◇59話◇どうか扉を開けて
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寝室のチェストの横に置かれた全身鏡の前に立つ。
そこに映る私は、なまえの服を身に着けていて、他人の目から見れば身も心も彼女なのだろう。
リヴァイですら、私をなまえだと信じて愛しているのだからー。
「これでもう本当に、二度と帰れないのか…。」
無意識に、声が漏れていた。
今朝、リコに頭を下げられた。
大切な話というのは、唯一の帰り道であるリコの部屋の全身鏡が割れてしまったという謝罪だったのだ。
昨日の夜中に、酔っぱらったピクシス司令がパラレルワールドに行ってみたいと騒ぎ出し、無理やり鏡の中に入ろうというとてもパワフルな凶行に走った結果、鏡と共に倒れてしまったらしい。
私がリコの部屋を訪れたときには、粉々に割れたという全身鏡はもうなくなっていた。
あの日、モブリットがしたように鏡の破片を集めて袋に保管していたけれど、なまえの鏡がそうだったように、一度割れたその鏡はもう二度とパラレルワールドとは繋がらないだろう。
そもそも、リコの部屋の鏡がパラレルワールドと繋がったこと自体が想定外だったのだ。
その鏡が割れて帰れなくなったからといって、リコが謝る必要はない。
それに私は、もう元の世界には帰らないと決めている。
ハンジとモブリットはそれでも、私が万が一にでも帰りたいと思ったときの為に、リコの部屋の全身鏡でいろいろと実験のようなことをしていたらしかった。
だからこそ余計に、リコは申し訳なさそうに頭を下げたのだろうけれど、でもー。
リコから、鏡が割れてしまったと聞いた時、私はどう思ったのだろう。
ショックだったのだろうか。ホッとしたのだろうか。
自分でも、分からなかった。
ただ、これで私はもう本当になまえとして生きるしかなくなった。
この世界で、私はあまりにも無力だからー。
モブリットならすべてを包んで守ってくれるのだと思う。
でも、私はリヴァイがいいー。
(なまえ、元の世界に帰れとあなたが言うのなら、仕方がないとこの恋を諦めるよ。
だから、我儘な私に言いたいことがあるなら、言って…。)
鏡に映る私がなまえならいいのにー。
そんなことを思いながら、私は鏡に触れようと手を伸ばしてー。
そのとき、突然、乱暴に扉が開いた大きな音が響いた。
ビクッと肩を揺らして、私の動きが止まる。
驚いたまま振り返ったのと、部屋に飛び込んできたリヴァイが怖い顔で叫んだのはほとんど同時だった。
「触るな!!!」
何を触るなと言われているのかは、分からなかった。
ただリヴァイは凄く怖い顔をして怒っていた。
「リヴァイ!待ってくれ!」
リヴァイの後ろからはハンジが焦った様子で追いかけた。
でも、部屋に飛び込んだままの勢いで私の元へ駆け寄ってきたリヴァイは、あっという間に私の手首を掴んだ。
そして、乱暴に私をハンジの方へ投げつけた。
リヴァイに掴まれた手首とハンジの胸元に当たった肩の痛みで、私は顔を歪める。
それでも、私はまだ状況を飲み込めずにいた。
さっき私がそうしていたように鏡の前に立ったリヴァイは、こちらを睨んでいる。
私の後ろには、狼狽した様子のハンジがいる。
瞳だけを動かして彼らを交互に見ても、混乱するだけだった。
「ねぇ、リヴァイ、どうしちゃったの?」
「出ていけ。」
「え…?」
「もう二度と、この部屋に入るな…!!」
リヴァイが怒鳴る。
彼は一体何に怒っているのか、とうとう分からなかった。
でも、自分が拒絶されたことだけは、嫌というほどに理解が出来たから、それ以上の質問を重ねることは出来なかった。
その代わり、ハンジがこの状況を教えてくれた。
「ごめん、リヴァイに話したんだ。」
「…え?」
すぐには理解できなかった。
後ろを振り向き、ハンジの顔を見上げる。
そして、ただまっすぐにリヴァイを見るハンジの辛そうな表情で、状況を飲み込むしかなくなる。
私はすぐに向き直って、リヴァイに必死に訴える。
「違うの、リヴァイ…っ!私はなまえだよ!
