《謹賀新年》優しい手を繋いで
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「今日はお疲れさまでした。」
夜、夕食を終えた私は、居間の炬燵で休んでいるリヴァイさんに紅茶を出した。
「あぁ、助かる。ありがとう。」
私から紅茶を受け取ったリヴァイさんとテーブルを挟んで、向かいに腰を降ろした。
紅茶を飲みながら、私もテレビへと視線を向けた。
テレビでは、恒例となっている年末の音楽特番が流れていて、人気アーティストが今年よく聴いた曲を歌っている。
1週間前に撮ったYoutubeの動画は、モブリットさんの神業がかった編集を経て、数日前に公開された。
さっき、ハンジさんのYoutubuチャンネルを確認してみると、順調に視聴回数を稼いではいるようだった。
コメント欄にも、早速、リヴァイさんのファンになったという女性のハートマークが飛び交うような言葉が幾つも並んでいて、それは見ていてなんだかつらくなったので、すぐに読むのをやめた。
それに、モブリットさんが、進撃神社のポスターも撮ってくれた。
リヴァイさんと進撃神社を写して、初詣には進撃神社へ来てほしいというコメントを載せたポスターを、たくさん刷って配布してある。
でも———。
ハンジさんの動画の視聴回数は増えているはずなのに、神社にやってくる参拝客は増えない。
つまり、0人のままなのだ。
「いよいよ明日ですね、大晦日。」
「あぁ、そうだな。」
リヴァイさんは、テレビを見ながら答えた。
音楽番組を真剣に見ている彼なんて、今まで一度だって見たことがない。
「私の為に、Youtubuに出て、
苦手な説明とかしてくれて本当にありがとうございました。」
「ハンジのクソ野郎、俺はまだ許してねぇ。」
リヴァイさんが眉間に皴を寄せた。
明日の大晦日の夜、初詣の為に参拝客がやってくる、はずだ。
殆ど諦めているけれど、その為の準備をして待つつもりだ。
山のふもとにある広い土地を、この神社の駐車場として開放するように、地主のザックレーさんにも、エルヴィンさん経由でリヴァイさんからお願いしてくれていると聞いている。
沢山の参拝客が来ても、それで受け入れられる予定だ。
でも———。
きっと、もう最後だ。
こうやって優しい彼の照れ隠しを見ることも、素晴らしい神主に磨かれてピカピカに輝く本殿を見ることも、彼とひとつ屋根の下で暮らすことさえも、出来なくなるのだろう。
そう思うと、寂しさが込み上げてくる前に、私は、どうしても彼に伝えたくなった。
感謝と、それから———。
「リヴァイさん。」
私は彼の名前を呼ぶと、正座をしたまま少しだけ後ろにさがった。
「今まで長い間、誰よりもそばで、私を、私達家族を支えてくれて、
本当に、ありがとうございました。」
私は、頭を下げた。
本当は興味なんて全くない音楽特番を見ているフリをしていたリヴァイさんは、視界の端に私を捉えていたのだろう。
彼が動いた気配を感じ取った。
「最後みたいに言うんじゃねぇ。」
「でも、最後かもしれないから。
ちゃんと、お礼を言わせてください。」
「そんなもんは、正月に参拝客が来てからでいい。」
「この神社がなくなっても、リヴァイさんを受け入れてくれるように
知り合いの宮司さん達に声をかけてあります。是非と言ってくれている方も数名います。
もしも、リヴァイさんが、エルヴィンさんのところで新しい仕事を始めたいならそれでも———。」
「俺は、一生、この場所でお前に尽くすと決めている。」
頭を下げて、畳に添えていた私の手を、隣に来てくれたリヴァイさんの綺麗な両手が握りしめるように包んだ。
力強い手とその言葉は、まるで、永遠を誓う愛みたいに聞こえてしまって、私は泣いてしまいそうだった。
リヴァイさんは、長い間、本当にずっと、この神社や私達家族に尽くしてくれた。
恩返しだと彼は言っていたけれど、それ以上のものを私達は貰っている。
彼は、人生のほとんどを、私達の為に使ってくれた。
本当はもっと早く、彼を解放しなければならなかったのだ。
私がまだ、リヴァイさんと一緒に居たくて、甘えてしまった。
彼にとって、私は恩人の娘で、だから大切な存在なだけであって、私個人を想ってくれているわけじゃないと、知っているのに——。
