◇51話◇消してしまいたい
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リヴァイの部屋から戻って来たモブリットは、とりあえず、彼女の着替えを寝室のチェストの上に置いた。
悪いとは思ったけれど、下着も持ってきた。
必要以上には見ていないし、極力触らないようにしたことだけは、分かってほしいー。
わざわざ、言い訳のようにそれを彼女に言うつもりはないけれど。
「はぁ~…。」
執務室に戻ったモブリットは、ソファに腰を降ろし、頭を抱える。
飲み過ぎて頭が痛い上に、惚れてる女がほとんど裸のような格好で目の前に現れて、自分の部屋でシャワーを浴びているなんてー。
どんな拷問だろうか。
シャワーの音が耳に届く度に、悪い妄想に取り憑かれる。
寝室にいるよりは、執務室にいた方がだいぶシャワーの音は小さくて、ほとんど聞こえないはずなのだけれど、しっかり届いている。
無意識に耳を澄ましてしまっているのか、はたまた悪い妄想が聞かせているのかー。
(…仕事でもして気を紛らわそう。)
小さく頭を振って、モブリットは立ち上がるとデスクへ向かう。
椅子に腰を降ろし、デスクの上に山積みになっている書類から1枚を手に取る。
自分が終わらせるべき書類はすべて終わらせてある。
ここにある書類はすべて、ハンジが捌くべきものだー!
よし、怒りで少しずつ悪い妄想が消えていくー。
それから、ただ黙々と書類を捌き続けた。
早朝から非番の日に何をやっているのかと冷静に考える暇さえ自分に与えなかった。
こんなに集中して仕事をしたのは、今まで生きてきた中で一番だったかもしれない。
気づいたときには、山積みだった書類が半分以下に減っていた。
ペンを止めて、耳を澄ます。
まだシャワーの音がしている。
女性のシャワーは長いといっても、長すぎやしないか。
漸く、モブリットも、さすがに何かがおかしいと思い始める。
ペンを置いたモブリットは、寝室へと向かった。
念のため、寝室の扉をノックして、シャワーから出てきた彼女がいないかを確かめる。
声をかけてみたけれど返事はないので、ゆっくりと扉を開いた。
中の様子は、さっきモブリットが寝室を出てきたときと変わらない。
チェストの上には、彼女の着替えが置かれてままになっている。
シャワーの音は相変わらず続いているし、彼女はまだシャワールームから出てきていないようだ。
歩くのもやっとに見えた背中を思い出すー。
もしかして、シャワールームの中で倒れているんじゃー。
そう思って、走ってシャワールームへ向かった。
「大丈夫?なかなか出て来ないから心配になって来たんだけど…。
俺の声は聞こえる?」
シャワールームの扉の前から、彼女に声をかけた。
シャワーの音に紛れて、小さく声がした。
何を答えたのかは分からなかったけれど、どうやら、意識を失っていてシャワールームから出て来れなかったわけではないようで、ホッと一安心する。
「どうかしたの?あんまり長く入ってると上ぼせてしまうよ。
風邪をひいてもいけないし。着替えなら、寝室のチェストの上に置いてあるからね。」
「ーーー…ないの…。」
「ん?何かない?石鹸は新しいのを置いたばかりだったはずなんだけどな。」
首を傾げながら、扉横の棚から籠を取り出す。
シャワーの音で良く聞こえなかったけれど、何かがないと言ったから、石鹸がなくて、身体を洗えなかったのだと思ったのだ。
でもー。
「消えないの…。」
「消えない?何が?」
新しい石鹸を持ったまま、モブリットは扉の向こうにいる彼女に答える。
汚れか何かがあっただろうか。
掃除もそれなりにしていたはずなのだけれど、そんなに頑固な汚れでもあっただろうか。
そんな思考しか生まれなかったのは、お酒のせいだとかではなかったと思う。
頭をまわさないように、自分で制御していたのだ。
