◇本編第七十二話・七十四話◇我儘な想いは雨に殴られる
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扉をノックしたが反応はなかった。
偶々、通りがかった精鋭兵に訊ねれば、だいぶ前にびしょ濡れで帰ってきて、シャワーを浴びに向かったのを見たと言う。
それからまだ戻ってきていないのか。
まさか、ジャンの部屋にー。
確かめないと気が済まなくて、俺はなまえの部屋の扉に寄り掛かり、部屋の主が帰ってくるのを待った。
何を確かめたいのか自分でも分からなかった。
ジャンと恋人になったことか。
もう、過ぎた恋は吹っ切れたという嬉しい報告か。
いや、本当は、分かってる。
なまえがまだ、俺を好きでいてくれていることを確かめたいのだ、きっとー。
あぁ、本当に、最低だー。
雨の日の廊下は、いつもとても静かだ。
することがない調査兵達は、談話室に集まっている者以外は、ほとんどが自室で溜まっていた書類仕事を捌いているからだろう。
どれくらい、なまえの部屋の扉に寄り掛かっていただろうか。
いつまでも戻らない部屋の主を待ち続けることが、そろそろ馬鹿らしくなってきた。
シャワーを浴びるのにいくら時間をかけたって、こんなに遅くなることはない。
部屋に戻る前に、どこかへ寄っているのだろう。
こんな雨の日に宿舎から出るとも思えないし、誰かの部屋にいるのだろう。
たとえば、仲のいいペトラやフロリアン達の部屋とかー。
ジャン、とかー。
「チッ。」
誰に腹が立ったのか、もう自分でも分からなかった。
寄り掛かっていた身体を起こして、自室へ向かうべく静かな廊下を歩きだす。
そして、気づくのだ。
あぁ、会いたかっただけなんだ、とー。
だから、いつまでもなまえの部屋の前から動き出せなかっただけなのだ。
でも、きっと、今、なまえの姿を見たら、また苛立ちが戻ってくるのだと思う。
だから、会えなくてよかったのだー。
そう思い直した矢先、窓の外を眺めるなまえを見つけてしまった。
最悪なタイミングだ。
なぜか、パーティーの日に着ていた藍色のドレスまで着ているから、苛立ちが何に対してなのかも分からないくらいに、腹が立った。
不意に、なまえが窓の外から廊下へと視線を移した。
目が合うと、なまえは途端に表情を歪める。
嫌なものでも見たみたいにー。
それが余計に、俺を苛立たせて、そして、焦らせたー。
「そんな恰好で、何やってる。」
無意識に眉間に皴が寄る。
あの日だって、なまえにそんなドレスを着せるのは嫌だったのだ。
あまりにも綺麗で、似合っていてー。
そんな姿を見たら、今までなまえを女として意識してなかった男まで、彼女の美しさに気づいてしまう。
惹かれてしまうー。
ドレスから無駄に多く覗く白い肌も、細い腰も、白く細い両手足も、俺のものなのにー。
そんな、自分勝手な我儘で。
「ハンジさんとナナバさんの友人がご結婚されるそうで、
その彼女にサプライズでドレスを作りたいからと
同じサイズの私の身体を測られたんです。」
なまえが答えたそれに、そういえば聞き覚えがあったのを思い出す。
ハンジとナナバが、友人の男がもうすぐ結婚すると言う話をしていた気がする。
どうやら、言い訳でも嘘でもなさそうだ。
だがー。
「…そのどこにドレスを着る必要があるか、教えてくれ。」
「私も知りたいです。」
「…そうか。」
「リヴァイ兵長はー。」
何かを言いかけたなまえだったが、途中で口を噤んでしまう。
気になって訊ねてみたが、何でもないと誤魔化されてしまった。
そして、なまえは、話は終わりだとばかりに背を向ける。
「おやすみなさい。」
「待て。」
気づいたら、自分に背を向けたなまえの腕を掴んでいた。
まだ、確かめていないからか。
それとも、折角会えたのだから、まだそばにおいておきたいのか。
どちらにしろ、俺の勝手な我儘にすぎないのは明らかだった。
振り返ったなまえは、初めて見る冷たい表情をしていた。
まるで、心をどこかに捨てて来たみたいなー。
「痛いです。」
「あぁ、すまねぇ。」
思わず強く掴んでいたことに気づいて、慌てて手を離す。
その途端、なまえは、ホッとしたように息を吐いた。
ようやく、瞳に心が戻ってきたのが、自分の手が離れたからだというのが、ひどく虚しかった。
俺は今、何をしているのだろう。
「何ですか?」