ハンジが嘘を吐いたの!最低な嘘だよ、私が死んだなんてそんなのー。」
「聞きたくねぇ。」
リヴァイの冷たい声が、私の声をナイフのように切った。
本当に最低な嘘を吐いたのは私の方だ。
それでも、私はリヴァイが望むのなら、どんな残酷な嘘だって吐く。
それで、リヴァイの心が救われるのならー。
「出て行ってくれ。」
そんなことも、私のことも、ほんのひとかけらも求めていないリヴァイは、私を見ようともしないまま腕を掴むと、そのまま寝室の扉の向こうへとハンジ諸共押し出した。
「リヴァイ、待っー。」
振り向いた私の目の前で、バタンと音を立てて扉が閉まった。
それはきっと、リヴァイの心の扉だったに違いない。
目の前が真っ暗になって、私は呆然と立ち尽くす。
元の世界への帰り道が消えた日に、私はこの世界で生きていく希望を、失ったのかー。
もう二度と住み慣れた世界へ帰れないと悟ったときは、ショックかもホッとしたのかも分からなかったのに、リヴァイに背を向けられた途端に私は底知れぬ絶望に襲われた。
あぁ、私はやっぱり、この世界にいたいのだ。
誰の代わりでもいい、愛してもらえなくてもいい、ただリヴァイとー。
「とにかく、リヴァイが落ち着くのを待とう。
リヴァイにとっても、君にとっても、これからどうするかは大切だからー。」
「リヴァイ…っ!!!」
肩に手を伸ばそうとしていたハンジの手を振り切って、私は寝室の扉に両手を当てた。
追い出された私は、重たく閉ざされてしまった扉を開くことは出来ない。
強引に開けてはいけない。
だから、どうかー。
「お願い、リヴァイ…っ。信じたいことを信じて…っ。
あなたが生きていてほしいと願うのなら、私はずっと生きているから…っ。
もう…っ、あなたをひとりにはしないから…!」
だからお願い、扉を開けてー。
扉に両手を当てた私は、消え入るような声で、扉の向こうにいるはずのリヴァイに懇願する。
でも、閉じてしまった扉の向こうから返事は返ってこない。
物音すら、聞こえない。
まるでそこにはもう、リヴァイという存在すらなくなってしまったみたいで、怖くなる。
「リヴァイ…、愛してる…。昔からずっと、私は変わらないよ…。」
最後まで、私は悪あがきをする。
リヴァイの心を救うためなんて、そんな大義名分がなくたって私は、最低な嘘を吐き続ける選択をしただろう。
だって、そうしないと、私は好きな人のそばにいられないと知っているからー。
だからねぇ、まんまと私に騙されてー。
最低で残酷な嘘を信じてー。
扉を、開けてー。
どうかー。
「扉を開けて…。愛してるの…。」
堪えていた涙が出てきそうで、最後の声を振り絞って懇願した。
でも、閉じてしまった彼の扉が、開くことはなかった。
そこに映る私は、なまえの服を身に着けていて、他人の目から見れば身も心も彼女なのだろう。
リヴァイですら、私をなまえだと信じて愛しているのだからー。
「これでもう本当に、二度と帰れないのか…。」
無意識に、声が漏れていた。
今朝、リコに頭を下げられた。
大切な話というのは、唯一の帰り道であるリコの部屋の全身鏡が割れてしまったという謝罪だったのだ。
昨日の夜中に、酔っぱらったピクシス司令がパラレルワールドに行ってみたいと騒ぎ出し、無理やり鏡の中に入ろうというとてもパワフルな凶行に走った結果、鏡と共に倒れてしまったらしい。
私がリコの部屋を訪れたときには、粉々に割れたという全身鏡はもうなくなっていた。
あの日、モブリットがしたように鏡の破片を集めて袋に保管していたけれど、なまえの鏡がそうだったように、一度割れたその鏡はもう二度とパラレルワールドとは繋がらないだろう。
そもそも、リコの部屋の鏡がパラレルワールドと繋がったこと自体が想定外だったのだ。
その鏡が割れて帰れなくなったからといって、リコが謝る必要はない。
それに私は、もう元の世界には帰らないと決めている。
ハンジとモブリットはそれでも、私が万が一にでも帰りたいと思ったときの為に、リコの部屋の全身鏡でいろいろと実験のようなことをしていたらしかった。
だからこそ余計に、リコは申し訳なさそうに頭を下げたのだろうけれど、でもー。
リコから、鏡が割れてしまったと聞いた時、私はどう思ったのだろう。
ショックだったのだろうか。ホッとしたのだろうか。
自分でも、分からなかった。
ただ、これで私はもう本当になまえとして生きるしかなくなった。
この世界で、私はあまりにも無力だからー。
モブリットならすべてを包んで守ってくれるのだと思う。
でも、私はリヴァイがいいー。
(なまえ、元の世界に帰れとあなたが言うのなら、仕方がないとこの恋を諦めるよ。