私は、彼に恋をしてしまった。
もうずっと、ずっと前から、私は彼に、恋をしている。
「その言葉だけで、私は充分です。
本当に、今まで、ありがとうございました。」
頭を下げたまま、私は感謝を告げた。
畳に爪をひっかけて傷をつけながら、手に力を込めて拳を握る。
小さく震えているそれに、包んでくれているリヴァイさんの手が気づかないわけがない。
でも、彼は、何も言わなかった。
頭を下げたまま、静かな時間が流れる。
私は、涙が零れないように唇を噛みながら、このまま時間が止まってしまえと願っていた。
それなら、リヴァイさんの手が私の手を包んでいて、崖っぷちにはいるけれどまだ終わってはいないこの場所で、彼の温もりを感じていられるから——。
でも、リヴァイさんの手は、ゆるゆると私から離れて行った。
途端に心細くなる私は、彼に手を伸ばして、ひとりにしないでと縋ってしまいたくなる。
そんなことする権利は、私にはないのに———。
「お前の両親が、」
手が離れた後、リヴァイさんが口を開いた。
そして、頭を下げたままで震える拳を握りしめ、顔を上げない私に言う。
「拳を振り上げることしか知らなかった俺に、手を開くことを教えてくれた。
それだけで、俺はそれまで出来なかったたくさんのことが出来るようになった。
握った手を開いただけだ。それだけなのに、俺の世界は全てが変わったんだ。」
そう言ったリヴァイさんの声は、ひどく優しかった。
両親を想ってくれている彼の気持ちが、ひしひしと伝わって来て、胸が苦しくなった。
彼にとっても、大切な人達が残したこの神社は、どうしても守りたかった場所だったのだろう。
だからこそ、私の代わりに神主にまでなって、Youtubuにも出て頑張ってくれた。
私も、彼の為にもこの神社を守りたかった。
でも、出来なかった———。
悔しい。悲しい。
そして、とても、寂しい———。
「拳を開いた手で出来る、一番嬉しいことが何か、お前は知ってるか?」
リヴァイさんが私に訊ねた。
少し考えて見たけれど、見当もつかなかった。
両親に愛されて何不自由なく育った私は、彼の苦労を本当の意味では理解していないのだ。
とても、悲しいけれど。
だから、力なく首を横に振った。
すると、リヴァイさんが、私の両肩を握りしめて、土下座の格好をしていた私の身体を、少し無理やり起こさせた。
「なまえの涙を、拭ってやれることだ。」
リヴァイさんは、そう言いながら、私の涙袋を優しく指でなぞった。
そうして、頬を流れる涙も拭ってくれるのだけれど、視界が歪んで、彼の表情はよく分からなかった。
でもきっと、とても優しい顔をしているのだと思う。
だって、リヴァイさんは昔から、私が泣いていると、必ず隣に来て涙を拭ってくれたから。
そして、意地悪な男の子にいじめられたときには、私よりも怒ってくれたし、両親に叱られたときは、私を優しく諭してくれた。
両親が突然亡くなり、誰にも気づかれないように本殿の裏山でこっそり泣いていたときだって、リヴァイさんは私を見つけて、泣き止むまで涙を拭いながら隣にいてくれた。
「俺は、いつだってなまえの味方だ。
この神社をお前が守りたいなら、俺がどんな手を使ってでも守ってやるし、
他にやりてぇことがあるなら、全力で応援する。」
だから心配しなくていい———。
リヴァイさんが、優しく言う。
だから、私は泣く。
この声をずっと聞いていたくて、ずっとずっと一番近くで感じていた彼の優しさが尊くて、私は涙が止まらないのだ。
「拳なんか握ってねぇで、お前も手を開け。」
リヴァイさんが、震える拳を握り続ける私の両手を包むと、細い指を強引に入れ込んで、無理やり開かせた。
そして、言うのだ。
「開いた手で、欲しいものを掴め。なまえなら、何だって掴める。
もしも、お前が取りこぼしちまったもんがあれば、俺がすくいあげてやる。
お前が言うなら代わりに掴んでやるから、俺を頼ればいい。俺の手は、お前の手だと思え。」
リヴァイさんは、開いた私の手に、自分の手を重ねた。
男の人にしては小さめだけれど、私よりも少し大きくて、細いけれど、血管が浮き上がっている男らしい手だ。
幼い頃、怖くて怖くて仕方なかったはずなのに、いつの間にか、私にとって、とても頼りになる手になっていた。
