◇61話◇そばにいてもいいと誰か言って
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ベッドの縁に座って、小さな窓から覗く夜空を眺めていた。
モブリットが用意してくれた部屋にまた戻ってくることになるとは思ってもいなかった。
昨日は、優しい腕の中に逃げてしまいそうになったけれど、やっぱりリヴァイを愛していると気づいた。
そして、どんなにツラくても、自分を殺し続けて、リヴァイのそばで生きると決めたのにー。
瞳の上には涙の膜が張っていて、夜空がぼやけて見えていた。
涙は止まったけれど、まだ瞳の奥に留まっていて、あとほんの少し気を抜けばまた流れ出しそうだ。
「入ってもいいかい?」
扉を叩く音の後にモブリットの遠慮がちな声が聞こえてきた。
正直、入ってきてほしくなかった。
今、彼の顔を見たら、私はきっと助けを求めてしまうからー。
でも、拒絶する勇気も優しさもない私は、躊躇いがちに扉を開けてしまう。
私の顔を見たモブリットは、ひどく心配そうに眉尻を下げた。
あぁ、とても優しくて素直なその反応が、今の私にはとても悲しい。
「食堂からくすねて来たんだ。甘いものは好きかい?」
モブリットは悪戯っぽく言って、茶色い紙袋を上げて見せた。
気を遣ってくれたそれに、少しだけホッとした。
「ありがとう。」
礼を言って、モブリットを部屋に招き入れる。
紅茶の葉も持って来たからと、彼は湯沸室へと向かった。
優しさに甘えて、私はソファに座って待つことにした。
広くはない部屋だから、皿やティーカップを出す音や湯を沸かす音が聞こえてくる。
さっきまでひとりきり、シンと静まり返って冷たかった空気が少しずつ温かくなっていくようだった。
それでもー。
私の心も、私に向かうリヴァイの目も、冷えたまま。
『出て行け。』
冷たく放たれた声を思い出して、目に涙が滲む。
私をなまえだと信じていたリヴァイから聞こえてくるのはいつも、愛に満ち溢れた温かい声だったのにー。
どうして私は、なまえじゃないのだろう。
なまえになれなかったのだろう。
私が生きていた世界がどれほど平和だとしても、私は巨人の蔓延る恐ろしいこの世界に生まれたかった。
もしも、私が最初にリヴァイに出逢っていたらー。
もしかして、彼は私を愛してくれただろうか。
優しい眼差しを、温かい腕を、深い愛を、私が貰えたのだろうか。
それとも、パラレルワールドで、私がリヴァイと出逢っていないように、存在を知ることすらないままだったのかもしれない。
あぁ、それならー。
今がどんなに苦しくたって、ツラくたって、掻きむしる程の胸の痛みに襲われようが、私は彼と出逢えたことに感謝するべきなのだろう。
でも、どうしても思ってしまう。
私がなまえならー。
『俺は、お前を苦しめてもそばにいてほしい。どこにもやる気はねぇ…!』
今朝、私を痛いくらいに抱きしめてリヴァイが絞り出した切ない思い。
それは、ただまっすぐになまえに向かっている。
彼の心はすべて彼女のものー。
分かっている。分かっているけれどー。
私がなまえではないと分かった途端に、その姿を瞳に映すことさえ許してもらえなくなるなんてー。
分かっていた、分かっていたけれどー。
あぁ、私がなまえだったら、よかったのにー。
どうして、私はなまえじゃないのだろう。
どうして、私はー。
どうしてー。
どうして、私は愛してしまったのだろうー。
彼をこんなに苦しいくらいに、愛してしまったのだろうー。
どうか、彼の心の中に、ほんの小さな隙間だっていいから私の居場所があったのならー。
モブリットが用意してくれた部屋にまた戻ってくることになるとは思ってもいなかった。
昨日は、優しい腕の中に逃げてしまいそうになったけれど、やっぱりリヴァイを愛していると気づいた。
そして、どんなにツラくても、自分を殺し続けて、リヴァイのそばで生きると決めたのにー。
瞳の上には涙の膜が張っていて、夜空がぼやけて見えていた。
涙は止まったけれど、まだ瞳の奥に留まっていて、あとほんの少し気を抜けばまた流れ出しそうだ。
「入ってもいいかい?」
扉を叩く音の後にモブリットの遠慮がちな声が聞こえてきた。
正直、入ってきてほしくなかった。
今、彼の顔を見たら、私はきっと助けを求めてしまうからー。
でも、拒絶する勇気も優しさもない私は、躊躇いがちに扉を開けてしまう。
私の顔を見たモブリットは、ひどく心配そうに眉尻を下げた。
あぁ、とても優しくて素直なその反応が、今の私にはとても悲しい。
「食堂からくすねて来たんだ。甘いものは好きかい?」
モブリットは悪戯っぽく言って、茶色い紙袋を上げて見せた。
気を遣ってくれたそれに、少しだけホッとした。
「ありがとう。」
礼を言って、モブリットを部屋に招き入れる。
紅茶の葉も持って来たからと、彼は湯沸室へと向かった。
優しさに甘えて、私はソファに座って待つことにした。
広くはない部屋だから、皿やティーカップを出す音や湯を沸かす音が聞こえてくる。
さっきまでひとりきり、シンと静まり返って冷たかった空気が少しずつ温かくなっていくようだった。
それでもー。
私の心も、私に向かうリヴァイの目も、冷えたまま。
『出て行け。』
冷たく放たれた声を思い出して、目に涙が滲む。
私をなまえだと信じていたリヴァイから聞こえてくるのはいつも、愛に満ち溢れた温かい声だったのにー。
どうして私は、なまえじゃないのだろう。
なまえになれなかったのだろう。
私が生きていた世界がどれほど平和だとしても、私は巨人の蔓延る恐ろしいこの世界に生まれたかった。
もしも、私が最初にリヴァイに出逢っていたらー。
もしかして、彼は私を愛してくれただろうか。
優しい眼差しを、温かい腕を、深い愛を、私が貰えたのだろうか。
それとも、パラレルワールドで、私がリヴァイと出逢っていないように、存在を知ることすらないままだったのかもしれない。
あぁ、それならー。
今がどんなに苦しくたって、ツラくたって、掻きむしる程の胸の痛みに襲われようが、私は彼と出逢えたことに感謝するべきなのだろう。
でも、どうしても思ってしまう。
私がなまえならー。
『俺は、お前を苦しめてもそばにいてほしい。どこにもやる気はねぇ…!』
今朝、私を痛いくらいに抱きしめてリヴァイが絞り出した切ない思い。
それは、ただまっすぐになまえに向かっている。
彼の心はすべて彼女のものー。
分かっている。分かっているけれどー。
私がなまえではないと分かった途端に、その姿を瞳に映すことさえ許してもらえなくなるなんてー。
分かっていた、分かっていたけれどー。
あぁ、私がなまえだったら、よかったのにー。
どうして、私はなまえじゃないのだろう。
どうして、私はー。
どうしてー。
どうして、私は愛してしまったのだろうー。
彼をこんなに苦しいくらいに、愛してしまったのだろうー。
どうか、彼の心の中に、ほんの小さな隙間だっていいから私の居場所があったのならー。