俺の芝生はいつもどこよりも青い
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長旅を終えた俺は、兵舎には戻らずに、トロスト区にある小さなアパートに帰ってきていた。
合鍵で扉を開ければ、心を落ち着かせてくれる優しい匂いが、俺を包んだ。
「おかえりなさい!」
嬉しそうに廊下を駆けて来たなまえが、俺の「ただいま。」を待ちもしないで飛びつく。
それが愛おしくて、俺は無意識に綻んで、壊れてしまわないように優しく抱きしめ返した。
「ただいま。」
身体を離したなまえに数日振りのキスをして、俺は漸く、家に帰って来たのだとホッとする。
土産話を聞かせてくれと好奇心いっぱいの目でせがむなまえに手を引かれて、リビングへ向かう。
そして、ソファに並んで座ると、俺は、土産をひとつひとつ見せながら、壁の外で見て来た世界の話を聞かせてやった。
見たこともない光る鉱石で造られた指輪、レースが散りばめられたドレス、キャビアという高級な食べ物に、甘いお菓子。
さすがに、高級車や飛行機は持ってこれないから、小さな模型を買ってきた。
そのすべてを手に取る度に、なまえは目を輝かせて、楽しそうに俺の話に耳を傾ける。
壁の外には、たくさんの〝素晴らしいもの〟があった。
俺は、世界の成り立ちを知る前から、壁の外に出てたくさんのものを見て来た。
そしてついに、壁の中に住む人類が知ることの叶わなかった世界にまで足を踏み入れた。
俺は、この壁の中にいる世界の住人の誰よりもたくさんのものを見て来たと思う。
だからこそ、俺は分かるんだ。
目が眩むほどの宝石のようなマーレの夜景も、アズマビト家自慢の高級ワインの味も、地平線いっぱいに広がる青い海も、この世界にあるどんなものもなまえには敵わない。
比べものにならないくらいに、なまえは素晴らしいんだ。
話すのが決して得意ではない俺の話を、目を輝かせて聞いてくれるなまえよりも輝いているものを、俺は見たことがない。
「いいなぁ、リヴァイは。いろんな素敵なものが見れて。」
たくさんの土産物を抱えて、なまえが少し目を伏せて口を尖らせる。
羨ましいという感情に、自分の知らない世界を知ってしまった俺への寂しさも混じっているのかもしれない。
だから俺は、なまえを優しく抱きしめた。
「いつか必ず、なまえも連れてってやるさ。」
「約束だよ?」
「あぁ。約束だ。」
「ふふ、楽しみ。」
なまえが嬉しそうに綻ばせる。
壁外に出て、俺が手の届かない場所へいく度に、なまえはいつも不安な顔をして、俺に抱きしめられる度に『安心する。』と嬉しそうに言う。
でも、華奢な身体を包み込んで、安心するのは、俺の方なんだ。
きっとそんなこと、彼女は知りもしないのだろうけれど。
「ねぇ、リヴァイが見た中で、一番素敵だったものって何?」
俺の腕の中で、なまえが大きな瞳を輝かせて訊ねてくる。
そんな質問、きっと、なまえ以外の俺を知る仲間達はしようともしないはずだ。
だって、答えは、分かりきっている。
「なまえ。」
「え?」
「俺が見てきた中で、一番良いもんは、なまえだって言ったんだ。」
俺が抱きしめる腕に力を込めれば、なまえは頬を染めた。
そして、それが恥ずかしかったのか、隠すように目を伏せて、困ったように言う。
「リヴァイって、時々、急にそういうこと言うから、ビックリしちゃうよ。」
「聞かれた質問に答えただけだ。」
「…なら、私が知ってるこの世で一番素敵なものは、リヴァイだよ。」
「へぇ、そりゃ光栄だな。」
「あー、信じてないやつだ。」
「仕方ねぇだろ、それはありえねぇから。」
「なんでよ。」
「だから言っただろ、この世界で一番なのは、お前だって。
マーレでたくさんのものを見て来て、確信した。
俺の欲しいもんはすべて、この家にあった。」
「もう。何それ。」
頬を膨らませているけれど、なまえの目は柔らかく細くなって、幸せそうで、愛おしい気持ちが湧きあがる。
