◇53話◇君の作るオミソシル
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「あ~…、頭が痛ぇ…。」
眉間に皴を寄せ、モブリットは額に手を乗せる。
久しぶりに飲み過ぎた。
飲みだしたらキリがなくなると自分でも理解しているから、いつもは少しだけ気を付けるのだけれど、昨日は敢えて飲み過ぎたからー。
いつもならそろそろやめておけと忠告してくれるハンジも、昨日の夜はむしろ煽って来ていたから、タガが外れてしまった。
(今、何時だ…?)
非番でよかったと思いながら、ガンガンと痛む頭を雑に掻いてー。
早朝の光景を急に思い出す。
ハッとして、勢いよく身体を起こす。
腕の中どころか、ベッドの上にすら彼女がいない。
チェストの上に置いておいた彼女の服もなくなっている。
いつの間にか眠ってしまっていた間に、部屋を出て行ってしまったようだ。
やってしまったー。
サーッと血の気が引く。
きっと、いやもう絶対に、嫌われた。
お酒のせいにはしたくはない。
けれど、お酒で大胆になっていたのは事実だ。
そして、願望をほとんどそのまま彼女にぶつけた挙句、服も着せないまま抱きしめて眠ってしまうなんてー。
嫌われて当然すぎて、青い顔は元に戻れそうにない。
「あ~…。」
自分の声だとは思いたくないほどに、情けない声が漏れる。
とにかく、謝ろう。
許してもらえるかどうかは別として、謝罪は必要だ。
彼女に軽蔑の目を向けられるのかと思うと、とても憂鬱だけれどー。
呑み過ぎた酒と気分でだいぶ重たい身体を無理やり動かして、ベッドから降りた。
チェストから適当にシャツを引っ張り出して着替えると、行きたくないと我儘を言う身体を引きずって寝室の扉を開いた。
執務室に入ってすぐ、湯沸室から彼女が出てきて、目が合った。
「おはよう。起きたんだね。」
驚いたというよりも、拍子抜けで動きが止まってしまったモブリットに、彼女は平然と話しかけてくる。
「…ずっと、ここにいたの?」
「あ、ごめん…。居座られたら嫌だよね。」
途端に申し訳なさそうにする彼女に、慌ててそういう意味ではないと教える。
そうすると、彼女はとてもホッとしたように息を吐く。
あぁ、ズルいなー。
そう思わせてすぐ、また彼女は、諦めきれなくなるようなことを小さな口から零すのだ。
「リヴァイの部屋にはまだ戻りたくなくて…。
もう少し、ここにいてもいいかな?
モブリットの部屋はすごく安心するの。」
「大丈夫だよ。今日は俺も非番だし、ゆっくりしてていいよ。」
「ありがとう。」
彼女は、嬉しそうに微笑む。
あぁ、この笑顔を守りたいと、そう思ったのだ。
もしほんの少しでも、それが出来ているということなら好きになって良かったと思える。
「今、ちょうど食堂から戻って来たところだったの。
座って待ってて。」
彼女はそれだけ言うと、また湯沸室に戻ってしまう。
時計を見れば、もうとっくにお昼の時間は過ぎている。
食堂からと言ったし、食事でも持ってきてくれたのだろうか。
それなら、準備は自分がするのにー。
そう思ったけれど、起きてすぐに彼女が食事の準備をしてくれるなんてまるでー。
少し甘えたくなって、モブリットは素直にソファに座って待つことにした。
それほど待つことなく、彼女は湯沸室から出てきた。
トレイの上には、パンとスープ皿とコップが乗っている。
やっぱり、食事の準備をして、起きるのを待っていてくれていたらしい。
それが嬉しくて、なんだか照れ臭くて、さっきまでの沈んだ気持ちはすっかりなくなってしまっていた。
「食堂を借りて、お味噌汁を作ったの。
飲んでみたいって言ってたでしょう?」
彼女はそう言いながら、ローテーブルの上にトレイを置いた。
スープ皿の中に入っている液体は茶色で、確かに見たことのないスープだ。
オミソシルが美味しい、という話なら聞いたことがあった。
飲んでみたいとも言った。
でも、この世界にはミソというのがないから出来なかったはずだー。
その疑問に気が付いたのか、彼女は、食堂にある調味料で似ているものを見つけたから、それで思いついて作ってみたのだと教えてくれた。
そういうことなら、納得する。
「ミソではないから全く同じじゃないけど、味見もしたし
結構、似てる味になってると思うよ。」
「へぇ。楽しみだな。」
もしここにハンジがいれば、発狂して喜びそうだ。
そんなことを思いながら、スープ皿を手に取る。
ドキドキとワクワクしながら、口に運んだ。
ふわりと美味しそうな匂いが鼻に届いて、優しい味が口いっぱいに広がる。
あぁ、確かにー。