「お前、今日ー。」
そこまで言って、怖くなった。
確かめて、どうするつもりなのだろう。
ジャンと恋人同士になったと聞いたら、俺は嬉しいのだろうか。
なまえが、自分とちゃんと向き合ってくれる男を好きになってくれてよかった、と思えるのだろうか。
聞きたくないことを、確かめる必要は本当にあるのだろうか。
「今日、なんですか?」
「いや、なんでもねぇ。」
「じゃあ、私、もう部屋に戻ります。ドレス脱ぎたいんで。」
なまえはまた、あの冷たい表情に戻っていた。
感情のまるでこもっていないような声で、早口で言って、俺に背を向ける。
だから焦ってしまって、気づいたら余計なことを訊いてしまっていた。
「ジャンと付き合うのか。」
勢いよくなまえが振り返る。
俺と目が合ったなまえの瞳は、ひどく傷ついて見えた。
「どうして、そう思うんですか。」
「アイツと一緒にいるところを見た。」
「あぁ…、私も見ましたよ。ジーニーと一緒にいるところ。
幸せそうでなによりです。」
なまえはまた早口で捲し立てたけれど、さっきの感情のない声とは違っていた。
傷ついているように見えて、だからー。
「待て。」
また背を向けて、俺から逃げようとするなまえの手を掴んで引き留めた。
俺は、何を期待しているのだろう。
あぁ、もう本当に最悪だ。
でも、頭と心が別であるように、心と口だって別々のようで、俺はまた余計なことを訊ねてしまう。
「あの男が、好きなのか?」
そう訊ねた途端、なまえは勢いよく振り返った。
そのまま俺の手を乱暴に振りほどいたなまえは、ひどく傷ついた顔をしていて、今にも泣き出しそうだった。
そして、感情のままに声を荒げた。
「私が…っ、リヴァイ兵長のこと好きなこと知ってるくせに…っ!
どうしてそんな無神経なこと言えるんですか…っ!!」
窓を叩きつける雨音が、静かな廊下で、俺のことをぶん殴ろうとしているんだと思った。
だって、惚れてる女を今まさに、傷つけて、泣かそうとしているのだからー。
でも、聞きたかった答えを聞けた俺は、こんな男をいつまでも想ってしまうなまえに驚きながらも、嬉しさは隠すことは出来そうになかった。
ホッとして、ニヤけそうになる顔をなまえに見せたくなくて、目を反らすと、額に手をあてて表情を隠した。
あぁ、よかったー。
なまえはまだ俺をー。ジャンのものにも、誰のものにも、なってないー。
「もう…、ただの上司じゃなくていいです。」
不意に聞こえてきたなまえの苦しそうな声に、俺は隠していた顔を上げた。
「また、私を避けてください。」
苦しそうにそう言うなまえの両手は、拳を握って震えていた。
本気だと言うことは、嫌でも分かった。
「おい、何言ってやがる。」
避けられて傷ついていたなまえを知っている。
だから、上司と部下でもいいから戻りたいと言ったのではないのか。
また、顔も合わせられない日々に戻るなんて、そんなのはー。
「もういいです。リヴァイ兵長なんて、嫌いです…。
だから、私のこと、嫌いなままでいいです。」
俺のことをまだ好きだと言った後に、なまえは必死に涙を堪えながら、一番聞きたくないことを言う。
それだって、俺を好きだからだろう。
俺が傷つけたから、だからー。
でも、俺はー。
「おい、聞け。俺はー。」
「もう何もっ、何も聞きたくありませんっ。」
触れようとした俺の手を、なまえが叩き落す。
今までどんなに傷つけたって、いつも俺を見てくれたなまえだった。
そんななまえが、初めて俺を拒絶した。
驚きとショックで、落とされた自分の手を見下ろすことしか出来なかった。
「もう二度と、私に話しかけないでください。お願い、します。」
なまえは頭を下げると、逃げるように俺から背を向けた。
走り去っていく足音を聞きながら、俺は情けないくらいに、振り払われた自分の手を見下ろしていた。
あぁ、傷つけ過ぎたのだ。
そう、きっとこれがいい。
俺のことなんて嫌いになった方がいい。
勝手な男のことなんて、呆れて、憎んで、背を向けて立ち去った方がいい。
でもー。
あぁ、傷つけ過ぎてしまった。
俺はさっき、なまえに何を言おうとしていたのだろう。
上司と部下でいたいなんて、勝手なことだろうか。
それとも、俺はー。
向き合ってやれる自信はない。
でも、好きなんだ。本当は、なまえが好きなんだー。
振り払われた手で拳を握る。
