相変わらず
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寝室を出た私が次に向かったのは、洗面所だった。
初めてのお泊りのときは旅行用の小さなケースに入れて持って来ていた化粧水や乳液なんかも、いつの間にか普通サイズのものを置いておくようになっていた。
食生活が乱れてるくせに肌の綺麗なリヴァイの隣に並ぶのなら、私も綺麗でいなくちゃー。
そう思って買った高い化粧水と乳液。浸透液なんていう本当に効果があるかどうかも分からない高い基礎化粧品もたくさん増えていった。
でも、やる気があるのは買うときだけで、結局、使わないままだったものがほとんどで、リヴァイにはいつも叱られていたっけ。
洗面台の鏡になっている扉を開けば、いまだに棚のほとんどを私の使いもしない高級基礎化粧品が占領していて、少しだけ笑ってしまった。
(邪魔だっただろうな。)
苦笑しながら、私はひとつひとつをゆっくり手に取って、黒いトートバッグに入れていく。
最後に残ったのは、コップに入っているピンク色の歯ブラシだけになった。
青い歯ブラシと仲良く並んでいるそれを手に取った私は、足元のゴミ箱に投げるように捨てる。
リビングに戻ると、ソファに座ったリヴァイが紅茶を飲みながら文庫本を読んでいた。
戻って来た私に気づいて、本に落としていたリヴァイの視線が上がる。
「終わったか。」
「うん、もう大丈夫。あ、歯ブラシ、捨ててもよかったのに。」
「あ~…、俺のを新しいのに換えるときに捨てればいいと思って
そのままにしてた。」
「だろうと思ったよ。リヴァイって本当に面倒くさがりだよね。」
私は呆れた様に言って、苦笑する。
本当は今も、リヴァイのそんなところが心配で堪らない。
頭も良くて、顔もいいリヴァイのことを言葉で表現するとしたら、殆どの人が、几帳面だとか、綺麗好きだとか、なんでも涼しい顔をしてそつなくこなす完璧人間って言うんだと思う。
でも、実際のリヴァイは、そんなに凄い人じゃない。
確かに潔癖なくらいの綺麗好きだけど、自分の身の回りのことには何も興味がなくて、無頓着だ。
生きてるからには、息を吸って吐いて死なない程度の栄養が取れたらいいと本気で思ってるところがある。
部屋は綺麗かもしれないけど、それ以外は適当で、誰よりもだらしがないのだ。
外食やコンビニ弁当続きの食生活だってそれの延長だし、シャツを裏返しで着ていることなんてよくあった。
それを指摘したところで、出かけるわけでもないしお前しか見てないんだから別にいい、と着直そうとすらしない。
きっと今、リヴァイは自分の髪が寝癖で跳ねてることだって気づいてないはずだ。
本当のリヴァイは、年下の彼女に叱られてばかりのどこにでもいる普通の彼氏だった。
「それじゃ、帰るね。」
「待て、送って行・・・・っ。」
玄関へ向かうために背中を向けようとすると、リヴァイがソファから立ち上がった。
急いだせいか、リヴァイは手に持っていたティーカップを文庫本に当ててしまった。
驚いているうちに、ティーカップは床に落ちてガチャンと大きな音を立てながら粉々に割れた。
「大丈夫…!?」
慌ててバッグからハンカチを取り出した私は、濡れたリヴァイのズボンの膝のあたりを拭いた。
「悪い。もう熱くねぇから大丈夫だ。」
ズボンの上から足に触れる私の手を退けて、リヴァイがしゃがむ。
「そっか。ならよかったよ。」
安心したのは嘘じゃない。
でも、ホッとしたー。
それだけの感情しか抱かなかったフリをして、割れた破片を集めるリヴァイと一緒に片づけることにした。
「触るな…!」
破片に触れようとした私の手首を掴んで、リヴァイが声を荒げた。
ビクッとして、私の手が止まる。
「悪い…。」
