◇63話◇心臓よ、止まれ
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窓の外が薄暗くなり始めた頃、任務や訓練を終えた調査兵達が疲れた表情で廊下を通り過ぎていく。
リヴァイの執務室の扉の前でひとりきりで立ち尽くす私は、部屋の主の帰りをただひたすら待っていた。
今朝、ハンジが部屋にやって来た。
そしてー。
『明日、リヴァイの非番の日に、寝室の鏡を使って元の世界に帰れるか試してみることになったよ。
だからもう、巨人に慣れようとする必要はない。君はもう、なまえにならなくていいんだ。』
ハンジは清々しい顔でそう言った。
リヴァイが、自分が非番の日なら1日中試せるから良いだろうと提案してくれたと聞いて、私はとうとう諦めるしかなくなった。
私の気持ちを知っているからか、ハンジの笑顔はどこかぎこちなくて、それが余計に私を惨めにさせた。
どんなに足掻いたところで、私は私でしかない。
なまえにはなれない。
リヴァイが愛しているのは彼女で、私じゃない。
私が私であることを知られてしまった時点で、私がこの世界に存在する価値すらなくなってしまったのだ。
それくらい、分かっていたことなのにー。
しばらく待っていると、調査兵達の波の中にリヴァイを見つけた。
近くまでくると、彼も自分の部屋の前に立っている私に気づいたようで、少し驚いた顔をした後、すっと目を反らされてしまった。
「帰るのは明日だろ。今すぐ帰りてぇと言われても、無理だ。
俺は疲れてる。仕事も残ってんだ。お前に付き合う暇はねぇ。」
リヴァイは私を見ないままそう言って、扉に手をかけた。
そして、そのまま部屋に入ってしまおうとする彼に、私は勇気を振り絞って声をかけた。
「謝らせてほしいの…っ。」
「…何をだ。」
身体半分ほどに扉が開いた状態で、リヴァイは動きを止めてくれた。
それでも、彼の目は扉の向こうを見ていて、私を見ようとはしてくれない。
それも、仕方がないと分かっている。
なまえと同じ顔のくせになまえではない私の顔なんて、彼はもう見たくないのだろう。声だって聞きたくないのだと思う。
でも、私はどうしても謝りたかった。
拒絶されるのも、彼を怒らせるのも、仕方がない。
嫌われても当然なことをした。
私はもう、なまえではいられない。
なまえはリヴァイを救ってほしくて私を呼んだのに、役に立つどころか、結局、私の方が彼を愛してしまって、傷つけてしまっただけだった。
だからー。
帰る前にちゃんと、謝りたかった。
「リヴァイがなまえを想う気持ちを利用して、最低な嘘で騙してしまったこと。
本当に、ごめんなさい。私、謝っても謝りきれない酷いことをした…。
少しでもリヴァイを救えたらって思ったのは嘘じゃないの。でも…。」
結局、何の役にも立てないで傷つけただけだったー。
そう続けて、私はもう一度、謝罪の言葉と共に頭を下げた。
返事は、なかった。
下を向く私の視線の向こうに、リヴァイの足元がずっと見えている。
無視されているわけではなさそうだ。
許さないとも、嫌いだとも、言ってもらえないくらいに、私は価値のない女になっているのだろう。
それでもせめて、リヴァイが部屋に戻るまでは、頭を下げていようと思った。
しばらく待っていると、彼が履いているブーツが動いた。
そしてー。
「来い。」
リヴァイは私の腕を掴むと、やって来た道を戻るように歩きだした。
意味も分からないまま、私は彼に引っ張られる。
彼の手に触れられている腕から熱が伝わって、久しぶりの彼の温もりに胸が高鳴る。
節操のない恋心ー。
どこへ行くのかも、何をするのかも、私は聞けなかった。
(心臓、止まって…っ。)
強引に腕を引っ張られながら、唇を噛んだ私はシャツの胸元を握りしめる。
鼓動が、彼に聞こえてしまう。
謝罪をしたくせに、こんなときにも、彼を好きだと叫ぶ哀れで我儘な恋心に気づかれてしまう。
呆れられる。これ以上、嫌われたくないー。
だから、あぁ、このままー。
心臓よ、止まれー。
乱暴に掴む彼の手に願う。
