◇第百六十四話から数か月後◇旅立った天使へ、幸せになるよ
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
葬儀に来たぶりだというヒストリアは、膝を曲げて腰を降ろし、なまえの墓石の前で目を閉じて手を合わせていた。
そんなに真剣に一体、何を話しかけているのだろう。
目を瞑る横顔は相変わらず可愛らしいけれど、どこか大人びたようにも見える。
会わないうちになまえが本物の天使になっていたように、彼女も又、会わない間にいろんな苦労を越えたのかもしれない。
「リヴァイ兵長が来てたんだね。」
漸く目を開けたヒストリアは、紅茶の入ったティーカップに気づいて言う。
すれ違いになっていたのかもしれない。
もし、墓石の前にリヴァイがいれば、ここには近寄らなかった。
そうすれば、ヒストリアに会うこともなかったのにー。
「結婚してたんだな。」
「してないよ。」
ヒストリアはそう言って、スカートの裾についた砂を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「は?名前が変わってんだろ。
あの男の名字はアッカーマンだったんじゃなかったのか?」
「全て終わったら結婚しようって婚約してたの。
でも、それは叶わなくなっちゃったから。
せめて、墓石の名前だけでもってご両親とリヴァイ兵長が望んだの。」
「へぇ。」
なんて虚しい望みだろうかと思った。
もっともっと我儘な願いだって叶えてやることが、なまえには出来たはずだ。
たとえば、世界一幸せになりたいなんて、人類最強の兵士には似合わないバカみたいな望みだって、なまえには叶えてやることが出来たはずなのにー。
「人類最強の兵士様は、元気でやってるのか。」
「元気は、ないかな。でも、今は、やることもたくさんあるから。
昨日までもストヘス区に出張で来てたし、毎日のように会議に出ずっぱりだよ。
悲しんでる暇もないくらいに忙しくしてる。」
「そうか。暇になったら、潰れるかもな。」
「うん…、みんな心配してるよ。でも、エルヴィン団長やハンジさん達もついてるし、
なまえさんのご両親とも時々会ってるみたい。
リヴァイ兵長はひとりじゃないから、きっと大丈夫だって信じてるよ。」
「そうか。」
ヒストリアは力強く言う。
本当に心配しているようではあったのに、どうしてそんなに強く信じられるのだろう。
やっぱり、見ない間にヒストリアは強くなったのだ、きっと。
「今までどうしてたの?
ライナーとベルトルトから聞いたよ。2人に逃がしてもらったんでしょう?」
「ライナーとベルトルト?超大型巨人と鎧の巨人は討伐したんじゃなかったのか?」
訝し気に、眉間に皴が寄る。
確か、調査兵団は超大型巨人と鎧の巨人の鎮静に成功したと新聞記事にあった。
それはつまり、彼らは殺された。もしくは、エレンや巨人化した誰かに喰われたということだとだろう。
少なくとも、自分はそう思っていた。
「なまえさんが2人のことも助けたの。」
「助けた?」
「ライナーとベルトルトは、なまえさんが伸ばした手を掴んで
私達の世界の為に一緒に生きる道を探したいって、また調査兵に戻ってる。」
「まさか、そんなこと…!エルヴィン団長はそれでいいと言ったのか!?」
「なまえさんがそれを望んだのなら、そうしようって。
さすがに世間には、人類の敵が生きてて調査兵になってるとは言えないから極秘扱いだけどね。
ユミルも誰にも言っちゃダメだよ?」
お茶目に言って、ヒストリアは口の前に人差し指を立てた。
あぁ、本当にー。
知らない間に、この世界はさらに狂ってしまっていたらしい。
馬鹿が伝染している。
思わず苦笑すれば、ヒストリアが嬉しそうに口の端を上げた。
「どうして私がここにいるって分かったんだ。」
「天使の噂、流させたのは私なの。」
「…そうか。」
「ユミルならきっと、天使が誰か分かってくれる。
そしたらきっと、なまえさんは生きてることを確かめに来ると思って。」
「あっけなく、死んでたけどな。
理想論押しつけた夢だけ語って、こんな汚い世界に私達だけ残して、勝手に。」
ユミルは、墓石を見下ろす。
自分よりも背が小さい女だったけれど、もう少し上の方に頭があったはずだ。
墓石なんて、小さいものになってしまうなんて、本当に馬鹿な女だー。
「どうして、会いに来てくれなかったの?
