◇61話◇そばにいてもいいと誰か言って
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お茶菓子と紅茶をトレイに乗せて湯沸室から出たモブリットが見たのは、ソファの隅に座って窓の外を眺めている彼女だった。
白い頬を幾つもの涙が零れて落ちていく。
声をかけられなくて、思わず立ち止まってしまった。
今、彼女は何を思っているのだろう。
そんなこと、明らか過ぎてー。
「お待たせ。自分の部屋とは勝手が違うから遅くなってしまったよ。」
小さく深呼吸をした後、明るく声をかけた。
慌てて涙を拭う彼女がいじらしくて、やるせない気持ちになる。
どうして、彼女はリヴァイを愛してしまったのだろう。
元の世界のリヴァイを愛す運命にあったからなんて理由なら、それはあまりにも酷すぎる。
「今月は、食料調達係がうちの分隊だったんだ。
ハンジさんのお気に入りのお菓子、結構評判がいいから、
きっと君も気に入ってくれると思うよ。」
テーブルにトレイを乗せたモブリットは、彼女から少し間をあけてソファに腰を降ろした。
彼女は礼は言ったけれど、お茶菓子にも紅茶にも手を出そうとはしない。
ただ目を伏せて、静かに時間が過ぎていくのを待っているようだ。
必死に涙を堪えているのだろう。肩が小さく震えている。
今夜はひとりでいたかったのかもしれない。
そうして、ひとりきりでただひとりのことを想って泣いていたかったのかもしれない。
でもー。
「ハンジさんから話を聞いたよ。
まだ元の世界に帰る道が残されてるかもしれないんだってね。」
彼女は、分かりやすいくらいに肩をビクりと揺らした。
聞きたくない話だったのだと思う。
きっと、彼女はそれでもこの世界に残りたいと思っているのだろうからー。
「こんな状況になってもまだ君は、本当に元の世界に帰りたいとは思わないのかい?」
「…リヴァイがそうしてくれって言うなら、帰る。」
弱々しい声は、ハンジから聞いた通りの答えを返した。
昨日の夜、返事はまだしなくていいとお願いしたけれど、彼女の気持ちなんてとっくに分かっていた。
今だって、彼女はリヴァイのことしか考えていない。
昨日、好きだと言った男も、彼女にこの世界に残ってほしいと思っているかもしれないと考えてやる心の隙間すらないのだ。
分かっていた。分かっていたけれどー。
「俺がリヴァイ兵長を説得する。絶対に君は元の世界に帰った方がー。」
「帰ってどうするの…?」
漸く顔を上げた彼女は、縋るような瞳でモブリットを見た。
そして、今にも泣き出しそうな、苦しそうな表情で、あまりにも悲しいことを言うのだー。
「リコに頼まれて私を探してるっていう向こうのリヴァイに惹かれるの…?
そうすれば、この世界のリヴァイのこと、忘れられるの…?
