赤い花火が咲く夏の夜
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「今、大丈夫か?」
花火大会当日、訓練や任務中も、何人もの調査兵達が浮足立っていた。
友人や恋人、好きな人と花火を見に行くのが楽しみで仕方のない様子の彼らを尻目に、書庫にこもって次の会議資料を黙々と作成していると、後ろから声をかけられた。
余計なことを考えたくなくて無心になり過ぎていたせいで、誰かが書庫に入って来たことにすら気づかなかった。
「はい、どうしました?」
休みなく走らせていた手を止めて顔を上げ振り返った私に、ミケさんは申し訳なさそうに頬を掻いた。
長い付き合いで、その癖が何を意味しているのかをもう知っている。
何か面倒な仕事を押しつけようとしているようだ。
いつもなら、小言のひとつでも言わないと気が済まないのだけれど、出来るだけたくさんの仕事で悲しみを忘れたかった私にとって、今日だけは、ぼんやりしすぎて仕事を溜め込んでしまう分隊長を持ったことは、有難いことだった。
そんな私の思惑など知らずに申し訳なさそうにするミケさんから、大量の資料を受け取り、チェック内容を確認する。
「————書類はもう作成してある。後は資料を参考にしながら
チェック項目に間違いがないかを確認してもらえたら問題ない。」
「はい、分かりました。」
いつも通りに文句を言われると想定していたらしいミケさんは、素直に受け入れる私に面食らったようだった。
「…後が怖いな。何を企んでる。」
「失礼ですね。隊長の尻拭いが副隊長の一番大切な仕事だって
モブリットさんに教えて貰ってるんです。」
「それは俺にも失礼だな。俺はあの奇行種よりは仕事をする。」
それはどうだろうか———ジトッとした目でミケさんを見上げれば、居心地が悪くなったらしく話を逸らされた。
「それで、どれくらいで出来そうだ?」
「んー…、この量だと…、休みなくやれば
今日の夜までには終わりそうですよ。」
「そうか…夜か…。参ったな…。」
ミケさんが、難しそうに眉を顰める。
「急ぎだったんですか?
それならもっと早く終わるようにどうにかーーー。」
「いや、明日までに終わってくれれば問題ない。
ただ、今夜は花火大会だろう。やらなくていいと言ってやりたいんだが、
どうしても必要なんだ。本当に申し訳ない。」
「あ~、そんなことですか。いいですよ。」
どうせ誰とも行かないし———そんな自分がこれ以上惨めになるような嫌味も言えなくて、私は下手くそな笑みで誤魔化した。
それが余計に私を不憫に見せたのか、ミケさんが本当に申し訳なさそうに謝る。
「本当に申し訳ない。
リヴァイには、俺からも謝っておく。」
「リヴァイ兵長に?どうしてリヴァイ兵長に謝るんですか?」
「今夜、2人で花火大会へ行くんだろう。
ハンジが、念願のデートを楽しんで来いと
リヴァイをからかっているのを見た。」
相手はお前だろう?と、どうして当然のようにミケさんは言うのだろう。
考えないように、考えないように、必死に忘れようとしていたのだ。
とてもお似合いの恋人同士の光景が、瞼の裏に焼き付いて離れない———それだけでも、心臓が張り裂けそうなくらいに痛いのに。
「私じゃないですよ。」
受け取った大量の資料に視線を落とし、私は素っ気なく答える。
「ん?お前じゃないなら誰が——。」
「じゃあ、今すぐに取り掛かりますね。
今夜にはミケさんのところに持って行くので。」
ミケさんの疑問を遮って、私はデスクに向かう。
『ペトラですよ。
昨晩、2人でとても嬉しそうにデートの計画を立ててましたよ。』
意地悪な私の声が、頭の中で聞こえた。
でも、それを実際に言うことはなかった。
だって、それを言葉にしてしまったら、本当にペトラとリヴァイ兵長が恋人同士になってしまう気がしたのだ。
今さら、何を考えているのだろう。
2人の幸せそうな光景を、私はこの目で、確かに見たのに———。
「あ、あぁ、分かった。よろしく頼む。」
ミケ分隊長が、書庫から出ていく。