道に迷ったとき、とても自然に隣にいて、私の手を引いてくれたのは、いつだってリヴァイさんだった。
優しくて、温かくて、大好きな手だ。
だから、私が、掴みたいのは——。
私は———。
リヴァイさんが重ねてくれた私の手が、縋るように、彼の手を強く握りしめた。
「好き…っ。」
驚いた様子の彼に、私は零してしまう。
突然の、予想もしなかったはずの告白に、彼が戸惑う気配を感じてやれる余裕は、私にはなかった。
両親が残した神社を手放さなければならない不安と恐怖、そして、リヴァイさんが離れて行ってしまう寂しさに襲われた私からは、心の声が、漏れ続けたのだ。
「リヴァイさんの手を…っ、放したくない…っ。
まだ、一緒にいたい…っ。好き…っ、好きなの…っ。
ずっと…っ、好きだった…っ。」
幼い頃から手を引いてくれたリヴァイさんの手を、私は何度も何度も握り直しながら、ずっと言えなかった好きという言葉を繰り返した。
リヴァイさんを困らせたくなかった。
引き留めてはいけないと思っていたし、こんな引き留め方は、最低だ。
私の気持ちを知ったら、優しい彼が、この神社から本当に離れられなくなることを分かっていたから、ずっとずっと隠し続けてきたはずだったのに———。
「今、拳を開いた手で出来る、一番嬉しいことが変わった。」
リヴァイさんが、縋りつく私の手を包み込んだ。
そして、そのままの手で私の両頬を挟んで自分の方を向かせる。
「何か分かるか?」
「…分かりません。」
「だろうな。」
リヴァイさんが、親指で私の涙を拭ってくれたおかげで、優しく下がった目尻と薄い口元が苦笑しているのが見えた。
「惚れてる女と手をとり合える。」
リヴァイさんが、柔らかく微笑む。
初めて見るような、嬉しそうで、でもどこか泣きそうで、あぁでもやっぱり、凄く幸せそうに———。
「どんなかたちでもいいから、惚れた女を守り続けたくて、俺は今、ここにいる。
でも、恩人の娘に惚れたままでもいいなら、俺はお前を一生守りたい。
なまえが望むなら、神主としてでもいい、男としてでもいい。お前の為になら、何でもなれるから。」
リヴァイさんが、私の手を握りしめる。
2人で握りしめ合ったその手は、世界で一番優しくて愛に溢れた固い絆に見えた。
夜、夕食を終えた私は、居間の炬燵で休んでいるリヴァイさんに紅茶を出した。
「あぁ、助かる。ありがとう。」
私から紅茶を受け取ったリヴァイさんとテーブルを挟んで、向かいに腰を降ろした。
紅茶を飲みながら、私もテレビへと視線を向けた。
テレビでは、恒例となっている年末の音楽特番が流れていて、人気アーティストが今年よく聴いた曲を歌っている。
1週間前に撮ったYoutubeの動画は、モブリットさんの神業がかった編集を経て、数日前に公開された。
さっき、ハンジさんのYoutubuチャンネルを確認してみると、順調に視聴回数を稼いではいるようだった。
コメント欄にも、早速、リヴァイさんのファンになったという女性のハートマークが飛び交うような言葉が幾つも並んでいて、それは見ていてなんだかつらくなったので、すぐに読むのをやめた。
それに、モブリットさんが、進撃神社のポスターも撮ってくれた。
リヴァイさんと進撃神社を写して、初詣には進撃神社へ来てほしいというコメントを載せたポスターを、たくさん刷って配布してある。
でも———。
ハンジさんの動画の視聴回数は増えているはずなのに、神社にやってくる参拝客は増えない。
つまり、0人のままなのだ。
「いよいよ明日ですね、大晦日。」
「あぁ、そうだな。」
リヴァイさんは、テレビを見ながら答えた。
音楽番組を真剣に見ている彼なんて、今まで一度だって見たことがない。
「私の為に、Youtubuに出て、
苦手な説明とかしてくれて本当にありがとうございました。」
「ハンジのクソ野郎、俺はまだ許してねぇ。」
リヴァイさんが眉間に皴を寄せた。
明日の大晦日の夜、初詣の為に参拝客がやってくる、はずだ。
殆ど諦めているけれど、その為の準備をして待つつもりだ。
山のふもとにある広い土地を、この神社の駐車場として開放するように、地主のザックレーさんにも、エルヴィンさん経由でリヴァイさんからお願いしてくれていると聞いている。
沢山の参拝客が来ても、それで受け入れられる予定だ。