それとも私は、リヴァイがしたみたいに、向こうの世界のリヴァイを傷つけるの…?」
傷ついたその姿を目の前にして、モブリットの手は、思わず彼女の肩に伸びかける。
でも、ここで抱きしめてしまったら、本当にもう歯止めが効かなくなると分かっているから、躊躇ってしまった。
そうしているうちに、彼女の大きな瞳から、堪えきれなかった涙が一粒落ちて行く。
抱きしめてやりたい。
もう誰にも傷つけさせないと、守ってやると抱きしめたいー。
ずっとこの世界で、自分が彼女を守っていきたいー。
でもー。
「大丈夫だよ。君は誰も傷つけたりしない。
向こうの世界にいる運命の人と幸せになるんだ。
こんな恐ろしい世界にいるより、ずっとね。」
自分の気持ちを押し殺して、彼女の為を想って無責任なことを言った。
でも、これからも何度だって、同じことを言うだろう。
それがきっと、彼女のためになるからだ。
そもそも、彼女の生きる世界はここではないのだから、ちゃんと生きていくべき場所に戻らないといけないのだ。
間違ったことは言っていない。
だから、彼女は傷ついたような顔をして、目を反らす。
「うん…。そうだね。」
視線を落として、彼女は掠れるような声で頷いた。
どうするのが正しい選択なのか、彼女もきっと分かっているのだろう。
頭では分かっているけれど、心がそれを受け入れきれない。
それでも、彼女には元の世界に帰ってほしい。
幸せになってほしい。
(俺が守るから帰らないでほしいなんて、言えないよな…。)
抱きしめたいと伸びかける手を、必死に理性で押さえ込む。
それこそ、そんな無責任なこと言えない。
いつ巨人が襲ってくるか分からないこの世界には、巨人とは違う脅威もいることが分かって来た。
これからきっともっと、混沌とした世界になっていくのだろう。
知性を持った巨人との戦争だって始まるかもしれない。
それでも、彼女がこの世界に残るしかないのなら、命を賭けて守ろうと思っていた。
本気でそう思ったから、モブリットも彼女に気持ちを伝えたのだ。
でも、元の世界に帰る道が残されているのに、こんな危険な世界に彼女を閉じ込めることは出来ない。
絶対に死なせないと言えないのに、守ってあげるからそばにいてほしいなんて言えるわけがないー。
「今日はゆっくり眠って。明日、これからどうするか考えよう。」
「…うん。」
「紅茶が冷めないうちに飲んで、ゆっくり眠って。」
もう一度、彼女に紅茶と茶菓子を勧めて、モブリットはソファから立ち上がる。
見送りはいいと伝えて、廊下に出ると、漸くため息を落とした。
近いうちに、彼女は元の世界に帰るだろう。
いや、帰らせる。
そうしたらもう二度と、会えなくなるー。
無意識に拳を握っていた。
ここに残ってもいいんだよー。
そう言ってやれたら、彼女はあんな傷ついた顔をしなかったのだろうか。
そばにいてほしいー。
理性をなくしてそう言えてしまうほど、彼女のことを愛していたのならよかったのにー。
白い頬を幾つもの涙が零れて落ちていく。
声をかけられなくて、思わず立ち止まってしまった。
今、彼女は何を思っているのだろう。
そんなこと、明らか過ぎてー。
「お待たせ。自分の部屋とは勝手が違うから遅くなってしまったよ。」
小さく深呼吸をした後、明るく声をかけた。
慌てて涙を拭う彼女がいじらしくて、やるせない気持ちになる。
どうして、彼女はリヴァイを愛してしまったのだろう。
元の世界のリヴァイを愛す運命にあったからなんて理由なら、それはあまりにも酷すぎる。
「今月は、食料調達係がうちの分隊だったんだ。
ハンジさんのお気に入りのお菓子、結構評判がいいから、
きっと君も気に入ってくれると思うよ。」
テーブルにトレイを乗せたモブリットは、彼女から少し間をあけてソファに腰を降ろした。
彼女は礼は言ったけれど、お茶菓子にも紅茶にも手を出そうとはしない。
ただ目を伏せて、静かに時間が過ぎていくのを待っているようだ。
必死に涙を堪えているのだろう。肩が小さく震えている。
今夜はひとりでいたかったのかもしれない。
そうして、ひとりきりでただひとりのことを想って泣いていたかったのかもしれない。
でもー。
「ハンジさんから話を聞いたよ。
まだ元の世界に帰る道が残されてるかもしれないんだってね。」
彼女は、分かりやすいくらいに肩をビクりと揺らした。
聞きたくない話だったのだと思う。
きっと、彼女はそれでもこの世界に残りたいと思っているのだろうからー。
「こんな状況になってもまだ君は、本当に元の世界に帰りたいとは思わないのかい?」
「…リヴァイがそうしてくれって言うなら、帰る。」
弱々しい声は、ハンジから聞いた通りの答えを返した。
昨日の夜、返事はまだしなくていいとお願いしたけれど、彼女の気持ちなんてとっくに分かっていた。
今だって、彼女はリヴァイのことしか考えていない。
昨日、好きだと言った男も、彼女にこの世界に残ってほしいと思っているかもしれないと考えてやる心の隙間すらないのだ。
分かっていた。分かっていたけれどー。
「俺がリヴァイ兵長を説得する。絶対に君は元の世界に帰った方がー。」
「帰ってどうするの…?」
漸く顔を上げた彼女は、縋るような瞳でモブリットを見た。
そして、今にも泣き出しそうな、苦しそうな表情で、あまりにも悲しいことを言うのだー。
「リコに頼まれて私を探してるっていう向こうのリヴァイに惹かれるの…?
