだ。」
「え…?」
リヴァイは、真っすぐに私を見ていた。
それは、少し前に向けられた冷たい瞳とは違っていて、でも、なまえとして私が見せられた温かい瞳とも違っていた。
「やっと、俺はなまえに会いに来てやれた。
アイツが強く生きたことを褒めてやれた。お前のおかげだ。
お前には、心から感謝してる。本当に、ありがとうな。」
リヴァイが、ひどく優しく微笑んだ。
まさか、感謝をされるなんて思わなかった私は、信じられなくてゆっくりと目を見開いていく。
そんな私を、リヴァイはひたすらまっすぐに優しい笑みを向けてくれる。
胸が痛い。苦しいー。
また、なまえの顔をしてすぐ泣くやつだと思われるかもしれないー。
一瞬だけそんなことを思ったけれど、もうダメだった。
一気にせりあがった涙は、堪える暇を与えては貰えずに、瞳から次から次へと溢れ出す。
(よかった…っ。)
止まらない涙を両手の甲で交互に拭いながら、私は少しだけ声を出して泣いた。
なまえがどうしてもリヴァイを救いたくてこの世界に呼んだ私だったのに、何も出来なかったどころか、彼女の大切な人を愛してしまった。
この世界に来た私は何の価値も無いまま、彼らを傷つけただけだと思っていた。
少しでも、リヴァイの役に立てていたのならよかったー。
彼が、ほんの一歩でも、前に進む何かになれていたのなら、よかったー。
よかった、本当にー。
これで、明日、私はちゃんと帰れるー。
ちゃんと、帰れるー。
見張りをしていた調査兵達が驚いていたのがチラリと見えたけれど、彼は気にする様子もなく兵門をくぐり、トロスト区の街をまっすぐに歩いていく。
どこか目的の場所があるのは間違いないようだ。
通り沿いに並ぶほとんどの店は、店仕舞いの準備を始めていた。
既に明かりを消した店も幾つかあるおかげで、通りは薄暗く、寂しさが漂いだしていた。
しばらく歩いたあと、リヴァイが足を止めたのは、花屋の前だった。
いつの間にか、頭上には星が輝き、薄暗いだけだったそこは夜空になっている。
「待ってろ。」
リヴァイはそう言うと、漸く私の腕から手を放した。
そして、花屋の中に入って行く。
彼と花の組み合わせは意外だった。
どこへ行くのだろうとは思っていたけれど、花を買いに来たのだろうか。
それほど待たずに、リヴァイは花束を持って店を出て来た。
黄色や赤、ピンクにオレンジ、色とりどりの綺麗な花束だった。
何のために買ったのだろうー。
リヴァイの部屋に花が飾られているのを見たことはないし、花に興味があるようなことを言っているのを聞いたことはない。
「来い。」
不思議に思っている私に、リヴァイはそれだけ言ってまた歩き出す。
どうやら、目的地は別にあるらしい。
どこへ向かうのかは分からないまま、私は彼の後ろを追いかける。
少しだけ距離を開けて、斜め後ろを歩いた。
でも、今度はすぐに目的地に辿り着いた。
この世界のリコに出逢ったときに見た大きな岩のすぐそばだった。
見上げるのも首が痛いくらいの大きな岩を壁沿いに歩いてすぐのところに、花束や飲み物の入ったコップが幾つか置いてある。
それは、手向けの花とお供え物のようだった。
ここで誰かが亡くなったのだろうか。
そこだけ、時間が止まっているみたいだと思った。
誰かに向けた優しい愛と悲しみが、留まり続けている。
ここに花と飲み物を持ってきた人はきっと、その誰かの生きている未来を望んでいたに違いない。
これからもずっと、一緒に生きていこうとー。
胸がギュッと苦しくなった。
花とお供え物の前に立ったリヴァイは、その隣に買って来たばかりの花をそっと置いて、壁に立てかけた。
そのまま膝を折り曲げて屈み、両手を合わせる。
瞼を下ろした向こうで、生前の誰かと再会しているのだろうか。
長めに目を閉じていた後、ゆっくりと瞼を押し上げた彼は、とても優しい瞳をしていた。
その瞳には、見覚えがあったー。
(あ…。)
気づいてしまった。
ここで亡くなったのは、なまえなのか。
エレンを守るために戦って命を落としたと聞いている。
そうか、それがここでー。
だからあの日、リコはこの場所にいたのかもしれない。
リヴァイは、聞き覚えのある優しい声でなまえに語り掛ける。
「ずっと会いに来てやれなくて、ごめんな。
お前はよくやった。お前が仲間と共に命を賭けて残した希望を、俺は必ず未来に繋げると誓う。
俺はもう大丈夫だ。心配しなくていい。だからもう、ゆっくり、眠ってくれ。」
ひどく優しい慈愛に満ちた声と瞳に、私は胸が引き裂かれそうになる。
それは、嫉妬や妬みではなくて、愛し合う2人が引き裂かれてしまった悲劇へのやり切れなさだった。
どうして、この世界は、リヴァイから愛する人を奪ったのだろう。
命を亡くして、その身体を失っても尚、リヴァイの心を守ろうとするほどに彼を愛していたなまえが、どうしてー。
ゆっくりと立ち上がったリヴァイは、私の方に向き直ると驚いた顔をした。
「どうして、お前が泣いてるんだ。」
驚いた顔で言われて、私は漸く自分が泣いていることに気が付いた。
ハッとして両手で頬を押さえて、慌てて涙を拭う。
「ごめんなさ…っ。」
「怒ったわけじゃねぇ。なぜ泣いてるか聞いただけだ。」
「…っ。どうして…っ、2人は引き裂かれちゃったのかなって、思って…っ。