一枚の扉を隔てた向こうに、惚れている女性が裸でいるのだから、あまり回転早く頭を動かしたら、余計な妄想まで始めてしまいそうでー。
「こすっても、こすっても、消えない…。」
「こする?どうしたの?何が消えないの?」
「私の身体なのに…、なまえが消えない…。リヴァイが愛したなまえが消えない…。
気持ち悪い…。私の身体なのに…、痛い…、気持ち悪い…。」
シャワーの音にかき消されそうな弱々しい声が告げたそれは、モブリットの脳裏に、儚い背中と赤い痕を思い出させた。
サーッと血の気が引くー。
もしかして、彼女はー。
急いで扉を開いたモブリットの目が映したのは、あまりに惨い光景だった。
シャワールームの床に座り込んだ彼女は、頭から熱いお湯を浴びていた。
そしてそれは、彼女の身体を流れ落ちながら色を赤く変えて、排水溝へと流れて消えていく。
リヴァイがつけた赤い痕を必死に消そうとしたのか、身体中に引っかき傷や擦ったような痛々しい傷が出来ている。
この部屋に来て初めて、彼女が顔を上げた。
扉を開けられて驚いたとか、羞恥心とか、そういうのではないのはすぐにわかった。
ただ助けを求めるような、上目遣いの弱々しい表情で、頬を濡らしていた。
シャワーで顔も濡れていて分からないけれど、泣いているように見えた。
衝動的に、彼女を抱きしめていた。
でも後悔はしていない。
こうしてやるのが一番いいと思ったのだ。
何か言葉をかけたところで、どんな言葉も、彼女の心に出来た傷を癒すことは出来ないだろうからー。
彼女の身体に叩きつけるシャワーを、モブリットの背中で受け止めて、腕の中で暖める。
信じられないくらいに小さな身体だ。
細くて華奢で、折れてしまいそうだ。
こんな、何も守れないようなこの身体で、彼女は昨夜、必死にー。
「ごめん…っ。」
気付けば、謝っていた。
昨日、酒場なんかで酒に溺れていた自分を呪った。
逃げることしか出来なかった自分を軽蔑した。
そんな暇があったのなら、彼女を攫いにいけばよかった。
そうすれば、少なくとも今、彼女がこうして自分の身体に残った悲しい痕に傷ついて、苦しむこともなかったのにー。
傷ひとつなかったはずの綺麗な身体を、痛めつけることだってなかったはずだ。
「ほんとに、ごめん…っ。俺が守るって言ったのに…っ。
傷つけて、ごめんな…っ。」
「…ーーーっ。」
初めて、彼女がモブリットの背中に手をまわした。
そして、縋るように抱き着いて、声を上げて泣いた。
彼女は、飛び降りたなまえをリヴァイが受け止めたあのときみたいに、子供のように泣きじゃくっていた。
違うのは、今、彼女が縋りついて助けを求めているのは、リヴァイじゃなくてモブリットだということだ。
悪いとは思ったけれど、下着も持ってきた。
必要以上には見ていないし、極力触らないようにしたことだけは、分かってほしいー。
わざわざ、言い訳のようにそれを彼女に言うつもりはないけれど。
「はぁ~…。」
執務室に戻ったモブリットは、ソファに腰を降ろし、頭を抱える。
飲み過ぎて頭が痛い上に、惚れてる女がほとんど裸のような格好で目の前に現れて、自分の部屋でシャワーを浴びているなんてー。
どんな拷問だろうか。
シャワーの音が耳に届く度に、悪い妄想に取り憑かれる。
寝室にいるよりは、執務室にいた方がだいぶシャワーの音は小さくて、ほとんど聞こえないはずなのだけれど、しっかり届いている。
無意識に耳を澄ましてしまっているのか、はたまた悪い妄想が聞かせているのかー。
(…仕事でもして気を紛らわそう。)
小さく頭を振って、モブリットは立ち上がるとデスクへ向かう。
椅子に腰を降ろし、デスクの上に山積みになっている書類から1枚を手に取る。
自分が終わらせるべき書類はすべて終わらせてある。
ここにある書類はすべて、ハンジが捌くべきものだー!
