その夜は、明けない
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ついに降り出した雨を見上げて、私は何度目かのため息を吐いた。
たまには、ウォール・ローゼのお酒を買い付けてみようなんて、余計なことを思いついてしまったのがまずかったのだろう。
ずっと前から気になっていたウォール・ローゼの酒屋に行ったら休業日で、仕方なく帰ろうと思って運航便の馬車に乗ったのはいいものの、私は乗り間違えたらしくよく知らない田舎町に到着してしまった。
しかも、それが終点のようで、次の運航便の馬車は明日の朝にならないと来ない。
そしてこの田舎町に、宿屋はないと言う。
もう最悪だー。
少しでも雨を凌ごうと、上着を脱いで頭からかぶる。
でも、傘じゃあるまいし、そんなもので雨は凌げない。
シトシトと降る雨は、身体を濡らして、冷たい風が上着を脱いだ身体に氷のように刺さる。
(このまま凍死かな。)
冗談ではなくて、本気でそんなことが頭を過りだした頃、私の前に馬車が止まった。
まさか運航便の馬車がまだ残っていたのかと、驚く。
けれど、立派な客車を引く馬車は、運行便のそれとは違う。
何だろうかと思っていると、客車の扉が開いた。
驚いた顔で目を見開いて私を見下ろしたのは、リヴァイだった。
「この雨の中、何やってんだ。」
「…いろいろと間違いが重なって。
明日の運航便の馬車待ちながら、凍死待ちをしてるところ。」
「バカか。乗れ。ついでだ、送っていく。」
「でもー。」
「遠慮してる場合か。本当に死ぬぞ。」
「…ごめん。ありがとう、凄く助かる。」
「最初から、そう素直になりやがれ。」
リヴァイが私に差し出してくれた手を掴む。
初めて触れたリヴァイの手は、とても冷たかった。
そして、凄く力強かった。
リヴァイは、私を軽々と引き上げて客車の中に入れると、その流れで隣に座らせた。
「これを着とけ。」
リヴァイは、客車の壁にかけていたコートを私に投げてよこした。
また遠慮しそうになったけれど、有難く受け取った。
着ることはしないで、私は肩にコートをかける。
それだけで、ひどく暖かかった。
「ありがとう。すごく助かった。」
「で、何してたんだ。」
事情を説明すると、心底呆れた様にため息を吐かれた。
私も自分で、自分にため息をつきたい。
そして、強く、強く、叱ってやりたい。
こんな事態を招いた自分を、叱りつけたいー。
「リヴァイって冷たい人かと思ってたけど、ペトラの言う通り、凄く優しいのね。
ペトラがね、私のお店に顔を出す度に、リヴァイのこと惚気ていくのよ。
恋人になれて本当に幸せなのね。最近、本当に幸せそうで私も嬉しいの。」
私は努めて明るく振舞った。
ペトラの話をしたのは、牽制だ。
これ以上、踏み込んではいけないという牽制。
リヴァイには、ペトラという可愛い恋人がいるということを自覚するためー。
「リヴァイは、憧れで、強くて優しくて世界一素敵な恋人なんだってー。」
「悪い。昨日から出張で一睡もしてねぇんだ。寝かせてくれねぇか。」
「…ごめん。」
私に背を向けたリヴァイは、窓枠に頭を預ける。
本当に寝ているのかどうかは、分からない。
だって、私を客車に引っ張り上げたときからずっと繋がっている手は今も強く握られているからー。
手を離す機会は、何度だってあったのに、リヴァイはどうしてしなかったのだろう。
私はどうして、コートを肩にかけているのだろう。
どうしてー。
少しだけ、手に力を入れてみた。
握り返さないでー。
その嘘つきな願いは裏切られて、リヴァイの手が私の手を強く握り返してくれる。
どうしてー。
あぁ、そうか。
怖かった。
裏切っていることが、私も、きっとリヴァイも、きっと、怖かったのだー。
だから、欲しかった。
共犯者が、欲しかったー。
自分だけじゃないって、知りたくてー。
私達はお互いに背中を向けて、寝てるフリをして、窓の外を見て、目を反らしてるくせに、手を離すことは絶対にしなかった。
