相変わらず
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部屋の前で、私はまた立ち止まる。
合鍵を返さなきゃいけなくなった私はもう、この扉を好き勝手に開くことは出来ない。
(来なきゃよかったな。)
今さら後悔しながら、勇気を出してドアチャイムを押した。
あまり待たずに、扉が開く。
数週間ぶりに会ったリヴァイは、横の髪が跳ねて寝癖になっていた。
不機嫌そうに聞こえた低い声は、寝起きだったせいかもしれない。
それに、少し痩せたみたいだ。
疲れた顔をしてる。
「入れ。」
チラリと私を見るだけして、リヴァイは部屋の中へと入って行く。
閉じそうになる扉を手で押さえて、私も急いで玄関に足を入れる。
その途端に、ふわりと香る紅茶と石鹸が混ざったような匂い。
大好きだったリヴァイの匂いだ。
鼻の奥を刺激するそれに、ツンとして目頭に力が入った。
靴を脱いでからリビングへ向かうと、リヴァイが大きめの黒いトートバッグを持って立っていた。
「残ってたもんは大体入れた、はずだ。
後は自分で探せ。」
リヴァイはそう言って、黒いトートバッグを私に渡す。
礼を言ってから中を覗くと、そこには、私とリヴァイの想い出が無造作に詰め込まれていた。
私が買って2人でハマったゲームソフトや漫画、ガラステーブルにつけてしまってめちゃくちゃ怒られたサーモンピンクのマニキュア、買ったのはいいものの使い道が分からずに放っておかれた変なキャラのキーホルダー。
それからー。
(あ、これ。何処にあったんだろう。)
上巻と下巻をセットで買ったはずなのに、上巻を読み終わる頃には何処に行ったのか分からなくなっていた下巻もあった。
中途半端なところで終わってしまっていた恋愛の続きを、漸く読める。
やっと、完結出来る。
その他にも、何に使うんだよとリヴァイにいつも呆れられていたガラクタにしか見えない雑貨も幾つかあったけれど、想い出を数えるのをやめて、私はリビングを見渡した。
相変わらず、綺麗な部屋だ。
塵ひとつ落ちていないどころか、テーブルとソファ、テレビくらいしかない。
リヴァイの部屋はつまんないと文句を言ったら、これだけあれば問題ないのだから余計なものは要らないと言われたことがある。
私は今、その『余計なもの』になってしまったのかもしれない。
リビングを見渡しながら、私は出来る限りの笑顔を作ってリヴァイに話しかけた。
「ごめんね、急に来ちゃって。荷物、送ってもらおうかなぁとも思ったんだけど、
リヴァイにお願いしたら、忙しいとか言っていつまで経っても
送ってくれない気がしてさ。それに、思い立ったが吉日って言うし。」
「あぁ、そうだな。」
短い返事で会話が終わって、リヴァイは奥のキッチンへと行ってしまった。
トートバッグの持ち手をギュッと握って、私は笑顔を崩さないことだけに集中する。
さっきリヴァイが言った通り、殺風景なリビングにはもう、私の欠片は残っていなかった。
後はー。
寝室の扉を見て、ドキリと心臓が鳴る。
あの扉の向こうで、私は何度も何度も、数えきれないくらいにリヴァイに抱かれた。
今はもう、そこで違う誰かを抱きしめたりしているのだろうか。
私は、キッチンのカウンターに行ってから、リヴァイに声をかけた。
「ねぇ、リヴァイ。」
名前を呼ぶと、紅茶を作っていたらしいリヴァイが顔を上げた。
カウンター越しに見えたキッチンの奥に無造作に置かれたゴミ袋、その中に幾つものコンビニ弁当の空箱が入っていた。
(また、コンビニのお弁当…。外食ばっかりしてるんだろうな。
大変な仕事なんだから、ちゃんと栄養のあるもの食べるようにっていつも言ってるのに。)
紅茶には異常なくらいに執着しているくせに、食には全く興味のないリヴァイの食生活は、恋人だった頃から心配の種だった。
身体を壊したことないから大丈夫だといつも言い返されていたけれど、もうそんなに若くないのだから、きっとあと数年もすればそんなこと言ってられなくなる。
今のうちに、食生活を見直してもらわなくちゃー。
「なんだ。言いてぇことがあるなら早く言え。」
「あぁ…!ごめん。ボーッとしてた。
寝室も見てもいい?黒猫ちゃんを置いて行ったままだったでしょ。
それで、離れ離れになったら寂しいから、白猫ちゃんも連れて帰っていい?」
「好きにすればいい。」
リヴァイは素っ気なく言って、また大好きな紅茶作りを再開させる。
ズキンと痛んだ胸を無視して、私は「ありがとう。」とニコリと微笑んだ。
寝室の扉をゆっくりと開けると、リヴァイの香りが濃くなった。
思わず息を止めて小さく首を振った後、寝室の中に入った。
奥のベッドのヘッドボードに、白猫と黒猫のぬいぐるみが仲良く並んでいる。
私が出て行った時と全く変わらないその姿が、余計に虚しかった。
毎朝起きたとき、毎晩眠るとき、リヴァイはこの2匹を見て何を思っていたのだろう。
(何も思ってないか。目にも入ってないよ、きっと。)
自嘲気味に笑って、私は黒猫のぬいぐるみを手に取った。
これは、初めてのデートで行った雑貨屋さんで私が見つけて、一目惚れをして衝動買いしてしまった思い出の品だ。
『見て見て~!この黒猫ちゃん、リヴァイにそっくり!
