◇50話◇酒に溺れたい夜
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中央のステージでは綺麗な踊り子が、観客の男達を誘うように腰を振る。
顔を真っ赤にした酔っ払い達が騒いでいる声に煩わし気に眉を顰めたモブリットは、酒を一気に飲み干すと、空になったグラスをテーブルに叩きつけるように置いた。
誰にも教えていない隠れ家のこの酒場は、酒に溺れて忘れたいことがあるときによく来ている。
今夜は、まさにそんな夜だ。
急遽、明日、ハンジがストヘス区へ出張になった。
それにより、予定していた研究が中止になったハンジ班が、思いがけず非番になったのは、とても都合がよかった。
今夜はいくら飲んでも酔っぱらえそうになくて、酒の量が多くなるのは目に見えて分かっていたからー。
これで、明日研究なんかがあったら、ミス連発でハンジに呆れられてしまう。
「はぁ~…。」
おかわりの酒を貰って、グラスを見下ろしながらため息を吐く。
今日の夕方、リヴァイが退院した。
だからきっと、今頃、なまえはー。
乱暴に頭を左右に振って、モブリットはまた酒を煽る。
「いたいたーっ!モブリットはっけーんっ!」
騒がしく店に入ってきたのは、ハンジだ。
嬉しそうにテーブルに歩み寄る姿を呆然と眺めながら、誰にも教えていないこの店のことを、いつ教えただろうかと考えてしまうほどには、モブリットの頭も酒がまわっていたようだった。
「すみませーん!私にも酒を大ジョッキで!!」
テーブルを挟んで席に着いたハンジは、片手を上げると、大声で店員に注文を出した。
どうやら、長居するつもりらしい。
ため息交じりに、モブリットはハンジに言う。
「なんですか。何か問題でもあったんですか。」
「まさか、仕事の話をするつもりなら、さすがの私も酒は頼まないよ。」
「…でしょうね。」
モブリットからは、またため息が漏れる。
今日は1人で、とことん飲み明かそうと思っていたのにー。
記憶がなくなるくらいに、酔い潰れてしまおうとー。
「モブリットがここに来るのはいつも、嫌なことがあったときだよね。
だから、いつもは壁外調査の後なのに、今日はどうしたのかな。」
テーブルに肘をつき、頬杖をついたハンジは、すべてお見通しだと言うような目を向けてくる。
そこまで知られていたなんて、驚きだった。
「知ってたんですか。」
「私は、モブリットのことなら何だって知ってるんだよ。」
「ストーカーですか。」
「ハハ、そうかもね。右腕の居場所くらいは把握しておかないと
いつだって呼び出せないからね。」
まぁ、そういうことだろうなー。
そう思いながら、モブリットはグラスを口に運んだ。
注文した酒はすぐにハンジの元に届けられた。
ハンジは、酒を一口飲むと、また口を開いた。
「それで、私の大事な右腕が、壊れちゃいそうな顔をしてるのは
リヴァイが退院したからかな?」
ハンジはいつだって、モブリットのことはお見通しだった。
長い付き合いがそうさせたのだろう。
嘘がバレた記憶ならあるけれど、騙せたことは一度もない。
だから、というのもあると思う。
でも、たぶん、お酒がモブリットの口を軽くしていたのだろう。
そして、本音を言うと、誰かに話を聞いて欲しかったのだ。
それさえも分かっていて、ハンジはこの酒場に来てくれたのだと思うと、なんとも虚しい気持ちになる。
「リヴァイ兵長の執務室は、私の部屋と近すぎるんです。
今夜、あの部屋に居たら私は、乱暴に乗り込んでしまう。
彼女の気持ちも無視して、攫ってしまいそうで…。」
片手はグラスに手をかけたまま、モブリットは顔を伏せて頭を掻いた。
きっと、情けない顔をしているのだろうと思う。
どうしてこんなことになってしまったのだろうと悩んでみたところで、彼女を守りたいと決めたのは自分なのだから、誰も責められない。
最初から、ハンジには忠告されていたのにー。
「攫っちまえばいいのに。」
ハンジからサラリと出てきたそれに驚いて、思わず顔が上がる。
何を言われたか分からず、ポカンとするモブリットに、ハンジが続ける。
「深く考えずにさぁ、攫っちゃえばいいじゃん?
今の彼女なら隙だらけだから、結構、簡単に奪えそうな気がするけどな~。」
「は?!いやいや!!何言ってるんですか!?
攫っちゃえばいいなんて、そんな横暴なこと…!出来ませんよっ。」
「横暴かな?恋愛なんてそんなもんでしょ?