ずっと、会いたかったんだよ。」
ひどく寂しそうに、傷ついた瞳で、ヒストリアに見られて、思わず目を反らす。
そんなこと、訊かなくたって分かるだろう。
「お前のことを裏切っておいて、会わせる顔なんてあるかよ。」
「裏切ってなんかないよ。
ユミルはただ、ライナーとベルトルトを助けただけでしょう?
ユミルだけが、あの2人の事情を知ってたから。」
「…それでも同じだ。私はお前達を裏切って、ヒストリアを1人にした。」
目を反らしたまま、拳を握る。
本当はあのまま、ライナーとベルトルトの仲間の巨人に喰われるはずだった。
そこで死ぬはずだった。
だから、あの2人が戦士長の目を盗んで逃がしてくれた時、ホッとしたのだ。
死ぬ覚悟をしたくせに、死ななくて良かったと分かったとき、ひどくホッとして、すぐにヒストリアの顔が思い浮かんだ。
でもー。
裏切者に、生きる場所なんてなかった。
逃げた自分は、向こうの世界にはいられない。
でも、壁の中の世界に戻っても、人類の勝利に歓喜する彼らの中に自分の居場所なんてあるわけなかった。
出来るのは、その日暮らしをするだけだ。
「あるよ。だって、人類史上最悪の敵のライナーとベルトルトの居場所があるんだよ?
弱い巨人になれるだけのユミルの居場所がないわけないじゃん。」
当然のように言うヒストリアを見て、何かを言い返そうとした。
でも、頬を膨らませる彼女が可愛らしくて、可愛らしくてー。
悩んでいた自分が、馬鹿らしくなってきた。
「弱いとは失礼じゃないのか。助けてやったことだってあるだろう?」
思わず吹き出せば、ヒストリアが可笑しそうに笑う。
あぁ、そうか。
この世界はもう、人類史上最悪の敵の居場所すらある優しい世界になっていたのか。
大切な人を裏切って、自分だけ生き残ってのこのこと帰ってきた弱虫の居場所だって、残しておいてくれたのかー。
「孤児院、出来たんだよ。
食べ盛りの子供達がたくさんいて、大変なの。
ユミルもしっかりサポートしてよ。」
「なんなりと、女王様。」
どちらからともなく手を繋いだ。
そして、待たせているという馬車へと向かう。
今から一緒にストヘス区へ帰って、それからずっと、ずっと一緒に居よう。
ヒストリアに気づかれないように、ユミルは後ろを振り返る。
感謝の言葉を伝えるようなガラではないし、それも違う気がする。
ただ、並んで置かれたティーカップのように、自分も愛する人とずっと並んで歩きたいと思った。
途方に暮れる距離に離れ離れになっても、心から愛し合っている彼らのように、私もー。
「なぁ、ヒストリア。」
「なに?」
「なまえが見たいって言ってた優しい世界ってのは、本当にやって来ると思うか?」
「きっと来るよ。私達は悪魔の末裔とか言われてるらしいけど、そんなの大間違い。
なんてったって、天使が生まれて、天使が守った世界なんだから。」
「あぁ、確かに。そうだな。」
ヒストリアの手を強く握る。
すぐに握り返してくれた彼女を見て、私達は微笑み合った。
≪幸せになってね。≫
柔らかい風に乗って、果物のような甘い香りがした。
優しい声に応えるように、私とヒストリアは空を見上げる。
天使のように真っ白い羽根をはためかせ、白い鳥がどこまでも高い青い空を自由に飛んでいた。
それは、まるで、私達のいく未来を示してくれているようだったー。
そんなに真剣に一体、何を話しかけているのだろう。
目を瞑る横顔は相変わらず可愛らしいけれど、どこか大人びたようにも見える。
会わないうちになまえが本物の天使になっていたように、彼女も又、会わない間にいろんな苦労を越えたのかもしれない。
「リヴァイ兵長が来てたんだね。」