そうすれば、この世界のリヴァイのこと、忘れられるの…?
それとも私は、リヴァイがしたみたいに、向こうの世界のリヴァイを傷つけるの…?」
傷ついたその姿を目の前にして、モブリットの手は、思わず彼女の肩に伸びかける。
でも、ここで抱きしめてしまったら、本当にもう歯止めが効かなくなると分かっているから、躊躇ってしまった。
そうしているうちに、彼女の大きな瞳から、堪えきれなかった涙が一粒落ちて行く。
抱きしめてやりたい。
もう誰にも傷つけさせないと、守ってやると抱きしめたいー。
ずっとこの世界で、自分が彼女を守っていきたいー。
でもー。
「大丈夫だよ。君は誰も傷つけたりしない。
向こうの世界にいる運命の人と幸せになるんだ。
こんな恐ろしい世界にいるより、ずっとね。」
自分の気持ちを押し殺して、彼女の為を想って無責任なことを言った。
でも、これからも何度だって、同じことを言うだろう。
それがきっと、彼女のためになるからだ。
そもそも、彼女の生きる世界はここではないのだから、ちゃんと生きていくべき場所に戻らないといけないのだ。
間違ったことは言っていない。
だから、彼女は傷ついたような顔をして、目を反らす。
「うん…。そうだね。」
視線を落として、彼女は掠れるような声で頷いた。
どうするのが正しい選択なのか、彼女もきっと分かっているのだろう。
頭では分かっているけれど、心がそれを受け入れきれない。
それでも、彼女には元の世界に帰ってほしい。
幸せになってほしい。
(俺が守るから帰らないでほしいなんて、言えないよな…。)
抱きしめたいと伸びかける手を、必死に理性で押さえ込む。
それこそ、そんな無責任なこと言えない。
いつ巨人が襲ってくるか分からないこの世界には、巨人とは違う脅威もいることが分かって来た。
これからきっともっと、混沌とした世界になっていくのだろう。
知性を持った巨人との戦争だって始まるかもしれない。
それでも、彼女がこの世界に残るしかないのなら、命を賭けて守ろうと思っていた。
本気でそう思ったから、モブリットも彼女に気持ちを伝えたのだ。
でも、元の世界に帰る道が残されているのに、こんな危険な世界に彼女を閉じ込めることは出来ない。
絶対に死なせないと言えないのに、守ってあげるからそばにいてほしいなんて言えるわけがないー。
「今日はゆっくり眠って。明日、これからどうするか考えよう。」
「…うん。」
「紅茶が冷めないうちに飲んで、ゆっくり眠って。」
もう一度、彼女に紅茶と茶菓子を勧めて、モブリットはソファから立ち上がる。
見送りはいいと伝えて、廊下に出ると、漸くため息を落とした。
近いうちに、彼女は元の世界に帰るだろう。
いや、帰らせる。
そうしたらもう二度と、会えなくなるー。
無意識に拳を握っていた。
ここに残ってもいいんだよー。
そう言ってやれたら、彼女はあんな傷ついた顔をしなかったのだろうか。
そばにいてほしいー。
理性をなくしてそう言えてしまうほど、彼女のことを愛していたのならよかったのにー。