◇48話◇いっそ僕達、壊れてしまえたらいいのにね
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼女が、彼女でいられる唯一の時間。
それを守ってあげているつもりでいた。
せめて、ほんの僅かな時間でも、彼女に生き返ってほしかった。
いや、ただ自分が彼女に会いたかっただけだとモブリットも自覚はしている。
だから、ショックだったのだー。
いつも通りの時間。
自分の任務が終わった後、モブリットはリヴァイの執務室を訪れた。
部屋の主に会うためではなく、その部屋の主の帰りを待ち焦がれている彼女に会うためだ。
でも、逢引きなんて甘いものでも、恋人のいる女との駆引きなんて危険なものでもない。
ただの話し相手だ。
それでも、彼女が彼女に戻れる時間を、モブリットは大切に思っていたし、彼女も必要としていると思っていた。
それなのに、急に、もう昔の世界の話はしないと言われたら、驚くし、戸惑ってしまう。
「どうして?1日中、無理してなまえでいるのはツラいだろう?
向こうの世界の話をしてるときの君はとても楽しそうだよ。」
いつもならなまえが好きだったという俳優の話を聞いていたはずのモブリットは、いつものようにソファに並んで座って、彼女に訊ねる。
「ちゃんと隅から隅までなまえにならないといけないと思ったの。」
「なれてるよ。君はもう誰がどう見てもなまえだ。
時々、本当になまえが生き返ったんじゃないかって錯覚しそうになる。
でも、君に戻る時間は必要だ。じゃないと、君が壊れてしまうよ。」
モブリットは、彼女の両肩に手を乗せて、真剣に説得をしようとしていた。
本来の彼女に会いたいー、という自分の為じゃない。
本当にこのままでは、彼女は壊れてしまうと思っているからだ。
リヴァイのそばにいる彼女を見る度に、なまえが帰ってきたような錯覚に陥る。
でも、本当の彼女を知っているからこそ、その向こうに、1人きりで立ち尽くし、泣いている姿が透けて見えるのだー。
「いっそ、壊れてしまった方がいいよ。」
視線の定まらない瞳で彼女が零す。
まるでモノクロなその表情は、もうすでに心の一部が壊れてしまったみたいだった。
「何言ってるんだよ!?
君が壊れてしまうくらいなら、俺はもう二度と協力なんかしないよ!!」
思わず怒鳴ってしまって、慌てて謝る。
こんな風に怒りたいわけじゃないのにー。
ただ、彼女を守りたいだけなのだ。
せめて、自分と一緒に過ごす時間だけでも、彼女の心を守ることが出来たならと思っているだけなのにー。
なまえは力なく首を横に振った。
そしてー。
「私、リヴァイが退院したら、抱かれるの。」
「え…?」
「何も考えてなかったんだけど、そうだよね。
恋人同士なんだから、そういうことするよね。
今日、リヴァイに誘われて気づいて、思わず退院したらって言っちゃったの。」
彼女が目を伏せる。
膝の上に乗った手は小さく震えていた。
彼女は、考えていなかったーと言ったけれど、モブリットは初めから、そう言う日が来ることも分かっていた。
なまえになるのなら、いつかリヴァイはそれを求めてくるだろうと思っていた。
それが、男として当然の感情だと、自分も男だからこそ分かるのだ。
目の前に、愛する女性がいれば、触れたいと思うものだからー。
あぁ、でもー。
分かっていたはずなのに、目の前が真っ暗になっていくー。
「ねぇ、モブリット…。」
彼女がゆっくりと顔を上げる。
上目遣いの瞳は潤んでいた。
そこに溢れるのは、リヴァイへの想いだと知っている。
それなのに、都合のいい心は、彼女が誘っているんじゃないかと勘違いさせようとしてくる。
そのまま勘違いでもすればいいのに、理性的なモブリットはそれすら出来なかった。
口を開けば、ヒドイことを言ってしまいそうで、モブリットはただ黙って、潤んだ瞳を見下ろす。
「愛してる人に、他の女の人の代わりに抱かれるのって
どんな気分なんだろうね…?」
「…想像もさせたくないよ。」
「私も、想像もしたくない。
だから、身も心もなまえになりたいの。壊れてしまいたい。
そうすれば私は、そのとき、傷つかずにすむでしょう?」
震える声で、でも、瞳はまっすぐでー。
彼女の決意を物語っていた。
あぁ、だから、彼女が唯一自由でいられるこの時間までも捨ててしまおうとしているのか。
彼女はいつだって、リヴァイの為ばかりだ。
自分のことは二の次どころか、守ろうともしない。
酷く儚く、か弱くて、守ってあげないとー、男にそう思わせるくせに、自分は自分を守ろうともしないでー。
幾つもの地獄を渡り歩いているみたいだ。
「ツラいときはいつでも、俺に言って。
話くらいなら聞くから。君としてでも、なまえとしてでも、どっちでもいいよ。
俺は、いつだって君の味方だから。」
モブリットは、彼女の肩を抱き寄せた。
おずおずと、背中に手をまわす。
彼女の手が、モブリットの背中にまわることはなかった。
それでもいい。
今だけ、抱きしめるのを許してほしい。
震える彼女を抱きしめるべき男が、今はそばにいないから。
彼では、彼女を震わせるだけだから。
今だけ、抱きしめさせてほしいー。
医師から、リヴァイはもうそろそろ退院だと聞いている。
だからー。
彼女が身も心も、彼のものになる前に、抱きしめさせてー。
それを守ってあげているつもりでいた。
せめて、ほんの僅かな時間でも、彼女に生き返ってほしかった。
いや、ただ自分が彼女に会いたかっただけだとモブリットも自覚はしている。
だから、ショックだったのだー。
いつも通りの時間。
自分の任務が終わった後、モブリットはリヴァイの執務室を訪れた。
部屋の主に会うためではなく、その部屋の主の帰りを待ち焦がれている彼女に会うためだ。
でも、逢引きなんて甘いものでも、恋人のいる女との駆引きなんて危険なものでもない。
ただの話し相手だ。
それでも、彼女が彼女に戻れる時間を、モブリットは大切に思っていたし、彼女も必要としていると思っていた。
それなのに、急に、もう昔の世界の話はしないと言われたら、驚くし、戸惑ってしまう。
「どうして?1日中、無理してなまえでいるのはツラいだろう?