よし、怒りで少しずつ悪い妄想が消えていくー。
それから、ただ黙々と書類を捌き続けた。
早朝から非番の日に何をやっているのかと冷静に考える暇さえ自分に与えなかった。
こんなに集中して仕事をしたのは、今まで生きてきた中で一番だったかもしれない。
気づいたときには、山積みだった書類が半分以下に減っていた。
ペンを止めて、耳を澄ます。
まだシャワーの音がしている。
女性のシャワーは長いといっても、長すぎやしないか。
漸く、モブリットも、さすがに何かがおかしいと思い始める。
ペンを置いたモブリットは、寝室へと向かった。
念のため、寝室の扉をノックして、シャワーから出てきた彼女がいないかを確かめる。
声をかけてみたけれど返事はないので、ゆっくりと扉を開いた。
中の様子は、さっきモブリットが寝室を出てきたときと変わらない。
チェストの上には、彼女の着替えが置かれてままになっている。
シャワーの音は相変わらず続いているし、彼女はまだシャワールームから出てきていないようだ。
歩くのもやっとに見えた背中を思い出すー。
もしかして、シャワールームの中で倒れているんじゃー。
そう思って、走ってシャワールームへ向かった。
「大丈夫?なかなか出て来ないから心配になって来たんだけど…。
俺の声は聞こえる?」
シャワールームの扉の前から、彼女に声をかけた。
シャワーの音に紛れて、小さく声がした。
何を答えたのかは分からなかったけれど、どうやら、意識を失っていてシャワールームから出て来れなかったわけではないようで、ホッと一安心する。
「どうかしたの?あんまり長く入ってると上ぼせてしまうよ。
風邪をひいてもいけないし。着替えなら、寝室のチェストの上に置いてあるからね。」
「ーーー…ないの…。」
「ん?何かない?石鹸は新しいのを置いたばかりだったはずなんだけどな。」
首を傾げながら、扉横の棚から籠を取り出す。
シャワーの音で良く聞こえなかったけれど、何かがないと言ったから、石鹸がなくて、身体を洗えなかったのだと思ったのだ。
でもー。
「消えないの…。」
「消えない?何が?」
新しい石鹸を持ったまま、モブリットは扉の向こうにいる彼女に答える。
汚れか何かがあっただろうか。
掃除もそれなりにしていたはずなのだけれど、そんなに頑固な汚れでもあっただろうか。
そんな思考しか生まれなかったのは、お酒のせいだとかではなかったと思う。
頭をまわさないように、自分で制御していたのだ。
一枚の扉を隔てた向こうに、惚れている女性が裸でいるのだから、あまり回転早く頭を動かしたら、余計な妄想まで始めてしまいそうでー。
「こすっても、こすっても、消えない…。」
「こする?どうしたの?何が消えないの?」
「私の身体なのに…、なまえが消えない…。リヴァイが愛したなまえが消えない…。
気持ち悪い…。私の身体なのに…、痛い…、気持ち悪い…。」
シャワーの音にかき消されそうな弱々しい声が告げたそれは、モブリットの脳裏に、儚い背中と赤い痕を思い出させた。
サーッと血の気が引くー。
もしかして、彼女はー。
急いで扉を開いたモブリットの目が映したのは、あまりに惨い光景だった。
シャワールームの床に座り込んだ彼女は、頭から熱いお湯を浴びていた。
そしてそれは、彼女の身体を流れ落ちながら色を赤く変えて、排水溝へと流れて消えていく。
リヴァイがつけた赤い痕を必死に消そうとしたのか、身体中に引っかき傷や擦ったような痛々しい傷が出来ている。
この部屋に来て初めて、彼女が顔を上げた。
扉を開けられて驚いたとか、羞恥心とか、そういうのではないのはすぐにわかった。
ただ助けを求めるような、上目遣いの弱々しい表情で、頬を濡らしていた。
シャワーで顔も濡れていて分からないけれど、泣いているように見えた。
衝動的に、彼女を抱きしめていた。
でも後悔はしていない。
こうしてやるのが一番いいと思ったのだ。
何か言葉をかけたところで、どんな言葉も、彼女の心に出来た傷を癒すことは出来ないだろうからー。
彼女の身体に叩きつけるシャワーを、モブリットの背中で受け止めて、腕の中で暖める。
信じられないくらいに小さな身体だ。
細くて華奢で、折れてしまいそうだ。
こんな、何も守れないようなこの身体で、彼女は昨夜、必死にー。
「ごめん…っ。」
気付けば、謝っていた。
昨日、酒場なんかで酒に溺れていた自分を呪った。
逃げることしか出来なかった自分を軽蔑した。
そんな暇があったのなら、彼女を攫いにいけばよかった。
そうすれば、少なくとも今、彼女がこうして自分の身体に残った悲しい痕に傷ついて、苦しむこともなかったのにー。
傷ひとつなかったはずの綺麗な身体を、痛めつけることだってなかったはずだ。
「ほんとに、ごめん…っ。俺が守るって言ったのに…っ。
傷つけて、ごめんな…っ。」
「…ーーーっ。」
初めて、彼女がモブリットの背中に手をまわした。
そして、縋るように抱き着いて、声を上げて泣いた。
彼女は、飛び降りたなまえをリヴァイが受け止めたあのときみたいに、子供のように泣きじゃくっていた。
違うのは、今、彼女が縋りついて助けを求めているのは、リヴァイじゃなくてモブリットだということだ。