赤い夕日が見送る恋しい背中
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目が合う前に、リヴァイさんは屈んで、靴を脱ぎ捨てた私の足元に、見慣れない赤い靴を差し出した。
華奢なデザインだけれど、ヒールはあまりなくて歩きやすいそうな可愛い靴だった。
「あの…?」
「靴擦れを起こしてただろ。そこの靴屋で買って来た。
靴屋の親父が言うには、これは靴擦れしづらいように生地を———。」
「そんな…っ、私が勝手に慣れない靴を履いたのがいけないのに、
こんな高価そうな靴、いただけません…!!
今ならまだ返却も出来ると思うので、私が事情を説明してお返ししてきます…っ。」
慌てたようにリヴァイさんに言いながら、私は泣きそうだった。
靴擦れをしていたことに気づかれていたことも、好きな人にわざわざ新しい靴を買わせてしまったことも、私をさらに惨めにさせたのだ。
それなのに———。
「これを履けば、まだ歩けるだろ。」
リヴァイさんにそう言われた途端に、私はハッとする。
惨めだと思いながらも、もう一度、彼と同じ時間を共有できたことが嬉しかった私は、気づいてなかった。
そうか。初めてのリヴァイさんからの贈り物を履いてしまったら、私は今度こそ、大好きな人に背を向けて家に帰らなくちゃいけないのだ。
「歩けなくても、いいです。」
「———分かった。
それなら、足がよくなるまで、暇つぶしに付きやってやる。」
少し間をあけて、リヴァイさんはそう言うと、返事を聞かないままに、私の隣に腰を降ろした。
偶に合う休日に一緒に紅茶を飲むようになって1年が経とうとしているけれど、会話が弾んだことなんてない。
それでも、ただお互いに好きな本を持ち寄って読書をしたり、時々、思い出したように友人の話をしたりするだけで幸せだった。
沈黙を気まずいと思ったことはなかった。
でも、今は、なんだかとても気まずかった。
たぶん、リヴァイさんがいつもとは違って見えたせいだ。
それが何故か分からなくて、私は、隣に座るリヴァイさんにチラリと視線を向けた。
そして、すぐに気がついた。
(あぁ…、そうか。)
リヴァイさんが、赤い夕日を浴びて輝いて見えた。
いつも、空が赤くなりだした頃にはもう背を向けていたから、赤い夕日に照らされて、長い睫毛の下に赤い影を作っている彼を見るのは、初めてだったのだ。
「初めて会った日のこと、覚えてるか。」
不意に、リヴァイさんが口を開いた。
いつも、彼の話題は唐突だ。だから、あまり驚きもしなかった。
「はい、覚えてますよ。お友達にお誕生日のお花を買っていかれましたよね。」
「あぁ、そうだった。」
リヴァイさんが、少しだけフッと笑うように息を吐いた。
その姿がとても優しく見えて、あぁ好きだなと思うのと同時に、心臓がキュッと絞まったような気がした。
初めてリヴァイさんと知り合ったのは、彼が、大切な親友の為のお花を買いに来たときだ。
それは、お墓に眠る彼らに贈る花だった。
でも、花を買ったことなんかないから、何を選べばいいか分からないという彼と一緒に、私はあーでもないこーでもないと、大人びた親友と可愛らしい親友が喜んでくれるお花を探したのだ。
そのとき、誕生日花というのがあるのを教えてあげた。
世界中のすべての人の誕生に神様に込められた願いがあり、そのメッセージが誕生日花の花言葉に込められている。
まるで、生きることを許さないというように私達を襲う巨人に怯えて暮らすこの世界で、誕生日花の話は、私にとって救いのようなものだった。
だから、花選びに悩んでいるお客様がいると、私はよく誕生日花のことを教えてやるのだ。
そのときもそうだった。