汚いことをしてきた、これからだって汚れていくことしか知らないこの手で、なまえの綺麗な手は、握れないのにー。
好き、なんだー。
偶々、通りがかった精鋭兵に訊ねれば、だいぶ前にびしょ濡れで帰ってきて、シャワーを浴びに向かったのを見たと言う。
それからまだ戻ってきていないのか。
まさか、ジャンの部屋にー。
確かめないと気が済まなくて、俺はなまえの部屋の扉に寄り掛かり、部屋の主が帰ってくるのを待った。
何を確かめたいのか自分でも分からなかった。
ジャンと恋人になったことか。
もう、過ぎた恋は吹っ切れたという嬉しい報告か。
いや、本当は、分かってる。
なまえがまだ、俺を好きでいてくれていることを確かめたいのだ、きっとー。
あぁ、本当に、最低だー。
雨の日の廊下は、いつもとても静かだ。
することがない調査兵達は、談話室に集まっている者以外は、ほとんどが自室で溜まっていた書類仕事を捌いているからだろう。
どれくらい、なまえの部屋の扉に寄り掛かっていただろうか。
いつまでも戻らない部屋の主を待ち続けることが、そろそろ馬鹿らしくなってきた。
シャワーを浴びるのにいくら時間をかけたって、こんなに遅くなることはない。
部屋に戻る前に、どこかへ寄っているのだろう。
こんな雨の日に宿舎から出るとも思えないし、誰かの部屋にいるのだろう。
たとえば、仲のいいペトラやフロリアン達の部屋とかー。
ジャン、とかー。
「チッ。」
誰に腹が立ったのか、もう自分でも分からなかった。
寄り掛かっていた身体を起こして、自室へ向かうべく静かな廊下を歩きだす。
そして、気づくのだ。
あぁ、会いたかっただけなんだ、とー。
だから、いつまでもなまえの部屋の前から動き出せなかっただけなのだ。
でも、きっと、今、なまえの姿を見たら、また苛立ちが戻ってくるのだと思う。
だから、会えなくてよかったのだー。
そう思い直した矢先、窓の外を眺めるなまえを見つけてしまった。
最悪なタイミングだ。
なぜか、パーティーの日に着ていた藍色のドレスまで着ているから、苛立ちが何に対してなのかも分からないくらいに、腹が立った。
不意に、なまえが窓の外から廊下へと視線を移した。
目が合うと、なまえは途端に表情を歪める。
嫌なものでも見たみたいにー。
それが余計に、俺を苛立たせて、そして、焦らせたー。
「そんな恰好で、何やってる。」
無意識に眉間に皴が寄る。
あの日だって、なまえにそんなドレスを着せるのは嫌だったのだ。
あまりにも綺麗で、似合っていてー。
そんな姿を見たら、今までなまえを女として意識してなかった男まで、彼女の美しさに気づいてしまう。
惹かれてしまうー。
ドレスから無駄に多く覗く白い肌も、細い腰も、白く細い両手足も、俺のものなのにー。
そんな、自分勝手な我儘で。
「ハンジさんとナナバさんの友人がご結婚されるそうで、
その彼女にサプライズでドレスを作りたいからと
同じサイズの私の身体を測られたんです。」
なまえが答えたそれに、そういえば聞き覚えがあったのを思い出す。
ハンジとナナバが、友人の男がもうすぐ結婚すると言う話をしていた気がする。
どうやら、言い訳でも嘘でもなさそうだ。
だがー。
「…そのどこにドレスを着る必要があるか、教えてくれ。」
「私も知りたいです。」
「…そうか。」
「リヴァイ兵長はー。」
何かを言いかけたなまえだったが、途中で口を噤んでしまう。
気になって訊ねてみたが、何でもないと誤魔化されてしまった。
そして、なまえは、話は終わりだとばかりに背を向ける。
「おやすみなさい。」
「待て。」
気づいたら、自分に背を向けたなまえの腕を掴んでいた。
まだ、確かめていないからか。
それとも、折角会えたのだから、まだそばにおいておきたいのか。
どちらにしろ、俺の勝手な我儘にすぎないのは明らかだった。
振り返ったなまえは、初めて見る冷たい表情をしていた。
まるで、心をどこかに捨てて来たみたいなー。
「痛いです。」
「あぁ、すまねぇ。」
思わず強く掴んでいたことに気づいて、慌てて手を離す。
その途端、なまえは、ホッとしたように息を吐いた。
ようやく、瞳に心が戻ってきたのが、自分の手が離れたからだというのが、ひどく虚しかった。
俺は今、何をしているのだろう。
「何ですか?」
「お前、今日ー。」
そこまで言って、怖くなった。
確かめて、どうするつもりなのだろう。