そしてそれが、俺をこの世で最も幸せ者だと改めて実感させてくれる。
俺は、大袈裟でもなんでもなく、本当に心底、そう思っているのだ。
今はもう、壁の外にある新しい世界に、もっと素晴らしい景色があるかもなんて思わない。
だって、この世界のどこを探したって、なまえを見つめる以上に素晴らしい景色なんて存在しないから。
見たこともない世界を探すために、壁の外で命と心を削るのは、正直苦しかった。
でも、なまえに出逢った日、もうそんなことはしなくても、俺の欲しいものはここにあるのだと知った。
そして、俺はやっと、探すことをやめられた。
心が解放されるのを感じたあの喜びは、言葉ではたとえられないほどだ。
壁の外にどれほど広い世界が待っていようが、そこにどんな素晴らしい贅沢品や美味しいものが溢れていようが、俺にとっては大した意味はないのだ。
だって、俺の心を動かして、躍らせるものは、なまえしかいないから。
俺が生まれた意味も、人生をかけて探すべきだったものも、すべてが、狭い壁の中にある小さなアパートの一室にある。
なまえさえいれば、他には何も要らない。
「早く、お前に会いたかったってことだ。」
「私も、会いたかったよ。リヴァイがいなきゃ、この家は空っぽだから。」
「あぁ、そうだな。俺も、お前がいないと空っぽだ。」
「一緒だね。」
「一緒だな。」
どちらからともなく、まるで、前世からそうすることが決まっていたみたいに、俺達は口づけを交わす。
柔らかい唇の感触と、腕の中にある温もりを感じる度に、俺は、世界が平和になったように感じるんだ。
間違いが正されて、歪んでねじれてしまった心も真っすぐになって、全てが正しい方向へ歩き出す————そんな気がして、ひどく安心する。
壁の中にあるこの小さなアパート、俺のいるこの場所こそが、世界で一番素晴らしい場所なんだって、誓うよ。
俺の生きる世界はどこよりも素晴らしいんだ
だって、君が笑うだけで、太陽が輝くから
合鍵で扉を開ければ、心を落ち着かせてくれる優しい匂いが、俺を包んだ。
「おかえりなさい!」
嬉しそうに廊下を駆けて来たなまえが、俺の「ただいま。」を待ちもしないで飛びつく。
それが愛おしくて、俺は無意識に綻んで、壊れてしまわないように優しく抱きしめ返した。
「ただいま。」
身体を離したなまえに数日振りのキスをして、俺は漸く、家に帰って来たのだとホッとする。
土産話を聞かせてくれと好奇心いっぱいの目でせがむなまえに手を引かれて、リビングへ向かう。
そして、ソファに並んで座ると、俺は、土産をひとつひとつ見せながら、壁の外で見て来た世界の話を聞かせてやった。
見たこともない光る鉱石で造られた指輪、レースが散りばめられたドレス、キャビアという高級な食べ物に、甘いお菓子。
さすがに、高級車や飛行機は持ってこれないから、小さな模型を買ってきた。
そのすべてを手に取る度に、なまえは目を輝かせて、楽しそうに俺の話に耳を傾ける。
壁の外には、たくさんの〝素晴らしいもの〟があった。
俺は、世界の成り立ちを知る前から、壁の外に出てたくさんのものを見て来た。
そしてついに、壁の中に住む人類が知ることの叶わなかった世界にまで足を踏み入れた。
俺は、この壁の中にいる世界の住人の誰よりもたくさんのものを見て来たと思う。
だからこそ、俺は分かるんだ。
目が眩むほどの宝石のようなマーレの夜景も、アズマビト家自慢の高級ワインの味も、地平線いっぱいに広がる青い海も、この世界にあるどんなものもなまえには敵わない。
比べものにならないくらいに、なまえは素晴らしいんだ。
話すのが決して得意ではない俺の話を、目を輝かせて聞いてくれるなまえよりも輝いているものを、俺は見たことがない。
「いいなぁ、リヴァイは。いろんな素敵なものが見れて。」
たくさんの土産物を抱えて、なまえが少し目を伏せて口を尖らせる。
