その夜が、漸く明ける
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今日の訓練は不参加になることをエルドに伝えた後、リヴァイがやって来たのは団長の執務室だった。
午後から予定している幹部会議の事前準備の為だ。
珍しく遅刻することなく先にやって来ていたハンジに驚きつつも、エルヴィンも加えた3人で話し合いを始める。
部下から届いている情報を精査し、課題についてのある程度の方向性を決めておく。
その通りに進まないこともあるが、こうしておくことで会議の時短にもなるのだ。
まだまだ巨人についての情報が足りなすぎる。
こうして集まった情報をそれぞれ出し合って会議をするのも大切だが、調査兵団としては出来るだけ壁外へ出て新しい情報を得たい。
だからこそ、使える時間は、訓練に費やしたいというのが本音だ。
その為にも、会議の時短は大事なことだった。
「昨日の非番は、なまえちゃんと赤ん坊のものを買いに行ったんだろう?
良いものはあったかい?」
話し合いもまとまり、紅茶休憩に入ったところで、ハンジが話題を振って来た。
紅茶に口をつけようとしていたリヴァイは、一度動きを止めた後に昨日のなまえの様子を思い出す。
あんなに楽しそうにしているなまえを見たのは久しぶりだった。
「あぁ。ハンネスから教わっておいたおかげで良い買い物が出来た。」
リヴァイの口元もいつもよりも綻び、饒舌になる。
「それはよかった。私達も赤ん坊が生まれるのが楽しみだよ。」
エルヴィンが柔らかく微笑む。
なまえの妊娠を彼らに伝えたのは、安定期というのが来る前だった。
職務の調整の為だ。
心配はないとなまえからは言われたけれど、どうしても彼女のそばにいてやりたかったのだ。
おかげで、エルヴィンと話し合ったらしいミケやハンジが、泊まりがけの出張や残業についてはうまく考慮してくれていて、とても助かっている。
「リヴァイも父親かぁ。
なまえは優しくて明るいママになりそうだけど、リヴァイは想像つかないな。」
ハンジが楽しそうに言う。
エルヴィンは、デレデレとしているのが想像できるなんて勝手なことを言っているが、正直リヴァイも自分が父親になる未来なんて考えられない。
けれど、実際になまえのお腹の中にはリヴァイの子供が宿っている。
妊娠が分かったとき、ひどく驚いたけれど、そんなものを吹き飛ばすくらいに心の底から湧きあがったのは喜びという感情だった。
けれど、なまえはずっと苦しそうだ。
妊娠していることで、心身ともに不安定になっているのだろうが、きっとそれだけではない。
彼女の心を埋め尽くしているのは、母親になる不安、そして、ペトラに対する罪悪感だ。
たぶん、出逢った日からずっと、なまえは心から笑ってはいないのだと思う。
ペトラが知っていたはずの彼女の心からの笑顔を、リヴァイはまだ知らない。
奪ったのは————。
(俺だ…。)
グサリ———深く刺さった棘は、リヴァイの胸からもいまだに抜けてはいない。
刺さったままでいることが、せめてもの償いだとさえ思っている。
それでもいいから、なまえが欲しかった。なまえを愛してしまった。
そんな自分に、なまえはたくさんのものを与えてくれた。
慈悲深い愛に、家族と暮らす温かい家、そして、新しい家族———与えられてばかりだ。
けれど、自分は彼女に何を与えられているだろうか。
あるとすれば、罪悪感くらいだ。
自分の気持ちを押し付けて、彼女の胸の奥深くにそれを突き刺してしまった。
「ペトラには…、まだ言わなくてもいいのかい。」
ハンジの心配そうに訊ねてくる。
「…あぁ。」
短く答えるしか出来なかった。
まだ数か月あるとはいえ、安定期はとっくに過ぎ、念のためになまえが産休に入るほどには誕生まで迫っている。
予定日が近づけば、なまえの体調も今まで通りとはいかなくなるだろう。
いきなり破水することもあるというから、少しでも気になることがあればすぐに産院に来るように医師からも指示されている。
そんな時に、すぐに駆けつけられるようにしておきたい。
その為に、リヴァイ班のメンバーには事前に事情の説明も必要だ。
だから、エルド達には既に伝えてあるのだ。
けれど、ペトラにだけはまだ言えていない。
これ以上、傷つけたくない———なんて、最低最悪な心変わりで傷つけておいて、何を考えているのかと自分に呆れる。
「何かがあれば、私達が力になる。
赤ん坊が元気に生まれてきてくれることを
私達は皆、とても楽しみにしてるんだ。」
エルヴィンの優しい声色に、暗闇に入り込もうとしていたリヴァイの思考が止まる。
いつの間にか伏せていた顔を上げれば、柔らかく微笑むエルヴィンと目が合った。
「そうだよ、リヴァイ。
リヴァイとなまえの赤ん坊は、愛されて生まれてくる幸せな子だ。」
ハンジが邪気のない笑顔を見せた。
「あぁ、ありがとう。」
リヴァイはぎこちない笑顔で返した。
幸せな子にしたい、必ず幸せにする————なまえが緊張した様子で妊娠を伝えてくれたその日、リヴァイは心に誓ったのだ。
午後から予定している幹部会議の事前準備の為だ。
珍しく遅刻することなく先にやって来ていたハンジに驚きつつも、エルヴィンも加えた3人で話し合いを始める。
部下から届いている情報を精査し、課題についてのある程度の方向性を決めておく。
その通りに進まないこともあるが、こうしておくことで会議の時短にもなるのだ。
まだまだ巨人についての情報が足りなすぎる。
こうして集まった情報をそれぞれ出し合って会議をするのも大切だが、調査兵団としては出来るだけ壁外へ出て新しい情報を得たい。
だからこそ、使える時間は、訓練に費やしたいというのが本音だ。
その為にも、会議の時短は大事なことだった。
「昨日の非番は、なまえちゃんと赤ん坊のものを買いに行ったんだろう?