目つきが悪いところとか!』
『…なら、この白いやつは名前にそっくりだな。
・・・・・・・・アレとか。』
『ないのかよ!』
『うるせぇー。ある…。可愛い、ところとか…。』
軽い冗談のつもりでツッコんだ私に、顔を真っ赤にしたリヴァイが、消え入りそうなか細い声でそんなことを言うから、私まで伝染したみたいに顔が真っ赤になってしまって、2人とも目も合わせられなかった。
それから、一目惚れした黒猫のぬいぐるみがどうしても欲しくなって、真っ赤な顔でレジに並んだ。
リヴァイもこっそり白猫のぬいぐるみを買っていて、家に連れて帰った後、このベッドのヘッドボードに2人で並べたのだ。
あれから今日まで、ずっと、2匹の猫は、あの頃の私とリヴァイみたいにいつもピタリとくっついて、私達のすべてを見守ってくれた。
それなのにー。
あぁ、隣に並んでいたはずの私とリヴァイはいつから、背中をピタリと合わせるようになってしまったんだろう。
なんとか手を繋いで離れないようにしたところで、背中合わせのままでは顔も見えないから、相手が求めていることも分からない。
そんなんじゃ、優しくしてあげることなんて、私もリヴァイも出来るわけがなかったのにー。
「紅茶が出来た。飲むか。」
開いた扉から、リヴァイが声をかけた。
涙が溜まりかけていた目を慌てて擦って、振り返る。
「大丈夫だよっ。荷物取ったら帰るからっ。」
「そうか。」
興味なさそうに言って、リヴァイが扉を開けたままリビングへと戻っていく。
やっぱり、飲みたいって言えばよかったかなー。
少しだけ後悔したけれど、選択を間違えたとは思わない。
早くこの家から出て、リヴァイから離れたかった。
リヴァイのところに残してしまったすべてを、早く返してもらわなきゃ、いけないからー。
合鍵を返さなきゃいけなくなった私はもう、この扉を好き勝手に開くことは出来ない。
(来なきゃよかったな。)
今さら後悔しながら、勇気を出してドアチャイムを押した。
あまり待たずに、扉が開く。
数週間ぶりに会ったリヴァイは、横の髪が跳ねて寝癖になっていた。
不機嫌そうに聞こえた低い声は、寝起きだったせいかもしれない。
それに、少し痩せたみたいだ。
疲れた顔をしてる。
「入れ。」
チラリと私を見るだけして、リヴァイは部屋の中へと入って行く。
閉じそうになる扉を手で押さえて、私も急いで玄関に足を入れる。
その途端に、ふわりと香る紅茶と石鹸が混ざったような匂い。
大好きだったリヴァイの匂いだ。
鼻の奥を刺激するそれに、ツンとして目頭に力が入った。
靴を脱いでからリビングへ向かうと、リヴァイが大きめの黒いトートバッグを持って立っていた。
「残ってたもんは大体入れた、はずだ。
後は自分で探せ。」
リヴァイはそう言って、黒いトートバッグを私に渡す。
礼を言ってから中を覗くと、そこには、私とリヴァイの想い出が無造作に詰め込まれていた。
私が買って2人でハマったゲームソフトや漫画、ガラステーブルにつけてしまってめちゃくちゃ怒られたサーモンピンクのマニキュア、買ったのはいいものの使い道が分からずに放っておかれた変なキャラのキーホルダー。
それからー。
(あ、これ。何処にあったんだろう。)
上巻と下巻をセットで買ったはずなのに、上巻を読み終わる頃には何処に行ったのか分からなくなっていた下巻もあった。
中途半端なところで終わってしまっていた恋愛の続きを、漸く読める。
やっと、完結出来る。
その他にも、何に使うんだよとリヴァイにいつも呆れられていたガラクタにしか見えない雑貨も幾つかあったけれど、想い出を数えるのをやめて、私はリビングを見渡した。
相変わらず、綺麗な部屋だ。
塵ひとつ落ちていないどころか、テーブルとソファ、テレビくらいしかない。
リヴァイの部屋はつまんないと文句を言ったら、これだけあれば問題ないのだから余計なものは要らないと言われたことがある。
私は今、その『余計なもの』になってしまったのかもしれない。
リビングを見渡しながら、私は出来る限りの笑顔を作ってリヴァイに話しかけた。
「ごめんね、急に来ちゃって。荷物、送ってもらおうかなぁとも思ったんだけど、
リヴァイにお願いしたら、忙しいとか言っていつまで経っても
送ってくれない気がしてさ。それに、思い立ったが吉日って言うし。」
