その夜が、漸く明ける
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「リヴァイの話、ミケから聞いたかい?」
元恋人の名前が聞こえてきたのは、ペトラが訓練場へ向かう途中だった。
厩舎の向こうから、愛馬の手綱を引きながら歩いてくるナナバとゲルガーの姿を見つける。
どうやら、日帰りの出張からちょうど帰って来たところだったようだ。
リヴァイの話とは何だろうか———。
思わず、ペトラは木陰に身を隠してしまう。
普通に挨拶をして話の内容を訊ねてみれば、余程の理由がない限り彼らは快く教えてくれるのだろう。
けれど、ペトラにはそれが出来ない理由があった。
別れてからもうすぐ2年が経つというのに、今でもリヴァイを忘れられないのだ。
そして、プライベートの彼の姿を今のペトラは何も知らない。
知らない彼のことを聞くのは、とても勇気がいる。
リヴァイの優しさと強さを知れば知るほど惹かれていって、出逢ってすぐに恋に落ちていた。
その恋が漸く実を結んだと思ったら、あっという間に別れがやって来てしまった。
望んだ別れではなかった。
リヴァイが、心変わりをしたのだ。
違う。そもそも、リヴァイは自分のことを本当に想っていたわけではなかったことを知っている。
それでも、彼は、愛情を持って接してくれていたし、恋人という関係を大切に守ろうともしてくれていた。心から、愛していこうと努力してくれていた。
それでも、ペトラとリヴァイは別れてしまった。
恋愛の上ではよくある話である。
けれど、心変わりの相手が、自分が姉のように慕う女性だったことが、さらにペトラの心を深く傷つけた。
リヴァイとは職場も同じで、ペトラがリヴァイ班のメンバーであることに変わりはない。
別れてすぐは気まずかったものの、お互いにこのままではいけないと気持ちを切り替え、それなりに仕事上はうまくやっている。
けれどそれは、上辺だけの関係だ。
あの頃のように話しかけることも、声をかけられることもなくなってしまった。
ただの上司ですらない。
今では、ペトラにとってリヴァイは他人よりも遠い存在だ。
「聞いた聞いた。マジでビビったわ~。」
「私もだよ。驚き過ぎて息が止まったよ。」
「だよな!」
ゲルガーとナナバは、しきりに驚いたと繰り返している。
木陰に隠れているせいで、彼らの表情は伺い知れない。
けれど、楽しそうな声色から、それが明るい話題であることは察せた。
(リヴァイ兵長にとって、驚くけれどすごく良いことって何だろう?)
ペトラは首を傾げる。
元々、気持ちが表情に出る方ではないけれど、長年、リヴァイに片想いをしていただけあって、それなりには感情を読み取る力は手に入れてきたつもりだ。
けれど、リヴァイ班のメンバーとして、ほとんど毎日顔を合わせているが、彼の様子に変化はないように思える。
日々の訓練を真面目に、真剣にこなし、部下や友人達と真摯に向き合う。いつも通りのリヴァイだ。
強いて言えば、最近は訓練や仕事に精を出し過ぎていて心配なところがあるくらいか。
数日前には、仕事を頑張りすぎて体調を崩していたのか、少し早めに仕事を切り上げて帰っていた。
けれど、昨日は非番で兵舎には来ていなかったが、その前日はとても機嫌が良かったように見えた。
もしかして、良いことがあったのは、そのときだろうか。
(そう言えば…。)
少し前までは、どんなに遅い時間でも兵舎の執務室に向かえば、必ずリヴァイはそこで仕事をしていた。
けれど、最近は残業している姿をあまり見ていない。
(でも、それは…。)
1年程前から、リヴァイが同棲を始めたのは噂で聞いて知っている。
一応、兵舎の部屋はそのまま残してはいるようだけれど、ほとんど毎日、恋人と暮らす家へ帰っているようだ。
残業をしなくなったのも、それが原因なのだろう。
ほんの数か月だったけれど、リヴァイと恋人だったから知っている。
愛情表現が得意ではない代わりに、彼はいつでも二人の時間を大切にしてくれる。
どんなに忙しくても、そばにいようとしてくれた。
