◇46話◇彼女はもう彼女じゃない
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調査兵団の兵舎の中にある医療棟では、いつも誰かが怪我や病気と戦っていた。
でも、ハンジが知る限りで、こんなに大勢の調査兵が病室を埋め吐くしているのは初めてだ。
何といっても、あの人類最強の兵士ですら大怪我を負ったのだ。
今回の壁外調査がどれほどのものだったのか、この医療棟の惨状だけですべてを語ることが出来そうだ。
何度でも言うが、こんなに大勢の調査兵が医療棟に集まっているのを見たことがない。
本当に賑やかな医療棟だー。
それは、嫌味でも、卑屈でもない。
「うるさいよ、リーゼント。
またワックスに歯磨き粉混ぜてやってもいいんだからね。」
「ふぁッ!?ふざけんなよッ!!アレがどんな地獄か!!
目がッ!今度こそ、俺の目が死ぬぞ!!!」
「真っ赤だったもんねぇ~、アハハ。」
「あぁ、そうだ!お前はあのときも、俺を指さして爆笑しやがったな!!」
扉一枚隔てた向こうからは、病室だとは思えないくらいに賑やかな笑い声が聞こえている。
ナナバの笑い声もする。
ちょうど休憩時間だということもあって、ゲルガーとナナバが遊びに来ていたようだ。
リヴァイの病室の扉に手をかけたハンジは、苦笑を噛み殺す。
一度、深呼吸をしてから、元気よく扉を開けた。
「やっほ~っ!盛り上がってるねぇっ!」
病室に入った瞬間、ハンジの目に映ったのは、ゲルガーのリーゼントにリンゴの皮を巻きつけようとしているなまえの姿だった。
必死に抵抗しているリーゼントが痛々しいー。
その瞬間に、笑いが込み上げて吹き出してしまう。
「いいよ、それ!!芸術的っ!!」
「はァッ!?ふざけんなよ!!」
ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑うハンジに、ゲルガーが文句を言う。
だが、リーゼントにリンゴの皮を巻いた姿では、面白いばかりだ。
だから、なまえとナナバも腹を抱えて笑う。
あぁ、久しぶりだ。こんなに笑うのはー。
時間が戻ったみたいだ。
なまえが本当に、生き返ったみたいだー。
「てめぇら、見舞いに来たなら少しは静かにしろ。
俺の身体を労わる気はねぇのか。」
ベッドの上で座っているリヴァイが、ひどくウザったそうに言う。
そんな彼は手元に視線を落とすこともせず、シュルシュルと音が聞こえてきそうなくらいに器用に林檎の皮を向いていく。
その林檎の皮が、ゲルガーのリーゼントを飾っているようだ。
だが、普通なら看病する側が林檎を向いているイメージだったのだがー。
看病する側のなまえは、ゲルガーのリーゼントにせっせと林檎の皮を巻き付けている。
「なまえがこれ以上、林檎を削いでしまわないように、
リヴァイが剥いてくれてるんだよ。」
ナナバが、ハンジの前に皿を差し出す。
その上に乗っているのは、歪なかたちの果物のようなものー。
鼻を近づけて匂いを嗅いでみたら、林檎だった。
それで、察する。
「あ~、なまえは料理は出来るのに、手先は壊滅的に不器用だったね。
それで、馬鹿にして笑ったゲルガーが逆襲にあったわけか。」
苦笑しつつ、歪なそれを手に取る。
言うまでもなく、味は林檎だ。
食べてしまえば、見た目なんて関係ない。
そもそもが同じ林檎なのだから。
「ほら、出来たぞ。」
「ワ~っ!さすが、リヴァイっ。美味しそうに見える~っ。」
リヴァイの隣に座るようにベッドの縁に腰を降ろしたなまえは、綺麗にカットされた林檎の乗った皿を、嬉しそうに受け取る。
本来なら、リヴァイのために持ってきた林檎だったはずだ。
それを美味しそうに頬張るなまえを、リヴァイが愛おしそうに見つめている。
そして、そんななまえにゲルガーが悪態を吐く。
「少し前までのおどおどして可愛らしかったなまえはどこ行っちまったんだよ。
守ってやらなきゃって男心をくすぐる儚さがよかったのによ~。」
リーゼントに絡まる林檎の皮を適当に取りながら、ゲルガーが壁際に置かれたソファにドカッと腰を降ろした。
「くすぐられてたんだぁ~?」
なまえは、林檎をかじりながら、可笑しそうにクスクスと笑う。
その隣で、リヴァイが不機嫌そうに眉間に皴を寄せていることに気づいていないのは、恐らくなまえとゲルガーだけだ。
確かに、本当の彼女は、儚くてか弱くて、守ってやりたいと思わせる。
モブリットが、夜になると彼女のいるリヴァイの執務室へ入り浸って、向こうの世界の話をひたすら聞いてあげているようにー。
まぁ、モブリットは、ハンジにバレているなんて思ってもいないみたいだけれどー。
「リヴァイだって、前の守ってあげたくなるタイプのなまえの方が良かっただろ?
