かつて彼女は僕の運命の人だった
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懐かしい公園の風景の向こうに消えていく青年の後ろ姿を、老人はじっと見送っていた。
どうか、彼が後悔しない明日を生きていることを心から願う。そして、願わくばーーーー。
老人は、懐かしい散歩道を見渡す。
丁寧に手入れされた緑や色とりどりの花、穏やかな川のせせらぎも、あの頃のままだ。
とても美しい。それなのに、あの日からずっと、全てが色褪せてしまっていた。
そしてとうとう、なまえが死んだと聞いたあの日に、世界はモノクロに変わった。
巨人は消え、いくらかは平和になったはずの新しい世界が訪れても、老人の心は晴れなかった。
世界が黄金に輝こうが、老人が見上げる空はいつも曇り空だった。
皆が雨上がりの虹を見上げていても、老人だけは雨に打たれて立ち尽くしている気分だった。
この瞳にはもう、モノクロの世界しか見えない。
老人の世界を彩っていたのは、彼女だったのだーーーー。
「もう、リヴァイさん。どこに行っていたんですか。
探したんですよ。」
後ろから不貞腐れたような声が聞こえてきた。
老人の名を呼んだその声は、あの頃よりも少し掠れて老いているような気がした。
でも、凛と澄んでいて、鈴の音のように可愛らしい。魂を揺らすような美しい響きはそのままだ。
老人は、慣れた手つきで器用に車椅子を反転させた。
数メートル先に、白髪の老女がいた。困ったように微笑む彼女は、皺だらけの目元にたくさんの幸せを刻んでいるように見えた。
その瞬間、老人の脳裏に、なかったはずの記憶が飛び込んできた。
結婚式に飛び込んで彼女を攫ったこと、駆け落ち同然で攫った彼女と結婚をしたこと、可愛い子供が生まれ、幸せなことにたくさんの孫にまで恵まれた。
そして、長い月日を共に生き、良いことも悪いことも共に乗り越えてきた。
幸せな思い出だ。老人の生きた記憶のほとんど全てに、彼女がいた。
そうして、最後の眠りにつくその瞬間まで、老人は彼女を愛し続けていた。
(あぁ…、アイツは、頑張ってくれたんだな。)
老人がこぼれ落ちそうになる涙を拭うと、歳の割には皺の少ない細い指にはめられた指輪が太陽の光に反射した。
彼は、ゆっくりと車椅子から降りる。
「さぁ、行きましょう。ずっと探してたですよ。」
「あぁ、悪い。」
老人は、彼女の元へと歩み寄る。
久しぶりの大地に慣れず、ぎこちなくゆったりとしていた足取りは、次第に力強いものに変わり、彼女の隣に並ぶ頃には、堂々と背筋も伸びていた。
「どこに行きたいんだ?」
「私、海が見てみたいの!リヴァイさんは見たんでしょ。
ずるいよ。一緒にみようって言ってたのに。」
彼女が頬を膨らませる。
皺ひとつない真っ白いふっくらとした肌が、ほんのりと赤く染まっている。
可愛らしい姿に、彼は思わず笑みをこぼした。
「あぁ、そうだったな。どこにだって行こう。これからはずっと一緒だ。」
「約束よ。絶対に私を離さないで。」
「あぁ、約束する。」
彼は、彼女の手を強く握りしめた。
嬉しそうに彼女が笑う。
あぁ、これだ。彼女の笑顔さえあれば、幸せだった。
どんな地獄も乗り越えられる気さえしていた。
彼が強くあれたのは、命をかけて守りたい彼女がいたからだった。
かつて、彼女は俺の運命の人だった。
そして今、彼女はまた、俺の隣で笑っている。
この奇跡のような時間を当たり前だと思ってはいけない。
幸せそうな美しいその笑みを、今度こそ守ろう。永遠に、この命が尽きた後もーーーー。
どうか、彼が後悔しない明日を生きていることを心から願う。そして、願わくばーーーー。
老人は、懐かしい散歩道を見渡す。
丁寧に手入れされた緑や色とりどりの花、穏やかな川のせせらぎも、あの頃のままだ。
とても美しい。それなのに、あの日からずっと、全てが色褪せてしまっていた。
そしてとうとう、なまえが死んだと聞いたあの日に、世界はモノクロに変わった。
巨人は消え、いくらかは平和になったはずの新しい世界が訪れても、老人の心は晴れなかった。
世界が黄金に輝こうが、老人が見上げる空はいつも曇り空だった。
皆が雨上がりの虹を見上げていても、老人だけは雨に打たれて立ち尽くしている気分だった。
この瞳にはもう、モノクロの世界しか見えない。
老人の世界を彩っていたのは、彼女だったのだーーーー。
「もう、リヴァイさん。どこに行っていたんですか。
探したんですよ。」
後ろから不貞腐れたような声が聞こえてきた。
老人の名を呼んだその声は、あの頃よりも少し掠れて老いているような気がした。
でも、凛と澄んでいて、鈴の音のように可愛らしい。魂を揺らすような美しい響きはそのままだ。
老人は、慣れた手つきで器用に車椅子を反転させた。
数メートル先に、白髪の老女がいた。困ったように微笑む彼女は、皺だらけの目元にたくさんの幸せを刻んでいるように見えた。
その瞬間、老人の脳裏に、なかったはずの記憶が飛び込んできた。
結婚式に飛び込んで彼女を攫ったこと、駆け落ち同然で攫った彼女と結婚をしたこと、可愛い子供が生まれ、幸せなことにたくさんの孫にまで恵まれた。
そして、長い月日を共に生き、良いことも悪いことも共に乗り越えてきた。
幸せな思い出だ。老人の生きた記憶のほとんど全てに、彼女がいた。
そうして、最後の眠りにつくその瞬間まで、老人は彼女を愛し続けていた。
(あぁ…、アイツは、頑張ってくれたんだな。)
老人がこぼれ落ちそうになる涙を拭うと、歳の割には皺の少ない細い指にはめられた指輪が太陽の光に反射した。
彼は、ゆっくりと車椅子から降りる。
「さぁ、行きましょう。ずっと探してたですよ。」
「あぁ、悪い。」
老人は、彼女の元へと歩み寄る。
久しぶりの大地に慣れず、ぎこちなくゆったりとしていた足取りは、次第に力強いものに変わり、彼女の隣に並ぶ頃には、堂々と背筋も伸びていた。
「どこに行きたいんだ?」
「私、海が見てみたいの!リヴァイさんは見たんでしょ。
ずるいよ。一緒にみようって言ってたのに。」
彼女が頬を膨らませる。
皺ひとつない真っ白いふっくらとした肌が、ほんのりと赤く染まっている。
可愛らしい姿に、彼は思わず笑みをこぼした。
「あぁ、そうだったな。どこにだって行こう。これからはずっと一緒だ。」
「約束よ。絶対に私を離さないで。」
「あぁ、約束する。」
彼は、彼女の手を強く握りしめた。
嬉しそうに彼女が笑う。
あぁ、これだ。彼女の笑顔さえあれば、幸せだった。
どんな地獄も乗り越えられる気さえしていた。
彼が強くあれたのは、命をかけて守りたい彼女がいたからだった。
かつて、彼女は俺の運命の人だった。
そして今、彼女はまた、俺の隣で笑っている。
この奇跡のような時間を当たり前だと思ってはいけない。
幸せそうな美しいその笑みを、今度こそ守ろう。永遠に、この命が尽きた後もーーーー。
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