すると、リヴァイさんは、今まで一度も誕生日プレゼントというのを貰ったことがない親友に、生まれて初めての誕生日プレゼントを贈ってやりたい、と彼らの誕生日花を買っていったのだ。
「兵舎に帰ってから、ハンジ達も誕生日花のことを知ってることを知った。
だから、お前にとっては何の変哲もない話題だったのは分かってる。
でも、俺にとって…、いや俺達にとって、その話は、特別だったんだ。」
「特別ですか?」
首を傾げる私に、ポツリ、ポツリ、とあまり口数の多くないリヴァイさんは、自分と親友がどんな場所で生まれて、調査兵になるまでどんな風に過ごしていたのかを簡単に教えてくれた。
昔、人類最強の兵士は元々、どこかのゴロツキだったと聞いたことがある。
今、仲間の為に花を買いに来ては、時々一緒に紅茶を飲んでいるリヴァイさんのイメージとはかけ離れた話で、忘れていた。
いや、気にもしていなかったというのが正しいかもしれない。
「まるで、俺達は生まれて来てよかったんだと言ってもらえたみたいだった。
———なまえにそんなつもりがなかったことは分かってる。
でも、俺には、俺達には、そう聞こえたんだ。」
リヴァイさんは、話している間中、俯いていて、自分が手に握りしめている赤い靴をじっと見つめていた。
そのせいなのか、いつも堂々としている彼がとても儚く見えた。
すごく、自信がなさそうで、不安そうで———。
あぁきっと、赤い夕日が、リヴァイさんの背中を寂しい色に染めているからだ。
「それになまえは、アイツ等の墓参りだと言う俺に、
誕生したことを祝ってやれば喜ぶと言ってくれただろう?
俺はそれが…、嬉しかった。」
「そう…、だったんですか。」
「アイツ等が死んだことは現実で、どうしようもねぇ。
それでも、面識もねぇお前が、アイツ等を生きてる人間と同じように
アイツ等が喜ぶ花を一緒に考えてくれた。」
それがどれほど嬉しいことだったか、お前は想像したこともないだろう———。
リヴァイさんは、顔を伏せたままでそう続けた。
華奢なデザインだけれど、ヒールはあまりなくて歩きやすいそうな可愛い靴だった。
「あの…?」
「靴擦れを起こしてただろ。そこの靴屋で買って来た。
靴屋の親父が言うには、これは靴擦れしづらいように生地を———。」
「そんな…っ、私が勝手に慣れない靴を履いたのがいけないのに、
こんな高価そうな靴、いただけません…!!
今ならまだ返却も出来ると思うので、私が事情を説明してお返ししてきます…っ。」
慌てたようにリヴァイさんに言いながら、私は泣きそうだった。
靴擦れをしていたことに気づかれていたことも、好きな人にわざわざ新しい靴を買わせてしまったことも、私をさらに惨めにさせたのだ。
それなのに———。
「これを履けば、まだ歩けるだろ。」
リヴァイさんにそう言われた途端に、私はハッとする。
惨めだと思いながらも、もう一度、彼と同じ時間を共有できたことが嬉しかった私は、気づいてなかった。
そうか。初めてのリヴァイさんからの贈り物を履いてしまったら、私は今度こそ、大好きな人に背を向けて家に帰らなくちゃいけないのだ。
「歩けなくても、いいです。」
「———分かった。
それなら、足がよくなるまで、暇つぶしに付きやってやる。」
少し間をあけて、リヴァイさんはそう言うと、返事を聞かないままに、私の隣に腰を降ろした。
偶に合う休日に一緒に紅茶を飲むようになって1年が経とうとしているけれど、会話が弾んだことなんてない。
それでも、ただお互いに好きな本を持ち寄って読書をしたり、時々、思い出したように友人の話をしたりするだけで幸せだった。
沈黙を気まずいと思ったことはなかった。
でも、今は、なんだかとても気まずかった。
たぶん、リヴァイさんがいつもとは違って見えたせいだ。
