その夜が、漸く明ける
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ペトラが病室を出たことは、オルオもすぐに気づいていた。
エルドやグンタもそうだろう。
けれど、誰も彼女を追いかけはしない。
一体、何と声をかけてやればいいのか———彼女の心の痛みを想像すると、胸が張り裂けそうになる。
あのとき、地獄の中で、ペトラがなまえが血だらけで倒れているのをただ黙って見下ろしていたことを、オルオは誰にも言っていなかった。
言えるわけがない。
何を考えていたのかは、なんとなくオルオにも想像できる。
どうしてそんな恐ろしいことを———とショックだった。
オルオの知っているペトラは、誰にでも平等で、心優しく明るい女性だ。
けれど彼女はあのとき、たった一瞬だったのかもしれないけれど、本来とはまるで真逆の感情に支配されてしまった。
恋とは、なんて恐ろしいものなのか。
仲間想いのリヴァイが、ペトラを傷つける道を選んでまで、他の女を愛してしまったのもそうだ。
恋をすると、その恋が心を支配してしまうのかもしれない。
けれど、トロスト区が巨人襲撃にあっていると知り、ペトラが一目散に向かったのがなまえの家だったというのもまた、事実なのだ。
彼女は、なまえを助けようとした。
なまえの無事を心から願った。
瓦礫の山に埋もれて、駐屯兵達からも見過ごされてしまっていたなまえを見つけ、救いだしたのは他の誰でもないペトラなのだ。
ペトラがいたから、オルオはなまえを見つけ、医療現場まで運ぶことが出来た。
そのことに、ペトラが早く気づいてくれたら———。
リヴァイもやって来たのだし、オルオ達がなまえに付いている必要もなくなった。
そろそろ病室を出ようかとしていたとき、そっと扉が開いた。
入って来たのは、ペトラだ。
その腕には、赤ん坊を抱いている。
小さな小さな赤ん坊だ。
鼻と口に管が繋がっていて、その先には酸素を送り込む為の道具がついている。
「ペトラ、その赤ん坊…。」
オルオが心の声を漏らすと、ペトラが困ったような笑みを返した。
「小児科に確認して、少しの間なら連れて行っても大丈夫って許可貰って来たの。」
そういうことか———とオルオも納得する。
まさか、勝手に連れ出してきたのかと焦った。
「早産なのに、小さい以外はすごく元気だって先生もビックリしてましたよ。
さすがリヴァイ兵長の赤ちゃん。」
ペトラが面白そうにクスクスと笑う。
オルオやエルド達の表情も自然と和らいだ。
この子が産まれるときが一番の修羅場だったのだ。
なまえは気を失っているし、帝王切開で産もうとするにも大量の出血でこのままでは母体が危ないところだった。結局、なかなかうまく進まず、医療知識の浅いオルオやペトラも手伝いに駆り出されるほど大騒ぎだったのだ。
そんな中、誕生した小さな小さな赤ん坊だった。
想像していたよりもずっと小さな小さな泣き声を聞いた時、どんなに大きな巨人が大きな大きな壁を蹴り壊したって、そんな轟音なんかでは、この子の声の響きをかき消せないだろうと思った。
そんな偉大過ぎる命を大切に大切に守るように、ペトラはゆっくりとベッドへと向かう。
そして———。
「リヴァイ兵長。…なまえ。ご出産、おめでとうございます。」
ベッドまで辿り着くと、ペトラはなまえとリヴァイの前に、小さな赤ん坊を差し出した。
まるで本当の姉妹のように仲が良かった二人だけれど、あの日から、彼女達が一緒にいる姿は見ていない。
きっと、なまえは久しぶりに名前を呼ばれたのだろう。
一瞬、大きく目を見開いた後、堪えきれない様子で表情をギュッと歪めると、リヴァイの肩のあたりに顔を埋めて涙した。
そんな彼女に代わって、リヴァイがおずおずと赤ん坊へ手を伸ばす。
「とても可愛い女の子ですよ。」
ペトラから赤ん坊を受け取る。
ついに、リヴァイが我が子を腕に抱いた瞬間だった。
「…っ、ありがとう…っ。ありがとう…っ。」
似合わない言葉を繰り返して、リヴァイは我が子を守るように抱きしめた。
リヴァイは、泣いていた。幾つもの涙を流していた。
「なまえ…っ、俺達の赤ん坊だ…っ。
守ってくれて…っ、生きててくれて…っ、ありがとう…っ。」
リヴァイはそう言って、なまえに赤ん坊を抱かせる。
初めはおそるおそるだったなまえも、腕の中にその体温を確かめると、我が子を守るように抱きしめる。
その光景は、瓦礫の山で血だらけになって倒れていたときとよく似ていた。
あのときも彼女は、大きなお腹を必死に抱きしめていた。
「よかった…っ、お前達が無事で、本当に…よかった…!」
我が子を守るなまえを、リヴァイがさらに抱きしめる。
あのとき、なまえを助けられてよかった。見つけることが出来てよかった。
オルオは今やっと、心からそう思えた。
「よかった!本当に…っ、本当によかったっす!!」
オルオは泣いた。
おんおんと声を上げて泣いた。誰よりも、泣いた。