「美味しい…!ホッとする味だって言ってたのがよく分かるよ。」
「よかった。」
彼女はホッとしたように、胸に手を置いて息を吐いた。
感想を待っている間、緊張していたらしい彼女がひどくいじらしい。
もし、万が一、とてつもなく美味しくなくたって、彼女が自分のために用意してくれたのなら、世界一の料理になるのにー。
「お酒を呑んだ次の日は、お味噌汁が身体に優しくて、私は好きなの。
だから、似たようなものを作れてよかった。」
「え?俺、そんなに酒臭かった…!?」
慌てて口を塞げば、彼女はキョトンとしたあと、可笑しそうに吹き出した。
「モブリットがお酒飲んでて寝てないから、眠いって寝ちゃったんじゃない。」
「…あ、そっか。ごめん。忘れてた。」
「本当に酔っぱらってたんだね。」
彼女はクスクスと笑いながら言う。
あぁ、そうかー。
今朝のアレはすべて、彼女の中ではお酒のせいだということになっているようだ。
それなら、それで都合がいいじゃないか。
彼女には嫌われていないようだし、今までの関係も守れる。
もう溢れそうなこの感情の行き場をなくしただけだー。
進展なんて望む方が馬鹿げているのだからー。
「毎日、君のオミソシルを飲みたいくらい美味しいよ。」
「え…!」
お酒のせいにするズルさも勇気も持てず、結局、素直な感想を告げるに逃げた。
それだけのつもりだったのだけれど、彼女をひどく驚かせてしまった。
「俺、何か変なこと言った?」
「ううん、ごめん。ちょっと、ビックリしちゃって。
モブリットはそんなつもりないのに。」
「そんなつもり?」
「毎日、君のお味噌汁を飲みたいって、
イアンがリコにプロポーズした時の言葉だったから。
プロポーズされたのかと思っちゃった。」
「えッ!?」
彼女は茶化して言ったけれど、モブリットは顔を真っ赤にする。
確かに、そんなつもりはなかった。
なかったけれど、彼女となら結婚してもー。
「リヴァイは、どんな言葉でなまえにプロポーズしたんだろうね。」
少しだけ目を伏せて、彼女は遠い目で呟くように言う。
なまえのことなら今はもうなんでも知っている彼女が、唯一知れないのは、リヴァイと彼女だけの2人の想い出だ。
彼女だって知りたくはないだろうそれは、知らないからこそいろんな想像をさせて、彼女を苦しめるのだと思う。
勝手に舞い上がっていた自分が恥ずかしくて、虚しくなって、何も言えなかった。
眉間に皴を寄せ、モブリットは額に手を乗せる。
久しぶりに飲み過ぎた。
飲みだしたらキリがなくなると自分でも理解しているから、いつもは少しだけ気を付けるのだけれど、昨日は敢えて飲み過ぎたからー。
いつもならそろそろやめておけと忠告してくれるハンジも、昨日の夜はむしろ煽って来ていたから、タガが外れてしまった。
(今、何時だ…?)
非番でよかったと思いながら、ガンガンと痛む頭を雑に掻いてー。
早朝の光景を急に思い出す。
ハッとして、勢いよく身体を起こす。
腕の中どころか、ベッドの上にすら彼女がいない。
チェストの上に置いておいた彼女の服もなくなっている。
いつの間にか眠ってしまっていた間に、部屋を出て行ってしまったようだ。
やってしまったー。
サーッと血の気が引く。
きっと、いやもう絶対に、嫌われた。
お酒のせいにはしたくはない。
けれど、お酒で大胆になっていたのは事実だ。
そして、願望をほとんどそのまま彼女にぶつけた挙句、服も着せないまま抱きしめて眠ってしまうなんてー。
嫌われて当然すぎて、青い顔は元に戻れそうにない。
「あ~…。」
自分の声だとは思いたくないほどに、情けない声が漏れる。
とにかく、謝ろう。
許してもらえるかどうかは別として、謝罪は必要だ。
彼女に軽蔑の目を向けられるのかと思うと、とても憂鬱だけれどー。
呑み過ぎた酒と気分でだいぶ重たい身体を無理やり動かして、ベッドから降りた。
チェストから適当にシャツを引っ張り出して着替えると、行きたくないと我儘を言う身体を引きずって寝室の扉を開いた。
執務室に入ってすぐ、湯沸室から彼女が出てきて、目が合った。
「おはよう。起きたんだね。」
驚いたというよりも、拍子抜けで動きが止まってしまったモブリットに、彼女は平然と話しかけてくる。
「…ずっと、ここにいたの?」
「あ、ごめん…。居座られたら嫌だよね。」
途端に申し訳なさそうにする彼女に、慌ててそういう意味ではないと教える。
そうすると、彼女はとてもホッとしたように息を吐く。
あぁ、ズルいなー。
そう思わせてすぐ、また彼女は、諦めきれなくなるようなことを小さな口から零すのだ。
「リヴァイの部屋にはまだ戻りたくなくて…。
もう少し、ここにいてもいいかな?