向こうの世界の話をしてるときの君はとても楽しそうだよ。」
いつもならなまえが好きだったという俳優の話を聞いていたはずのモブリットは、いつものようにソファに並んで座って、彼女に訊ねる。
「ちゃんと隅から隅までなまえにならないといけないと思ったの。」
「なれてるよ。君はもう誰がどう見てもなまえだ。
時々、本当になまえが生き返ったんじゃないかって錯覚しそうになる。
でも、君に戻る時間は必要だ。じゃないと、君が壊れてしまうよ。」
モブリットは、彼女の両肩に手を乗せて、真剣に説得をしようとしていた。
本来の彼女に会いたいー、という自分の為じゃない。
本当にこのままでは、彼女は壊れてしまうと思っているからだ。
リヴァイのそばにいる彼女を見る度に、なまえが帰ってきたような錯覚に陥る。
でも、本当の彼女を知っているからこそ、その向こうに、1人きりで立ち尽くし、泣いている姿が透けて見えるのだー。
「いっそ、壊れてしまった方がいいよ。」
視線の定まらない瞳で彼女が零す。
まるでモノクロなその表情は、もうすでに心の一部が壊れてしまったみたいだった。
「何言ってるんだよ!?
君が壊れてしまうくらいなら、俺はもう二度と協力なんかしないよ!!」
思わず怒鳴ってしまって、慌てて謝る。
こんな風に怒りたいわけじゃないのにー。
ただ、彼女を守りたいだけなのだ。
せめて、自分と一緒に過ごす時間だけでも、彼女の心を守ることが出来たならと思っているだけなのにー。
なまえは力なく首を横に振った。
そしてー。
「私、リヴァイが退院したら、抱かれるの。」
「え…?」
「何も考えてなかったんだけど、そうだよね。
恋人同士なんだから、そういうことするよね。
今日、リヴァイに誘われて気づいて、思わず退院したらって言っちゃったの。」
彼女が目を伏せる。
膝の上に乗った手は小さく震えていた。
彼女は、考えていなかったーと言ったけれど、モブリットは初めから、そう言う日が来ることも分かっていた。
なまえになるのなら、いつかリヴァイはそれを求めてくるだろうと思っていた。
それが、男として当然の感情だと、自分も男だからこそ分かるのだ。
目の前に、愛する女性がいれば、触れたいと思うものだからー。
あぁ、でもー。
分かっていたはずなのに、目の前が真っ暗になっていくー。
「ねぇ、モブリット…。」
彼女がゆっくりと顔を上げる。
上目遣いの瞳は潤んでいた。
そこに溢れるのは、リヴァイへの想いだと知っている。
それなのに、都合のいい心は、彼女が誘っているんじゃないかと勘違いさせようとしてくる。
そのまま勘違いでもすればいいのに、理性的なモブリットはそれすら出来なかった。
口を開けば、ヒドイことを言ってしまいそうで、モブリットはただ黙って、潤んだ瞳を見下ろす。
「愛してる人に、他の女の人の代わりに抱かれるのって
どんな気分なんだろうね…?」
「…想像もさせたくないよ。」
「私も、想像もしたくない。
だから、身も心もなまえになりたいの。壊れてしまいたい。
そうすれば私は、そのとき、傷つかずにすむでしょう?」
震える声で、でも、瞳はまっすぐでー。
彼女の決意を物語っていた。
あぁ、だから、彼女が唯一自由でいられるこの時間までも捨ててしまおうとしているのか。
彼女はいつだって、リヴァイの為ばかりだ。
自分のことは二の次どころか、守ろうともしない。
酷く儚く、か弱くて、守ってあげないとー、男にそう思わせるくせに、自分は自分を守ろうともしないでー。
幾つもの地獄を渡り歩いているみたいだ。
「ツラいときはいつでも、俺に言って。
話くらいなら聞くから。君としてでも、なまえとしてでも、どっちでもいいよ。
俺は、いつだって君の味方だから。」
モブリットは、彼女の肩を抱き寄せた。
おずおずと、背中に手をまわす。
彼女の手が、モブリットの背中にまわることはなかった。
それでもいい。
今だけ、抱きしめるのを許してほしい。
震える彼女を抱きしめるべき男が、今はそばにいないから。
彼では、彼女を震わせるだけだから。
今だけ、抱きしめさせてほしいー。
医師から、リヴァイはもうそろそろ退院だと聞いている。
だからー。
彼女が身も心も、彼のものになる前に、抱きしめさせてー。