漸く目を開けたヒストリアは、紅茶の入ったティーカップに気づいて言う。
すれ違いになっていたのかもしれない。
もし、墓石の前にリヴァイがいれば、ここには近寄らなかった。
そうすれば、ヒストリアに会うこともなかったのにー。
「結婚してたんだな。」
「してないよ。」
ヒストリアはそう言って、スカートの裾についた砂を払いながら、ゆっくりと立ち上がる。
「は?名前が変わってんだろ。
あの男の名字はアッカーマンだったんじゃなかったのか?」
「全て終わったら結婚しようって婚約してたの。
でも、それは叶わなくなっちゃったから。
せめて、墓石の名前だけでもってご両親とリヴァイ兵長が望んだの。」
「へぇ。」
なんて虚しい望みだろうかと思った。
もっともっと我儘な願いだって叶えてやることが、なまえには出来たはずだ。
たとえば、世界一幸せになりたいなんて、人類最強の兵士には似合わないバカみたいな望みだって、なまえには叶えてやることが出来たはずなのにー。
「人類最強の兵士様は、元気でやってるのか。」
「元気は、ないかな。でも、今は、やることもたくさんあるから。
昨日までもストヘス区に出張で来てたし、毎日のように会議に出ずっぱりだよ。
悲しんでる暇もないくらいに忙しくしてる。」
「そうか。暇になったら、潰れるかもな。」
「うん…、みんな心配してるよ。でも、エルヴィン団長やハンジさん達もついてるし、
なまえさんのご両親とも時々会ってるみたい。
リヴァイ兵長はひとりじゃないから、きっと大丈夫だって信じてるよ。」
「そうか。」
ヒストリアは力強く言う。
本当に心配しているようではあったのに、どうしてそんなに強く信じられるのだろう。
やっぱり、見ない間にヒストリアは強くなったのだ、きっと。
「今までどうしてたの?
ライナーとベルトルトから聞いたよ。2人に逃がしてもらったんでしょう?」
「ライナーとベルトルト?超大型巨人と鎧の巨人は討伐したんじゃなかったのか?」
訝し気に、眉間に皴が寄る。
確か、調査兵団は超大型巨人と鎧の巨人の鎮静に成功したと新聞記事にあった。
それはつまり、彼らは殺された。もしくは、エレンや巨人化した誰かに喰われたということだとだろう。
少なくとも、自分はそう思っていた。
「なまえさんが2人のことも助けたの。」
「助けた?」
「ライナーとベルトルトは、なまえさんが伸ばした手を掴んで
私達の世界の為に一緒に生きる道を探したいって、また調査兵に戻ってる。」
「まさか、そんなこと…!エルヴィン団長はそれでいいと言ったのか!?」
「なまえさんがそれを望んだのなら、そうしようって。
さすがに世間には、人類の敵が生きてて調査兵になってるとは言えないから極秘扱いだけどね。
ユミルも誰にも言っちゃダメだよ?」
お茶目に言って、ヒストリアは口の前に人差し指を立てた。
あぁ、本当にー。
知らない間に、この世界はさらに狂ってしまっていたらしい。
馬鹿が伝染している。
思わず苦笑すれば、ヒストリアが嬉しそうに口の端を上げた。
「どうして私がここにいるって分かったんだ。」
「天使の噂、流させたのは私なの。」
「…そうか。」
「ユミルならきっと、天使が誰か分かってくれる。
そしたらきっと、なまえさんは生きてることを確かめに来ると思って。」
「あっけなく、死んでたけどな。
理想論押しつけた夢だけ語って、こんな汚い世界に私達だけ残して、勝手に。」
ユミルは、墓石を見下ろす。
自分よりも背が小さい女だったけれど、もう少し上の方に頭があったはずだ。
墓石なんて、小さいものになってしまうなんて、本当に馬鹿な女だー。
「どうして、会いに来てくれなかったの?