彼女に、生きてて、欲しかった…っ。」
「あぁ…、そうだな。俺もそう思う。」
リヴァイは呟くように言って、自分の足元に視線を落とした。
その横顔はとても悲し気で、そして、ひどく傷ついている。
儚いその姿に、せりあがってくる悲しみと涙を堪えたくて、私は瞳だけを動かして夜空を見上げた。
「アイツの最期は、ハンジから聞いた。
巨人に喰い散らかされた身体は、この辺りに散らばってたそうだ。」
リヴァイは、足元を見下ろしたまま、なまえの最期の話をし始めた。
それは聞くに堪えない惨いもので、平和に浸りきって生きていた私には想像すら出来なかった。
そもそも巨人に人間が食べられてしまうなんて、観たくもない映画の残酷なワンシーンだ。
でもー。
彼らにとってそれは、耳を塞ぐどころか、目を背けることすら許してもらえない現実なのだ。
「リコが言うには、アイツが死んですぐ、俺が壁外調査から戻って来たらしい。」
リヴァイはそう言うと、大きな岩のすぐ前を指さした。
「俺はそこで、エレンに群がる巨人を何体も討伐した。それは覚えてる。
でも、アイツ等のそばに駐屯兵達の死体が転がってたかどうかは覚えてねぇんだ。」
悲しみと絶望を宿した瞳は今、なまえが命を落としたあの日を映しているようだった。
そこに、兵士として強く戦った愛する人の姿を探しているのだろうか。
だから、どこにも見つからなくて、彼は泣きそうな顔をしているのかもしれない。
「あの中になまえを食ったヤツが何体もいたそうだ。
俺は知らねぇうちに、仇を殺してたんだ。
他の巨人と同じように、何の感情もねぇまま…!」
リヴァイは憎々し気に言うと、指さしていた手で拳を作った。
そして、怒りに震えるその拳を、悔しそうに睨みつける。
もう少し早く、リヴァイが帰って来ていたら、なまえは死ななかったのだろうか。
リヴァイは、彼女を守ることが出来たのだろうか。
なんて残酷なんだろう。
この世界が彼にした仕打ちは、あまりにも惨すぎるー。
「また泣いてんのか。」
リヴァイの視線が、不意に私に向いた。
また気づかずに泣いていたらしく、私は慌てて涙を拭う。
「ごめんなさ…っ。」
「見た目はなまえと同じくせに、アイツとは全然違ぇんだな。
アイツは、あんまり泣く女じゃなかった。」
「…っ!ご、ごめんなさい…っ。すぐ、泣き止むから…っ。」
そう言ったのはいいものの、なまえと比べられたことがショックで、今度は違う理由の涙が溢れて止まらなくなってしまった。
それでも、必死に涙を拭っていれば、リヴァイは困ったように眉尻を下げて続ける。
「怒ってるわけじゃねぇ。泣きたきゃ、泣けばいい。我慢する必要はねぇ。
ただ…、なまえが泣いてるところなんて、数えるほどしか見たことがねぇから
アイツと同じ顔で泣かれると、変な気分になるだけだ。」
リヴァイはそう言うと、足元の花束へ目をやる。
そして、ふっと笑った。
不思議に思う私に、リヴァイが言う。
「アイツが死んだと聞かされてから、初めてこの場所に来た。」
「え…?」
「どうしても認めたくなかった。アイツがもうこの世に存在しねぇなんて
そんなクソみてぇな話、受け入れたくなかった…。
俺が弱ぇせいで、アイツにはずっと寂しい想いをさせちまってたのかもしれねぇな。」
リヴァイの方が寂しそうに言うと、少しだけハッとしたように目を見開いたあと、凄く優しい表情になった。
そしてー。
「あぁ、そうか…。
アイツはここで、強く戦ったんだな。仲間と未来の希望を守って、生きたんだ。」
リヴァイは、どこか安心したような顔で、呟くように言う。
自分に教えてあげているようだと思った。
それから、彼は私の方を見た。
「お前はさっき、自分は何の役にも立てなかったと言ったな。」
「…うん。本当にごめんなさい。私、ヒドイ嘘をついてー。」
「俺がここに来れたのは、お前がいたからだ。」
「え…?」
リヴァイは、真っすぐに私を見ていた。
それは、少し前に向けられた冷たい瞳とは違っていて、でも、なまえとして私が見せられた温かい瞳とも違っていた。
「やっと、俺はなまえに会いに来てやれた。
アイツが強く生きたことを褒めてやれた。お前のおかげだ。
お前には、心から感謝してる。本当に、ありがとうな。」
リヴァイが、ひどく優しく微笑んだ。
まさか、感謝をされるなんて思わなかった私は、信じられなくてゆっくりと目を見開いていく。
そんな私を、リヴァイはひたすらまっすぐに優しい笑みを向けてくれる。
胸が痛い。苦しいー。
また、なまえの顔をしてすぐ泣くやつだと思われるかもしれないー。
一瞬だけそんなことを思ったけれど、もうダメだった。
一気にせりあがった涙は、堪える暇を与えては貰えずに、瞳から次から次へと溢れ出す。
(よかった…っ。)
止まらない涙を両手の甲で交互に拭いながら、私は少しだけ声を出して泣いた。
なまえがどうしてもリヴァイを救いたくてこの世界に呼んだ私だったのに、何も出来なかったどころか、彼女の大切な人を愛してしまった。
この世界に来た私は何の価値も無いまま、彼らを傷つけただけだと思っていた。
少しでも、リヴァイの役に立てていたのならよかったー。
彼が、ほんの一歩でも、前に進む何かになれていたのなら、よかったー。
よかった、本当にー。
これで、明日、私はちゃんと帰れるー。
ちゃんと、帰れるー。