相変わらずな君と僕
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
飲みたくもない紅茶の入ったティーカップと読みもしない文庫本を持って、俺はリビングのソファでぼんやりしていた。
やり直したい、そう言ったら名前はどんな反応をするのだろう。
そればかりが頭の中でグルグルしていて、離れて行かない。
今さら、苦しいくらいに名前に惚れていたのだと気づく間抜けな上に、気持ちを言葉にする勇気すら持てない弱虫だ。
そんな男じゃ、きっとまた同じ過ちを繰り返すだけなのにー。
洗面所の方へ行っていた名前がリビングに戻って来たのに気が付いて、顔を上げた。
名前が持つ黒いトートバッグはそこそこ膨らんでいて、そんなにたくさん、俺の家に名前の欠片が残っていたのかと驚いた。
「終わったか。」
「うん、もう大丈夫。あ、歯ブラシ、捨ててもよかったのに。」
困ったように言う名前に、胸がズキンと痛んだ。
「あ~…、俺のを新しいのに換えるときに捨てればいいと思って
そのままにしてた。」
「だろうと思ったよ。リヴァイって本当に面倒くさがりだよね。」
相変わらず、名前は呆れた様に苦笑する。
名前の前で俺は、どんな恋人だったのだろう。
いつも叱られてばかりいたから、自慢の素敵な恋人ではなかったことは、確かだ。
この家を出て行ったら、名前には今度こそ自慢の素敵な恋人が出来るのかもしれない。
俺との失敗を糧にして、格好つけじゃなくて、本当に格好良くて、だらしなくも面倒くさがりでもなくて、伝えるべきことをちゃんと伝えることが出来る本当に優しい男を探して、選ぶんだろう。
「それじゃ、帰るね。」
名前が俺に背を向けようとする。
違う誰かと歩く未来へ行くためにー。
ダメだ。やっぱり俺はー。
「待て、送って行・・・・っ。」
慌てて立ち上がったせいで、ティーカップを自分の持っていた文庫本に当てて落としてしまった。
俺のズボンの膝のあたりを零れた紅茶が濡らしながら、ティーカップが床に落ちて割れた。
「大丈夫…!?」
慌ててバッグからハンカチを取り出した名前が、俺の膝のあたりを拭いてくれた。
本当に久しぶりに、名前が俺に触れた。
緊張して、情けなくて、泣きたくなった。
「悪い。もう熱くねぇから大丈夫だ。」
ズボンの上から足に触れる名前の手を退けて、俺は、割れた破片を拾うためにしゃがみ込んだ。
それならよかった、と名前はホッとしたように微笑む。
どうして、そんな風に優しくするのだろう。
俺はもうずっと、名前に優しくてやれなかったのにー。
今だって、焦って紅茶を零してしまうダサい男で。
格好良く引き留めることもできない。
そんなことを考えながらティーカップの破片を拾っていれば、名前が割れた破片に手を伸ばした。
「触るな…!」
思わず怒鳴るように叫んで、名前の手首を掴んだ。
ハッとしたときには、名前は怯えたように固まっていた。
「悪い…。」
目も見ずに言って、手を離した。
どうして、いつもこうなのか。
ただ、怪我をさせたくなかっただけなのにー。
「ううん、いいよ。大丈夫。」
「俺が1人でやるから、お前は座って待ってろ。」
「でも、一緒に片付けた方が早いよ。」
「危ねぇだろ。おれのせいで、名前に怪我させるわけにはいかねぇ。」
「大丈夫なのに…。でも、分かった。」
名前はそう言うと、タオルを持ってくると言って立ち上がった。
「助かる。ありがとな。」
すぐに洗面所へ駆け出した名前には、俺が緊張しながら言った感謝の言葉は聞こえただろうか。
恋人になってから、名前に礼なんて言ったことがあっただろうか。
少なくとも最近は、どうせ何かを言ったとしても、返ってくるのは文句ばかりだと決めつけて、会話もろくにしなかった。
俺の返事は短くなるから、次第に名前は話しかけることすらしなくなった。
一緒にいても、背中合わせで言葉も交わさない。
それのどこが、恋人同士だったんだろう。
俺達は、別れるよりもずっと前から、もう赤の他人よりも遠い存在だった。
好きだから、分からなかった。
どうすればいいのか。どうしてやれば、うまくやれるのか。
でも今、好きだから、気づいてしまった。
俺は名前の目を見て、気持ちを伝えればよかったのだ。
ごめん、ありがとう、こっちを向いて、それから、好きー。
