◇61話◇そばにいてもいいと誰か言って
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デスクの椅子を引いて腰を降ろしたハンジは、深いため息を吐いた。
なまえには、昨日の夜にモブリットが用意したという部屋で過ごすように伝え、送って来たところだ。
まさか、リヴァイが彼女は本物のなまえではないと気づいていたとは想像もしていなかった。
だって、ここ最近の彼女は、誰がどう見てもなまえだった。
それでも、誰よりもなまえと近いところにいたリヴァイにはバレてしまうのではないかと心配はしていた。
最近は何か感じてはいるのではないかとは思うこともあったけれど、まさか、ほとんど確信しているところまで来ていたなんてー。
それでも彼女をなまえと信じたいのは、恋人が死んだことを認めたくないからだと思っていた。
でも、そんな我儘で彼女の人生を奪っていいわけがない。
それくらい、リヴァイは理解してくれると思ったのにー。
「はぁ…。」
ハンジからまた、深いため息が落ちる。
彼女がリヴァイのことを思いながら寝室の鏡の前に立ったとき、向こうの世界のリヴァイも同じように鏡の前に立っていれば、唐突に扉が開かれるかもしれない。
リコから、パラレルワールドのリヴァイの話を聞いたとき、閃いたのだ。
あのとき、どうしても矛盾が拭えなかった今までの推論の間違いが、すべて消えた。
彼女と向こうの世界のリヴァイ、きっと扉を開く鍵はその2人に違いないと自信があった。
2人が重なるとき、もう一度扉は開くだろう。
もしも、パラレルワールドと繋がる扉が開くことがあればそれはきっと一瞬だー。
そう言った途端、リヴァイは血相を変えて、寝室に走ってー。
あれは、彼女がなまえではなかったことへの戸惑いや怒りではなかった。
彼女が元の世界に帰ってしまわないように必死になってー。
(まさか…、リヴァイも彼女に惚れてるなんて、誰が考えるんだよ…。)
リヴァイはなまえにベタ惚れで、それこそ心を壊してしまうくらいに愛していた。
心変わりなんて、想像もしていなくてー。
彼女がなまえではないと認めることさえ出来れば、彼女が元の世界に帰れるように協力してくれると信じ切っていたのだ。
彼にお願いするのが間違っていたなんて、思いもしなくてー。
扉を叩く音がして、思考を停止する。
返事をした後に開いた扉から入ってきたのは、呼びつけていたモブリットだった。
「何かあったんですか?」
「彼女が、リヴァイの部屋から追い出されたんだ。」
「…は?」
「ごめん、私の判断ミスなんだ。」
リヴァイの部屋でのやりとりをモブリットにも教えてやった。
彼女がなまえではないことに、リヴァイが気づいていたことについては驚いたようだった。
でも、その驚きの後は、想像していた通り、モブリットの表情はどんどん怒りに歪んでいった。
その怒りの矛先はきっと、彼女を元の世界に帰さないと考えたリヴァイに向かっているのだと思う。
最初から、モブリットは彼女にとってどうすることが一番良いのかを俯瞰して考えることが出来ていた。
だから、今回も、リヴァイの寝室にある全身鏡から元の世界に帰ることが出来るのなら、試すべきだと判断しているようだ。
だが、リヴァイは違った。
彼は、彼女を手放さない気だ。
元の世界に返す気はなさそうだったー。
「彼女には、リヴァイ兵長の部屋の鏡のことは話したんですか?」
「あぁ、話したよ。試してみないかと訊いてみたら
リヴァイがそれを望むならだってさ。」
「そうですか…。分かりました。
それなら、リヴァイ兵長を説得しましょう。そして、リヴァイ兵長から彼女に
元の世界へ戻るように言ってもらった方がいい。」
「…モブリットはそれでいいの?」
真剣に離すモブリットに、迷いはないようだった。
本気で、彼女を元の世界に帰すための方法を考えているようだ。
でも、モブリットだって、リヴァイと同じように彼女に惚れているはずだ。
愛し方というのが人それぞれなのだとしても、好きな人のそばにいたいと思うのは当然のことじゃないのだろうか。
「今考えるべきは、私がそれでいいかでも、リヴァイ兵長がそれでいいかでもなくて
彼女にとってどうすることが正しいかだと思っています。」
「…君らしいね。」
ハンジは苦笑を漏らす。
こんなときくらい、我儘になったっていいのにー。
真面目で真っすぐなモブリットだからこそ、突拍子もないことをしでかすハンジの右腕としてここまでやって来れたのだろう。
それは、ハンジも思っているし、エルヴィン達にもよく言われている。
でも、恋という感情まで、真面目に抑え込まなくてもいいのにー。
「昨日、彼女に部屋を用意したんだってね。
今夜からはその部屋で過ごすように言ってあるから、
顔を出してあげてくれないか。」
「…私がですか?」
「1人でいるのはツラいだろうからさ。
私は出張後の仕事が溜まってることはモブリットが一番知ってるだろう?