ずっと、会いたかったんだよ。」
ひどく寂しそうに、傷ついた瞳で、ヒストリアに見られて、思わず目を反らす。
そんなこと、訊かなくたって分かるだろう。
「お前のことを裏切っておいて、会わせる顔なんてあるかよ。」
「裏切ってなんかないよ。
ユミルはただ、ライナーとベルトルトを助けただけでしょう?
ユミルだけが、あの2人の事情を知ってたから。」
「…それでも同じだ。私はお前達を裏切って、ヒストリアを1人にした。」
目を反らしたまま、拳を握る。
本当はあのまま、ライナーとベルトルトの仲間の巨人に喰われるはずだった。
そこで死ぬはずだった。
だから、あの2人が戦士長の目を盗んで逃がしてくれた時、ホッとしたのだ。
死ぬ覚悟をしたくせに、死ななくて良かったと分かったとき、ひどくホッとして、すぐにヒストリアの顔が思い浮かんだ。
でもー。
裏切者に、生きる場所なんてなかった。
逃げた自分は、向こうの世界にはいられない。
でも、壁の中の世界に戻っても、人類の勝利に歓喜する彼らの中に自分の居場所なんてあるわけなかった。
出来るのは、その日暮らしをするだけだ。
「あるよ。だって、人類史上最悪の敵のライナーとベルトルトの居場所があるんだよ?
弱い巨人になれるだけのユミルの居場所がないわけないじゃん。」
当然のように言うヒストリアを見て、何かを言い返そうとした。
でも、頬を膨らませる彼女が可愛らしくて、可愛らしくてー。
悩んでいた自分が、馬鹿らしくなってきた。
「弱いとは失礼じゃないのか。助けてやったことだってあるだろう?」
思わず吹き出せば、ヒストリアが可笑しそうに笑う。
あぁ、そうか。
この世界はもう、人類史上最悪の敵の居場所すらある優しい世界になっていたのか。
大切な人を裏切って、自分だけ生き残ってのこのこと帰ってきた弱虫の居場所だって、残しておいてくれたのかー。
「孤児院、出来たんだよ。
食べ盛りの子供達がたくさんいて、大変なの。
ユミルもしっかりサポートしてよ。」
「なんなりと、女王様。」
どちらからともなく手を繋いだ。
そして、待たせているという馬車へと向かう。
今から一緒にストヘス区へ帰って、それからずっと、ずっと一緒に居よう。
ヒストリアに気づかれないように、ユミルは後ろを振り返る。
感謝の言葉を伝えるようなガラではないし、それも違う気がする。
ただ、並んで置かれたティーカップのように、自分も愛する人とずっと並んで歩きたいと思った。
途方に暮れる距離に離れ離れになっても、心から愛し合っている彼らのように、私もー。
「なぁ、ヒストリア。」
「なに?」
「なまえが見たいって言ってた優しい世界ってのは、本当にやって来ると思うか?」
「きっと来るよ。私達は悪魔の末裔とか言われてるらしいけど、そんなの大間違い。
なんてったって、天使が生まれて、天使が守った世界なんだから。」
「あぁ、確かに。そうだな。」
ヒストリアの手を強く握る。
すぐに握り返してくれた彼女を見て、私達は微笑み合った。
≪幸せになってね。≫
柔らかい風に乗って、果物のような甘い香りがした。
優しい声に応えるように、私とヒストリアは空を見上げる。
天使のように真っ白い羽根をはためかせ、白い鳥がどこまでも高い青い空を自由に飛んでいた。
それは、まるで、私達のいく未来を示してくれているようだったー。