カチャリ———、鍵が開いた音に、ハンジはゴクリと息を呑んだ。
真実でも、妄想でも、ついにその答えが出るのだ。
リヴァイが開く扉を、ハンジは緊張しながら見守る。

「ただいま。」

部屋に入ったリヴァイが、まるで、家にいる誰かに帰宅を知らせるように言う。
でも、玄関のすぐ向こうがリビングの間取りだったが、シンと静まり返ったそこに、人の気配は全くなかった。
眉間に皴を寄せてリビングを見渡したリヴァイは、誰もいないと分かると焦ったように、部屋中の扉を開き始めた。
誰かを探しているようだけれど、でも———。

（あぁ…、やっぱり…。）

ほらやっぱり、誰もいないじゃないか———とは言えなかった。
リヴァイが、あまりにもツラそうに見えたからだ。
そんな彼の姿に、大切な誰かを亡くしたような、胸の苦しみを感じたのだ。

「リヴァイ、心配しなくていい。
　きっともうすぐ帰ってくるよ。」

エルヴィンは、リビングテーブルから、メモのようなものを見つけたようだった。

「貸せ！！」

焦ったように、リヴァイがエルヴィンからそのメモをひったくる。
それからすぐに、彼の肩から、安心したように力が抜けたのが分かった。

「何が書いてたの？」

ハンジとモブリットも、リヴァイの手元を覗き込む。

【リヴァイさんへ

　おかえりなさい。お出迎え出来なくてごめんなさい。
　お醤油が切れていたので、買いに行ってきます。
　すぐに帰ってくるので、心配しないでくださいね。】

女性らしい可愛らしい字で書かれているのは、まるでこの家に本当に一緒に住んでいる誰かからのメッセージのようだった。

「え？本当に愛妻がいるの？」
「だから、いるって言ってんだろうが。
　分かったら、さっさと帰りやがれ。」
「嫌だよ！！」

面倒くさそうに追い返そうとするリヴァイに、ハンジは真面目に反論する。
だって、本当に愛妻がいるのならば、それならそれで是非とも会ってみたいではないか。
今まで、どんな女が声をかけてもビクともしなかったリヴァイが、あっという間に結婚を意識した女性とは、どんな人なのだろうか。
『帰れ』『帰らない』の押し問答をしていると、玄関の鍵が音がした。
ついに、帰って来たらしい———。