すぐに、リヴァイの手が離れたけれど、久しぶりに感じた温もりに手首が熱かった。
「ううん、いいよ。大丈夫。」
「俺が1人でやるから、お前は座って待ってろ。」
「でも、一緒に片付けた方が早いよ。」
「危ねぇだろ。おれのせいで、名前に怪我させるわけにはいかねぇ。」
「大丈夫なのに…。でも、分かった。」
破片に触れようとしていた手をギュッと握って、引っ込める。
1人で粉々になったティーカップの破片を集めるリヴァイの横顔は、少しだけ眉を顰めているから、とても情けなく見えた。
「じゃあ、タオル持ってくるね。」
「助かる。ありがとな。」
珍しいリヴァイの感謝の言葉を背中で聞いて、私はさっき出たばかりの洗面所へ走った。
付き合ってるときに、お礼を言われたことなんて一度だってあっただろうか。
少なくとも、ここ最近は何を言っても短い返事しか貰ってなかった。
棚の中から綺麗に畳まれたタオルを取り出したときに、ふわっと香ったのは私が好きな柔軟剤の匂いだった。
真っ白いタオルを顔に押しあてて、私は声を殺して、泣いた。
(どうして…っ。)
痛いくらいに唇を噛んで、ギュッと目を瞑った。
リヴァイに掴まれた手首が、まだ熱い。
相変わらず、だらしなくて、寝癖のついた髪で、疲れた顔をして、少し痩せてしまっていて、最後の最後にティーカップまで割っちゃって、馬鹿みたい。
恋人だった私が知ってしまったリヴァイのままでいるのは、やめてほしかった。
皆が思ってる完璧なリヴァイでいてくれたら、あぁ、私と別れても大丈夫だって、そう思えたのにー。
離れている時間に、ひとりきりでリヴァイのことを心配したりしなくて済むのにー。
出逢った頃みたいに格好つけてくれていたら、リヴァイの分かりにくくて不器用な優しさに今なら気づけるってことを、私が知ってしまうこともなかったはずなのだ。
だって、今さら気づいてなんになるっていうんだろう。
もう、何もかもがすべて、手遅れだというのにー。
初めてのお泊りのときは旅行用の小さなケースに入れて持って来ていた化粧水や乳液なんかも、いつの間にか普通サイズのものを置いておくようになっていた。
食生活が乱れてるくせに肌の綺麗なリヴァイの隣に並ぶのなら、私も綺麗でいなくちゃー。
そう思って買った高い化粧水と乳液。浸透液なんていう本当に効果があるかどうかも分からない高い基礎化粧品もたくさん増えていった。
でも、やる気があるのは買うときだけで、結局、使わないままだったものがほとんどで、リヴァイにはいつも叱られていたっけ。
洗面台の鏡になっている扉を開けば、いまだに棚のほとんどを私の使いもしない高級基礎化粧品が占領していて、少しだけ笑ってしまった。
(邪魔だっただろうな。)
苦笑しながら、私はひとつひとつをゆっくり手に取って、黒いトートバッグに入れていく。
最後に残ったのは、コップに入っているピンク色の歯ブラシだけになった。
青い歯ブラシと仲良く並んでいるそれを手に取った私は、足元のゴミ箱に投げるように捨てる。
リビングに戻ると、ソファに座ったリヴァイが紅茶を飲みながら文庫本を読んでいた。
戻って来た私に気づいて、本に落としていたリヴァイの視線が上がる。
「終わったか。」
「うん、もう大丈夫。あ、歯ブラシ、捨ててもよかったのに。」
「あ~…、俺のを新しいのに換えるときに捨てればいいと思って
そのままにしてた。」
「だろうと思ったよ。リヴァイって本当に面倒くさがりだよね。」
私は呆れた様に言って、苦笑する。
本当は今も、リヴァイのそんなところが心配で堪らない。
頭も良くて、顔もいいリヴァイのことを言葉で表現するとしたら、殆どの人が、几帳面だとか、綺麗好きだとか、なんでも涼しい顔をしてそつなくこなす完璧人間って言うんだと思う。
