テキーラの記憶
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あれからどれだけ歳月が流れたのか、数えることも忘れた。
恋人と別れた後は、想い出の場所に行くと辛いなんてよく聞くが、俺にはそれは通用しなかった。
馴染みのバーにだってこうして平気で来れるし、よくアイツと並んで座った左奥から3番目のカウンター席に座ることも出来る。
「兵長さん、いつもの?」
バーテンダーに訊かれて、俺はいつものやつを頼む。
そうして出てくるのは、まずは、ウィスキーだ。
あの頃と何も変わらない店内を眺めながら、酒を飲んだところで、アイツとの想い出が蘇ることはない。
休暇の前の日や壁外調査の翌日は、必ずこのバーに来て酒を飲むのがお決まりになっている。
そんな習慣も、別れたからって、変わったりはしない。
別れた後まで、アイツが俺の生活に干渉してくることなんて、あるわけがない。
だから俺は、寄ってくる女を好きに選んで、適当に付き合うことだって出来るし、実際、そうして来た。
新しい誰かと唇を重ねることも出来るし、アイツのことなんていちいち頭を過らない。
バーに流れるBGMが、アイツがよく口ずさんでた曲に変わったって、俺は気づきもしないで聴き流してる自信もある。
そうやって、ウィスキーだけじゃなくて、赤ワイン、スコッチをロックで一晩中飲み明かしたところで、俺は酔い潰れたりしない。
全然平気だ。どうってことない。
「久しぶりにテキーラはどうですか?」
バーテンダーに勧められて、久しぶりにテキーラを頼んだ。
早速、カウンターに置かれたグラスを手に持って、俺は、あの頃のように口に運ぶ。
テキーラの味が、口に広がった途端だった。
隣の席に、アイツの姿が見えたんだ。
大人っぽく見せたいからって、黒のワンピースを着て、子供みたいな顔で笑ってる。
あの頃、アイツがよく着てたのと同じやつだ。
それもそのはずだ。
だって、記憶が、俺に見せている幻なのだから。
人間っていうのは、匂いが想い出を蘇らせるものなんだとか、ハンジが言っていた。
でもどうやら、俺にはそれは当てはまらないらしい。
俺はいつも、テキーラを飲むと、アイツのことを思い出す。
もう大丈夫だと思ったけど、まだダメだったみたいだ。
今夜もまた、テキーラの味が、あの頃の記憶を、気持ちごと呼び起こす。
俺の真似をしたがって、テキーラを飲んでは、馬鹿みたいに酔っぱらってた。
そして、静かなバーで、子供みたいにハシャいで、BGMに乗せて踊るんだ。
他の客も楽しそうに笑っていて、俺はそれが恥ずかしくて仕方なかった。
そうして、アイツは、テキーラのボトルにキスをするのだけれど、それがやけに色っぽくて、すごく好きだった。
アイツを泣かせたくなくて、アイツの笑顔だけを見ていたくて、がらにもなく、アイツの幸せを神に祈ったりもしていたな。
壁外調査に出る俺を、引き留めたそうにしていたアイツを抱きしめて、「必ず生きて戻る。」と何度告げただろう。
『俺は絶対にお前をひとりにはしねぇよ。』
神に、アイツに、俺は心からそう誓ったのに————。
テキーラの味が口に広がった途端に、どれほど胸が引き裂かれそうなくらいにアイツに会いたくて堪らないのかってことを、俺は死ぬほど思い知らされる。
アイツが恋しい。今でもまだ、あの頃からずっと、変わらず今も、本当は————。
会いたい。
会いたいんだ。
忘れられてなんかないことを、テキーラが俺に思い出させる。
理由も思い出せないほどの些細な喧嘩で、俺は、アイツをこのバーに置き去りにした。
分かっているんだ。
俺が今もこのバーに通っているのは、置き去りにしたアイツが、まだ、ここで待ってくれているんじゃないかって、馬鹿みたいな期待をしているからなんだってことくらい。
テキーラを飲む度に、俺はアイツを思い出す。
そして、死ぬほど苦しくなる。
それでも俺は、たぶんまた、思い出したようにテキーラを飲むんだと思う。
記憶の中でも構わないから、なまえに会いたくて————。
人類最強だとか、英雄だとか呼ばれて、どんなにデカい巨人だって、俺は躊躇わずに立ち向かって殺してみせるさ。
でも、俺をこんなにも酷く苦しめて、辛く襲うのは、アイツとの想い出だけだ———————。
