調査兵団の兵士長であり、人類最強の兵士の結婚式だとは思えないくらいに質素で小さな式だった。
式場は、調査兵団の訓練場で、早産で産まれた赤ん坊がある程度大きくなってから、短時間で行われることになった。
入籍はしない予定だったらしい二人だが、友人達の後押しでついに晴れて夫婦となったのだ。めでたい婚姻届けの承認の欄には、ペトラとエルヴィンが名前を連ねたらしい。
いまだにトロスト区への巨人襲撃の打撃は残ったままの世界だけれど、仲間や友人達が、リヴァイとなまえの為に用意した晴れの舞台だった。
ツラいニュースばかりの残酷な現実に、少しでも景気の良い話題が欲しかったのもあるのかもしれない。
普段は調査兵達が切磋琢磨していはずのそこに、今日だけは、模擬巨人もなければ、怒号や互いを叱り合う声は聞こえてこない。あるのは、白いテーブルクロスがかけられた長テーブルが幾つかと綺麗な花、手作りの飾り、そして、白いタキシードのリヴァイとウェディングドレスのなまえ、仲間や友人の笑顔だけだ。
笑顔で溢れたそこは、幸せな場所に違いなかった。

「わー！ごめんごめん、すぐパパに返すから許してくれよー！」

抱っこをしたいとせがんだハンジだったが、赤ん坊に大泣きされて撃沈している。
彼女が慌てた様子で赤ん坊をリヴァイに手渡せば、漸く泣き止んだ。
夜泣きもパパが対応すれば、驚くほど呆気なく眠りについてくれるから助かるというなまえの話は、慣れない育児に奮闘するパパへの優しさでもなく、真実だったようだ。
それからすぐに赤ん坊は眠ってしまった。ハンジが抱いてすぐに泣いしまったのも、眠たかったのが原因なのかもしれない。
しかし、自分が抱けば泣き止むことを証明できたリヴァイは、赤ん坊を抱えながらほんの少しだけ自慢げな表情を浮かべていた。
気持ちよさそうに眠る赤ん坊と誇らしげなリヴァイの隣には、そんな彼らを温かい眼差しで見守るなまえがいる。
絵に描いたような幸せな家族が、そこにあった。
彼らの始まりは、大切な人に深い傷を残すしかなかった。
自分が苦しんだように、リヴァイやなまえも傷ついたのだろう————今ならやっと、ペトラもそう思えるようになった。
大切な人を傷つけてまで得た愛を、彼らは今、命懸けで守り育んでいるのだ。
そして、彼らはその愛に永遠を誓った。
もうこれ以上、ペトラから何かを言うことはないし、思うこともしない。
ただ、そばで見守るだけだ。

「なまえ！リヴァイ兵長！ご結婚、おめでとうございます！」

ペトラは、友人達と楽しそうに談笑している彼らに大きな声で祝いの言葉をかけた。
リヴァイとなまえが少し驚いた顔をしてペトラを見る。
そして、互いに顔を合わせた後、嬉しそうに微笑んだ。
ぽん———頭に柔らかくて優しい感覚が届いてすぐに、それがオルオの手だと理解した。
目が合うと、オルオはその手みたいに柔らかくて優しい笑みを浮かべていた。