「うるさい!」
ペトラに、思いっきり頭を叩かれた。
やっぱりこいつは、俺に惚れてると思う————。
エルドやグンタもそうだろう。
けれど、誰も彼女を追いかけはしない。
一体、何と声をかけてやればいいのか———彼女の心の痛みを想像すると、胸が張り裂けそうになる。
あのとき、地獄の中で、ペトラがなまえが血だらけで倒れているのをただ黙って見下ろしていたことを、オルオは誰にも言っていなかった。
言えるわけがない。
何を考えていたのかは、なんとなくオルオにも想像できる。
どうしてそんな恐ろしいことを———とショックだった。
オルオの知っているペトラは、誰にでも平等で、心優しく明るい女性だ。
けれど彼女はあのとき、たった一瞬だったのかもしれないけれど、本来とはまるで真逆の感情に支配されてしまった。
恋とは、なんて恐ろしいものなのか。
仲間想いのリヴァイが、ペトラを傷つける道を選んでまで、他の女を愛してしまったのもそうだ。
恋をすると、その恋が心を支配してしまうのかもしれない。
けれど、トロスト区が巨人襲撃にあっていると知り、ペトラが一目散に向かったのがなまえの家だったというのもまた、事実なのだ。
彼女は、なまえを助けようとした。
なまえの無事を心から願った。
瓦礫の山に埋もれて、駐屯兵達からも見過ごされてしまっていたなまえを見つけ、救いだしたのは他の誰でもないペトラなのだ。
ペトラがいたから、オルオはなまえを見つけ、医療現場まで運ぶことが出来た。
そのことに、ペトラが早く気づいてくれたら———。
リヴァイもやって来たのだし、オルオ達がなまえに付いている必要もなくなった。
そろそろ病室を出ようかとしていたとき、そっと扉が開いた。
入って来たのは、ペトラだ。
その腕には、赤ん坊を抱いている。
小さな小さな赤ん坊だ。
鼻と口に管が繋がっていて、その先には酸素を送り込む為の道具がついている。
「ペトラ、その赤ん坊…。」
オルオが心の声を漏らすと、ペトラが困ったような笑みを返した。
「小児科に確認して、少しの間なら連れて行っても大丈夫って許可貰って来たの。」
そういうことか———とオルオも納得する。
まさか、勝手に連れ出してきたのかと焦った。
「早産なのに、小さい以外はすごく元気だって先生もビックリしてましたよ。
さすがリヴァイ兵長の赤ちゃん。」
ペトラが面白そうにクスクスと笑う。
オルオやエルド達の表情も自然と和らいだ。
この子が産まれるときが一番の修羅場だったのだ。
なまえは気を失っているし、帝王切開で産もうとするにも大量の出血でこのままでは母体が危ないところだった。結局、なかなかうまく進まず、医療知識の浅いオルオやペトラも手伝いに駆り出されるほど大騒ぎだったのだ。
そんな中、誕生した小さな小さな赤ん坊だった。
想像していたよりもずっと小さな小さな泣き声を聞いた時、どんなに大きな巨人が大きな大きな壁を蹴り壊したって、そんな轟音なんかでは、この子の声の響きをかき消せないだろうと思った。
そんな偉大過ぎる命を大切に大切に守るように、ペトラはゆっくりとベッドへと向かう。
そして———。
「リヴァイ兵長。…なまえ。ご出産、おめでとうございます。」
ベッドまで辿り着くと、ペトラはなまえとリヴァイの前に、小さな赤ん坊を差し出した。
まるで本当の姉妹のように仲が良かった二人だけれど、あの日から、彼女達が一緒にいる姿は見ていない。
きっと、なまえは久しぶりに名前を呼ばれたのだろう。
一瞬、大きく目を見開いた後、堪えきれない様子で表情をギュッと歪めると、リヴァイの肩のあたりに顔を埋めて涙した。
そんな彼女に代わって、リヴァイがおずおずと赤ん坊へ手を伸ばす。
「とても可愛い女の子ですよ。」
ペトラから赤ん坊を受け取る。
ついに、リヴァイが我が子を腕に抱いた瞬間だった。
「…っ、ありがとう…っ。ありがとう…っ。」
似合わない言葉を繰り返して、リヴァイは我が子を守るように抱きしめた。
リヴァイは、泣いていた。幾つもの涙を流していた。
「なまえ…っ、俺達の赤ん坊だ…っ。
守ってくれて…っ、生きててくれて…っ、ありがとう…っ。」
リヴァイはそう言って、なまえに赤ん坊を抱かせる。
初めはおそるおそるだったなまえも、腕の中にその体温を確かめると、我が子を守るように抱きしめる。
その光景は、瓦礫の山で血だらけになって倒れていたときとよく似ていた。
あのときも彼女は、大きなお腹を必死に抱きしめていた。
「よかった…っ、お前達が無事で、本当に…よかった…!」
我が子を守るなまえを、リヴァイがさらに抱きしめる。
あのとき、なまえを助けられてよかった。見つけることが出来てよかった。
オルオは今やっと、心からそう思えた。
「よかった!本当に…っ、本当によかったっす!!」
オルオは泣いた。
おんおんと声を上げて泣いた。誰よりも、泣いた。
「うるさい!」
ペトラに、思いっきり頭を叩かれた。
やっぱりこいつは、俺に惚れてると思う————。