◇52話◇何者か知らないままがいい
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馬の引く客車の中で、リヴァイはひどく不機嫌だった。
朝イチの会議に出席するために、まだ夜も明けきっていないくらいの早朝から出発しなければなかったことも気に入らない。
もっとなまえを抱いていたかったし、せっかく退院できたのだから朝まで一緒に過ごしたかった。
だから、それだけでも充分、リヴァイを不機嫌にしていたというのに、この客車の中に充満する酒臭いにおいが、余計に神経を逆なでする。
「クソメガネ、てめぇ、いつまで酒を呑んでた。」
「ん?さっきまでだよ~。」
向かいの席に座るハンジが、ヘラヘラと笑う。
腹が立ったので、足に蹴りを入れてやった。
よくこんな酒臭い場所で眠ることが出来るものだ、と隣で腕を組んで居眠りしているエルヴィンに感心する。
どうせ、出かける直前まで、会議資料の準備でもしていたのだろう。
仕事のし過ぎだ。
「リヴァイも寝たら?昨日は久しぶりに楽しんだんだろう?」
ハンジは、ニヤニヤと口元を歪める。
めんどくさげに睨みつけてから、言い返す。
「分かってんなら、退院早々、出張なんて予定に入れるんじゃねぇーよ。」
「それはエルヴィンに言ってよ~。」
「チッ。」
舌打ちをして、リヴァイは腕組みをすると、窓の外に視線を移した。
なまえはちゃんと眠っているだろうか。
時々、なまえは痛そうに眉を顰めていた。
気づいていなかったわけではないけれど、見ないフリをした。
敢えて、無理をさせてしまったー。
だってー。
「なまえは、本当になまえだと思うか。」
気づいたら、口から零れていた。
ずっと前から、本当は心のどこかで思っていたことだ。
だって、心は受け入れられなくたって、頭では理解していたからー。
なまえはもうー。
「どうしてそう思うの?」
「いや、なんでもねぇ。忘れろ。」
よりによって、どうしてハンジに言ってしまったのだろう。
ひどく後悔した。
だって、そんなことを言ったら、無駄に食いついてくるに決まっているー。
「そう?ならいいけど。」
ハンジはそれだけ言って、本を読みだしてしまった。
正直、拍子抜けだった。
絶対に、どうしてそう思ったのかとか、もしもなまえではないのなら何なんだろうとか、うるさく騒ぎ出すと思っていたのだ。
それなのにー。
「気にならねぇのか?」
ハンジを見て、思わず言ってしまった。
本に落としていたハンジの視線が上がる。
「彼女が何者か、一緒に考えて欲しいの?」
あぁ、どうしてー。
ハンジというのは、確信を突いてくるのだろう。
自分でも気づいていない、気づかないようにしているソコを確実にー。
「何者もなにも、アイツはなまえだ。」
リヴァイは、ハンジからも、気づきかけている自分からも目を反らす。
流れていく窓の外の景色を見るわけでもなく、ただ客車の壁をぼんやりと視界に映す。
なまえが星空から降って来たあの夜から、何かがおかしいことくらい分かっていた。
でも、それを認めてしまえばー。
「そうだね。私もそう思うよ。
誰がどう見ても、完璧になまえだ。」
ハンジのセリフには、どこか違和感があった。
でも、それがどこかは分からなかった。
いや、分からないようにしたのかー。
「あ~、でも、モブリットには違う女性に見えてるみたいだよ。」
「あ?」
「なまえは強くて凛々しい女性だったけど、彼女はひどく儚いって言ってたんだ。
誰かが守ってあげなきゃいけないか弱い女性だってさ。」
「そんなこと、ゲルガーも言ってたな。
それは、記憶が戻る前の話だろ。」
「違うよ。昨日の夜、言ってたんだから。
リヴァイが彼女を守らないなら、俺が守ろうかな~って。
お酒呑むと本音が出ちゃうタイプでしょ、彼。」
ハンジが、ニッと笑う。
気味の悪い笑みだ。
何を考えているのかー。
「うるせぇー。俺が守ってやるから心配するなと言っとけ。」
「そうだね。君はしっかり守ってるよ。なまえをね。」
ハンジは、いちいち棘のある言い方をする。
舌打ちで返したのは、言い返せなかったからなわけではない。
決して、違うー。
昨日は寝ずになまえを抱いていたから、ストヘス区に着くまで寝よう。
瞼を閉じれば、眉間に皴が寄る。
酒の匂いで鼻と頭が痛いけれど、仕方がない。
出張が終わったら早く帰りたい。早く会いたい。
もう一度抱きしめてー。
たとえ、抱きしめたなまえの身体が、自分の知っているなまえでなくても、彼女はなまえだ。
背中に傷はなくとも、訓練して身に着けたはずの筋肉がどこにも見当たらなくてもー。
反応の仕方も、弱い場所も、長い付き合いで知り尽くしたなまえそのものだった。
昨日の夜、何度も何度も、それを確かめたのだから絶対に間違いはない。
儚い彼女はもういない。
彼女は、いつだって強くて凛々しくて、明るくて素直で、ずっと隣にいたなまえだー。