それとも、何か仕事残ってた?」
「…いえ。わかりました、今から様子を見に行ってみます。」
モブリットは頭を下げると、すぐにハンジから背を向けた。
少し大股で部屋を出て行こうとしているその足は、彼の口よりも饒舌に気持ちを教えてくれる。
(早く会いに行きたかったくせにさ。)
男というのは、どうしてこうも素直ではないのだろうか。
モブリットもリヴァイも、自分の気持ちを素直に彼女に伝えればいいだけだと思うのだ。
それが我儘な願いでも、彼女を困らせることになったとしても、今よりはマシな状況になるのではないかと思うのだけれどー。
ハンジは、ため息を呑み込んで、上官からの指示がなければ、惚れてる女のところにも行けない男の背中を見送った。
なまえには、昨日の夜にモブリットが用意したという部屋で過ごすように伝え、送って来たところだ。
まさか、リヴァイが彼女は本物のなまえではないと気づいていたとは想像もしていなかった。
だって、ここ最近の彼女は、誰がどう見てもなまえだった。
それでも、誰よりもなまえと近いところにいたリヴァイにはバレてしまうのではないかと心配はしていた。
最近は何か感じてはいるのではないかとは思うこともあったけれど、まさか、ほとんど確信しているところまで来ていたなんてー。
それでも彼女をなまえと信じたいのは、恋人が死んだことを認めたくないからだと思っていた。
でも、そんな我儘で彼女の人生を奪っていいわけがない。
それくらい、リヴァイは理解してくれると思ったのにー。
「はぁ…。」
ハンジからまた、深いため息が落ちる。
彼女がリヴァイのことを思いながら寝室の鏡の前に立ったとき、向こうの世界のリヴァイも同じように鏡の前に立っていれば、唐突に扉が開かれるかもしれない。
リコから、パラレルワールドのリヴァイの話を聞いたとき、閃いたのだ。
あのとき、どうしても矛盾が拭えなかった今までの推論の間違いが、すべて消えた。
彼女と向こうの世界のリヴァイ、きっと扉を開く鍵はその2人に違いないと自信があった。
2人が重なるとき、もう一度扉は開くだろう。
もしも、パラレルワールドと繋がる扉が開くことがあればそれはきっと一瞬だー。
そう言った途端、リヴァイは血相を変えて、寝室に走ってー。
あれは、彼女がなまえではなかったことへの戸惑いや怒りではなかった。
彼女が元の世界に帰ってしまわないように必死になってー。
(まさか…、リヴァイも彼女に惚れてるなんて、誰が考えるんだよ…。)
リヴァイはなまえにベタ惚れで、それこそ心を壊してしまうくらいに愛していた。
心変わりなんて、想像もしていなくてー。
彼女がなまえではないと認めることさえ出来れば、彼女が元の世界に帰れるように協力してくれると信じ切っていたのだ。
彼にお願いするのが間違っていたなんて、思いもしなくてー。
扉を叩く音がして、思考を停止する。
返事をした後に開いた扉から入ってきたのは、呼びつけていたモブリットだった。
「何かあったんですか?」
「彼女が、リヴァイの部屋から追い出されたんだ。」
「…は?」
「ごめん、私の判断ミスなんだ。」
リヴァイの部屋でのやりとりをモブリットにも教えてやった。
彼女がなまえではないことに、リヴァイが気づいていたことについては驚いたようだった。
でも、その驚きの後は、想像していた通り、モブリットの表情はどんどん怒りに歪んでいった。
その怒りの矛先はきっと、彼女を元の世界に帰さないと考えたリヴァイに向かっているのだと思う。
最初から、モブリットは彼女にとってどうすることが一番良いのかを俯瞰して考えることが出来ていた。
だから、今回も、リヴァイの寝室にある全身鏡から元の世界に帰ることが出来るのなら、試すべきだと判断しているようだ。
だが、リヴァイは違った。
彼は、彼女を手放さない気だ。
元の世界に返す気はなさそうだったー。
「彼女には、リヴァイ兵長の部屋の鏡のことは話したんですか?」
「あぁ、話したよ。試してみないかと訊いてみたら
リヴァイがそれを望むならだってさ。」
「そうですか…。分かりました。
それなら、リヴァイ兵長を説得しましょう。そして、リヴァイ兵長から彼女に
元の世界へ戻るように言ってもらった方がいい。」
「…モブリットはそれでいいの?」
真剣に離すモブリットに、迷いはないようだった。
本気で、彼女を元の世界に帰すための方法を考えているようだ。
でも、モブリットだって、リヴァイと同じように彼女に惚れているはずだ。
愛し方というのが人それぞれなのだとしても、好きな人のそばにいたいと思うのは当然のことじゃないのだろうか。
「今考えるべきは、私がそれでいいかでも、リヴァイ兵長がそれでいいかでもなくて
彼女にとってどうすることが正しいかだと思っています。」
「…君らしいね。」
ハンジは苦笑を漏らす。
こんなときくらい、我儘になったっていいのにー。
真面目で真っすぐなモブリットだからこそ、突拍子もないことをしでかすハンジの右腕としてここまでやって来れたのだろう。
それは、ハンジも思っているし、エルヴィン達にもよく言われている。
でも、恋という感情まで、真面目に抑え込まなくてもいいのにー。
「昨日、彼女に部屋を用意したんだってね。
今夜からはその部屋で過ごすように言ってあるから、
顔を出してあげてくれないか。」
「…私がですか?」
「1人でいるのはツラいだろうからさ。
私は出張後の仕事が溜まってることはモブリットが一番知ってるだろう?
それとも、何か仕事残ってた?」
「…いえ。わかりました、今から様子を見に行ってみます。」
モブリットは頭を下げると、すぐにハンジから背を向けた。
少し大股で部屋を出て行こうとしているその足は、彼の口よりも饒舌に気持ちを教えてくれる。
(早く会いに行きたかったくせにさ。)
男というのは、どうしてこうも素直ではないのだろうか。
モブリットもリヴァイも、自分の気持ちを素直に彼女に伝えればいいだけだと思うのだ。
それが我儘な願いでも、彼女を困らせることになったとしても、今よりはマシな状況になるのではないかと思うのだけれどー。
ハンジは、ため息を呑み込んで、上官からの指示がなければ、惚れてる女のところにも行けない男の背中を見送った。