でも———。
きっと、もう最後だ。
こうやって優しい彼の照れ隠しを見ることも、素晴らしい神主に磨かれてピカピカに輝く本殿を見ることも、彼とひとつ屋根の下で暮らすことさえも、出来なくなるのだろう。
そう思うと、寂しさが込み上げてくる前に、私は、どうしても彼に伝えたくなった。
感謝と、それから———。
「リヴァイさん。」
私は彼の名前を呼ぶと、正座をしたまま少しだけ後ろにさがった。
「今まで長い間、誰よりもそばで、私を、私達家族を支えてくれて、
本当に、ありがとうございました。」
私は、頭を下げた。
本当は興味なんて全くない音楽特番を見ているフリをしていたリヴァイさんは、視界の端に私を捉えていたのだろう。
彼が動いた気配を感じ取った。
「最後みたいに言うんじゃねぇ。」
「でも、最後かもしれないから。
ちゃんと、お礼を言わせてください。」
「そんなもんは、正月に参拝客が来てからでいい。」
「この神社がなくなっても、リヴァイさんを受け入れてくれるように
知り合いの宮司さん達に声をかけてあります。是非と言ってくれている方も数名います。
もしも、リヴァイさんが、エルヴィンさんのところで新しい仕事を始めたいならそれでも———。」
「俺は、一生、この場所でお前に尽くすと決めている。」
頭を下げて、畳に添えていた私の手を、隣に来てくれたリヴァイさんの綺麗な両手が握りしめるように包んだ。
力強い手とその言葉は、まるで、永遠を誓う愛みたいに聞こえてしまって、私は泣いてしまいそうだった。
リヴァイさんは、長い間、本当にずっと、この神社や私達家族に尽くしてくれた。
恩返しだと彼は言っていたけれど、それ以上のものを私達は貰っている。
彼は、人生のほとんどを、私達の為に使ってくれた。
本当はもっと早く、彼を解放しなければならなかったのだ。
私がまだ、リヴァイさんと一緒に居たくて、甘えてしまった。
彼にとって、私は恩人の娘で、だから大切な存在なだけであって、私個人を想ってくれているわけじゃないと、知っているのに——。
私は、彼に恋をしてしまった。
もうずっと、ずっと前から、私は彼に、恋をしている。
「その言葉だけで、私は充分です。
本当に、今まで、ありがとうございました。」
頭を下げたまま、私は感謝を告げた。
畳に爪をひっかけて傷をつけながら、手に力を込めて拳を握る。
小さく震えているそれに、包んでくれているリヴァイさんの手が気づかないわけがない。
でも、彼は、何も言わなかった。
頭を下げたまま、静かな時間が流れる。
私は、涙が零れないように唇を噛みながら、このまま時間が止まってしまえと願っていた。
それなら、リヴァイさんの手が私の手を包んでいて、崖っぷちにはいるけれどまだ終わってはいないこの場所で、彼の温もりを感じていられるから——。
でも、リヴァイさんの手は、ゆるゆると私から離れて行った。
途端に心細くなる私は、彼に手を伸ばして、ひとりにしないでと縋ってしまいたくなる。
そんなことする権利は、私にはないのに———。
「お前の両親が、」
手が離れた後、リヴァイさんが口を開いた。
そして、頭を下げたままで震える拳を握りしめ、顔を上げない私に言う。
「拳を振り上げることしか知らなかった俺に、手を開くことを教えてくれた。
それだけで、俺はそれまで出来なかったたくさんのことが出来るようになった。
握った手を開いただけだ。それだけなのに、俺の世界は全てが変わったんだ。」
そう言ったリヴァイさんの声は、ひどく優しかった。
両親を想ってくれている彼の気持ちが、ひしひしと伝わって来て、胸が苦しくなった。
彼にとっても、大切な人達が残したこの神社は、どうしても守りたかった場所だったのだろう。
だからこそ、私の代わりに神主にまでなって、Youtubuにも出て頑張ってくれた。
私も、彼の為にもこの神社を守りたかった。
でも、出来なかった———。
悔しい。悲しい。
そして、とても、寂しい———。
「拳を開いた手で出来る、一番嬉しいことが何か、お前は知ってるか?」
リヴァイさんが私に訊ねた。
少し考えて見たけれど、見当もつかなかった。
両親に愛されて何不自由なく育った私は、彼の苦労を本当の意味では理解していないのだ。
とても、悲しいけれど。
だから、力なく首を横に振った。