このまま私の息の根を、止めてー。
そうすれば私は、元の世界に帰らず、彼の手の温もりを覚えたままでいられるのにー。
リヴァイの執務室の扉の前でひとりきりで立ち尽くす私は、部屋の主の帰りをただひたすら待っていた。
今朝、ハンジが部屋にやって来た。
そしてー。
『明日、リヴァイの非番の日に、寝室の鏡を使って元の世界に帰れるか試してみることになったよ。
だからもう、巨人に慣れようとする必要はない。君はもう、なまえにならなくていいんだ。』
ハンジは清々しい顔でそう言った。
リヴァイが、自分が非番の日なら1日中試せるから良いだろうと提案してくれたと聞いて、私はとうとう諦めるしかなくなった。
私の気持ちを知っているからか、ハンジの笑顔はどこかぎこちなくて、それが余計に私を惨めにさせた。
どんなに足掻いたところで、私は私でしかない。
なまえにはなれない。
リヴァイが愛しているのは彼女で、私じゃない。
私が私であることを知られてしまった時点で、私がこの世界に存在する価値すらなくなってしまったのだ。
それくらい、分かっていたことなのにー。
しばらく待っていると、調査兵達の波の中にリヴァイを見つけた。
近くまでくると、彼も自分の部屋の前に立っている私に気づいたようで、少し驚いた顔をした後、すっと目を反らされてしまった。
「帰るのは明日だろ。今すぐ帰りてぇと言われても、無理だ。
俺は疲れてる。仕事も残ってんだ。お前に付き合う暇はねぇ。」
リヴァイは私を見ないままそう言って、扉に手をかけた。
そして、そのまま部屋に入ってしまおうとする彼に、私は勇気を振り絞って声をかけた。
「謝らせてほしいの…っ。」
「…何をだ。」
身体半分ほどに扉が開いた状態で、リヴァイは動きを止めてくれた。
それでも、彼の目は扉の向こうを見ていて、私を見ようとはしてくれない。
それも、仕方がないと分かっている。
なまえと同じ顔のくせになまえではない私の顔なんて、彼はもう見たくないのだろう。声だって聞きたくないのだと思う。
でも、私はどうしても謝りたかった。
拒絶されるのも、彼を怒らせるのも、仕方がない。
嫌われても当然なことをした。
私はもう、なまえではいられない。
なまえはリヴァイを救ってほしくて私を呼んだのに、役に立つどころか、結局、私の方が彼を愛してしまって、傷つけてしまっただけだった。
だからー。
帰る前にちゃんと、謝りたかった。
「リヴァイがなまえを想う気持ちを利用して、最低な嘘で騙してしまったこと。
本当に、ごめんなさい。私、謝っても謝りきれない酷いことをした…。
少しでもリヴァイを救えたらって思ったのは嘘じゃないの。でも…。」
結局、何の役にも立てないで傷つけただけだったー。
そう続けて、私はもう一度、謝罪の言葉と共に頭を下げた。
返事は、なかった。
下を向く私の視線の向こうに、リヴァイの足元がずっと見えている。
無視されているわけではなさそうだ。
許さないとも、嫌いだとも、言ってもらえないくらいに、私は価値のない女になっているのだろう。
それでもせめて、リヴァイが部屋に戻るまでは、頭を下げていようと思った。
しばらく待っていると、彼が履いているブーツが動いた。
そしてー。
「来い。」
リヴァイは私の腕を掴むと、やって来た道を戻るように歩きだした。
意味も分からないまま、私は彼に引っ張られる。
彼の手に触れられている腕から熱が伝わって、久しぶりの彼の温もりに胸が高鳴る。
節操のない恋心ー。
どこへ行くのかも、何をするのかも、私は聞けなかった。
(心臓、止まって…っ。)
強引に腕を引っ張られながら、唇を噛んだ私はシャツの胸元を握りしめる。
鼓動が、彼に聞こえてしまう。
謝罪をしたくせに、こんなときにも、彼を好きだと叫ぶ哀れで我儘な恋心に気づかれてしまう。
呆れられる。これ以上、嫌われたくないー。
だから、あぁ、このままー。
心臓よ、止まれー。
乱暴に掴む彼の手に願う。
このまま私の息の根を、止めてー。
そうすれば私は、元の世界に帰らず、彼の手の温もりを覚えたままでいられるのにー。