それが何故か分からなくて、私は、隣に座るリヴァイさんにチラリと視線を向けた。
そして、すぐに気がついた。
(あぁ…、そうか。)
リヴァイさんが、赤い夕日を浴びて輝いて見えた。
いつも、空が赤くなりだした頃にはもう背を向けていたから、赤い夕日に照らされて、長い睫毛の下に赤い影を作っている彼を見るのは、初めてだったのだ。
「初めて会った日のこと、覚えてるか。」
不意に、リヴァイさんが口を開いた。
いつも、彼の話題は唐突だ。だから、あまり驚きもしなかった。
「はい、覚えてますよ。お友達にお誕生日のお花を買っていかれましたよね。」
「あぁ、そうだった。」
リヴァイさんが、少しだけフッと笑うように息を吐いた。
その姿がとても優しく見えて、あぁ好きだなと思うのと同時に、心臓がキュッと絞まったような気がした。
初めてリヴァイさんと知り合ったのは、彼が、大切な親友の為のお花を買いに来たときだ。
それは、お墓に眠る彼らに贈る花だった。
でも、花を買ったことなんかないから、何を選べばいいか分からないという彼と一緒に、私はあーでもないこーでもないと、大人びた親友と可愛らしい親友が喜んでくれるお花を探したのだ。
そのとき、誕生日花というのがあるのを教えてあげた。
世界中のすべての人の誕生に神様に込められた願いがあり、そのメッセージが誕生日花の花言葉に込められている。
まるで、生きることを許さないというように私達を襲う巨人に怯えて暮らすこの世界で、誕生日花の話は、私にとって救いのようなものだった。
だから、花選びに悩んでいるお客様がいると、私はよく誕生日花のことを教えてやるのだ。
そのときもそうだった。
すると、リヴァイさんは、今まで一度も誕生日プレゼントというのを貰ったことがない親友に、生まれて初めての誕生日プレゼントを贈ってやりたい、と彼らの誕生日花を買っていったのだ。
「兵舎に帰ってから、ハンジ達も誕生日花のことを知ってることを知った。
だから、お前にとっては何の変哲もない話題だったのは分かってる。
でも、俺にとって…、いや俺達にとって、その話は、特別だったんだ。」
「特別ですか?」
首を傾げる私に、ポツリ、ポツリ、とあまり口数の多くないリヴァイさんは、自分と親友がどんな場所で生まれて、調査兵になるまでどんな風に過ごしていたのかを簡単に教えてくれた。
昔、人類最強の兵士は元々、どこかのゴロツキだったと聞いたことがある。
今、仲間の為に花を買いに来ては、時々一緒に紅茶を飲んでいるリヴァイさんのイメージとはかけ離れた話で、忘れていた。
いや、気にもしていなかったというのが正しいかもしれない。
「まるで、俺達は生まれて来てよかったんだと言ってもらえたみたいだった。
———なまえにそんなつもりがなかったことは分かってる。
でも、俺には、俺達には、そう聞こえたんだ。」
リヴァイさんは、話している間中、俯いていて、自分が手に握りしめている赤い靴をじっと見つめていた。
そのせいなのか、いつも堂々としている彼がとても儚く見えた。
すごく、自信がなさそうで、不安そうで———。
あぁきっと、赤い夕日が、リヴァイさんの背中を寂しい色に染めているからだ。
「それになまえは、アイツ等の墓参りだと言う俺に、
誕生したことを祝ってやれば喜ぶと言ってくれただろう?
俺はそれが…、嬉しかった。」
「そう…、だったんですか。」
「アイツ等が死んだことは現実で、どうしようもねぇ。
それでも、面識もねぇお前が、アイツ等を生きてる人間と同じように
アイツ等が喜ぶ花を一緒に考えてくれた。」
それがどれほど嬉しいことだったか、お前は想像したこともないだろう———。
リヴァイさんは、顔を伏せたままでそう続けた。