痛いくらいに、ずっと、手を握り続けていたー。
たまには、ウォール・ローゼのお酒を買い付けてみようなんて、余計なことを思いついてしまったのがまずかったのだろう。
ずっと前から気になっていたウォール・ローゼの酒屋に行ったら休業日で、仕方なく帰ろうと思って運航便の馬車に乗ったのはいいものの、私は乗り間違えたらしくよく知らない田舎町に到着してしまった。
しかも、それが終点のようで、次の運航便の馬車は明日の朝にならないと来ない。
そしてこの田舎町に、宿屋はないと言う。
もう最悪だー。
少しでも雨を凌ごうと、上着を脱いで頭からかぶる。
でも、傘じゃあるまいし、そんなもので雨は凌げない。
シトシトと降る雨は、身体を濡らして、冷たい風が上着を脱いだ身体に氷のように刺さる。
(このまま凍死かな。)
冗談ではなくて、本気でそんなことが頭を過りだした頃、私の前に馬車が止まった。
まさか運航便の馬車がまだ残っていたのかと、驚く。
けれど、立派な客車を引く馬車は、運行便のそれとは違う。
何だろうかと思っていると、客車の扉が開いた。
驚いた顔で目を見開いて私を見下ろしたのは、リヴァイだった。
「この雨の中、何やってんだ。」
「…いろいろと間違いが重なって。
明日の運航便の馬車待ちながら、凍死待ちをしてるところ。」
「バカか。乗れ。ついでだ、送っていく。」
「でもー。」
「遠慮してる場合か。本当に死ぬぞ。」
「…ごめん。ありがとう、凄く助かる。」
「最初から、そう素直になりやがれ。」
リヴァイが私に差し出してくれた手を掴む。
初めて触れたリヴァイの手は、とても冷たかった。
そして、凄く力強かった。
リヴァイは、私を軽々と引き上げて客車の中に入れると、その流れで隣に座らせた。
「これを着とけ。」
リヴァイは、客車の壁にかけていたコートを私に投げてよこした。
また遠慮しそうになったけれど、有難く受け取った。
着ることはしないで、私は肩にコートをかける。
それだけで、ひどく暖かかった。
「ありがとう。すごく助かった。」
「で、何してたんだ。」
事情を説明すると、心底呆れた様にため息を吐かれた。
私も自分で、自分にため息をつきたい。
そして、強く、強く、叱ってやりたい。
こんな事態を招いた自分を、叱りつけたいー。
「リヴァイって冷たい人かと思ってたけど、ペトラの言う通り、凄く優しいのね。
ペトラがね、私のお店に顔を出す度に、リヴァイのこと惚気ていくのよ。
恋人になれて本当に幸せなのね。最近、本当に幸せそうで私も嬉しいの。」
私は努めて明るく振舞った。
ペトラの話をしたのは、牽制だ。
これ以上、踏み込んではいけないという牽制。
リヴァイには、ペトラという可愛い恋人がいるということを自覚するためー。
「リヴァイは、憧れで、強くて優しくて世界一素敵な恋人なんだってー。」
「悪い。昨日から出張で一睡もしてねぇんだ。寝かせてくれねぇか。」
「…ごめん。」
私に背を向けたリヴァイは、窓枠に頭を預ける。
本当に寝ているのかどうかは、分からない。
だって、私を客車に引っ張り上げたときからずっと繋がっている手は今も強く握られているからー。
手を離す機会は、何度だってあったのに、リヴァイはどうしてしなかったのだろう。
私はどうして、コートを肩にかけているのだろう。
どうしてー。
少しだけ、手に力を入れてみた。
握り返さないでー。
その嘘つきな願いは裏切られて、リヴァイの手が私の手を強く握り返してくれる。
どうしてー。
あぁ、そうか。
怖かった。
裏切っていることが、私も、きっとリヴァイも、きっと、怖かったのだー。
だから、欲しかった。
共犯者が、欲しかったー。
自分だけじゃないって、知りたくてー。
私達はお互いに背中を向けて、寝てるフリをして、窓の外を見て、目を反らしてるくせに、手を離すことは絶対にしなかった。
痛いくらいに、ずっと、手を握り続けていたー。