『私を見てー。』
いつの間にか眠っていた夢の向こう。
誰かが、泣いている声がしたー。
朝イチの会議に出席するために、まだ夜も明けきっていないくらいの早朝から出発しなければなかったことも気に入らない。
もっとなまえを抱いていたかったし、せっかく退院できたのだから朝まで一緒に過ごしたかった。
だから、それだけでも充分、リヴァイを不機嫌にしていたというのに、この客車の中に充満する酒臭いにおいが、余計に神経を逆なでする。
「クソメガネ、てめぇ、いつまで酒を呑んでた。」
「ん?さっきまでだよ~。」
向かいの席に座るハンジが、ヘラヘラと笑う。
腹が立ったので、足に蹴りを入れてやった。
よくこんな酒臭い場所で眠ることが出来るものだ、と隣で腕を組んで居眠りしているエルヴィンに感心する。
どうせ、出かける直前まで、会議資料の準備でもしていたのだろう。
仕事のし過ぎだ。
「リヴァイも寝たら?昨日は久しぶりに楽しんだんだろう?」
ハンジは、ニヤニヤと口元を歪める。
めんどくさげに睨みつけてから、言い返す。
「分かってんなら、退院早々、出張なんて予定に入れるんじゃねぇーよ。」
「それはエルヴィンに言ってよ~。」
「チッ。」
舌打ちをして、リヴァイは腕組みをすると、窓の外に視線を移した。
なまえはちゃんと眠っているだろうか。
時々、なまえは痛そうに眉を顰めていた。
気づいていなかったわけではないけれど、見ないフリをした。
敢えて、無理をさせてしまったー。
だってー。
「なまえは、本当になまえだと思うか。」
気づいたら、口から零れていた。
ずっと前から、本当は心のどこかで思っていたことだ。
だって、心は受け入れられなくたって、頭では理解していたからー。
なまえはもうー。
「どうしてそう思うの?」
「いや、なんでもねぇ。忘れろ。」
よりによって、どうしてハンジに言ってしまったのだろう。
ひどく後悔した。
だって、そんなことを言ったら、無駄に食いついてくるに決まっているー。
「そう?ならいいけど。」
ハンジはそれだけ言って、本を読みだしてしまった。
正直、拍子抜けだった。
絶対に、どうしてそう思ったのかとか、もしもなまえではないのなら何なんだろうとか、うるさく騒ぎ出すと思っていたのだ。
それなのにー。
「気にならねぇのか?」
ハンジを見て、思わず言ってしまった。
本に落としていたハンジの視線が上がる。
「彼女が何者か、一緒に考えて欲しいの?」
あぁ、どうしてー。
ハンジというのは、確信を突いてくるのだろう。
自分でも気づいていない、気づかないようにしているソコを確実にー。
「何者もなにも、アイツはなまえだ。」
リヴァイは、ハンジからも、気づきかけている自分からも目を反らす。
流れていく窓の外の景色を見るわけでもなく、ただ客車の壁をぼんやりと視界に映す。
なまえが星空から降って来たあの夜から、何かがおかしいことくらい分かっていた。
でも、それを認めてしまえばー。
「そうだね。私もそう思うよ。
誰がどう見ても、完璧になまえだ。」
ハンジのセリフには、どこか違和感があった。
でも、それがどこかは分からなかった。
いや、分からないようにしたのかー。
「あ~、でも、モブリットには違う女性に見えてるみたいだよ。」
「あ?」
「なまえは強くて凛々しい女性だったけど、彼女はひどく儚いって言ってたんだ。
誰かが守ってあげなきゃいけないか弱い女性だってさ。」
「そんなこと、ゲルガーも言ってたな。
それは、記憶が戻る前の話だろ。」
「違うよ。昨日の夜、言ってたんだから。
リヴァイが彼女を守らないなら、俺が守ろうかな~って。
お酒呑むと本音が出ちゃうタイプでしょ、彼。」
ハンジが、ニッと笑う。
気味の悪い笑みだ。
何を考えているのかー。
「うるせぇー。俺が守ってやるから心配するなと言っとけ。」
「そうだね。君はしっかり守ってるよ。なまえをね。」
ハンジは、いちいち棘のある言い方をする。
舌打ちで返したのは、言い返せなかったからなわけではない。
決して、違うー。
昨日は寝ずになまえを抱いていたから、ストヘス区に着くまで寝よう。
瞼を閉じれば、眉間に皴が寄る。
酒の匂いで鼻と頭が痛いけれど、仕方がない。
出張が終わったら早く帰りたい。早く会いたい。
もう一度抱きしめてー。
たとえ、抱きしめたなまえの身体が、自分の知っているなまえでなくても、彼女はなまえだ。
背中に傷はなくとも、訓練して身に着けたはずの筋肉がどこにも見当たらなくてもー。
反応の仕方も、弱い場所も、長い付き合いで知り尽くしたなまえそのものだった。
昨日の夜、何度も何度も、それを確かめたのだから絶対に間違いはない。
儚い彼女はもういない。
彼女は、いつだって強くて凛々しくて、明るくて素直で、ずっと隣にいたなまえだー。
『私を見てー。』
いつの間にか眠っていた夢の向こう。
誰かが、泣いている声がしたー。