彼なりの精一杯の愛を与えてくれる人だった———。
そんな彼が、恋人を裏切ってまで愛した人と結ばれ、今では共に暮らしているのだ。
きっと、毎日毎日抱えきれないほどの大きな愛で彼女を包み込んでいるのだろう。
キュッと心臓が痛くなって、ペトラは顔を顰めると、胸を守るようにシャツをギュッと握りしめた。
「ミケが、今度の非番の日に一緒に祝いを買いに行こうと言っているんだが
ゲルガーは予定空いてるかい?」
「いいな!」
お祝い———。
祝い事のようだということは分かったが、あまりピンとこない。
ペトラが頭を悩ませている間に、ゲルガーとナナバは手綱を括り付けると馬のケアをしながら話を続け始める。
ミケの予定を無視して、非番の日の予定を立て始めた彼らの声は弾んでいる。
気の置けない友人達との久々の買い物に心が躍っているというのもあるのだろう。
「とうとうリヴァイ兵長も父親か~。」
え———。
無意識に出そうになった声を、両手で口をおさえてなんとか堪える。
けれど、急に鼓動を速くし始めた心臓の音が大きすぎて、彼らに聞こえそうな気さえする。
驚き過ぎて見開かれた目は瞬きを忘れて、気を抜いたら足元から崩れ落ちてしまいそうだ。
「ゴロツキの陰を残したままだった頃を思い返すと、感慨深いな。」
「あの鋭い目が、めちゃくちゃデレデレしてるの想像したら面白くてたまらねぇ!」
「予定日は春らしい。もう少し先か。楽しみだな。」
「あぁ、楽しみだな!」
楽しそうな笑い声と共に、ナナバとゲルガーの足音が遠ざかっていく。
いつの間にか、長旅を頑張った馬達のケアも終わったらしい。
けれど、ペトラは、彼らの足音が完全に聞こえなくなってからもその場を動き出せなかった。
元恋人の名前が聞こえてきたのは、ペトラが訓練場へ向かう途中だった。
厩舎の向こうから、愛馬の手綱を引きながら歩いてくるナナバとゲルガーの姿を見つける。
どうやら、日帰りの出張からちょうど帰って来たところだったようだ。
リヴァイの話とは何だろうか———。
思わず、ペトラは木陰に身を隠してしまう。
普通に挨拶をして話の内容を訊ねてみれば、余程の理由がない限り彼らは快く教えてくれるのだろう。
けれど、ペトラにはそれが出来ない理由があった。
別れてからもうすぐ2年が経つというのに、今でもリヴァイを忘れられないのだ。
そして、プライベートの彼の姿を今のペトラは何も知らない。
知らない彼のことを聞くのは、とても勇気がいる。
リヴァイの優しさと強さを知れば知るほど惹かれていって、出逢ってすぐに恋に落ちていた。
その恋が漸く実を結んだと思ったら、あっという間に別れがやって来てしまった。
望んだ別れではなかった。
リヴァイが、心変わりをしたのだ。
違う。そもそも、リヴァイは自分のことを本当に想っていたわけではなかったことを知っている。
それでも、彼は、愛情を持って接してくれていたし、恋人という関係を大切に守ろうともしてくれていた。心から、愛していこうと努力してくれていた。
それでも、ペトラとリヴァイは別れてしまった。
恋愛の上ではよくある話である。
けれど、心変わりの相手が、自分が姉のように慕う女性だったことが、さらにペトラの心を深く傷つけた。
リヴァイとは職場も同じで、ペトラがリヴァイ班のメンバーであることに変わりはない。
別れてすぐは気まずかったものの、お互いにこのままではいけないと気持ちを切り替え、それなりに仕事上はうまくやっている。
けれどそれは、上辺だけの関係だ。
あの頃のように話しかけることも、声をかけられることもなくなってしまった。
ただの上司ですらない。
今では、ペトラにとってリヴァイは他人よりも遠い存在だ。
「聞いた聞いた。マジでビビったわ~。」
「私もだよ。驚き過ぎて息が止まったよ。」
「だよな!」
ゲルガーとナナバは、しきりに驚いたと繰り返している。
木陰に隠れているせいで、彼らの表情は伺い知れない。
けれど、楽しそうな声色から、それが明るい話題であることは察せた。
(リヴァイ兵長にとって、驚くけれどすごく良いことって何だろう?)