私は、資料に涙が落ちてシミを作ってしまわないように、シミだらけの古い天井を見上げた。
花火大会当日、訓練や任務中も、何人もの調査兵達が浮足立っていた。
友人や恋人、好きな人と花火を見に行くのが楽しみで仕方のない様子の彼らを尻目に、書庫にこもって次の会議資料を黙々と作成していると、後ろから声をかけられた。
余計なことを考えたくなくて無心になり過ぎていたせいで、誰かが書庫に入って来たことにすら気づかなかった。
「はい、どうしました?」
休みなく走らせていた手を止めて顔を上げ振り返った私に、ミケさんは申し訳なさそうに頬を掻いた。
長い付き合いで、その癖が何を意味しているのかをもう知っている。
何か面倒な仕事を押しつけようとしているようだ。
いつもなら、小言のひとつでも言わないと気が済まないのだけれど、出来るだけたくさんの仕事で悲しみを忘れたかった私にとって、今日だけは、ぼんやりしすぎて仕事を溜め込んでしまう分隊長を持ったことは、有難いことだった。
そんな私の思惑など知らずに申し訳なさそうにするミケさんから、大量の資料を受け取り、チェック内容を確認する。
「————書類はもう作成してある。後は資料を参考にしながら
チェック項目に間違いがないかを確認してもらえたら問題ない。」
「はい、分かりました。」
いつも通りに文句を言われると想定していたらしいミケさんは、素直に受け入れる私に面食らったようだった。
「…後が怖いな。何を企んでる。」
「失礼ですね。隊長の尻拭いが副隊長の一番大切な仕事だって
モブリットさんに教えて貰ってるんです。」
「それは俺にも失礼だな。俺はあの奇行種よりは仕事をする。」
それはどうだろうか———ジトッとした目でミケさんを見上げれば、居心地が悪くなったらしく話を逸らされた。
「それで、どれくらいで出来そうだ?」
「んー…、この量だと…、休みなくやれば
今日の夜までには終わりそうですよ。」
「そうか…夜か…。参ったな…。」
ミケさんが、難しそうに眉を顰める。
「急ぎだったんですか?
それならもっと早く終わるようにどうにかーーー。」
「いや、明日までに終わってくれれば問題ない。
ただ、今夜は花火大会だろう。やらなくていいと言ってやりたいんだが、
どうしても必要なんだ。本当に申し訳ない。」
「あ~、そんなことですか。いいですよ。」
どうせ誰とも行かないし———そんな自分がこれ以上惨めになるような嫌味も言えなくて、私は下手くそな笑みで誤魔化した。
それが余計に私を不憫に見せたのか、ミケさんが本当に申し訳なさそうに謝る。
「本当に申し訳ない。
リヴァイには、俺からも謝っておく。」
「リヴァイ兵長に?どうしてリヴァイ兵長に謝るんですか?」
「今夜、2人で花火大会へ行くんだろう。
ハンジが、念願のデートを楽しんで来いと
リヴァイをからかっているのを見た。」
相手はお前だろう?と、どうして当然のようにミケさんは言うのだろう。
考えないように、考えないように、必死に忘れようとしていたのだ。
とてもお似合いの恋人同士の光景が、瞼の裏に焼き付いて離れない———それだけでも、心臓が張り裂けそうなくらいに痛いのに。
「私じゃないですよ。」
受け取った大量の資料に視線を落とし、私は素っ気なく答える。
「ん?お前じゃないなら誰が——。」
「じゃあ、今すぐに取り掛かりますね。
今夜にはミケさんのところに持って行くので。」
ミケさんの疑問を遮って、私はデスクに向かう。
『ペトラですよ。
昨晩、2人でとても嬉しそうにデートの計画を立ててましたよ。』
意地悪な私の声が、頭の中で聞こえた。
でも、それを実際に言うことはなかった。
だって、それを言葉にしてしまったら、本当にペトラとリヴァイ兵長が恋人同士になってしまう気がしたのだ。
今さら、何を考えているのだろう。
2人の幸せそうな光景を、私はこの目で、確かに見たのに———。
「あ、あぁ、分かった。よろしく頼む。」
ミケ分隊長が、書庫から出ていく。
私は、資料に涙が落ちてシミを作ってしまわないように、シミだらけの古い天井を見上げた。