戻ってくれって言ってくれよ~。」
ゲルガーが、リヴァイに話を振った。
ドキリとしたのはきっと、ハンジよりもなまえだったに違いない。
それでも、ハンジは、リヴァイの答えを聞くのが怖かった。
だってー。
「バカ言え。今のなまえが本当のなまえだ。
コイツはこのままでいい。こっちがいいに決まってんだろぉーが。
もう二度と、戻らなくていい。」
リヴァイが不機嫌なままで言って、なまえの肩を抱き寄せた。
腕の中に顔を埋める直前、一瞬だけ、彼女が苦しそうに眉を顰めた。
泣きそうに見えたのにー。
「ほら、リヴァイは分かってくれてるもんねーっ。」
なまえは、リヴァイの腕の中で舌を出して、ゲルガーを挑発する。
そして、あの頃の再演みたいに、ゲルガーと馬鹿を言い合っては、ナナバに笑われている。
彼女は、後何度、顔で笑って、心で泣くのだろう。
後何度繰り返せば、彼女はなまえになるのだろう。
心を壊して、なまえにー。
でも、ハンジが知る限りで、こんなに大勢の調査兵が病室を埋め吐くしているのは初めてだ。
何といっても、あの人類最強の兵士ですら大怪我を負ったのだ。
今回の壁外調査がどれほどのものだったのか、この医療棟の惨状だけですべてを語ることが出来そうだ。
何度でも言うが、こんなに大勢の調査兵が医療棟に集まっているのを見たことがない。
本当に賑やかな医療棟だー。
それは、嫌味でも、卑屈でもない。
「うるさいよ、リーゼント。
またワックスに歯磨き粉混ぜてやってもいいんだからね。」
「ふぁッ!?ふざけんなよッ!!アレがどんな地獄か!!
目がッ!今度こそ、俺の目が死ぬぞ!!!」
「真っ赤だったもんねぇ~、アハハ。」
「あぁ、そうだ!お前はあのときも、俺を指さして爆笑しやがったな!!」
扉一枚隔てた向こうからは、病室だとは思えないくらいに賑やかな笑い声が聞こえている。
ナナバの笑い声もする。
ちょうど休憩時間だということもあって、ゲルガーとナナバが遊びに来ていたようだ。
リヴァイの病室の扉に手をかけたハンジは、苦笑を噛み殺す。
一度、深呼吸をしてから、元気よく扉を開けた。
「やっほ~っ!盛り上がってるねぇっ!」
病室に入った瞬間、ハンジの目に映ったのは、ゲルガーのリーゼントにリンゴの皮を巻きつけようとしているなまえの姿だった。
必死に抵抗しているリーゼントが痛々しいー。
その瞬間に、笑いが込み上げて吹き出してしまう。
「いいよ、それ!!芸術的っ!!」
「はァッ!?ふざけんなよ!!」
ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑うハンジに、ゲルガーが文句を言う。
だが、リーゼントにリンゴの皮を巻いた姿では、面白いばかりだ。
だから、なまえとナナバも腹を抱えて笑う。
あぁ、久しぶりだ。こんなに笑うのはー。
時間が戻ったみたいだ。
なまえが本当に、生き返ったみたいだー。
「てめぇら、見舞いに来たなら少しは静かにしろ。
俺の身体を労わる気はねぇのか。」
ベッドの上で座っているリヴァイが、ひどくウザったそうに言う。
そんな彼は手元に視線を落とすこともせず、シュルシュルと音が聞こえてきそうなくらいに器用に林檎の皮を向いていく。