酒が喉の奥に沁みるけど、ちっとも酔ってなんかない
ただ、君の愛がなきゃ俺はダメだって、心底身に沁みてるだけだ
恋人と別れた後は、想い出の場所に行くと辛いなんてよく聞くが、俺にはそれは通用しなかった。
馴染みのバーにだってこうして平気で来れるし、よくアイツと並んで座った左奥から3番目のカウンター席に座ることも出来る。
「兵長さん、いつもの?」
バーテンダーに訊かれて、俺はいつものやつを頼む。
そうして出てくるのは、まずは、ウィスキーだ。
あの頃と何も変わらない店内を眺めながら、酒を飲んだところで、アイツとの想い出が蘇ることはない。
休暇の前の日や壁外調査の翌日は、必ずこのバーに来て酒を飲むのがお決まりになっている。
そんな習慣も、別れたからって、変わったりはしない。
別れた後まで、アイツが俺の生活に干渉してくることなんて、あるわけがない。
だから俺は、寄ってくる女を好きに選んで、適当に付き合うことだって出来るし、実際、そうして来た。
新しい誰かと唇を重ねることも出来るし、アイツのことなんていちいち頭を過らない。
バーに流れるBGMが、アイツがよく口ずさんでた曲に変わったって、俺は気づきもしないで聴き流してる自信もある。
そうやって、ウィスキーだけじゃなくて、赤ワイン、スコッチをロックで一晩中飲み明かしたところで、俺は酔い潰れたりしない。
全然平気だ。どうってことない。
「久しぶりにテキーラはどうですか?」
バーテンダーに勧められて、久しぶりにテキーラを頼んだ。
早速、カウンターに置かれたグラスを手に持って、俺は、あの頃のように口に運ぶ。
テキーラの味が、口に広がった途端だった。
隣の席に、アイツの姿が見えたんだ。
大人っぽく見せたいからって、黒のワンピースを着て、子供みたいな顔で笑ってる。
あの頃、アイツがよく着てたのと同じやつだ。
それもそのはずだ。
だって、記憶が、俺に見せている幻なのだから。
人間っていうのは、匂いが想い出を蘇らせるものなんだとか、ハンジが言っていた。
でもどうやら、俺にはそれは当てはまらないらしい。
俺はいつも、テキーラを飲むと、アイツのことを思い出す。
もう大丈夫だと思ったけど、まだダメだったみたいだ。
今夜もまた、テキーラの味が、あの頃の記憶を、気持ちごと呼び起こす。
俺の真似をしたがって、テキーラを飲んでは、馬鹿みたいに酔っぱらってた。
そして、静かなバーで、子供みたいにハシャいで、BGMに乗せて踊るんだ。
他の客も楽しそうに笑っていて、俺はそれが恥ずかしくて仕方なかった。
そうして、アイツは、テキーラのボトルにキスをするのだけれど、それがやけに色っぽくて、すごく好きだった。
アイツを泣かせたくなくて、アイツの笑顔だけを見ていたくて、がらにもなく、アイツの幸せを神に祈ったりもしていたな。
壁外調査に出る俺を、引き留めたそうにしていたアイツを抱きしめて、「必ず生きて戻る。」と何度告げただろう。
『俺は絶対にお前をひとりにはしねぇよ。』
神に、アイツに、俺は心からそう誓ったのに————。
テキーラの味が口に広がった途端に、どれほど胸が引き裂かれそうなくらいにアイツに会いたくて堪らないのかってことを、俺は死ぬほど思い知らされる。
アイツが恋しい。今でもまだ、あの頃からずっと、変わらず今も、本当は————。
会いたい。
会いたいんだ。
忘れられてなんかないことを、テキーラが俺に思い出させる。
理由も思い出せないほどの些細な喧嘩で、俺は、アイツをこのバーに置き去りにした。
分かっているんだ。
俺が今もこのバーに通っているのは、置き去りにしたアイツが、まだ、ここで待ってくれているんじゃないかって、馬鹿みたいな期待をしているからなんだってことくらい。
テキーラを飲む度に、俺はアイツを思い出す。
そして、死ぬほど苦しくなる。
それでも俺は、たぶんまた、思い出したようにテキーラを飲むんだと思う。
記憶の中でも構わないから、なまえに会いたくて————。
人類最強だとか、英雄だとか呼ばれて、どんなにデカい巨人だって、俺は躊躇わずに立ち向かって殺してみせるさ。
でも、俺をこんなにも酷く苦しめて、辛く襲うのは、アイツとの想い出だけだ———————。
酒が喉の奥に沁みるけど、ちっとも酔ってなんかない
ただ、君の愛がなきゃ俺はダメだって、心底身に沁みてるだけだ