だから、我儘な私に言いたいことがあるなら、言って…。)
鏡に映る私がなまえならいいのにー。
そんなことを思いながら、私は鏡に触れようと手を伸ばしてー。
そのとき、突然、乱暴に扉が開いた大きな音が響いた。
ビクッと肩を揺らして、私の動きが止まる。
驚いたまま振り返ったのと、部屋に飛び込んできたリヴァイが怖い顔で叫んだのはほとんど同時だった。
「触るな!!!」
何を触るなと言われているのかは、分からなかった。
ただリヴァイは凄く怖い顔をして怒っていた。
「リヴァイ!待ってくれ!」
リヴァイの後ろからはハンジが焦った様子で追いかけた。
でも、部屋に飛び込んだままの勢いで私の元へ駆け寄ってきたリヴァイは、あっという間に私の手首を掴んだ。
そして、乱暴に私をハンジの方へ投げつけた。
リヴァイに掴まれた手首とハンジの胸元に当たった肩の痛みで、私は顔を歪める。
それでも、私はまだ状況を飲み込めずにいた。
さっき私がそうしていたように鏡の前に立ったリヴァイは、こちらを睨んでいる。
私の後ろには、狼狽した様子のハンジがいる。
瞳だけを動かして彼らを交互に見ても、混乱するだけだった。
「ねぇ、リヴァイ、どうしちゃったの?」
「出ていけ。」
「え…?」
「もう二度と、この部屋に入るな…!!」
リヴァイが怒鳴る。
彼は一体何に怒っているのか、とうとう分からなかった。
でも、自分が拒絶されたことだけは、嫌というほどに理解が出来たから、それ以上の質問を重ねることは出来なかった。
その代わり、ハンジがこの状況を教えてくれた。
「ごめん、リヴァイに話したんだ。」
「…え?」
すぐには理解できなかった。
後ろを振り向き、ハンジの顔を見上げる。
そして、ただまっすぐにリヴァイを見るハンジの辛そうな表情で、状況を飲み込むしかなくなる。
私はすぐに向き直って、リヴァイに必死に訴える。
「違うの、リヴァイ…っ!私はなまえだよ!
ハンジが嘘を吐いたの!最低な嘘だよ、私が死んだなんてそんなのー。」
「聞きたくねぇ。」
リヴァイの冷たい声が、私の声をナイフのように切った。
本当に最低な嘘を吐いたのは私の方だ。
それでも、私はリヴァイが望むのなら、どんな残酷な嘘だって吐く。
それで、リヴァイの心が救われるのならー。
「出て行ってくれ。」
そんなことも、私のことも、ほんのひとかけらも求めていないリヴァイは、私を見ようともしないまま腕を掴むと、そのまま寝室の扉の向こうへとハンジ諸共押し出した。
「リヴァイ、待っー。」
振り向いた私の目の前で、バタンと音を立てて扉が閉まった。
それはきっと、リヴァイの心の扉だったに違いない。
目の前が真っ暗になって、私は呆然と立ち尽くす。
元の世界への帰り道が消えた日に、私はこの世界で生きていく希望を、失ったのかー。
もう二度と住み慣れた世界へ帰れないと悟ったときは、ショックかもホッとしたのかも分からなかったのに、リヴァイに背を向けられた途端に私は底知れぬ絶望に襲われた。
あぁ、私はやっぱり、この世界にいたいのだ。
誰の代わりでもいい、愛してもらえなくてもいい、ただリヴァイとー。
「とにかく、リヴァイが落ち着くのを待とう。
リヴァイにとっても、君にとっても、これからどうするかは大切だからー。」
「リヴァイ…っ!!!」
肩に手を伸ばそうとしていたハンジの手を振り切って、私は寝室の扉に両手を当てた。
追い出された私は、重たく閉ざされてしまった扉を開くことは出来ない。
強引に開けてはいけない。
だから、どうかー。
「お願い、リヴァイ…っ。信じたいことを信じて…っ。
あなたが生きていてほしいと願うのなら、私はずっと生きているから…っ。
もう…っ、あなたをひとりにはしないから…!」
だからお願い、扉を開けてー。
扉に両手を当てた私は、消え入るような声で、扉の向こうにいるはずのリヴァイに懇願する。
でも、閉じてしまった扉の向こうから返事は返ってこない。
物音すら、聞こえない。
まるでそこにはもう、リヴァイという存在すらなくなってしまったみたいで、怖くなる。
「リヴァイ…、愛してる…。昔からずっと、私は変わらないよ…。」
最後まで、私は悪あがきをする。
リヴァイの心を救うためなんて、そんな大義名分がなくたって私は、最低な嘘を吐き続ける選択をしただろう。
だって、そうしないと、私は好きな人のそばにいられないと知っているからー。
だからねぇ、まんまと私に騙されてー。
最低で残酷な嘘を信じてー。
扉を、開けてー。
どうかー。
「扉を開けて…。愛してるの…。」
堪えていた涙が出てきそうで、最後の声を振り絞って懇願した。
でも、閉じてしまった彼の扉が、開くことはなかった。