羨ましいという感情に、自分の知らない世界を知ってしまった俺への寂しさも混じっているのかもしれない。
だから俺は、なまえを優しく抱きしめた。
「いつか必ず、なまえも連れてってやるさ。」
「約束だよ?」
「あぁ。約束だ。」
「ふふ、楽しみ。」
なまえが嬉しそうに綻ばせる。
壁外に出て、俺が手の届かない場所へいく度に、なまえはいつも不安な顔をして、俺に抱きしめられる度に『安心する。』と嬉しそうに言う。
でも、華奢な身体を包み込んで、安心するのは、俺の方なんだ。
きっとそんなこと、彼女は知りもしないのだろうけれど。
「ねぇ、リヴァイが見た中で、一番素敵だったものって何?」
俺の腕の中で、なまえが大きな瞳を輝かせて訊ねてくる。
そんな質問、きっと、なまえ以外の俺を知る仲間達はしようともしないはずだ。
だって、答えは、分かりきっている。
「なまえ。」
「え?」
「俺が見てきた中で、一番良いもんは、なまえだって言ったんだ。」
俺が抱きしめる腕に力を込めれば、なまえは頬を染めた。
そして、それが恥ずかしかったのか、隠すように目を伏せて、困ったように言う。
「リヴァイって、時々、急にそういうこと言うから、ビックリしちゃうよ。」
「聞かれた質問に答えただけだ。」
「…なら、私が知ってるこの世で一番素敵なものは、リヴァイだよ。」
「へぇ、そりゃ光栄だな。」
「あー、信じてないやつだ。」
「仕方ねぇだろ、それはありえねぇから。」
「なんでよ。」
「だから言っただろ、この世界で一番なのは、お前だって。
マーレでたくさんのものを見て来て、確信した。
俺の欲しいもんはすべて、この家にあった。」
「もう。何それ。」
頬を膨らませているけれど、なまえの目は柔らかく細くなって、幸せそうで、愛おしい気持ちが湧きあがる。
そしてそれが、俺をこの世で最も幸せ者だと改めて実感させてくれる。
俺は、大袈裟でもなんでもなく、本当に心底、そう思っているのだ。
今はもう、壁の外にある新しい世界に、もっと素晴らしい景色があるかもなんて思わない。
だって、この世界のどこを探したって、なまえを見つめる以上に素晴らしい景色なんて存在しないから。
見たこともない世界を探すために、壁の外で命と心を削るのは、正直苦しかった。
でも、なまえに出逢った日、もうそんなことはしなくても、俺の欲しいものはここにあるのだと知った。
そして、俺はやっと、探すことをやめられた。
心が解放されるのを感じたあの喜びは、言葉ではたとえられないほどだ。
壁の外にどれほど広い世界が待っていようが、そこにどんな素晴らしい贅沢品や美味しいものが溢れていようが、俺にとっては大した意味はないのだ。
だって、俺の心を動かして、躍らせるものは、なまえしかいないから。
俺が生まれた意味も、人生をかけて探すべきだったものも、すべてが、狭い壁の中にある小さなアパートの一室にある。
なまえさえいれば、他には何も要らない。
「早く、お前に会いたかったってことだ。」
「私も、会いたかったよ。リヴァイがいなきゃ、この家は空っぽだから。」
「あぁ、そうだな。俺も、お前がいないと空っぽだ。」
「一緒だね。」
「一緒だな。」
どちらからともなく、まるで、前世からそうすることが決まっていたみたいに、俺達は口づけを交わす。
柔らかい唇の感触と、腕の中にある温もりを感じる度に、俺は、世界が平和になったように感じるんだ。
間違いが正されて、歪んでねじれてしまった心も真っすぐになって、全てが正しい方向へ歩き出す————そんな気がして、ひどく安心する。
壁の中にあるこの小さなアパート、俺のいるこの場所こそが、世界で一番素晴らしい場所なんだって、誓うよ。
俺の生きる世界はどこよりも素晴らしいんだ
だって、君が笑うだけで、太陽が輝くから
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