惚れたもんが負けなんて、私は思わないね。欲しいものは、手に入れればいいんだ。
リヴァイだって、彼女だって、そうしてるじゃないか。モブリットだけ我慢する理由ってなに?」
「もう酔ってるんですか?」
「まだ一口しか飲んでないよ。」
「じゃあ、覚えてるでしょ。
あなたが、惚れたらいけないよって私に忠告したんですよ。」
いきなり意見を変えたハンジの真意が分からず、モブリットは子供のように口を尖らせた。
グラスに中途半端に残った酒は、諦めきれていない彼女への想いのようだった。
「それは、彼女がいつか元の世界に戻るからだって言っただろう?
この世界に残ると決めたなら、話が違うよ。」
思わず、それもそうかー。
そう思ってしまった自分を叱咤して、モブリットは反論する。
「彼女は、リヴァイ兵長のために、自分の人生も全て捨てて
この世界に残ると決めたんですよ。
私が邪魔をしてしまったら、元も子もないじゃないですか。」
「ん~、そうかなぁ?まぁ、モブリットがそう思うなら、それでいいけどさ。
私はただ、リヴァイや彼女が好きにしてるように、
モブリットも好きにすればいいのにと思っただけだから。」
「好きにしてますよ。私は、彼女が幸せでいられるなら、それでいいんです。」
「そうだね。せっかくこの世界を選んでくれたんだから、私も彼女には幸せになってほしい。
モブリットが、自分が身を引くことが彼女の幸せだと思うならそれでいいんじゃないかな。」
「…そうですよ。」
モブリットは自分に言い聞かせるように言って、残った酒を喉の奥に流し込んだ。
僅かに震えながら、リヴァイに抱かれるのだと告げた彼女。
彼女は、自分が選んだ運命を受け入れる覚悟を決めていた。
それを邪魔するのは、野暮な男のすることだ。
あの日、彼女にも言った通り、どうしてもつらいときに逃げ込める場所になれたならいい。
彼女が欲しいわけじゃない。
柔らかく微笑む彼女の幸せを守りたいだけだー。
ハンジが新しい酒を頼んだ。
明日は、早朝から出張だというのに、今夜はとことん付き合ってくれるつもりのようだ。
「モブリットのおごりな!」
ニカッとハンジが笑う。
さすがだ、と思わず苦笑が漏れる。
とりあえず、今夜はとことん飲もう。
そして、忘れるのだ。壊れるのだ。狂ってしまうのだ。
今まさに、リヴァイに抱かれているだろう彼女のことを考えないでいられるようにー。
嫉妬で、これ以上、頭がおかしくならないようにー。
顔を真っ赤にした酔っ払い達が騒いでいる声に煩わし気に眉を顰めたモブリットは、酒を一気に飲み干すと、空になったグラスをテーブルに叩きつけるように置いた。
誰にも教えていない隠れ家のこの酒場は、酒に溺れて忘れたいことがあるときによく来ている。
今夜は、まさにそんな夜だ。
急遽、明日、ハンジがストヘス区へ出張になった。
それにより、予定していた研究が中止になったハンジ班が、思いがけず非番になったのは、とても都合がよかった。
今夜はいくら飲んでも酔っぱらえそうになくて、酒の量が多くなるのは目に見えて分かっていたからー。
これで、明日研究なんかがあったら、ミス連発でハンジに呆れられてしまう。
「はぁ~…。」
おかわりの酒を貰って、グラスを見下ろしながらため息を吐く。
今日の夕方、リヴァイが退院した。
だからきっと、今頃、なまえはー。
乱暴に頭を左右に振って、モブリットはまた酒を煽る。
「いたいたーっ!モブリットはっけーんっ!」
騒がしく店に入ってきたのは、ハンジだ。
嬉しそうにテーブルに歩み寄る姿を呆然と眺めながら、誰にも教えていないこの店のことを、いつ教えただろうかと考えてしまうほどには、モブリットの頭も酒がまわっていたようだった。
「すみませーん!私にも酒を大ジョッキで!!」
テーブルを挟んで席に着いたハンジは、片手を上げると、大声で店員に注文を出した。
どうやら、長居するつもりらしい。
ため息交じりに、モブリットはハンジに言う。
「なんですか。何か問題でもあったんですか。」
「まさか、仕事の話をするつもりなら、さすがの私も酒は頼まないよ。」
「…でしょうね。」
モブリットからは、またため息が漏れる。
今日は1人で、とことん飲み明かそうと思っていたのにー。
記憶がなくなるくらいに、酔い潰れてしまおうとー。
「モブリットがここに来るのはいつも、嫌なことがあったときだよね。
だから、いつもは壁外調査の後なのに、今日はどうしたのかな。」
テーブルに肘をつき、頬杖をついたハンジは、すべてお見通しだと言うような目を向けてくる。