モブリットの部屋はすごく安心するの。」
「大丈夫だよ。今日は俺も非番だし、ゆっくりしてていいよ。」
「ありがとう。」
彼女は、嬉しそうに微笑む。
あぁ、この笑顔を守りたいと、そう思ったのだ。
もしほんの少しでも、それが出来ているということなら好きになって良かったと思える。
「今、ちょうど食堂から戻って来たところだったの。
座って待ってて。」
彼女はそれだけ言うと、また湯沸室に戻ってしまう。
時計を見れば、もうとっくにお昼の時間は過ぎている。
食堂からと言ったし、食事でも持ってきてくれたのだろうか。
それなら、準備は自分がするのにー。
そう思ったけれど、起きてすぐに彼女が食事の準備をしてくれるなんてまるでー。
少し甘えたくなって、モブリットは素直にソファに座って待つことにした。
それほど待つことなく、彼女は湯沸室から出てきた。
トレイの上には、パンとスープ皿とコップが乗っている。
やっぱり、食事の準備をして、起きるのを待っていてくれていたらしい。
それが嬉しくて、なんだか照れ臭くて、さっきまでの沈んだ気持ちはすっかりなくなってしまっていた。
「食堂を借りて、お味噌汁を作ったの。
飲んでみたいって言ってたでしょう?」
彼女はそう言いながら、ローテーブルの上にトレイを置いた。
スープ皿の中に入っている液体は茶色で、確かに見たことのないスープだ。
オミソシルが美味しい、という話なら聞いたことがあった。
飲んでみたいとも言った。
でも、この世界にはミソというのがないから出来なかったはずだー。
その疑問に気が付いたのか、彼女は、食堂にある調味料で似ているものを見つけたから、それで思いついて作ってみたのだと教えてくれた。
そういうことなら、納得する。
「ミソではないから全く同じじゃないけど、味見もしたし
結構、似てる味になってると思うよ。」
「へぇ。楽しみだな。」
もしここにハンジがいれば、発狂して喜びそうだ。
そんなことを思いながら、スープ皿を手に取る。
ドキドキとワクワクしながら、口に運んだ。
ふわりと美味しそうな匂いが鼻に届いて、優しい味が口いっぱいに広がる。
あぁ、確かにー。
「美味しい…!ホッとする味だって言ってたのがよく分かるよ。」
「よかった。」
彼女はホッとしたように、胸に手を置いて息を吐いた。
感想を待っている間、緊張していたらしい彼女がひどくいじらしい。
もし、万が一、とてつもなく美味しくなくたって、彼女が自分のために用意してくれたのなら、世界一の料理になるのにー。
「お酒を呑んだ次の日は、お味噌汁が身体に優しくて、私は好きなの。
だから、似たようなものを作れてよかった。」
「え?俺、そんなに酒臭かった…!?」
慌てて口を塞げば、彼女はキョトンとしたあと、可笑しそうに吹き出した。
「モブリットがお酒飲んでて寝てないから、眠いって寝ちゃったんじゃない。」
「…あ、そっか。ごめん。忘れてた。」
「本当に酔っぱらってたんだね。」
彼女はクスクスと笑いながら言う。
あぁ、そうかー。
今朝のアレはすべて、彼女の中ではお酒のせいだということになっているようだ。
それなら、それで都合がいいじゃないか。
彼女には嫌われていないようだし、今までの関係も守れる。
もう溢れそうなこの感情の行き場をなくしただけだー。
進展なんて望む方が馬鹿げているのだからー。
「毎日、君のオミソシルを飲みたいくらい美味しいよ。」
「え…!」
お酒のせいにするズルさも勇気も持てず、結局、素直な感想を告げるに逃げた。
それだけのつもりだったのだけれど、彼女をひどく驚かせてしまった。
「俺、何か変なこと言った?」
「ううん、ごめん。ちょっと、ビックリしちゃって。
モブリットはそんなつもりないのに。」
「そんなつもり?」
「毎日、君のお味噌汁を飲みたいって、
イアンがリコにプロポーズした時の言葉だったから。
プロポーズされたのかと思っちゃった。」
「えッ!?」
彼女は茶化して言ったけれど、モブリットは顔を真っ赤にする。
確かに、そんなつもりはなかった。
なかったけれど、彼女となら結婚してもー。
「リヴァイは、どんな言葉でなまえにプロポーズしたんだろうね。」
少しだけ目を伏せて、彼女は遠い目で呟くように言う。
なまえのことなら今はもうなんでも知っている彼女が、唯一知れないのは、リヴァイと彼女だけの2人の想い出だ。
彼女だって知りたくはないだろうそれは、知らないからこそいろんな想像をさせて、彼女を苦しめるのだと思う。
勝手に舞い上がっていた自分が恥ずかしくて、虚しくなって、何も言えなかった。