その林檎の皮が、ゲルガーのリーゼントを飾っているようだ。
だが、普通なら看病する側が林檎を向いているイメージだったのだがー。
看病する側のなまえは、ゲルガーのリーゼントにせっせと林檎の皮を巻き付けている。
「なまえがこれ以上、林檎を削いでしまわないように、
リヴァイが剥いてくれてるんだよ。」
ナナバが、ハンジの前に皿を差し出す。
その上に乗っているのは、歪なかたちの果物のようなものー。
鼻を近づけて匂いを嗅いでみたら、林檎だった。
それで、察する。
「あ~、なまえは料理は出来るのに、手先は壊滅的に不器用だったね。
それで、馬鹿にして笑ったゲルガーが逆襲にあったわけか。」
苦笑しつつ、歪なそれを手に取る。
言うまでもなく、味は林檎だ。
食べてしまえば、見た目なんて関係ない。
そもそもが同じ林檎なのだから。
「ほら、出来たぞ。」
「ワ~っ!さすが、リヴァイっ。美味しそうに見える~っ。」
リヴァイの隣に座るようにベッドの縁に腰を降ろしたなまえは、綺麗にカットされた林檎の乗った皿を、嬉しそうに受け取る。
本来なら、リヴァイのために持ってきた林檎だったはずだ。
それを美味しそうに頬張るなまえを、リヴァイが愛おしそうに見つめている。
そして、そんななまえにゲルガーが悪態を吐く。
「少し前までのおどおどして可愛らしかったなまえはどこ行っちまったんだよ。
守ってやらなきゃって男心をくすぐる儚さがよかったのによ~。」
リーゼントに絡まる林檎の皮を適当に取りながら、ゲルガーが壁際に置かれたソファにドカッと腰を降ろした。
「くすぐられてたんだぁ~?」
なまえは、林檎をかじりながら、可笑しそうにクスクスと笑う。
その隣で、リヴァイが不機嫌そうに眉間に皴を寄せていることに気づいていないのは、恐らくなまえとゲルガーだけだ。
確かに、本当の彼女は、儚くてか弱くて、守ってやりたいと思わせる。
モブリットが、夜になると彼女のいるリヴァイの執務室へ入り浸って、向こうの世界の話をひたすら聞いてあげているようにー。
まぁ、モブリットは、ハンジにバレているなんて思ってもいないみたいだけれどー。
「リヴァイだって、前の守ってあげたくなるタイプのなまえの方が良かっただろ?
戻ってくれって言ってくれよ~。」
ゲルガーが、リヴァイに話を振った。
ドキリとしたのはきっと、ハンジよりもなまえだったに違いない。
それでも、ハンジは、リヴァイの答えを聞くのが怖かった。
だってー。
「バカ言え。今のなまえが本当のなまえだ。
コイツはこのままでいい。こっちがいいに決まってんだろぉーが。
もう二度と、戻らなくていい。」
リヴァイが不機嫌なままで言って、なまえの肩を抱き寄せた。
腕の中に顔を埋める直前、一瞬だけ、彼女が苦しそうに眉を顰めた。
泣きそうに見えたのにー。
「ほら、リヴァイは分かってくれてるもんねーっ。」
なまえは、リヴァイの腕の中で舌を出して、ゲルガーを挑発する。
そして、あの頃の再演みたいに、ゲルガーと馬鹿を言い合っては、ナナバに笑われている。
彼女は、後何度、顔で笑って、心で泣くのだろう。
後何度繰り返せば、彼女はなまえになるのだろう。
心を壊して、なまえにー。