ジャンと恋人同士になったと聞いたら、俺は嬉しいのだろうか。
なまえが、自分とちゃんと向き合ってくれる男を好きになってくれてよかった、と思えるのだろうか。
聞きたくないことを、確かめる必要は本当にあるのだろうか。
「今日、なんですか?」
「いや、なんでもねぇ。」
「じゃあ、私、もう部屋に戻ります。ドレス脱ぎたいんで。」
なまえはまた、あの冷たい表情に戻っていた。
感情のまるでこもっていないような声で、早口で言って、俺に背を向ける。
だから焦ってしまって、気づいたら余計なことを訊いてしまっていた。
「ジャンと付き合うのか。」
勢いよくなまえが振り返る。
俺と目が合ったなまえの瞳は、ひどく傷ついて見えた。
「どうして、そう思うんですか。」
「アイツと一緒にいるところを見た。」
「あぁ…、私も見ましたよ。ジーニーと一緒にいるところ。
幸せそうでなによりです。」
なまえはまた早口で捲し立てたけれど、さっきの感情のない声とは違っていた。
傷ついているように見えて、だからー。
「待て。」
また背を向けて、俺から逃げようとするなまえの手を掴んで引き留めた。
俺は、何を期待しているのだろう。
あぁ、もう本当に最悪だ。
でも、頭と心が別であるように、心と口だって別々のようで、俺はまた余計なことを訊ねてしまう。
「あの男が、好きなのか?」
そう訊ねた途端、なまえは勢いよく振り返った。
そのまま俺の手を乱暴に振りほどいたなまえは、ひどく傷ついた顔をしていて、今にも泣き出しそうだった。
そして、感情のままに声を荒げた。
「私が…っ、リヴァイ兵長のこと好きなこと知ってるくせに…っ!
どうしてそんな無神経なこと言えるんですか…っ!!」
窓を叩きつける雨音が、静かな廊下で、俺のことをぶん殴ろうとしているんだと思った。
だって、惚れてる女を今まさに、傷つけて、泣かそうとしているのだからー。
でも、聞きたかった答えを聞けた俺は、こんな男をいつまでも想ってしまうなまえに驚きながらも、嬉しさは隠すことは出来そうになかった。
ホッとして、ニヤけそうになる顔をなまえに見せたくなくて、目を反らすと、額に手をあてて表情を隠した。
あぁ、よかったー。
なまえはまだ俺をー。ジャンのものにも、誰のものにも、なってないー。
「もう…、ただの上司じゃなくていいです。」
不意に聞こえてきたなまえの苦しそうな声に、俺は隠していた顔を上げた。
「また、私を避けてください。」
苦しそうにそう言うなまえの両手は、拳を握って震えていた。
本気だと言うことは、嫌でも分かった。
「おい、何言ってやがる。」
避けられて傷ついていたなまえを知っている。
だから、上司と部下でもいいから戻りたいと言ったのではないのか。
また、顔も合わせられない日々に戻るなんて、そんなのはー。
「もういいです。リヴァイ兵長なんて、嫌いです…。
だから、私のこと、嫌いなままでいいです。」
俺のことをまだ好きだと言った後に、なまえは必死に涙を堪えながら、一番聞きたくないことを言う。
それだって、俺を好きだからだろう。
俺が傷つけたから、だからー。
でも、俺はー。
「おい、聞け。俺はー。」
「もう何もっ、何も聞きたくありませんっ。」
触れようとした俺の手を、なまえが叩き落す。
今までどんなに傷つけたって、いつも俺を見てくれたなまえだった。
そんななまえが、初めて俺を拒絶した。
驚きとショックで、落とされた自分の手を見下ろすことしか出来なかった。
「もう二度と、私に話しかけないでください。お願い、します。」
なまえは頭を下げると、逃げるように俺から背を向けた。
走り去っていく足音を聞きながら、俺は情けないくらいに、振り払われた自分の手を見下ろしていた。
あぁ、傷つけ過ぎたのだ。
そう、きっとこれがいい。
俺のことなんて嫌いになった方がいい。
勝手な男のことなんて、呆れて、憎んで、背を向けて立ち去った方がいい。
でもー。
あぁ、傷つけ過ぎてしまった。
俺はさっき、なまえに何を言おうとしていたのだろう。
上司と部下でいたいなんて、勝手なことだろうか。
それとも、俺はー。
向き合ってやれる自信はない。
でも、好きなんだ。本当は、なまえが好きなんだー。
振り払われた手で拳を握る。
汚いことをしてきた、これからだって汚れていくことしか知らないこの手で、なまえの綺麗な手は、握れないのにー。
好き、なんだー。