すると、リヴァイさんが、私の両肩を握りしめて、土下座の格好をしていた私の身体を、少し無理やり起こさせた。
「なまえの涙を、拭ってやれることだ。」
リヴァイさんは、そう言いながら、私の涙袋を優しく指でなぞった。
そうして、頬を流れる涙も拭ってくれるのだけれど、視界が歪んで、彼の表情はよく分からなかった。
でもきっと、とても優しい顔をしているのだと思う。
だって、リヴァイさんは昔から、私が泣いていると、必ず隣に来て涙を拭ってくれたから。
そして、意地悪な男の子にいじめられたときには、私よりも怒ってくれたし、両親に叱られたときは、私を優しく諭してくれた。
両親が突然亡くなり、誰にも気づかれないように本殿の裏山でこっそり泣いていたときだって、リヴァイさんは私を見つけて、泣き止むまで涙を拭いながら隣にいてくれた。
「俺は、いつだってなまえの味方だ。
この神社をお前が守りたいなら、俺がどんな手を使ってでも守ってやるし、
他にやりてぇことがあるなら、全力で応援する。」
だから心配しなくていい———。
リヴァイさんが、優しく言う。
だから、私は泣く。
この声をずっと聞いていたくて、ずっとずっと一番近くで感じていた彼の優しさが尊くて、私は涙が止まらないのだ。
「拳なんか握ってねぇで、お前も手を開け。」
リヴァイさんが、震える拳を握り続ける私の両手を包むと、細い指を強引に入れ込んで、無理やり開かせた。
そして、言うのだ。
「開いた手で、欲しいものを掴め。なまえなら、何だって掴める。
もしも、お前が取りこぼしちまったもんがあれば、俺がすくいあげてやる。
お前が言うなら代わりに掴んでやるから、俺を頼ればいい。俺の手は、お前の手だと思え。」
リヴァイさんは、開いた私の手に、自分の手を重ねた。
男の人にしては小さめだけれど、私よりも少し大きくて、細いけれど、血管が浮き上がっている男らしい手だ。
幼い頃、怖くて怖くて仕方なかったはずなのに、いつの間にか、私にとって、とても頼りになる手になっていた。
道に迷ったとき、とても自然に隣にいて、私の手を引いてくれたのは、いつだってリヴァイさんだった。
優しくて、温かくて、大好きな手だ。
だから、私が、掴みたいのは——。
私は———。
リヴァイさんが重ねてくれた私の手が、縋るように、彼の手を強く握りしめた。
「好き…っ。」
驚いた様子の彼に、私は零してしまう。
突然の、予想もしなかったはずの告白に、彼が戸惑う気配を感じてやれる余裕は、私にはなかった。
両親が残した神社を手放さなければならない不安と恐怖、そして、リヴァイさんが離れて行ってしまう寂しさに襲われた私からは、心の声が、漏れ続けたのだ。
「リヴァイさんの手を…っ、放したくない…っ。
まだ、一緒にいたい…っ。好き…っ、好きなの…っ。
ずっと…っ、好きだった…っ。」
幼い頃から手を引いてくれたリヴァイさんの手を、私は何度も何度も握り直しながら、ずっと言えなかった好きという言葉を繰り返した。
リヴァイさんを困らせたくなかった。
引き留めてはいけないと思っていたし、こんな引き留め方は、最低だ。
私の気持ちを知ったら、優しい彼が、この神社から本当に離れられなくなることを分かっていたから、ずっとずっと隠し続けてきたはずだったのに———。
「今、拳を開いた手で出来る、一番嬉しいことが変わった。」
リヴァイさんが、縋りつく私の手を包み込んだ。
そして、そのままの手で私の両頬を挟んで自分の方を向かせる。
「何か分かるか?」
「…分かりません。」
「だろうな。」
リヴァイさんが、親指で私の涙を拭ってくれたおかげで、優しく下がった目尻と薄い口元が苦笑しているのが見えた。
「惚れてる女と手をとり合える。」
リヴァイさんが、柔らかく微笑む。
初めて見るような、嬉しそうで、でもどこか泣きそうで、あぁでもやっぱり、凄く幸せそうに———。
「どんなかたちでもいいから、惚れた女を守り続けたくて、俺は今、ここにいる。
でも、恩人の娘に惚れたままでもいいなら、俺はお前を一生守りたい。
なまえが望むなら、神主としてでもいい、男としてでもいい。お前の為になら、何でもなれるから。」
リヴァイさんが、私の手を握りしめる。
2人で握りしめ合ったその手は、世界で一番優しくて愛に溢れた固い絆に見えた。