相変わらずな君と僕
Name change
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玄関のチャイムが鳴って、一気に緊張が身体を突き破る。
久しぶりに会えるとはやる心と恐怖心に背中を押されて、玄関に向かった。
扉を開けると、数週間前よりも綺麗になった名前がいた。
化粧をしているせいだとすぐに分かった。
誰のためにそんなに綺麗にしているのだろう。
少なくとも、俺のためじゃないことは確かだ。
だって、俺のために綺麗でいたいのだと言っていたのに、最近はずっと一緒にいても、化粧もしなくなっていたから。
でも、化粧をしていると、俺のことを好きだと甘えていた頃の名前と重なってしまったから、すぐに目を反らした。
「入れ。」
逃げるように玄関のロビーに入った俺に続いて、名前が家の中に足を踏み入れる。
振り返りもせずに廊下を歩く俺の後ろで、名前が靴を脱いでいる気配をしっかり感じていた。
今、名前が俺の家にいる。
恋人だった頃みたいに、同じ家の中にいる。
それを素直に喜べないことが、虚しかった。
先にリビングにやって来た俺は、ソファの上に置いていた黒いトートバッグを手に取った。
これを渡してしまったら、もう本当に、俺と名前の繋がりは消えてしまう。
思わず、持つ手に力が入った。
渡したくないー。
そんな俺の気持ちなんて知りもしないで、名前はリビングへ入ってくる。
「残ってたもんは大体入れた、はずだ。
後は自分で探せ。」
そう言って、名前に黒いトートバッグを渡した。
受け取った名前が中を覗く。
何を思いながら、無造作に転がる忘れ物を確かめているのだろう。
ひとつひとつに、他愛のない記憶が焼き付いていた、そう感じたのは俺だけだったのかもしれない。
顔を上げた名前は、なんでもないような顔をして、笑って俺に話しかけたからー。
「ごめんね、急に来ちゃって。荷物、送ってもらおうかなぁとも思ったんだけど、
リヴァイにお願いしたら、忙しいとか言っていつまで経っても
送ってくれない気がしてさ。それに、思い立ったが吉日って言うし。」
「あぁ、そうだな。」
名前の笑顔を見たくなくて、俺はキッチンへ逃げた。
まだ未練たらしく引きずっている俺とは違って、名前はもう過去にしていた。
キッチンに立てば、カウンター越しに、想い出の欠片を集めた黒いトートバッグを握りしめて、リビングを見渡している名前の姿が見えた。
分かってる。俺と名前はもうは、過去なのだ。
それならー。
俺は、今朝、棚に仕舞った紅茶の葉を入れた瓶を取り出した。
そして、水を入れたヤカンに火をかける。
いつも俺の心配ばかりしていた名前が、別れた後も心配してしまわないように、1人で紅茶だって作れるということを見せよう。
そうして、安心して、俺のことを思い出す時間もなくなってくれたらいい。
そしたらやっと、俺は忘れられる気がする。
「ねぇ、リヴァイ。」
ポットに紅茶の葉を入れていると、名前に名前を呼ばれた。
自分の名前を久しぶりに聞いた気がした。
顔を上げると、カウンターの向こうに立つ名前がぼんやりとこちらを向いていた。
でも、俺を通り過ぎてどこか遠くを見ている。
そうだった。
あの頃もそうだった。
名前はいつからか、俺の目を見なくなって、いつもどこか違う方を向いていた。
向かい合うから、俺を見て欲しいと思ってしまうのだと、名前に背中を向けるようになった。
でも、実際は、最初に目も合わせなくなったのはどっちなのだろう。
俺はきっといつも、すべてを名前のせいにしすぎていたのだ。
「なんだ。言いてぇことがあるなら早く言え。」
「あぁ…!ごめん。ボーッとしてた。
寝室も見てもいい?黒猫ちゃんを置いて行ったままだったでしょ。
それで、離れ離れになったら寂しいから、白猫ちゃんも連れて帰っていい?」
ポットにヤカンのお湯を入れようとしていた俺の手が、思わず止まる。
そうか、あのぬいぐるみは持って行くのか。
白猫をひとつだけ置いて行かれても、虚しいだけだ。
それなら、俺にそっくりなあの黒猫のぬいぐるみと一緒に白猫のぬいぐるみも持って行ってもらった方がいい。
俺には、要らないから。
生きるために必要最低限のものがあればいい俺には、ぬいぐるみは、要らないー。
俺がこれからも生きていくために必要なのは、一番必要なのは数年前から変わってなくてー。
「好きにすればいい。」