そこまで知られていたなんて、驚きだった。
「知ってたんですか。」
「私は、モブリットのことなら何だって知ってるんだよ。」
「ストーカーですか。」
「ハハ、そうかもね。右腕の居場所くらいは把握しておかないと
いつだって呼び出せないからね。」
まぁ、そういうことだろうなー。
そう思いながら、モブリットはグラスを口に運んだ。
注文した酒はすぐにハンジの元に届けられた。
ハンジは、酒を一口飲むと、また口を開いた。
「それで、私の大事な右腕が、壊れちゃいそうな顔をしてるのは
リヴァイが退院したからかな?」
ハンジはいつだって、モブリットのことはお見通しだった。
長い付き合いがそうさせたのだろう。
嘘がバレた記憶ならあるけれど、騙せたことは一度もない。
だから、というのもあると思う。
でも、たぶん、お酒がモブリットの口を軽くしていたのだろう。
そして、本音を言うと、誰かに話を聞いて欲しかったのだ。
それさえも分かっていて、ハンジはこの酒場に来てくれたのだと思うと、なんとも虚しい気持ちになる。
「リヴァイ兵長の執務室は、私の部屋と近すぎるんです。
今夜、あの部屋に居たら私は、乱暴に乗り込んでしまう。
彼女の気持ちも無視して、攫ってしまいそうで…。」
片手はグラスに手をかけたまま、モブリットは顔を伏せて頭を掻いた。
きっと、情けない顔をしているのだろうと思う。
どうしてこんなことになってしまったのだろうと悩んでみたところで、彼女を守りたいと決めたのは自分なのだから、誰も責められない。
最初から、ハンジには忠告されていたのにー。
「攫っちまえばいいのに。」
ハンジからサラリと出てきたそれに驚いて、思わず顔が上がる。
何を言われたか分からず、ポカンとするモブリットに、ハンジが続ける。
「深く考えずにさぁ、攫っちゃえばいいじゃん?
今の彼女なら隙だらけだから、結構、簡単に奪えそうな気がするけどな~。」
「は?!いやいや!!何言ってるんですか!?
攫っちゃえばいいなんて、そんな横暴なこと…!出来ませんよっ。」
「横暴かな?恋愛なんてそんなもんでしょ?
惚れたもんが負けなんて、私は思わないね。欲しいものは、手に入れればいいんだ。
リヴァイだって、彼女だって、そうしてるじゃないか。モブリットだけ我慢する理由ってなに?」
「もう酔ってるんですか?」
「まだ一口しか飲んでないよ。」
「じゃあ、覚えてるでしょ。
あなたが、惚れたらいけないよって私に忠告したんですよ。」
いきなり意見を変えたハンジの真意が分からず、モブリットは子供のように口を尖らせた。
グラスに中途半端に残った酒は、諦めきれていない彼女への想いのようだった。
「それは、彼女がいつか元の世界に戻るからだって言っただろう?
この世界に残ると決めたなら、話が違うよ。」
思わず、それもそうかー。
そう思ってしまった自分を叱咤して、モブリットは反論する。
「彼女は、リヴァイ兵長のために、自分の人生も全て捨てて
この世界に残ると決めたんですよ。
私が邪魔をしてしまったら、元も子もないじゃないですか。」
「ん~、そうかなぁ?まぁ、モブリットがそう思うなら、それでいいけどさ。
私はただ、リヴァイや彼女が好きにしてるように、
モブリットも好きにすればいいのにと思っただけだから。」
「好きにしてますよ。私は、彼女が幸せでいられるなら、それでいいんです。」
「そうだね。せっかくこの世界を選んでくれたんだから、私も彼女には幸せになってほしい。
モブリットが、自分が身を引くことが彼女の幸せだと思うならそれでいいんじゃないかな。」
「…そうですよ。」
モブリットは自分に言い聞かせるように言って、残った酒を喉の奥に流し込んだ。
僅かに震えながら、リヴァイに抱かれるのだと告げた彼女。
彼女は、自分が選んだ運命を受け入れる覚悟を決めていた。
それを邪魔するのは、野暮な男のすることだ。
あの日、彼女にも言った通り、どうしてもつらいときに逃げ込める場所になれたならいい。
彼女が欲しいわけじゃない。
柔らかく微笑む彼女の幸せを守りたいだけだー。
ハンジが新しい酒を頼んだ。
明日は、早朝から出張だというのに、今夜はとことん付き合ってくれるつもりのようだ。
「モブリットのおごりな!」
ニカッとハンジが笑う。
さすがだ、と思わず苦笑が漏れる。
とりあえず、今夜はとことん飲もう。
そして、忘れるのだ。壊れるのだ。狂ってしまうのだ。
今まさに、リヴァイに抱かれているだろう彼女のことを考えないでいられるようにー。
嫉妬で、これ以上、頭がおかしくならないようにー。