でも、実際のリヴァイは、そんなに凄い人じゃない。
確かに潔癖なくらいの綺麗好きだけど、自分の身の回りのことには何も興味がなくて、無頓着だ。
生きてるからには、息を吸って吐いて死なない程度の栄養が取れたらいいと本気で思ってるところがある。
部屋は綺麗かもしれないけど、それ以外は適当で、誰よりもだらしがないのだ。
外食やコンビニ弁当続きの食生活だってそれの延長だし、シャツを裏返しで着ていることなんてよくあった。
それを指摘したところで、出かけるわけでもないしお前しか見てないんだから別にいい、と着直そうとすらしない。
きっと今、リヴァイは自分の髪が寝癖で跳ねてることだって気づいてないはずだ。
本当のリヴァイは、年下の彼女に叱られてばかりのどこにでもいる普通の彼氏だった。
「それじゃ、帰るね。」
「待て、送って行・・・・っ。」
玄関へ向かうために背中を向けようとすると、リヴァイがソファから立ち上がった。
急いだせいか、リヴァイは手に持っていたティーカップを文庫本に当ててしまった。
驚いているうちに、ティーカップは床に落ちてガチャンと大きな音を立てながら粉々に割れた。
「大丈夫…!?」
慌ててバッグからハンカチを取り出した私は、濡れたリヴァイのズボンの膝のあたりを拭いた。
「悪い。もう熱くねぇから大丈夫だ。」
ズボンの上から足に触れる私の手を退けて、リヴァイがしゃがむ。
「そっか。ならよかったよ。」
安心したのは嘘じゃない。
でも、ホッとしたー。
それだけの感情しか抱かなかったフリをして、割れた破片を集めるリヴァイと一緒に片づけることにした。
「触るな…!」
破片に触れようとした私の手首を掴んで、リヴァイが声を荒げた。
ビクッとして、私の手が止まる。
「悪い…。」
すぐに、リヴァイの手が離れたけれど、久しぶりに感じた温もりに手首が熱かった。
「ううん、いいよ。大丈夫。」
「俺が1人でやるから、お前は座って待ってろ。」
「でも、一緒に片付けた方が早いよ。」
「危ねぇだろ。おれのせいで、名前に怪我させるわけにはいかねぇ。」
「大丈夫なのに…。でも、分かった。」
破片に触れようとしていた手をギュッと握って、引っ込める。
1人で粉々になったティーカップの破片を集めるリヴァイの横顔は、少しだけ眉を顰めているから、とても情けなく見えた。
「じゃあ、タオル持ってくるね。」
「助かる。ありがとな。」
珍しいリヴァイの感謝の言葉を背中で聞いて、私はさっき出たばかりの洗面所へ走った。
付き合ってるときに、お礼を言われたことなんて一度だってあっただろうか。
少なくとも、ここ最近は何を言っても短い返事しか貰ってなかった。
棚の中から綺麗に畳まれたタオルを取り出したときに、ふわっと香ったのは私が好きな柔軟剤の匂いだった。
真っ白いタオルを顔に押しあてて、私は声を殺して、泣いた。
(どうして…っ。)
痛いくらいに唇を噛んで、ギュッと目を瞑った。
リヴァイに掴まれた手首が、まだ熱い。
相変わらず、だらしなくて、寝癖のついた髪で、疲れた顔をして、少し痩せてしまっていて、最後の最後にティーカップまで割っちゃって、馬鹿みたい。
恋人だった私が知ってしまったリヴァイのままでいるのは、やめてほしかった。
皆が思ってる完璧なリヴァイでいてくれたら、あぁ、私と別れても大丈夫だって、そう思えたのにー。
離れている時間に、ひとりきりでリヴァイのことを心配したりしなくて済むのにー。
出逢った頃みたいに格好つけてくれていたら、リヴァイの分かりにくくて不器用な優しさに今なら気づけるってことを、私が知ってしまうこともなかったはずなのだ。
だって、今さら気づいてなんになるっていうんだろう。
もう、何もかもがすべて、手遅れだというのにー。