目を伏せて、顔を見ないままで答えた。
そして、嬉しそうな名前の「ありがとう。」という声を聞き流した。
久しぶりに会えるとはやる心と恐怖心に背中を押されて、玄関に向かった。
扉を開けると、数週間前よりも綺麗になった名前がいた。
化粧をしているせいだとすぐに分かった。
誰のためにそんなに綺麗にしているのだろう。
少なくとも、俺のためじゃないことは確かだ。
だって、俺のために綺麗でいたいのだと言っていたのに、最近はずっと一緒にいても、化粧もしなくなっていたから。
でも、化粧をしていると、俺のことを好きだと甘えていた頃の名前と重なってしまったから、すぐに目を反らした。
「入れ。」
逃げるように玄関のロビーに入った俺に続いて、名前が家の中に足を踏み入れる。
振り返りもせずに廊下を歩く俺の後ろで、名前が靴を脱いでいる気配をしっかり感じていた。
今、名前が俺の家にいる。
恋人だった頃みたいに、同じ家の中にいる。
それを素直に喜べないことが、虚しかった。
先にリビングにやって来た俺は、ソファの上に置いていた黒いトートバッグを手に取った。
これを渡してしまったら、もう本当に、俺と名前の繋がりは消えてしまう。
思わず、持つ手に力が入った。
渡したくないー。
そんな俺の気持ちなんて知りもしないで、名前はリビングへ入ってくる。
「残ってたもんは大体入れた、はずだ。
後は自分で探せ。」
そう言って、名前に黒いトートバッグを渡した。
受け取った名前が中を覗く。
何を思いながら、無造作に転がる忘れ物を確かめているのだろう。
ひとつひとつに、他愛のない記憶が焼き付いていた、そう感じたのは俺だけだったのかもしれない。
顔を上げた名前は、なんでもないような顔をして、笑って俺に話しかけたからー。
「ごめんね、急に来ちゃって。荷物、送ってもらおうかなぁとも思ったんだけど、
リヴァイにお願いしたら、忙しいとか言っていつまで経っても
送ってくれない気がしてさ。それに、思い立ったが吉日って言うし。」
「あぁ、そうだな。」
名前の笑顔を見たくなくて、俺はキッチンへ逃げた。
まだ未練たらしく引きずっている俺とは違って、名前はもう過去にしていた。
キッチンに立てば、カウンター越しに、想い出の欠片を集めた黒いトートバッグを握りしめて、リビングを見渡している名前の姿が見えた。
分かってる。俺と名前はもうは、過去なのだ。
それならー。
俺は、今朝、棚に仕舞った紅茶の葉を入れた瓶を取り出した。
そして、水を入れたヤカンに火をかける。
いつも俺の心配ばかりしていた名前が、別れた後も心配してしまわないように、1人で紅茶だって作れるということを見せよう。
そうして、安心して、俺のことを思い出す時間もなくなってくれたらいい。
そしたらやっと、俺は忘れられる気がする。
「ねぇ、リヴァイ。」
ポットに紅茶の葉を入れていると、名前に名前を呼ばれた。
自分の名前を久しぶりに聞いた気がした。
顔を上げると、カウンターの向こうに立つ名前がぼんやりとこちらを向いていた。
でも、俺を通り過ぎてどこか遠くを見ている。
そうだった。
あの頃もそうだった。
名前はいつからか、俺の目を見なくなって、いつもどこか違う方を向いていた。
向かい合うから、俺を見て欲しいと思ってしまうのだと、名前に背中を向けるようになった。
でも、実際は、最初に目も合わせなくなったのはどっちなのだろう。
俺はきっといつも、すべてを名前のせいにしすぎていたのだ。
「なんだ。言いてぇことがあるなら早く言え。」
「あぁ…!ごめん。ボーッとしてた。
寝室も見てもいい?黒猫ちゃんを置いて行ったままだったでしょ。
それで、離れ離れになったら寂しいから、白猫ちゃんも連れて帰っていい?」
ポットにヤカンのお湯を入れようとしていた俺の手が、思わず止まる。
そうか、あのぬいぐるみは持って行くのか。
白猫をひとつだけ置いて行かれても、虚しいだけだ。
それなら、俺にそっくりなあの黒猫のぬいぐるみと一緒に白猫のぬいぐるみも持って行ってもらった方がいい。
俺には、要らないから。
生きるために必要最低限のものがあればいい俺には、ぬいぐるみは、要らないー。
俺がこれからも生きていくために必要なのは、一番必要なのは数年前から変わってなくてー。
「好きにすればいい。」
目を伏せて、顔を見ないままで答えた。
そして、嬉しそうな名前の「ありがとう。」という声を聞き流した。