ペトラは首を傾げる。
元々、気持ちが表情に出る方ではないけれど、長年、リヴァイに片想いをしていただけあって、それなりには感情を読み取る力は手に入れてきたつもりだ。
けれど、リヴァイ班のメンバーとして、ほとんど毎日顔を合わせているが、彼の様子に変化はないように思える。
日々の訓練を真面目に、真剣にこなし、部下や友人達と真摯に向き合う。いつも通りのリヴァイだ。
強いて言えば、最近は訓練や仕事に精を出し過ぎていて心配なところがあるくらいか。
数日前には、仕事を頑張りすぎて体調を崩していたのか、少し早めに仕事を切り上げて帰っていた。
けれど、昨日は非番で兵舎には来ていなかったが、その前日はとても機嫌が良かったように見えた。
もしかして、良いことがあったのは、そのときだろうか。
(そう言えば…。)
少し前までは、どんなに遅い時間でも兵舎の執務室に向かえば、必ずリヴァイはそこで仕事をしていた。
けれど、最近は残業している姿をあまり見ていない。
(でも、それは…。)
1年程前から、リヴァイが同棲を始めたのは噂で聞いて知っている。
一応、兵舎の部屋はそのまま残してはいるようだけれど、ほとんど毎日、恋人と暮らす家へ帰っているようだ。
残業をしなくなったのも、それが原因なのだろう。
ほんの数か月だったけれど、リヴァイと恋人だったから知っている。
愛情表現が得意ではない代わりに、彼はいつでも二人の時間を大切にしてくれる。
どんなに忙しくても、そばにいようとしてくれた。
彼なりの精一杯の愛を与えてくれる人だった———。
そんな彼が、恋人を裏切ってまで愛した人と結ばれ、今では共に暮らしているのだ。
きっと、毎日毎日抱えきれないほどの大きな愛で彼女を包み込んでいるのだろう。
キュッと心臓が痛くなって、ペトラは顔を顰めると、胸を守るようにシャツをギュッと握りしめた。
「ミケが、今度の非番の日に一緒に祝いを買いに行こうと言っているんだが
ゲルガーは予定空いてるかい?」
「いいな!」
お祝い———。
祝い事のようだということは分かったが、あまりピンとこない。
ペトラが頭を悩ませている間に、ゲルガーとナナバは手綱を括り付けると馬のケアをしながら話を続け始める。
ミケの予定を無視して、非番の日の予定を立て始めた彼らの声は弾んでいる。
気の置けない友人達との久々の買い物に心が躍っているというのもあるのだろう。
「とうとうリヴァイ兵長も父親か~。」
え———。
無意識に出そうになった声を、両手で口をおさえてなんとか堪える。
けれど、急に鼓動を速くし始めた心臓の音が大きすぎて、彼らに聞こえそうな気さえする。
驚き過ぎて見開かれた目は瞬きを忘れて、気を抜いたら足元から崩れ落ちてしまいそうだ。
「ゴロツキの陰を残したままだった頃を思い返すと、感慨深いな。」
「あの鋭い目が、めちゃくちゃデレデレしてるの想像したら面白くてたまらねぇ!」
「予定日は春らしい。もう少し先か。楽しみだな。」
「あぁ、楽しみだな!」
楽しそうな笑い声と共に、ナナバとゲルガーの足音が遠ざかっていく。
いつの間にか、長旅を頑張った馬達のケアも終わったらしい。
けれど、ペトラは、彼らの足音が完全に聞こえなくなってからもその場を動き出せなかった。