「あぁ、そうだな。」
短い返事で会話が終わって、リヴァイは奥のキッチンへと行ってしまった。
トートバッグの持ち手をギュッと握って、私は笑顔を崩さないことだけに集中する。
さっきリヴァイが言った通り、殺風景なリビングにはもう、私の欠片は残っていなかった。
後はー。
寝室の扉を見て、ドキリと心臓が鳴る。
あの扉の向こうで、私は何度も何度も、数えきれないくらいにリヴァイに抱かれた。
今はもう、そこで違う誰かを抱きしめたりしているのだろうか。
私は、キッチンのカウンターに行ってから、リヴァイに声をかけた。
「ねぇ、リヴァイ。」
名前を呼ぶと、紅茶を作っていたらしいリヴァイが顔を上げた。
カウンター越しに見えたキッチンの奥に無造作に置かれたゴミ袋、その中に幾つものコンビニ弁当の空箱が入っていた。
(また、コンビニのお弁当…。外食ばっかりしてるんだろうな。
大変な仕事なんだから、ちゃんと栄養のあるもの食べるようにっていつも言ってるのに。)
紅茶には異常なくらいに執着しているくせに、食には全く興味のないリヴァイの食生活は、恋人だった頃から心配の種だった。
身体を壊したことないから大丈夫だといつも言い返されていたけれど、もうそんなに若くないのだから、きっとあと数年もすればそんなこと言ってられなくなる。
今のうちに、食生活を見直してもらわなくちゃー。
「なんだ。言いてぇことがあるなら早く言え。」
「あぁ…!ごめん。ボーッとしてた。
寝室も見てもいい?黒猫ちゃんを置いて行ったままだったでしょ。
それで、離れ離れになったら寂しいから、白猫ちゃんも連れて帰っていい?」
「好きにすればいい。」
リヴァイは素っ気なく言って、また大好きな紅茶作りを再開させる。
ズキンと痛んだ胸を無視して、私は「ありがとう。」とニコリと微笑んだ。
寝室の扉をゆっくりと開けると、リヴァイの香りが濃くなった。
思わず息を止めて小さく首を振った後、寝室の中に入った。
奥のベッドのヘッドボードに、白猫と黒猫のぬいぐるみが仲良く並んでいる。
私が出て行った時と全く変わらないその姿が、余計に虚しかった。
毎朝起きたとき、毎晩眠るとき、リヴァイはこの2匹を見て何を思っていたのだろう。
(何も思ってないか。目にも入ってないよ、きっと。)
自嘲気味に笑って、私は黒猫のぬいぐるみを手に取った。
これは、初めてのデートで行った雑貨屋さんで私が見つけて、一目惚れをして衝動買いしてしまった思い出の品だ。
『見て見て~!この黒猫ちゃん、リヴァイにそっくり!
目つきが悪いところとか!』
『…なら、この白いやつは名前にそっくりだな。
・・・・・・・・アレとか。』
『ないのかよ!』
『うるせぇー。ある…。可愛い、ところとか…。』
軽い冗談のつもりでツッコんだ私に、顔を真っ赤にしたリヴァイが、消え入りそうなか細い声でそんなことを言うから、私まで伝染したみたいに顔が真っ赤になってしまって、2人とも目も合わせられなかった。
それから、一目惚れした黒猫のぬいぐるみがどうしても欲しくなって、真っ赤な顔でレジに並んだ。
リヴァイもこっそり白猫のぬいぐるみを買っていて、家に連れて帰った後、このベッドのヘッドボードに2人で並べたのだ。
あれから今日まで、ずっと、2匹の猫は、あの頃の私とリヴァイみたいにいつもピタリとくっついて、私達のすべてを見守ってくれた。
それなのにー。
あぁ、隣に並んでいたはずの私とリヴァイはいつから、背中をピタリと合わせるようになってしまったんだろう。
なんとか手を繋いで離れないようにしたところで、背中合わせのままでは顔も見えないから、相手が求めていることも分からない。
そんなんじゃ、優しくしてあげることなんて、私もリヴァイも出来るわけがなかったのにー。
「紅茶が出来た。飲むか。」
開いた扉から、リヴァイが声をかけた。
涙が溜まりかけていた目を慌てて擦って、振り返る。
「大丈夫だよっ。荷物取ったら帰るからっ。」
「そうか。」
興味なさそうに言って、リヴァイが扉を開けたままリビングへと戻っていく。
やっぱり、飲みたいって言えばよかったかなー。
少しだけ後悔したけれど、選択を間違えたとは思わない。
早くこの家から出て、リヴァイから離れたかった。
リヴァイのところに残してしまったすべてを、早く返してもらわなきゃ、いけないからー。