良いものはあったかい?」
話し合いもまとまり、紅茶休憩に入ったところで、ハンジが話題を振って来た。
紅茶に口をつけようとしていたリヴァイは、一度動きを止めた後に昨日のなまえの様子を思い出す。
あんなに楽しそうにしているなまえを見たのは久しぶりだった。
「あぁ。ハンネスから教わっておいたおかげで良い買い物が出来た。」
リヴァイの口元もいつもよりも綻び、饒舌になる。
「それはよかった。私達も赤ん坊が生まれるのが楽しみだよ。」
エルヴィンが柔らかく微笑む。
なまえの妊娠を彼らに伝えたのは、安定期というのが来る前だった。
職務の調整の為だ。
心配はないとなまえからは言われたけれど、どうしても彼女のそばにいてやりたかったのだ。
おかげで、エルヴィンと話し合ったらしいミケやハンジが、泊まりがけの出張や残業についてはうまく考慮してくれていて、とても助かっている。
「リヴァイも父親かぁ。
なまえは優しくて明るいママになりそうだけど、リヴァイは想像つかないな。」
ハンジが楽しそうに言う。
エルヴィンは、デレデレとしているのが想像できるなんて勝手なことを言っているが、正直リヴァイも自分が父親になる未来なんて考えられない。
けれど、実際になまえのお腹の中にはリヴァイの子供が宿っている。
妊娠が分かったとき、ひどく驚いたけれど、そんなものを吹き飛ばすくらいに心の底から湧きあがったのは喜びという感情だった。
けれど、なまえはずっと苦しそうだ。
妊娠していることで、心身ともに不安定になっているのだろうが、きっとそれだけではない。
彼女の心を埋め尽くしているのは、母親になる不安、そして、ペトラに対する罪悪感だ。
たぶん、出逢った日からずっと、なまえは心から笑ってはいないのだと思う。
ペトラが知っていたはずの彼女の心からの笑顔を、リヴァイはまだ知らない。
奪ったのは————。
(俺だ…。)
グサリ———深く刺さった棘は、リヴァイの胸からもいまだに抜けてはいない。
刺さったままでいることが、せめてもの償いだとさえ思っている。
それでもいいから、なまえが欲しかった。なまえを愛してしまった。
そんな自分に、なまえはたくさんのものを与えてくれた。
慈悲深い愛に、家族と暮らす温かい家、そして、新しい家族———与えられてばかりだ。
けれど、自分は彼女に何を与えられているだろうか。
あるとすれば、罪悪感くらいだ。
自分の気持ちを押し付けて、彼女の胸の奥深くにそれを突き刺してしまった。
「ペトラには…、まだ言わなくてもいいのかい。」
ハンジの心配そうに訊ねてくる。
「…あぁ。」
短く答えるしか出来なかった。
まだ数か月あるとはいえ、安定期はとっくに過ぎ、念のためになまえが産休に入るほどには誕生まで迫っている。
予定日が近づけば、なまえの体調も今まで通りとはいかなくなるだろう。
いきなり破水することもあるというから、少しでも気になることがあればすぐに産院に来るように医師からも指示されている。
そんな時に、すぐに駆けつけられるようにしておきたい。
その為に、リヴァイ班のメンバーには事前に事情の説明も必要だ。
だから、エルド達には既に伝えてあるのだ。
けれど、ペトラにだけはまだ言えていない。
これ以上、傷つけたくない———なんて、最低最悪な心変わりで傷つけておいて、何を考えているのかと自分に呆れる。
「何かがあれば、私達が力になる。
赤ん坊が元気に生まれてきてくれることを
私達は皆、とても楽しみにしてるんだ。」
エルヴィンの優しい声色に、暗闇に入り込もうとしていたリヴァイの思考が止まる。
いつの間にか伏せていた顔を上げれば、柔らかく微笑むエルヴィンと目が合った。
「そうだよ、リヴァイ。
リヴァイとなまえの赤ん坊は、愛されて生まれてくる幸せな子だ。」
ハンジが邪気のない笑顔を見せた。
「あぁ、ありがとう。」
リヴァイはぎこちない笑顔で返した。
幸せな子にしたい、必ず幸せにする————なまえが緊張した様子で妊娠を伝えてくれたその日、リヴァイは心に誓ったのだ。