伝えるべき言葉は、たくさんあったのに、今でもそれらは俺の喉の奥でくすぶっているまま出てくる気配はない。
だって、伝えたとしたって、どうせ、今さらだからー。
やり直したい、そう言ったら名前はどんな反応をするのだろう。
そればかりが頭の中でグルグルしていて、離れて行かない。
今さら、苦しいくらいに名前に惚れていたのだと気づく間抜けな上に、気持ちを言葉にする勇気すら持てない弱虫だ。
そんな男じゃ、きっとまた同じ過ちを繰り返すだけなのにー。
洗面所の方へ行っていた名前がリビングに戻って来たのに気が付いて、顔を上げた。
名前が持つ黒いトートバッグはそこそこ膨らんでいて、そんなにたくさん、俺の家に名前の欠片が残っていたのかと驚いた。
「終わったか。」
「うん、もう大丈夫。あ、歯ブラシ、捨ててもよかったのに。」
困ったように言う名前に、胸がズキンと痛んだ。
「あ~…、俺のを新しいのに換えるときに捨てればいいと思って
そのままにしてた。」
「だろうと思ったよ。リヴァイって本当に面倒くさがりだよね。」
相変わらず、名前は呆れた様に苦笑する。
名前の前で俺は、どんな恋人だったのだろう。
いつも叱られてばかりいたから、自慢の素敵な恋人ではなかったことは、確かだ。
この家を出て行ったら、名前には今度こそ自慢の素敵な恋人が出来るのかもしれない。
俺との失敗を糧にして、格好つけじゃなくて、本当に格好良くて、だらしなくも面倒くさがりでもなくて、伝えるべきことをちゃんと伝えることが出来る本当に優しい男を探して、選ぶんだろう。
「それじゃ、帰るね。」
名前が俺に背を向けようとする。
違う誰かと歩く未来へ行くためにー。
ダメだ。やっぱり俺はー。
「待て、送って行・・・・っ。」
慌てて立ち上がったせいで、ティーカップを自分の持っていた文庫本に当てて落としてしまった。
俺のズボンの膝のあたりを零れた紅茶が濡らしながら、ティーカップが床に落ちて割れた。
「大丈夫…!?」
慌ててバッグからハンカチを取り出した名前が、俺の膝のあたりを拭いてくれた。
本当に久しぶりに、名前が俺に触れた。
緊張して、情けなくて、泣きたくなった。
「悪い。もう熱くねぇから大丈夫だ。」
ズボンの上から足に触れる名前の手を退けて、俺は、割れた破片を拾うためにしゃがみ込んだ。
それならよかった、と名前はホッとしたように微笑む。
どうして、そんな風に優しくするのだろう。
俺はもうずっと、名前に優しくてやれなかったのにー。
今だって、焦って紅茶を零してしまうダサい男で。
格好良く引き留めることもできない。
そんなことを考えながらティーカップの破片を拾っていれば、名前が割れた破片に手を伸ばした。
「触るな…!」
思わず怒鳴るように叫んで、名前の手首を掴んだ。
ハッとしたときには、名前は怯えたように固まっていた。
「悪い…。」
目も見ずに言って、手を離した。
どうして、いつもこうなのか。
ただ、怪我をさせたくなかっただけなのにー。
「ううん、いいよ。大丈夫。」
「俺が1人でやるから、お前は座って待ってろ。」
「でも、一緒に片付けた方が早いよ。」
「危ねぇだろ。おれのせいで、名前に怪我させるわけにはいかねぇ。」
「大丈夫なのに…。でも、分かった。」
名前はそう言うと、タオルを持ってくると言って立ち上がった。
「助かる。ありがとな。」
すぐに洗面所へ駆け出した名前には、俺が緊張しながら言った感謝の言葉は聞こえただろうか。
恋人になってから、名前に礼なんて言ったことがあっただろうか。
少なくとも最近は、どうせ何かを言ったとしても、返ってくるのは文句ばかりだと決めつけて、会話もろくにしなかった。
俺の返事は短くなるから、次第に名前は話しかけることすらしなくなった。
一緒にいても、背中合わせで言葉も交わさない。
それのどこが、恋人同士だったんだろう。
俺達は、別れるよりもずっと前から、もう赤の他人よりも遠い存在だった。
好きだから、分からなかった。
どうすればいいのか。どうしてやれば、うまくやれるのか。
でも今、好きだから、気づいてしまった。
俺は名前の目を見て、気持ちを伝えればよかったのだ。
ごめん、ありがとう、こっちを向いて、それから、好きー。
伝えるべき言葉は、たくさんあったのに、今でもそれらは俺の喉の奥でくすぶっているまま出てくる気配はない。
だって、伝えたとしたって、どうせ、今さらだからー。